予告通り番外編です。
番外編の前に一つ。
この番外編の颯太君はアメリカでの一件はありましたが一夏との同室になっています。
時系列とか気にせず、そういう設定か……くらいに捉えておいてください。
朝起きた瞬間、あぁ…今日体調悪いな、とわかるときがある。
今日もそんな感じだった。
いつもの寝心地のいいベッドに寝ているのだが、なんだか胸に圧迫感がある。
違和感を覚えながら上体を起こすと圧迫感は軽減されたが、同時に肩から胸にかけて重い感じがする。
これは本格的におかしい。風邪でも引いたのかもしれない。
「どうすっかねぇ~……」
ぼそぼそと呟くと喉もやられているらしいく自分の声とは思えない、まるで少女のような声だ。
ここは一夏に一声かけとくか、と隣のベッドに視線を向けるとまだ一夏は寝てるようだ。
時計を確認すると少し早いがいい位の時間だ。一夏を起こすついでに体調不良のことを言おうと思い、ベッドから這い出て布団に丸まる一夏の肩を揺らす。
「お~い一夏、朝だぞ~。ちょっと相談があるんだけど~?なんか調子悪くてさ~。ほら、声もこんな高くてさ~。まるで美少女のようだよ~。なぁ一k――」
「ん~…何~?」
と、俺の呼びかけにやっと反応を示したベッドの主は布団から顔を出した。が――
「…………えっと……ん?」
そこにいたのは一人の美少女だった。
ぱっちりとした二重。長い(寝起きのせいか少し乱れてはいるが)サラサラの肩甲骨のあたりまでありそうな黒髪。
少し誰かに似ている気もするが、正真正銘初対面だった。
「あ、すいません。間違えました」
「も~……今何時?」
「えっと……6時45分…です……はい」
「ん~…いつもより15分も早いじゃん……また15分後に起こして」
「あ、はい…ごめんなさい」
「ん~……Zzz~」
俺が謝ると寝惚けたままコテンとベッドに横になるとまた寝息をたてはじめる謎の美少女。
さて――
「なるほど……夢か」
納得した俺はベッドに戻りもう一度瞼を閉じる。
「………よし!起きた!」
ん~、と大きく伸びをしながら起きあがり、隣に視線を向けると
「Zzz~~」
変わらず気持ちよさそうに眠る謎の美少女が――
「おいぃぃぃぃ!!!誰だぁぁぁぁ!!!!」
飛び起きた俺はすぐさま美少女を起こしにかかる。
「おい、起きろ!起きてくださいお願いします!」
「ん~?……何?まだ五分もたってないじゃん?」
「あ、ごめん――じゃなくて!!お前誰!?一夏は!?」
「ん~?私がイチカじゃん」
「はぁ!?いやいや!お前女じゃん!美少女じゃん!織斑一夏じゃないでしょ!?」
「も~………」
渋々起き上がった少女はまだ寝ぼけ半分なのかノロノロとベッドわきに掛けてある(箒と同じようなほとんど改造の加えられていない)制服の胸ポケットを探り
「はい」
言いながら見せてきたのは生徒手帳だった。
≪IF学園一年一組 織斑一花≫
「オリムラ……イチカ?――待って!IF学園!?ISじゃなくて!?」
「ん~?IS?何それ?今日の〝楓子〟なんか変だよ?」
「は?」
謎の少女、一花ちゃんの言葉に一瞬理解が追い付かなかった。今この少女は俺を何と呼んだ?
