IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第9話 反省会とクラス代表決定

 コンコン。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 ノックの返事を聞き、俺は生徒会室のドアを開ける。まず目に入ったのは机にぐでーんっとなっているのほほんさん。この人生徒会役員だよね?仕事しようよ。

 

「こちらにどうぞ」

 

 言葉とともに以前来たときに俺が座った椅子を指す布仏先輩。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 布仏先輩にお礼を言いつつ、俺は椅子に座る。

 

「いらっしゃい。待ってたわよ」

 

 以前と同じ席に座り、傍らには書類の山、手元には数本のペンと判子と朱肉が置かれ、優雅に紅茶を飲んでいる楯無師匠が言った。

 

「見たわよ、試合映像。どっちの試合も惜しかったわね」

 

「ありがとうございます」

 

 楯無師匠の言葉にお礼を言いながら俺は頭を下げる。

 

「どうだった?試合をやってみて」

 

「そうですね。とりあえず悔しかったです」

 

 どちらもあと一歩のところまではいった。それでもあと一歩足りなかった。セシリアの奥の手の最後のビットや一夏のあの謎のブレード。思わぬ攻撃にあと一歩が届かなかった。

 

「でも、初心者なのによくやったと思うわよ」

 

 楯無師匠の言葉も慰めにしかならない。今回の戦いは単に俺の実力が足りなかったのだ。

 

「負けっぱなしは悔しいんでこれからも頑張ります」

 

「その意気よ。じゃあこれから反省会と行きましょう。まず、試合映像を見ていて思ったことだけど――」

 

「会長。反省会もいいですが、今日中の仕事を終わらせていただきませんと」

 

「うっ」

 

 布仏先輩の言葉に師匠が嫌そうな顔をしながら傍らの書類の山に目を向ける。どうやらそれ全部が今日中の仕事らしい。

 

「で、でも、反省をするには客観的な視点からの意見が必要だし――」

 

「いや、俺のためにそこまでしていただけるのはありがたいですが、師匠は生徒会長なんですから仕事を優先してもらったらいいですよ。反省会なら後日でいいので」

 

「くっ」

 

 俺の言葉に師匠が悔しそうな顔をする。はっは~ん、俺をダシに仕事をほっぽりだすつもりだったな?

 

「会長。井口君もこう言っていることですし、今日は反省会は無しにしましょう。それに、初めての試合で彼も疲れているでしょうし」

 

「………それもそうね」

 

 布仏先輩の言葉にしぶしぶながらも師匠が頷く。

 

「じゃあ颯太君。これ、私が試合映像を見て感じた反省点とその改善ポイントをまとめたメモよ。映像データも一緒にあげるから自分で見ながら確認しなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 師匠から数枚のA4サイズの紙とディスクを受け取る。

 

「あ、それと、これから生徒会の仕事が忙しくなりそうなの。だからこれまでは一週間つきっきりで特訓してきたけど、これからはできて一週間に一回くらいになりそうなの」

 

「あ、そうなんですか」

 

「ごめんね。コーチを引き受けたのに」

 

 申し訳なさそうな顔になる師匠。

 

「いいんですよ。ここまでやっていただけただけでありがたかったです。これからは手が空いているときだけでいいので。仕事の方を優先させてください」

 

 俺はその場に立ち上がる。

 

「楯無師匠、布仏先輩、のほほんさん。この一週間、お世話になりました。ありがとうございました。何か手がいるときは言ってください。何でもお手伝いさせていただきます」

 

「じゃあさっそくこの仕事を――」

 

「お嬢様?」

 

「ごめんなさい」

 

 布仏先輩の圧力にすぐさま謝る楯無師匠。

 

「では、また何かあったらお願いします」

 

「じゃあ私には今度学食で何か奢ってー」

 

「おう。俺の財布と相談してもらうけどな」

 

「本音?無理な注文しないようにね?」

 

「はーい」

 

 姉の言葉に頷く妹。まじでお願いだよ、のほほんさん。

 

「まあとりあえずお茶でも飲んでゆっくりしていきなさい。私は仕事に戻るけど」

 

「あ、はい。いただきます」

 

