IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

105 / 309
第90話 赤は三倍

 さて、時は流れ、今日はとうとう学園祭当日である。

 ここまでクラス一丸となって準備を続けてきた。

 俺もたくさん意見を言い、監修として尽力してきた。

 例えば――

 

 

 

『お帰りなさいませご主人様』

 

『ちっがぁぁう!もっと気持ちを込めて!』

 

『お帰りなさいませご主人様』

 

『どうしたどうした!?そんなんでアキバのカリスマメイド、ミナリンスキーさんみたいになれると思うなよ!』

 

 

 

 時にこの様に叱咤激励し、今日という日を迎えたわけだが……

 

「うそ!?一組であの織斑君の接客が受けられるの!?」

 

「しかも執事の燕尾服!」

 

「それだけじゃなくてゲームもあるらしいわよ?」

 

「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって!ツーショットよ、ツーショット!これは行かない手はないわね!」

 

 と、まあこの様に話題の中心は一夏であった。

 おかげで一夏は引っ張りだこ。それ以外の人たちは比較的楽しそうにしている。

 

「いらっしゃいませ♪こちらへどうぞ、お嬢様」

 

 とりわけ楽しそうなのはメイド服姿のシャルロットである。

 事前に行った会議でシャルロットには執事服を、という意見も出ていたが、そこは俺が断固メイド服を推した。

 本人がどう思っているかわからないがわざわざ男装させる必要もないだろう。

せっかく女の子に戻ったわけだしかわいい服だってたくさん着たいだろう。というか着るべきだ。

 だいたいシャルロットの性格を考えたら多少嫌でもみんなに頼まれたら断れない可能性もあるし。

 というかこれが一番大きな理由だが、単純に俺が見たかっただけだったりする。

 

(まあシャルロットって器用貧乏どころか器用富豪って感じだし、練習でも一番うまかったし。そう言えば俺が褒めたらやけに喜んでたなぁ)

 

 ちなみに接客担当になったのは一夏とシャルロット、セシリアに加えて箒とラウラだった。

 ラウラが接客になったのはまあ発案者だからってのもあるだろうが、一夏は多分気付いてないけど、箒が立候補したのはきっと、一夏に褒めてほしかったんだろうなぁ。あと、他のライバルに後れを取りたくない的な。プライドと恋心を天秤にかけて恋心が勝ったのだろう。

 他のクラスメイト達は大きく分けて二つ。調理班と雑務班。

 調理班は読んで字のごとく。雑務班は食材の補充やテーブルの整理、廊下にできた長蛇の列の整理を行っている。

 俺の役職は……一応接客と言えなくもない。

ただ、俺は執事服じゃない。だって需要ないもん。

 じゃあ何をしているか……ズバリ!ウェイターだ!

 まあ簡単に言えば接客しつつ雑務班のお手伝いと、フットワーク軽くいろいろとやっている。

 

「はーい、こちら二時間待ちでーす」

 

「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますから」

 

 各種クレームに対応する雑務班の人たちの声が廊下から聞こえてくる。大変そうだ。

 様子を見るために廊下に顔を出すと少し前に見た時より列が伸びてる気がする。

 

「大丈夫?もう少し人をこっちに入れようか?」

 

「あ、井口君!大丈夫!ありがとう!」

 

 廊下で看板を持ちながら対応していた相川さんに言うと笑顔で答える。

 

「そうか……まあ手が必要になったら行ってくれ。人員回すから」

 

「うん!ありがとう!」

 

「おう、大変そうだな」

 

 と、横から一夏もひょこりと顔を出す。

 

「どんな感じだ?」

 

「見ての通りだ。しかもこれのほぼ全部がお前目当てだ。あとで廊下に出て対応してる人たちにお礼言っとけよ」

 

「お、おう」

 

 ………だいぶ俺も回復してきたようだ。複数人の人がいる状態なら一夏とも普通に話せる。

 急に話しかけられてもびくつかなくなった。

 これは完全復活の日も近い。

 俺は呪縛から解放されたんだ!

 ――などと考えていたせいか、気付くのが遅れた。

 

「あ!織斑君だ!」

 

 しまった、ここで一夏の姿を見られたら大騒ぎになりかねん。

 

「一夏!お前は戻れ!大騒ぎになる!」

 

「え?でも――」

 

「井口君の言う通りだよ!」

 

「だいたいさっき出るなって言ったでしょ!」

 

「混乱度合いがあるの!」

 

「お楽しみは最後まで取っておかないとね!」

 

 俺に賛同するように慌ててやって来たクラスメイト数人とともに一夏を無理矢理教室に押し込む。

 

「さて、お前も接客に戻れよ?俺も――」

 

「ちょっとそこの執事、テーブルに案内しなさいよ」

 

 聞き慣れた乱暴がな口調が聞こえ、俺と一夏は振り返る。振り返った先にいたのはもちろん鈴である。ただ――

 

「何してるの、お前……?」

 

 一夏が疑問の声をあげる。それは当然。だって鈴がチャイナ服だったからだ。

 一枚布のスカートタイプで、かなり大胆にスリットが入っている。真っ赤な生地に竜のあしらいと金色のラインがかなり凝っている。赤い生地と鈴の地の白い肌のコントラストがエロティックだった。

 

「う、う、うるさい!うちは中華喫茶やってんのよ!」

 

「何っ!?」

 

「「っ!?」」

 

 鈴の言葉に俺は食い気味に声をあげると二人がびくりと肩を震わす。

 

「ちょっと急に――」

 

「それどころじゃねぇよ!おい、鈴今の言葉はマジか!?」

 

「え?ああうん。そうよ。うちのクラスは中華喫茶。私もウェイトレスとして働いてるわ」

 

「つまりお前のクラスの衣装はそのチャイナドレスだと?」

 

「う、うん……」

 

「全員がお前みたいに背中ブリーン!脚バーン!なエロティックな衣装で接客しているのか!?」

 

「エ、エロ!?」

 

「どうなんだ!?」

 

「そ、そうだけど……」

 

 俺の問いにタジタジになりながら頷く鈴。

 

「そうか……こうしちゃいられない!俺ちょっと二組に――」

 

「ウェイターさん?」

 

 走り出そうとした俺の肩にポンと誰かが手を置いた。

 振り返ると笑顔のシャルロットがいた。

 笑顔だった、笑顔であった。でも――目が笑っていなかった。

 

「遊ぶのもいいけど、時間と場所を弁えようか?」

 

「は、はい」

 

「さぁ…お仕事、しよっか?」

 

「サー!イエッサー!!」

 

 その後俺はさっきまでの三倍は働いた。多分頭に赤い角が生えてたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 颯太が教室で三倍働いていたころ、校門にて――

 

「ここが……先輩の学校……」

 

 一人の黒髪長髪のセーラー服の少女がオロオロと、校門をくぐり

 さらに数分後――

 

「ここが兄さんの学校か」

 

「さすがに大きいわねぇ」

 

「学園祭って規模超えてるな。みんな楽しそうだ」

 

 三人の親子がワクワクした様子で校門をくぐり

 またさらに数分後――

 

「ここね。うふっ、颯太君は元気にしてるかしらねぇ~」

 

 一人のケツ顎のオカマがクネクネと校門をくぐった。

 

 

 

 井口颯太の学園祭は始まったばかりである。

 




波乱の予感のする人たちの登場。
颯太は生き残れるのか!?
次回!
「井口颯太、散る」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。