が、言われて気付く。視線の高さが若干いつもより低いことに。俺の身に着けているパジャマが明らかにピンクの女物であることに。
さっきから頬や首元が何だかうっとおしいと思っていたが……手を持っていくと、サラリと触り心地のいい長い黒髪に触れた。
そのまま視線を下に向けると視線を遮るように膨らむ胸元。恐る恐る触ってみる。
むにゅう。
「……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!?」
「寝惚けてるんじゃない?顔洗ってきたら?」
一花ちゃんの言葉に従うように洗面所に駆け込む俺。
鏡に映っていたのは毎朝見慣れた井口颯太の顔――ではなく、見覚えのない少女の顔だった。
〇
「あ、おかえり。目が覚めた?」
椅子に座り、机に置いた鏡を見ながら髪をとかしていた一花ちゃんが顔を上げる。
「………初めて見た。ああなってるのね」
「ちょっと楓子!?どうしたの!?鼻血出てるよ!?」
「いやぁ~まさか初めて生で見るのが自分の物とは……」
一花ちゃんの差し出すティッシュを受け取りながら俺は呟く。
あれからいろいろ確かめたが、俺の身体はまごうことなく女になっていた。
身長は目線の高さや周りのものと比較して元の-5~10㎝、150後半くらいか。
胸のサイズは詳しくはわからないが小さいわけではなさそうだ。
「とりあえず一旦落ち着こう。まずは――」
鼻にティッシュを丸めて詰めながらベッドの脇にかかっている俺の――と言うかこの身体の娘の(シャルロットの物によく似た)制服の胸ポケットから生徒手帳を取り出す。
≪IF学園一年一組 井口楓子(ふうこ)≫
違っているのは名前の部分だけで後の生年月日などの情報は俺の物の違いはない。
映っている顔写真も先ほど鏡で見た顔だった。
作り物にしてはできすぎている。
今の状況、考えられる可能性は大きく分けて二つ。
一つは、これが夢である可能性。
もう一つは、これが現実で何らかのパラレルワールドの異次元同位体(仮)の俺――と言うか楓子ちゃんと意識が入れ替わっている可能性。
こういう時アニメや漫画を読んでいてよかったと思う。
こういった状況はよく題材として出てくる。
つい先日見た某男女入れ替わり映画みたいなものだ。「俺たちは夢の中で入れ替わってるぅぅぅ!?」的なあれだ。
ただ問題は――
「前者なら覚めればいい。でも……後者なら?下手すれば一生……」
「楓子?起きたんなら準備したら?」
と、考え事に集中していた俺に入れ替わりで洗面所に行っていたらしい一花ちゃんが戻ってくる。
楓子ちゃんが俺の異次元同位体(仮)だとするなら、おそらく一花ちゃん=一夏だと思われる。そう思うと顔のつくりなどどことなく一夏ないしは織斑先生に見えないこともない。
一花ちゃんは織斑先生のように長い髪を背中でまとめている。
「ほら、早く制服着て朝ご飯食べに行こ?せっかくいつもより早く起きたんだしもったいないよ」
「あ、ああ……あのさぁ、一花ちゃん?俺って普段――」
「俺ぇぇ?」
「っ!……僕?」
「僕ぅぅ?」
「……私?」
「うん!」
「……普段の私って…どんなかんじだたかなぁ~……って…思ったり……」
モゴモゴと自分の声とは思えない声で言いながら一花ちゃんを見ると訝しげな顔で俺をじろじろと見ていた。
「楓子どうしたの?今日やっぱりなんか変だよ?普段〝一花ちゃん〟なんて呼ばないし……体調でも悪いの?」
と、言いながらすっと俺のおでこに自身のおでこを付ける一花ちゃん。
――って近い近い!何この子まじで美少女!!めっちゃいい匂い!そして近い!こんなに近くに無防備な美少女いたら!!!
「だ、大丈夫大丈夫!」
言いながらバッと後退り制服に手をかける。
「さ、さぁ~って着替えよ着替えよ。遅刻、よくない」
「???」
俺の様子に首を傾げながらも一花も背後で着替え始める。
俺はそちらにできるだけ視線を向けないように気を使いつつ着替えていく。
今までラブコメとかで女の子の着替えのシーンあったけどもしかしたら制作陣はこうして急に女の子になってしまったすべての男子のためにああいうシーンをしっかり描いてくれていたのかもしれない。――そんなわけないか。
とりあえずなんとか制服を着た俺。だが、問題が発生した。
「……どうしたの?もじもじして」
「いや……なんていうか……スースーするというか……」
ありえねぇだろ。こんなの腰の周りに布巻いてるだけでしょ?全然隠せてないじゃん。いくら中世から続く衣服だったとしても結局パンツ剥き出しで歩いてるってことじゃん。俺耐えられんわ!こんな低防御力で破廉恥だ!
