IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お久しぶりです。
長い間更新できずすみません。


第86話 やはり颯太の青春ラブコメは間違っている?

さて、プールから帰り、寮の部屋でのんびりと漫画を読んでいたのだが――

 

「「「颯太(君)!!」」」

 

 俺ののんびりとした時間は突如登場した師匠、簪、シャルロットの登場で終わりを迎える。

 

「えっと……なんでしょうか?」

 

「「「おしゃべりしよう(しましょう)!!!」」」

 

「……プールから帰ったところですしゆっくりしません?」

 

「確かにそれも一つの手ね」

 

「明日からの準備とかやっておくのもいいかもしれない」

 

「ゆっくり漫画を読むのもいいかもしれない……」

 

「じゃあ……」

 

「まあそれは置いておいて」

 

「え~……」

 

 今のは肯定の流れじゃん。

 

「せめて『だが断る』くらい言えばいいのに」

 

「「「…………はっ!」」」

 

 俺の指摘に三人は、その手があったか!とでも言いたげな顔をする。

 

「……まあいいや。で?おしゃべりって何か話題でも?」

 

 俺はため息をつきながら寝転がっていたベッドから上体を起こし座る。

 

「そうねぇ……」

 

「ん~……」

 

「それは……」

 

 と、いきなり急に尻込みしたように三人は互いに顔を見合わせる。

 

「………とりあえずお茶でも入れますね」

 

 

 

 〇

 

 

 颯太が部屋の備え付けの小さなキッチンに移動したところで、楯無、簪、シャルロットは顔を寄せ合い作戦会議を始める。

 

「ちょっと、楯無さん。言い出しっぺは楯無さんでしょう?」

 

「お姉ちゃんが言うべき」

 

「いやいきなり訊くのはハードル高いわよ」

 

 三人で小声で謎の押し付け合いが始まる三人。

 

「と言うか私が『颯太君の色々を聞き出そう』って提案した時、二人だってノリノリで賛同して来たじゃない!」

 

「そ、それは…僕たちも颯太の好みとか知らないですし……」

 

「知りたかったから……」

 

 そう。今日のプールで颯太が脚フェチだと知った三人はよく考えたら颯太の好みなどを何も知らないことに気が付いたのだ。

 少しでも颯太の好みなどを知るべく三人で相談の上で揃ってやってきたのだが、颯太を前にして急に尻込みをしてしまった三人は話題のとっかかりを探すために部屋の中を見渡す。

 

「はい、お待たせしました。麦茶でいいですかね?」

 

「あ、う、うん!ありがとう颯太!」

 

「ついでに買い置きしておいたポテチもどうぞ」

 

 颯太がお盆に乗せて運んできたコップに口を付けながら三人はまばたきで合図し合う。

 

『モクヒョウハッケン』

 

『ワレ、エンジンフチョウ、エンゴスル、サキニカカレ』

 

『オネエチャンズルイ、キメタトオリニシヨウ』

 

『シッパイシタトキノフォローハミンナデスルノヨネ?』

 

『メメシイデスネ、ジコフタンニキマッテマス』

 

「………みんなどうしたんですか?」

 

 やけにまばたきの多い三人の様子に不審に思った颯太が首を傾げる。

 

「やけにパチパチとまばたきしてますけど、まるでモールス信号みたいっすね」

 

「「「ギクッ!」」」

 

 颯太が、そんなわけないか~、と笑いながらポテチを食べる中、的確な指摘に三人は冷汗をかく。

 

「そ、そう言えば颯太君!」

 

「はい?」

 

 空気を変えねばとついに口を開いた楯無に颯太が首を傾げる。

 

「今日初めて知ったけど、颯太君って脚フェチなの?」

 

「しょっぱなの話題それですか?」

 

 楯無の問いに颯太が苦笑いを浮かべる。

 

「ん~、まあそうですね。お前何フェチだ?と訊かれたら笑顔で答えましょう。俺は脚フェチです」

 

「おお。素直に認めた」

 

「まあ隠すことでもないかと」

 

「颯太…なんかアメリカから帰ってオープンになったね……?」

 

「まあ……あんな地獄を生き抜いたら…」

 

 しみじみと呟く颯太。

 

「いろいろあったんだね……」

 

