「いやぁ~、面白かったわね~」
映画館から出た俺たち。俺の横で師匠が伸びをしながら言う。
「ですね~。あの織田信長に入った沖田総司が無双するシーンは名シーンですね」
「織田信長なのに…無明三段突き!ってね…」
シャルロットと簪も楽しめたようで内容の話題で盛り上がっている。
「俺はあれかな~。土方の出す毎食たくあん生活に耐え切れなくなって暴れようとしたけど、沖田の体の病弱さに吐血するノッブのところがよかったな~」
「「「わかる~」」」
俺の言葉に三人が笑いながら頷く。
今日は先日約束した通り四人で映画を見に来た。
お昼前にやって来て四人で昼食を取り、その後映画を見て現在に至る。
「さて、ここからどうしますかね?テキトーに店まわって一夏のプレゼント探しますか?」
「あ!……あの…その前に…行きたいところあるんだけど……」
「へ~?どこ?」
もじもじと言う簪に俺が訊くと、
「えっと………あそこ」
と、簪が指さした先を三人で見ると――
〇
そこはこの大型ショッピングセンターのレゾナンスのなかで一番騒がしいと思える場所だった。
そう……ゲームセンターだ。
「さすがでかいショッピングセンターだけあってゲームの種類も多いな」
俺は周りを見回しながら簪に訊く。
「で?簪のお目当てのゲームは?」
「えっと…アレ……」
簪の指さす方にはいくつかのアーケードゲームが並んでいた。
「はっは~ん……ガンバライジングがお目当てか?」
「今日はそれじゃない」
「じゃあ…ウルトラマン?」
「それも違う」
「ん~……プリパラとかアイカツ?」
「それも違うよ」
ダメだ。これ以上思い浮かばないな。
「知らない? ISのアーケードゲームがあるんだよ…?」
「え!?マジで!?」
「あら、颯太君ならてっきり知ってると思ってたわ」
驚いている俺に師匠が意外そうに言う。
「アーケードゲームは一時期やってたムシキング以来ノータッチでした」
「僕はそもそもこういうゲーム自体はじめて」
俺が答え、シャルロットも興味津々な様子で近くに置かれている機器を眺めている。
「じゃあそんな二人にお姉さんがやり方を教えてあげちゃおう」
師匠がふふんと胸を張って近くの機器の前に立つ。
「この機械に七つボタンがあるわね?」
師匠が機器にお金を入れながら言う説明に俺とシャルロットは頷く。
「で、ゲームが始まったら曲を選択。後はその曲に合わせて画面に流れてくるマークがそれぞれのボタンの印に重なると同時にボタンを押す!」
師匠がボタンを押すと画面に「Perfect」の文字が光る。
「こんな感じよ。簡単でしょ?」
俺は師匠の説明を最後まで聞き、自分の中で結論をつける。
「………なんか思ってたのと違う!!これ音ゲーだ!!!」
「あれ?音ゲーは嫌い?」
こっちに視線を向けて言う師匠。
この人画面見ずにノーミスで続けてる。化け物かこの人。
「颯太…安心して。お姉ちゃんの悪ふざけだから。ちゃんと颯太の思ってる通りのがこっちにあるから」
「あ、そうなの?よかった~。じゃあ師匠、先行ってますんで」
「え!?あ!ちょっと!?」
「じゃあシャルロット行くか」
「え?でもこのゲームするんじゃないの?」
「信じちゃってたよこの子は」
曲が終わらないのでいまだにシャンシャン♪やってる師匠は放っておいて三人で先に行く。
「本当はこれ……」
と、簪が指さした先にあったのは、確かにISのアーケードゲームだった。
ゲーム機器にはでかでかとISのイラストが描かれている。
「これはどうやって遊ぶんだ?」
「簡単に言えば、ISと操縦者、二種類のカードを使って遊ぶの…。ISと操縦者はそろってなくても遊べるけど、揃ってないとワンオフアビリティとかは使えなくなるの……」
「へ~……」
説明を聞きながらシャルロットは興味深そうに機器を見ている。
「しかもこのゲーム…実在するIS操縦者で遊べるの。歴代の各国の代表とか代表候補生、有名な企業所属の人とかね」
「へ~……」
知らない間にこんなものができていたとは……まったくのノーチェックだった。
「ちなみに誰が一番レアなの?」
「そんなもん決まってんだろ!絶対織斑先生だって!」
シャルロットの言葉に俺は自信満々に答えるが
「残念…それは四月までの話……今は……」
言いながら簪は横に下げていたカバンからカードファイルを取り出す。
ちゃんとこのゲーム専用の既製品のものだった。
「織斑一夏と『白式』、井口颯太と『火焔』、この四枚が最高レアリティのウルトラレアだよ」
「へ~…一夏かぁ…………って俺も!?」
簪がファイルを開いて見せるカードを見ながら頷きながら、スルーしかけた事案に驚愕の声をあげる。
「まあ颯太君と一夏君は世界にふたりしかいない男性IS操縦者だからね。是非もないよネ!」
と、音ゲーを終わらせた師匠がやって来る。しかもさっき見た映画のセリフまでマネて。
「へ~…すごいね颯太!最高レアリティだって!」
「評価高すぎる!俺は一般人に毛の生えた程度の男だぞ!」
シャルロットの言葉に涙ながらに言いながら俺は崩れ落ちる。
「そ、そういえば楯無さんもこのゲームしてるんですね」