「って、楓子、髪まだ寝起きのままじゃない。ちゃんとしないと痛んじゃうよ?」
「あ?お、おう」
言われて俺は楓子の机と思われる机の上に置いてあったブラシでテキトーに梳かしヘアゴムでポニーテールにする。
「ちょっとちょっと!?何そのテキトー!?ダメだよ、まとめるにしてもちゃんとしなきゃ!?」
と、なぜかものすごい剣幕で怒る一花に無理矢理ヘアゴムを取られ、イスに座らされる。
「こうしてちゃんと梳かして……女の子なんだからこんなヘアゴムじゃなくてこういうシュシュとかで……」
言いながら俺の(楓子の?)髪を丁寧に梳かし、緑色のシュシュを手に取りポニーテールにまとめる。
「でも珍しいね、いつもはくくらずにストレートなのに」
「え!?その…イメチェンだよイメチェン!たまにはいいかなぁ~って」
「ふ~ん……はい、できた!」
「…おお!」
さすが女子。俺がテキトーにしたポニーテールとは一味も二味も違う。
「さっ!速く朝ご飯食べにいこ?」
言いながら通学用のカバンを持ち、ドアに向かう一花の後を追って俺もカバンを掴み部屋を出た。
〇
先ほど俺は考えが足らなかった。
俺と一夏が女子になった世界、と言うところで思考を止めていた。もっと先まで考えておくべきだった。
どうやらこのIF世界、俺と一夏が女子になっているのではない。基本の性別すべてが逆転した世界のようだ。
このことに気付いたのは寮の部屋を出てすぐ、学生寮の食堂に着いた時にはすべて理解した。
見渡す限り男男男男男!
学校に行っても教室に入っても俺と一花以外全員男である。
すぐさまカバンから取り出した教科書で確認したところ、IFとは基本はISと変わらないようだ。
宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ。基本スペックは高く、10年前に登場とともにそれまでの兵器をガラクタ同然にしたした。
唯一のISとの違い、それ〝男性にしか起動できない〟ことだろう。
そして楓子と一花はそんな世界に現れたイレギュラー、人類史上初の女性でIFを起動させてしまった存在と言うことらしい。
「名前と男にしか扱えないってこと以外はISと変わらないみたいで助かった。二学期入ってるのに何もわからないおバカちゃんと言うレッテルを楓子ちゃんに貼ってしまうところだった。ただなぁ……」
俺は教室の席から(元のIS世界の席と同じだった)周りを見渡す。
男ばかりだ。しかもやけにイケメン率が多い。
アメリカの恐怖で体が震えそうだ。
落ち着け俺。何か…何か気を紛らわせるもの……と、考えながら視線を巡らせると、自分の胸に視線が止まった。
〇
離れた席から楓子の様子を見ている人物が四人いた。それは一花と、四人のイケメン男子だった。
「なあ、一花。楓子は大丈夫か?」
四人の中で高身長の黒髪の少年が訊く。
「わかんない。朝からなんか変なの」
「今なんか自分の胸と股間を交互に触ってるぞ」
呆れた表情で言うのは癖なのか少しカールした金髪に透き通るようなブルーの瞳の少年。
「体調悪いんじゃねぇか?保健室でも連れて行った方がいいんじゃないか?」
と、小柄な黒髪の活発そうな少年も心配そうに言う。
「私もそう思ったんだけどさ。大丈夫だ心配ない、の一点張りでさ。なんかしゃべり方も男みたいで変だし」
「また何かのアニメの影響でも受けたのではないのか?」
一花の言葉に短髪の銀髪に片目に眼帯を付けた体格のいい少年が言う。
「おはよう」
と、四人の元に一人の少年がやって来る。
今やって来たばかりらしくカバンを肩にかけたままである。
「なんの話?」
「それがさ……」
言いながら四人が楓子に視線を向ける。
あとからやって来た少年も楓子に視線を向ける。
「なんか今日の楓子、変なのよねぇ」
「ふ~ん。僕がちょっと様子見てこようか?」
「ん、お願いできる?」
「うん」
一花の言葉に頷いた少年は頷き、楓子の方に歩を進める。
〇
「ある、ない、ある、ない、ある、ない、ある、ない――」
「おはよう、楓子」
心頭滅却していた俺に背後から声がかかる。
見上げるとそこには
「やあ、九月なのにまだ暑いね」
金髪の貴公子がいた。
綺麗な男子にしては少し長めの金髪を首元で纏めた、男子にしては若干小柄で少し中性的なイケメンが俺に向けて眩いまでの笑みを浮かべていた。
なんだこいつこれが本物のイケメンか!?一夏にも負けない、下手すれば一夏よりもイケメンだぞコイツ!
「あ、ああ…暑い…な?」
俺はしどろもどろになりながら答える。ていうかどうしよう誰だこいつ。
俺の困惑をよそにその貴公子(仮)は俺のとなりの席に座る。
「どうしたの?一花たちも心配してたよ、今日の楓子はなんだか様子が変だって」
「あ、うん。心配かけてごめん。なんていうか…今朝夢見が悪くて!」
「別に謝らなくてもいいよ。でも、楓子が元気がないと僕も寂しいからさ」
と、ニッコリと笑みを浮かべる貴公子(仮)。なんて眩い笑顔だ!左からは窓から日光が差し込んでくるのに右からは輝かしいイケメンスマイルだと!?