「いろいろあったんだ……」

 

 簪の言葉にため息を漏らす颯太。

 

「……うん、話題を変えましょう」

 

「そ、そうだね!えっと……あ、颯太って女の子の好みとかってどうなの?」

 

「好み?」

 

「そう。これだけは外せないとか、こんな人がいいとか」

 

「ん~………」

 

 シャルロットの問いに颯太は少し考え込む。

 

「………特にないな」

 

「「「へ?」」」

 

 颯太の答えに三人は間の抜けた声を漏らす。

 

「いやね、今までのこと振り返ってみても統一性ないんだよね~。アニメとか漫画のキャラならクールなキャラ好きだなって思うけど、現実の女の子はこれって感じのことが無いな」

 

「「「へ、へ~……」」」

 

 颯太の答えに三人は頷きながら、ふと簪が気付いたように顔を上げる。

 

「ね、ねえ、颯太……颯太って……」

 

「ん?」

 

「颯太って……彼女いたことあるの?」

 

「「!?」」

 

 簪の問いに楯無とシャルロットは衝撃を受けたように顔を強張らせる。

 対して颯太はジッと目を瞑りゆっくりと息を吐くと顔を上げる。

 

「…………モ、モチロン?」

 

 しかしその視線は盛大に泳いでいた。

 

「そっか……いなかったのね……」

 

「なんでちょっとうれしそうなんですか、師匠!?」

 

 颯太を慰めようとするように颯太の肩にポンと手を置く楯無の顔はニヤニヤと嬉しそうにしかしそれを隠そうとするように頬を強張らせていた。

 

「楯無さん、それは颯太がかわいそうですよ!」

 

「お姉ちゃん……!」

 

「俺を庇ってくれるのは嬉しいけど気付いてるか?お前らもたいがいな顔してるぞ?腹の底から『ザマミロ&スカッとサワヤカ』の笑いが出てしょうがねーぜッ!って顔してるぞ?」

 

「「おっと……」」

 

 颯太の指摘に簪とシャルロットは頬をこすりながら咳払いをする。

 

「まったく……彼女いたことなくても恋愛の一つや二つ、俺だって経験してますよ!」

 

「「「えっ……?」」」

 

「………おい、ちょっと待て。それ驚きすぎでしょ。俺を何だと思ってんですか?」

 

 颯太の言葉に驚愕の表情を浮かべる三人に颯太は呆れたようにため息を吐く。

 

「へ、へ~…ち、ちなみに訊くんだけど……あ、別にそれほど興味はないよ?興味はないんだけどただ一般的な話題として、あくまで一般的な話題として、女の子はコイバナ大好きだし一つの話題としてそこをもう少し掘り下げてみてもいいかと思ってきくんだけど……颯太の昔好きだった人ってどんな人がいたの……?」

 

「なっがい!よくわからない言い訳感が長い!それほど興味ない風を装いつつもその実ものすごく興味アリアリなのが丸見えだ、簪」

 

 やけに早口でしゃべる簪の言葉に颯太がツッコむ。

 

「そうよ、簪ちゃん。興味があるなら興味があるでいいのよ。――で!?実際のところどうなの!?過去にどんな子を好きになってどんなふうに振られたの!?ねぇ!?ねぇ!?ねぇ!?」

 

「師匠は師匠で興味津々すぎる!」

 

「でも、僕もちょっと聞いてみたいかなぁ……」

 

「だからそれは!………あ、シャルロットは普通だった」

 

「え?うん。なんかごめん」

 

「あ、いや……それでいいんだけど……ごめん、関西人の悪い癖。テンドンネタは三回までがテンプレだからつい」

 

「てん…どん?」

 

「あ、うん。なんでもない。忘れて?」

 

 颯太の言葉にシャルロットは首を傾げながらも話を促す。

 

「あ、うん。で、俺のコイバナだっけ?……なんか今日はやけに根掘り葉掘り訊いてきますよね」

 

「そ、そう?」

 

「そ、そんなことないと思うけど?」

 

「い、いつも通り……だよ?」

 

「……?」

 

 訝し気に首を傾げながらも昔を思い出すように少し目を細める颯太。

 

「そうさな~……俺の恋愛……あれは俺が――」

 

「ただいま~」

 