「もちろんよ。颯太君のカードは使う物以外にも保存用観賞用の三枚確保したわ」
「お姉ちゃんすごい……私、颯太のカード手に入れるのに結構かかったのに……」
「いやぁ~結構高かったわ~。流石URね」
「あ、この人ショップとかヤフオクで手に入れた口の人だ」
師匠の言葉に俺はため息つきながら言う。
「まあなんとなくわかった。つまりISと操縦者二種類のカードそろえて遊ぶゲーム…と?」
「そういうことだね」
「とりあえず…やってみたら?私、あともうちょっとでコンプリートだから颯太の当てたカードのペア、貸してあげられると思うよ……」
「コンプ目前とかガチ勢じゃないっすか、簪さん!」
簪の言葉に驚きながらも、俺は財布を取り出す。
「まあやって見ますか。さてさて…俺の初ゲットは何かなぁ~……」
言いながらお金を入れ、カード出口から出てきたカードを取る。
『…………』
――それは一目でレアカードだとわかるものだった。
金色に縁取りされ、表面はキラキラと輝くように加工されていた。
カードの真ん中には長い黒髪に狼を思わせる鋭い相貌、整った顔をきりっと引き締めた女性――織斑千冬が映っていた。ちなみにレアリティはSSRだった。
「す、すごいじゃない、颯太君!」
「織斑先生のカード…颯太たちの次になかなか出ないのに……!」
「すごいね、颯太!やったじゃ……どうしたの?」
「いや…うん……」
テンションの高くなった三人とは対照的に俺は微妙な顔をしている。
「なんて言うかさ……織斑先生か~……この顔見飽きてるんだよな~……だって毎日顔合わせてるんだもんな~……よく出席簿で叩かれてるんだもんな~……なんかあんまりありがたみないな~……山田先生とかの方がまだリアクションできたな~……てかどうせレアキャラ出るならFGOの方でほしいなぁ~……同じ黒髪の美人ならスカサハ師匠が欲しいよ~!!アンタお呼びじゃないよ~!!!いらねぇぇよぉぉぉぉ!!!!」
「ほう?それは悪かったな。わざわざこんな見飽きた顔を引き当ててしまって、本当にご愁傷さまだ」
と、突如背筋が凍えるほどの殺気とともに俺の肩に威圧感(物理)がやって来る。
俺の目の前では三人が絶望の表情を浮かべてる。
俺は震える体にムチ打って、ゆっくりと振り返る。
そこには――
「休日にまでこんな見飽きた顔に会ってしまって、申し訳ない次第だよ」
絶望がいた。ええそうですとも。織斑先生がおりましたとも。
「こ、これはこれは織斑先生。織斑先生とこんなところでお会いするとは……。あ!聞いてくださいよ!今このISのゲームで織斑先生が当たったんですよ?超レアらしいですね?すごいですね~!さすが織斑先生!よっ!生きる伝説!よっ!ブリュンヒルデ!」
「お前の方がレアだがな」
『……………』
織斑先生の言葉に俺は目を逸らす。
背後に控えている三人にアイコンタクトし、
「すみません織斑先生、俺たちこれから買い物にも回らないといけないんで……これで失礼します!」
と、ダッシュで逃げ出そうとするが――
「まあ待て、いまお金を入れたところだろう?まだ遊んでもいないじゃないか」
正論とともに捕まった!
「そうだ。どうせなら対戦をしようじゃないか」
「「「「えっ!!!?」」」」
織斑先生の言葉に俺たちは驚きながら先生の顔を見る。
「セ、先生もこのゲーム…嗜まれるんですか?」
「ん?まあ少しな。山田君に誘われてな」
俺の問いに織斑先生が頷く。
「今から対戦をして、井口、お前が勝てば先ほどのお前の発言、きれいさっぱり忘れてやろう」
「えっ!?マジっすか!?」
織斑先生の提案に俺は先生の顔をガン見する。
「ああ。その代り、お前が負けた時は……」
「ま、負けた時は……?ゴクリンコ」
「……井口、お前アメリカで格闘訓練も受けたらしいな?」
「え?あ、はい」
突然の話題転換に俺は首を傾げる。
「私が勝ったら、お前がどれほど力を付けて来たか、組み手をして確かめてやろう。なぁに、100本ほどすれば十分だろう。おっと?これはどちらもお前にとってはご褒美か?なにせ負けても私が直々に組み手の相手になるのだからな」
罰ゲームどころか地獄です!
「さて始めるとするか」
と、いつの間にやらお金を入れ、対戦モードを選択した織斑先生。
「ほらボサッとするな。さっさと準備しろ?」
「……簪、カード貸してくれ。やってやりますよ、織斑先生!」
俺は意気揚々と立ち上がりゲーム機の前に立つ。
落ち着け俺。相手は織斑先生だ。
いくらISで最強を誇っていてもこれはゲーム。
ゲームであれば俺の方がやっている自信がある。
たとえ初めてするゲームであっても勝ってみせる!!!!
〇
「それでは、次の日曜日にな。楽しみにしているぞ、井口」
そう言って颯爽と去って行く織斑先生とゲーム機の前に崩れ落ちる俺。
負けました。ええ、負けましたとも。
完敗もいいところでした。
「颯太君?」
「その……」
「元気出して?」
屍とかした俺に師匠たちがなんとも言えない面持ちで慰める。
「……て…か」
『え?』
「やってやろうじゃねぇぇかぁぁぁぁ!!!特訓じゃぁぁぁ!!!」
その後1プレイ100円のゲームに三千円つぎ込みました。