――ってあれ?何だろうこの口調覚えがある。そう…あれは六月頭のあたり。シャルロットがまだ男装をしていた頃…………
「あぁぁぁ!!!お前シャルロットか!!!?」
俺はガタタッとイスから思わず立ち上がり隣のイケメンを指さして言う。
「もう。楓子は意地悪だな。それは僕が女装していた時の名前でしょ?今はちゃんと男のシャルル・デュノアだよ」
苦笑いを浮かべて言うシャルロットもといシャルル。
「あ、えっと…ごめん。間違えた。そうそう、シャルル、シャルルね……」
なるほど。俺や一夏の異次元同位体(仮)がいるわけだから、シャルロット位置の男がいてもおかしくないわけか。
てことはもしかしてさっきから一花と喋っている四人のイケメン男子たちはこの世界の箒たちか?
てかこのイケメン女装してこの学校来たの!?さすがにそれ無理あんだろ!?あ、でも中性的な顔してるし以外と……
などと考えているとチャイムの音が聞こえてくる。
「あ、時間だね。一時間目はIF概論だったね」
シャルルがカバンから教科書を取り出し、一花の方では黒髪の小柄な少年が急いで教室から出て行くのが見えた。なるほど、あいつが鈴か。
「みんな、おはよう」
と、教室にふたりの男性がやって来た。
一人は小柄な学生と言っても通じるのではないかと思える童顔の少しサイズの大きな服を着た眼鏡の男性。
もう一人はやけにイケメンな黒髪の狼を思わせる鋭い相貌の黒いスーツの男性。まるで小栗旬と西島秀俊とオダギリジョーとディーンフジオカのクールさとワイルドさと色気を併せ持ったようなイケメンだった。なんだあれ、本当に人間か!?
まさかこのふたり……
「さて、一時間目の授業の前に先日の授業で出した宿題を集める。順番になるように前に回せ。前に来たものを俺と山田先生が集める」
やっぱりあの童顔山田先生だったぁぁぁぁ!!!!!
ってことはあの完璧超人のようなイケメンは……
「千尋兄さ…じゃなかった、織斑先生!宿題を寮の部屋に忘れて来ちゃいました!」
「すぐに走って取ってこい!馬鹿者!!」
「はいぃぃぃぃ!!!」
泣きそうな声で教室を飛び出していく一花。
やっぱりこっちの世界の織斑先生だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
さすがにこっちの織斑先生は女子の頭をバカスカ叩くことはしないようだ。
「おいどうした、井口?さっさと宿題を出せ」
呆然としていた俺に織斑先生が訝しげな視線を向ける。
「………まさかお前も忘れてきた…なんてことは……」
ギロリと睨みながら出席簿を構える織斑先生。え?待って、俺ってか楓子ちゃんは殴るの!?一花は殴らなかったのに!?贔屓か!!?
「えっと……あ、あります!」
ワタワタと焦りながらもカバンからプリントを取り出す。
楓子ちゃんグッジョブ!ちゃんと宿題をする真面目な子でいてくれてありがとう。
「ふん。あるならさっさと出せ」
憮然と言いながら宿題を回収する織斑先生。
「………先生、楓子は今日体調があまりよくないようなんです」
「何?本当か、井口?」
と、隣からシャルルが挙手をして言う。
「え?あの……それは……」
「どうした?デュノア言っていることは本当なのか?」
少し心配をにじませる鋭い視線で俺を見る織斑先生のその眼に俺はしどろもどろになる。
やばい!どうしよう!何か言わないと!でも朝からの一連の出来事に情報量多すぎて消化不良のキャパオーバー中です!
「なんだ?どうしたと訊いている。どこか悪いところがあるのか?」
なかなか答えない俺に疑惑の目に変わっていく織斑先生。
どうしよう、なんて答えればいいの!?頭痛!?腹痛!?腰痛!?関節痛!?どれも言い訳として通用しなさそう!――ハッ!そうだ!
「どこが悪いんだと訊いているだろうっ?」
「その……女の子の日です!!!」
俺の答えに教室が凍り付いたのは言うまでもない。
続きます
続きは今日の夜にでもあげます