 と、颯太が何かを言いかけたところで部屋のドアが開く音ともに声が聞こえる。

 出かけていた一夏が帰ってきたようだ。

 

「おう、シャルロットに簪さん、楯無会長も来てたんですね。今日はプール行くって聞いてましたけど」

 

「ええ。帰って来ておしゃべりしてるのよ」

 

「一夏たちも買い物だったっけ?」

 

「おう。みんなに誘われてな」

 

「いろいろ買えた……?」

 

「ああ、って言っても俺より一緒に行ってた箒たちの方がたくさん買ってたけどな。女の子は買い物多いよな」

 

 笑いながら持っていた紙袋を自身の机に置く一夏。

 

「……ところで…なんで颯太はそんなに離れたところから俺にガン飛ばしてるんだ?」

 

 一夏の指摘に三人が視線を向ける、少し離れた窓際のあたりに体勢を少し低くし両手をフリーにするように少し広げた状態で颯太が一夏を警戒した目で見ていた。

 

「そ、颯太の瞳が赤い攻撃色に……!」

 

「いや、普通の目をしてるよ?若干目つき悪くなってるけど」

 

「くっ!やはりまだ治りきっていないのにホモ疑惑のある一夏君に合わせるのは時期尚早だったか!」

 

「あぁ、例の男性恐怖症ですか……ちょっと待ってください楯無会長。おれホモ疑惑あるんですか!?」

 

「あっ!見て!颯太が右手を掲げて……」

 

 シャルロットの言葉通り、颯太はゆっくりと右手を上げ、まるで嘴を開いた鳥のようなポーズをとる。

 

「あ、あれはまさか!?」

 

「知っているの、雷で――簪ちゃん!?」

 

「うむ。あれはまさしく威嚇のポーズ。威嚇レベル1、白鳥の威嚇!!」

 

「いや、あんな威嚇でどうにかなるような――」

 

「スワントゥース!」

 

「ぐはっ!」

 

 一夏の言葉を遮るように一夏の頬にまるで鳥が嘴でつつくような攻撃を浴びせる颯太。

 

「あぁ、颯太君落ち着いて!」

 

「どうどう!」

 

「また蟲笛使う?」

 

 倒れた一夏にさらなる追撃を行おうとする颯太を後ろから羽交い絞めにしながら言う楯無とその周りでどうにか颯太を落ち着かせようと模索するシャルロットと簪。

 

「は、離せ!!殺らなきゃ…殺らなきゃヤられるんだ!先手必勝じゃ!」

 

「颯太君落ち着きなさい!」

 

 じたばたと暴れる颯太を押さえつけようとさらに強く羽交い絞めにする楯無。その行動に一瞬颯太の動きが鈍る。

 

「はっ!師匠!やっぱり離さないでください!今離すと俺は何をするかわかりません!だからこのまま、いやもっとグッと力強く俺を押さえつけてください!」

 

「え!?あ、うん!わかったわ!」

 

「どしたぁ!?そんなものか!?それっじゃダメですよ師匠!もっとです!もっと体全体を押し付けるように羽交い絞めにしないと!まだこんなもんじゃダメです!ほら、簪とシャルロットも!師匠だけにやらせておいていいのか!?俺が逃れてしまったら一夏に何をするかわからん!俺を!俺を全力で止めてくれ!」

 

「う、うん!」

 

「わ、わかった……!」

 

 颯太の言葉にシャルロットと簪も颯太の足や腕にしがみ付くシャルロットと簪。

 

「いいぞ!その調子だ!そしてもっと!もっとしっかりと!余すところなく全力で!」

 

 暴れる颯太を颯太自身の指示のもと羽交い絞めにする三人は真剣な表情であり、それゆえに全力で押さえつける三人は気付いていなかった。

 颯太の顔がこれ以上ないほどに弛みきっていることに………。

 

 

 

 

 

 その後、起きあがった一夏に颯太の顔が指摘されるまでその謎のおしくらまんじゅうは続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 颯太たちがまだプールで遊んでいたころ。

 アメリカのとある軍事施設の一角。権限のないものが入室どころか近づくことすら許されない、特殊な一角。

 その室内は薄暗く、最低限の机とイスだけが用意されていた。

 その机で向かい合って座る人物が二人。

 片方はいかつい顔をしてスーツを着た40代ほどの男性。そしてその男に対するは細身で身長の高い五分刈りにされた頭に面長な顔、ケツ顎にやけに赤くテカっている唇が特徴的な人物だった。

