IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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トータル話数が100話行ったということで記念に書きました。
二学期開始だと思った方すみません。


トータル話数100話記念 IS日本昔話「夏太郎」

 むか~しむかしの物語。

 とある村に一人の少年が住んでおりました。

 少年の名は「夏太郎」。

 彼はとある理由から小さな家で農業を行いながら一人で生活していました。

 

 

 

 

 

 ある日の事。

 夏太郎は毎朝の日課である剣道の鍛錬の後、農作業をしようと畑に向かっていると同じ村の住人のおしゃると簪子に会いました。

 

「おはよう、夏太郎。これから畑仕事?」

 

「ああ、おしゃると簪子も?」

 

「うん……あ、そうだ…噂聞いた?」

 

「噂?」

 

「うん……さっき、都の方から来た旅人に聞いたんだけど」

 

「なんでも最近、都の方で鬼たちが暴れまわっているらしいよ」

 

「鬼っ……!!」

 

 おしゃると簪子の言葉に夏太郎は顔を強張らせました。

 それもそのはず。

 実は夏太郎には鬼には浅からぬ因縁があったのです。

 もともとは都の武家の長男だった夏太郎は優しい両親と強く凛々しい姉とともに生活していました。

 いつか強い姉の様に自分も立派な武士になることを夢見ていたのですが、ある時、暴れまわっていた鬼の軍団を倒すために討伐隊に志願した父と姉。

 しかし二人が帰ってくることはありませんでした。

 母一人子一人で生活できなくなった夏太郎と母はここ、藍越村へとやって来たのですが、もともと体の強くなかった母は体を壊し引っ越して一年ほどで流行り病で帰らぬ人となったのです。

 それ以来夏太郎は同じ村の人の手を借りながら一人で生きて来ました。

 いつか鬼を倒すための剣の鍛錬を欠かすことなく毎日行いながら。

 

「そうか……鬼が都に……」

 

 夏太郎はおしゃると簪子の話を何度も反復しながら一つの決心を固めました。

 

 

 

 

 

 次の日、夏太郎はいつもの畑仕事に向かわず、村長の楯無の元に行きました。

 

「村長!都で鬼が暴れているという話を聞きました!俺は父と姉の敵を討ちに鬼の本拠地、鬼ヶ島に行こうと思います!」

 

「…………」

 

 夏太郎の話を聞いた楯無はゆっくりと頷き口元にあてていた扇子をパチリと閉じて口を開きました。

 

「うん、いいよ。You鬼退治行っちゃいなYO。仇討ち行っちゃいなYO。なんなら鬼退治に使う装備貸してあげちゃうYO」

 

 

 

 

 

 村長や村人たちに応援され、村長の楯無に貰った装備を身に着け、夏太郎は旅に出ました。

 長い道のりを力強くずんずんと歩いて行くと一匹の犬に出会いました。

 

「私の名前はワン・リンイン。アンタどこ行くの?」

 

「俺の名は夏太郎。これから鬼退治に行くんだ」

 

「何?アンタってマゾなの?鬼退治とかホントにできんの?」

 

「できる!やらなきゃいけないんだ!」

 

 疑わしげな犬に力強く夏太郎は答えました。

 

「ふ~ん……ねぇあたしも一緒に行ってあげるわ。アンタだけじゃ心配だしね」

 

「本当か!?ありがとう!お前いい奴だな!」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 嬉しそうに犬の手を握りブンブンと振る夏太郎に犬は少し顔を赤らめながら手を無理矢理引き抜く。

 

「その代わり!アンタのお腰に着けたキビ団子、あたしにも寄越しなさいよ」

 

「ああ、いいぜ!」

 

 こうして犬をお供にした夏太郎は犬とともに旅路を急ぎます。

 夏太郎と犬が少し行くと今度は一匹の猿が現れました。

 

「私の名前はホウッキ。お前たちはこれからどこへ行こうというのだ?」

 

「俺の名は夏太郎。これから鬼退治に行くんだ」

 

「ほう、お前のような真の強者の漢がいるとは……よし、私も着いて行こう!」

 

「本当か!?ありがとう!お前いい奴だな!」

 

「お、おい!」

 

「むっ!」

 

 嬉しそうに猿の手を握りしめ、ブンブンと振る夏太郎に猿は少し顔を赤らめ、犬はむっとした顔をしました。

 