 楯無師匠の言葉に頷き、椅子に腰を下ろす。それと同時に俺の目の前に紅茶の入ったカップが置かれる。

 

「ありがとうございます」

 

 布仏さんにお礼を言いつつカップに口を付ける。うん、おいしい。

 

 

 ○

 

 

 颯太が紅茶を飲みきり、生徒会室を後にしてから、

 

「しっかし、ぐっちーはすごいねー。専用機相手に訓練機であそこまで戦うなんて。やっぱりお嬢様たちのコーチがよかったのかなー」

 

 机に突っ伏したままぶかぶかの制服の袖をゆらゆらと揺らしながら本音が言った。

 

「それは違うわよ」

 

「「え?」」

 

 そんな本音の言葉に書類に顔を向け、手を動かしたまま楯無が言った。それに対して本音だけでなく虚も首を傾げる。

 

「確かにISの操縦や格闘の基礎は私が、知識面では簪ちゃんが教えてたけど…彼の戦いはそれ以上よ」

 

 てきぱきと手を動かし、時にペンで書類に何かを書き込み、判子を手にとって判を押す。しかしその顔は楽しそうに笑っていた。

 

「私が教えたのはあくまでも基礎。あんな剣術は教えていないわ。そのことをさっき聞いたら、『るろうに剣心の真似です』って言っていたわ。漫画の中の技を実戦で使って、しかも相手に確かなダメージを与えたのよ、彼は」

 

 楯無の言葉に唖然とする二人。

 

「今年の一年生は面白そうな子たちばかりね」

 

 

 

 ○

 

 

 

「ふぁ~~~」

 

 翌日の朝。ベッドの上に起きあがった俺は頭をかきながら大きな欠伸をする。

 昨日は夕食後に部屋で試合の映像を簪と共に見ていたはずなのだが、どうやらいつのまにか寝てしまったらしい。映像を見る前に寝間着には着替えていたので服装は変わっていないのだが、布団をちゃんと掛けて寝ていた辺り簪が寝てしまった俺にかけてくれたのだろう。

 時刻は七時半。部屋の中を見渡すが俺以外の人の気配を感じない。おそらく簪は朝食に先に行ったのだろう。

 

「ん?これは……」

 

 着替えて朝食を食べに行こうと思った俺の目に机の上に置かれた数枚の紙が写る。楯無師匠からもらったものとは別のもの。それを手に取った俺はそれが何かをすぐに理解した。それは試合の映像を見て、簪が簪なりに感じたことを書いてくれたアドバイスだった。しかも、そこには見せていないはずの楯無師匠のアドバイスと似たところを指摘していた。

 

「これは、俺の課題が誰の目にも明らかだってことなのか、それとも、やっぱり二人が似ているってことなのか……どっちなんだろうな」

 

 自分の口角が少し上がっているのを感じつつ、俺はそれをカバンにしまい、着替え始めた。

 

 

 

 その後、教室では一組のクラス代表が一夏になったことが発表された。セシリアは辞退したそうだ。

 一夏自身は不満そうだったが、俺としては一夏が向いていると思うのでよかったと思う。山田先生も言っていたが、一年一組代表は織斑一夏で一繋がりでなんともいい感じだ。

 発表後にはセシリアが正式に自分の発言について謝罪。クラスメイトたちも納得していたようなのでこれでクラスとも確執が残らないだろう。まあ、その後一夏のコーチを名乗り出たことで一夏のコーチの篠ノ之さんとは険悪になっていた。

 ちなみにセシリアは俺のコーチも名乗り出てくれたので楯無師匠の特訓が無い時はお願いすることにした。

 さらにちなみに、セシリアには「鋼の錬金術師」の漫画を貸してみた。理由は以前ネットで外国人にお勧めの日本のアニメの中に見た気がするからだ。比較的読みやすいと思うし、気に入ってくれるといいのだが……。




というわけでこれでクラス代表は決定。
セシリアには鋼の錬金術師を勧めておきました。
他にもこれを外国人に勧めたいなどありましたら感想にでも書いていただけるとありがたいです。
最近感覚がマヒしてきたのか、人に勧めるのにどれがセーフでどれがアウトかの線引きが難しいです。

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