 

「それでは報告を聞こうか。実際に対面してみての井口颯太の様子を教えてもらおうか、ニコラ君」

 

「はい」

 

 スーツの男の言葉にケツ顎の男、ニコことニコラは頷く。

 

「私の初見としては普通の一般的な日本人の未成年男児と思われました」

 

 よどみなく、スラスラと報告を行うニコラ。

 

「また肉体的に何か特筆すべき点は見られず、筋肉の質やつき方も異常な点は見られませんでした」

 

「なるほど……それで?」

 

「はい。彼、井口颯太は能力はいたって平凡的なものであり、身体能力も平均よりも高く感じましたが、それもあくまで常識の範囲内であると思われます。結論を言わせていただければ、彼は世の一般的な男児と変わらないように思いました」

 

「なるほど……ちなみにここに君に採取してもらった彼のDNAの検査結果があるわけだが」

 

 言いながらスーツの男は手元の書類に視線を向ける。

 

「これを見る限り、確かに何か特殊なものは見られない。本当に平凡な未成年の男児と変わらないと思われる。もう少し詳しく調べればわかるかもしれんが、生憎君に採取してもらった髪の毛数本ではこれ以上は調べられないとのことだ」

 

 ため息まじりに書類を机に置くスーツの男。

 

「他に何か報告はあるかね?」

 

「………いえ、特には」

 

「そうか」

 

 ニコラの言葉に頷くスーツの男。

 

「では、これで報告は以上としよう。また次の任務までは通常の仕事をしていてもらって構わん。任務が入り次第連絡をする」

 

「了解しました」

 

 男の言葉に立ち上がり敬礼をしたニコラは部屋のドアへと歩いて行き、ドアの前でもう一度敬礼をして退室した。

 

 

 

 

 

 コツコツと廊下に靴音を響かせながら歩いたニコラはいったん立ち止まり周りを見渡す。

 先ほどの部屋からもある程度離れ、周りにも特に人がいる様子はない。

 

「………ふぅ~。まったく報告ってどうしてこう堅苦しいのかしら。肩が凝っちゃいそう。もっとフランクにできればいいのにぃ」

 

 と、先ほどまでの口調からオカマ口調に戻り、心なしか立ち居振る舞いもなよっとしたものになったように思われる。

 

「それにしても、あの井口颯太君、報告した通り普通の子なのよねぇ。会う前はもう少しいろいろ期待してたのに。まあ少し細身で鍛えがいがありそうだったけど」

 

 再び歩き出しながら呟くニコ。

 

「でも……あのときどき見せる目……」

 

 ニコは一週間の訓練期間中に何度か見かけた颯太の目を思い出す。

 時に格闘訓練中に。

 時に座学の時間に。

 時にISの訓練中に。

 時に他人の任務での話を聞いているときに見せた鋭い視線。

 

「あの目はなかなかよかったわね。まるで、剥き出しの脊髄を舐めあげられるような、身震いさえ覚えるあの感じ。美しいとさえ思ったわ。あんな目を見たのはいつ以来かしらね」

 

 思い出しながらフフッと笑うニコ。

 

 まるで恋する乙女の様に。

 まるでオモチャを与えられた子供の様に。

 まるで獲物を見つけた蛇の様に。

 

 ニコは笑みを浮かべるのだった。

 

「また会えるかしらね、井口颯太君?うふっ♡」

 




改めまして久しぶりの更新になってすみません。
二月は色々と忙しかったもので(;^ω^)

さて今回の話で夏休みも終わり、次回から二学期に入ろうと思います。
思い返せば夏休みの話長かったですね。
CM撮影したり
実家帰ったら女性権利団体と揉めたり
アメリカ行ったり
ゲイに掘られかけてぶっ壊れて帰ってきたり。
こうしてみるとろくな目にあってませんね(;^ω^)
二学期は平穏無事に過ごせるんですかねぇ~。
すごせるといいなぁ~(棒)

またできるだけ期間をあけずに更新しようと思うんでお楽しみに~( ´艸`)

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