「その代わり!お前のお腰に着けたキビ団子、私にも分けてくれ」

 

「ああ、いいぜ!」

 

 こうして新たに猿をお供にした夏太郎はさらに旅路を進みます。

 夏太郎と犬と猿が少し進むと今度は雉が現れました。

 

「初めまして、わたくしキジリアと言いますわ。あなた方はこれからどこへ行きますの?」

 

「俺の名は夏太郎。これから鬼退治に行くんだ」

 

「まあそれは大変ですわね。よければわたくしもお手伝いさせていただけませんか?」

 

「本当か!?ありがとう!お前いい奴だな!」

 

「っ!」

 

「「むむっ!」」

 

 嬉しそうに雉の手を握りしめ、ブンブンと振る夏太郎に雉は少し顔を赤らめ、犬と猿はむっとした顔をしました。

 

「その代わり、あなたのお腰に付けたキビ団子、わたくしにも分けてくれません?」

 

「ああ、いいぜ!」

 

「ありがとうございます。あ、よければわたくしの作ったお団子もどうですか?」

 

「ああ、いただくよ!……………うん……こ、個性的な味だな……」

 

 こうして雉をお供にした夏太郎はさらに旅路を進みます。

 夏太郎と犬と猿と雉が少し行くと、今度は隻眼の兎が現れました。

 

「私の名前はラウラビット。お前たちはこれからどこへ行こうというのだ?」

 

「俺の名は夏太郎。これから鬼退治に行くんだ」

 

「ほう?鬼は強いと言う。特に鬼の大将、冬鬼は身の丈ほどもある太刀を使いこなす猛者と聞く。お前に冬鬼が倒せるか?」

 

「倒してみせる!やらなければいけないのだ!」

 

「……ふっ、面白い。お前がどれだけできるか見させてもらおう。私も手伝ってやる」

 

「本当か!?ありがとう!お前いい奴だな!」

 

「こっ、これくらいどうということはない!」

 

「「「むむむっ!」」」

 

 嬉しそうに兎の手を握りしめ、ブンブンと振る夏太郎に兎は少し顔を赤らめ、犬と猿と雉はむっとした顔をしました。

 

「その代わり、お前のお腰に付けたキビ団子、私にも分けてくれ」

 

「ああ、いいぜ!」

 

 こうして兎をお供にした夏太郎はさらに旅路を進みます。

 時に大きな山を。

 時に流れの急な川を。

 雨の中を。

 風の中を。

 雪の中を進みました。

 そしてついに夏太郎と犬と猿と雉と兎は海にやってきました。

 

「ついにここまで来た。後は船に乗って行けば鬼ヶ島だ!」

 

 夏太郎たちは船に乗り込み大海原へと漕ぎ出しました。

 

 

 

 

 

 どれほど進んだことでしょうか。

 ついに夏太郎たちの前に目的地、鬼ヶ島が見えてきました。

 鬼ヶ島に上陸した夏太郎一行は鬼の根城の大きな門を叩きます。

 

「出て来い鬼たち!」

 

 どんどんと力強く門を叩くと、ギ~と軋む音を立てて大きな門がゆっくりと開きました。

 

「騒がしいな。いったい何の用だ?」

 

 ゆっくりと開いた門から鬼たちが姿を現し、先頭の一際威圧感の強い鬼が言いました。

 その鬼はすらりと高い身長に、左手には身の丈ほどもある太刀を持ち、顔を隠すように髑髏の仮面をつけていました。纏った獣の毛皮を押し上げる大きな胸のふくらみと真っ黒な長い髪からどうやら女性だと見受けられました。

 

「お前は……何のハサンだ?」

 

「誰がハサンだ。この鬼ヶ島の主、冬鬼に対して随分と生意気な口をきくではないか」

 

 兎の言葉に冷たく低い声で冬鬼は言いました。

 

「それで?お前たちは何をしにここに来た?」

 

「私たちはお前を……どうした、夏太郎?」

 

 力強く答えようとした猿は夏太郎の様子がおかしいことに気付きました。

 

「………おい、冬鬼。お前のその太刀……」

 

「これか?これは私の持つ太刀の中でも屈指の業物、《雪片》だ」

 

 言いながら冬鬼はスッと鞘から滑らせるように太刀を引き抜きました。

 それは見事な美しい太刀でした。

 スラリと長く輝かんばかりの刀身は一目で業物とわかりました。

 

「……ふざけるな……」

 

「何?」

 

「ふざけるな!それがお前の?違う!それは千冬姉の……俺の姉さんのものだ!」

 

「…………」

 

「お前は奪ったんだ!お前が!お前が姉さんを殺したんだ!」

 

「……違う。私はお前の姉を殺していない」

 

「嘘だ!」

 

「嘘じゃない。お前の姉は――」

 

 言いながら冬鬼は髑髏の仮面にゆっくりと手をかけ外しました。

 仮面の下からは鋭い吊り目の、しかし整った美しい顔が現れました。

 

「お前の姉は私だ」

 

「………嘘だ……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

次回予告

 

 明らかになった冬鬼の正体!

 

 その正体の衝撃に呆然と立ち尽くす夏太郎!

 

 しかしそんな夏太郎に鬼たちは容赦なく攻撃を仕掛ける。

 

 やめてくれ!今の夏太郎は戦える状態ではない!

 

 夏太郎の退路を守るため一人鬼たちを食い止めるキジリア!

 

 お願いだ!死ぬんじゃないキジリア!!

 

 今お前が倒れたら私たちは、夏太郎はどうなる!?

 

 ここを生き延びて体勢を立て直し生きて一緒に帰るんだ!

 

 次回!「キジリア死す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

「ふむふむ、なるほどね……」

 

 俺の描いた連載小説、「夏太郎」を読んだ師匠が吟味するように頷く。

 これが俺の生徒会最初の仕事、生徒会広報に掲載するコラムの作成である。

 これから二週に一回のペースで更新される生徒会広報に掲載するということで連載小説形式にしてみたわけだ。

 そしていま絶賛編集長たる生徒会長の楯無師匠に批評をしてもらっているわけである。

 

「ど、どうでしょうか……?」

 

「……うん。いいんじゃない?」

 

「いいんですか?書いといてなんですけどだいぶふざけた内容ですけど?」

 

「いいのよ。前から広報って堅い感じしてたし。学生が読むものなんだからこのくらいふざけててちょうどいいんじゃない?」

 

「いいんでしょうか?」

 

「いいんじゃない~?」

 

 師匠の言葉に横でコピーした原稿を読んでいた布仏先輩が苦笑いを浮かべ、

のほほんさんは相変わらずだらりと机にだらけながら言う。

 

「さて、虚ちゃん、これ次回の広報に載せておいて」

 

「……クレームが来ても知りませんよ?」

 

「いいわよ。そうなったら私が全責任を負うわ!かわいい弟子の生徒会初仕事なんだもの!」

 

「師匠……」

 

 師匠の優しい言葉に俺は感動で少し眼から心の汗が溢れそうになる。

 

「さて!颯太君の初仕事祝いに紅茶で乾杯しましょう!虚ちゃん、冷蔵庫にチーズケーキがあるからそれも一緒にお願い」

 

「はい、わかりました」

 

 師匠の言葉に布仏先輩が紅茶と切り分けたチーズケーキを持ってくる。

 

「それじゃあ改めて…颯太君生徒会副会長就任おめでと~!!」

 

「おめでとうございます」

 

「おめでと~」

 

「ありがとうございます!改めてよろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 こうして俺の生徒会初仕事は始まった。

 ちなみにこれから数日後、冬k――織斑先生とその他数名の人物からのクレームという名の直接攻撃により広報は自主回収する運びとなった。

 さらにちなみにこの小説を書いた俺は反省文の提出という罰則と織斑先生からのありがたーいげんこつをいただいた。

 さらにさらにちなみに自主回収が決まった瞬間おうちのお仕事が入ったということで我らが頼れる楯無会長抜きで俺と布仏先輩とのほほんさん(実質俺と布仏先輩)だけで自主回収することとなった。

 俺の感動を返してくれ、師匠。

 




というわけでトータル100話まで来ました。
思ったより書いたもんですね。
ここまでやって来れたのも読んでくださってる皆さんのおかげです。
更新が遅いのにいつも読んでくださりありがとうございます。
新しく始まる二学期のお話も頑張って書いて行きます。
あと、できるだけもう少し更新できるようにしたいですね(;^ω^)

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