IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第11話 チャイナ娘は突然に

「ふい~。今日も頑張ったなー俺」

 

 と、自分を労いつつ俺はアリーナを出た。今日届いた俺の専用機『火焔』のスペックを測りつつ、このISに搭載されている武装――特に《火ノ輪》――の扱いに慣れるために今まで練習していたのだ。

 現在の時刻を確認した俺は、今日の夕食後のパーティーのことを思い出す。

 何でも一夏のクラス代表就任を祝うものらしい。さらに俺の企業所属IS操縦者就任も祝ってくれるらしい。うちのクラスの人たちはそう言う騒がしいのが好きらしい。まあ、俺もそう言うのは嫌いではない。あと祝ってくれるのも嬉しいし。

 

「ねえ、そこのアンタ。ちょっといい?」

 

「ん?」

 

 寮に向かっていた俺は急に背後から呼び止められる。振り返った先には一人の少女が立っていた。

 肩にかかるかかからないかくらいの黒髪を左右それぞれを高い位置で金色の留め金で留めていた。背中には小柄な体に不釣り合いなボストンバックを背負っていた。

 

「ちょっと本校舎一階総合事務受付って所に行きたいんだけど、教えてくれない?」

 

「ああ、いいぜ。えっとな――」

 

 少女の質問に俺はできるだけわかりやすいように説明する。

 

「――て感じだ」

 

「なるほど。ありがとう、助かったわ」

 

「いえいえ、どういたしまして。……一つ聞いてもいいか?」

 

「ん?何よ」

 

「転校生か?」

 

 俺は疑問に思っていたことを一応聞いてみる。

 

「そうよ。中国から来た凰鈴音よ。代表候補生をしているわ。一年生よ」

 

「そっか。俺は井口颯太。企業IS操縦者だ。ちなみに俺も一年生だ」

 

 凰の差し出した手を握り握手をする。

 

「俺は一組だ。同じクラスになったらよろしくな、凰さん」

 

「鈴でいいわよ」

 

「そうかい?じゃあ俺のことも颯太でいいぜ」

 

「あたしからも一つ聞いていい?」

 

 握手していた手を離したところで鈴が訊く。

 

「俺に答えられることなら」

 

「織斑一夏って何組?」 

 

「一組だ。俺と同じクラス」

 

「そう」

 

 俺の言葉にうんうんと何かを確かめるように頷く鈴。

 

「一夏と知り合いか?」

 

「んー、まあちょっとね」

 

 俺の質問に鈴が曖昧に答える。

 

「まあでも、違うクラスになっても一組にはきっと行くから、その時にまた会いましょ」

 

「おう」

 

「じゃあ、私はもう行くわ。また会いましょ」

 

 そう言って鈴は俺の教えた道を歩いて行った。

 

 

 ○

 

 

 

「というわけでっ!織斑君クラス代表決定&井口君企業IS操縦者就任おめでとう!」

 

「おめでと~!」

 

 ぱん、ぱんぱーん!!と、俺たちの周りのクラスメイト達が手に持ったクラッカーを鳴らす。大人数で鳴らすとクラッカーもなかなかに大音量だな。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 

「ほんとほんと」

 

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

 おい、ちょっと待て。今相槌打ってたの他クラスの子じゃないか?てかおかしいだろ。なんでクラスのパーティーなのに参加者が明らかにクラスの人数超えてるんだよ。まあ楽しげでいいけど。これなら簪も誘えばよかったかも。いや、やっぱり誘っても来なかっただろう。簪は一夏のこと、ある意味苦手だろうし……。

 ちなみに俺はあまりコミュニケーション能力が高い方ではない。むしろ若干コミュ障だ。なので早々にすみっこに移動しよう。

 俺がすみっこに移動してもとりあえずは誰も何も言わない。みんな楽しそうにジュース飲んでお菓子を食べている。

 ちなみに一夏の横では篠ノ之がぶすーっとした顔で座っている。聞いたところによると篠ノ之は案の定一夏の幼なじみだそうだ。しかも同室。さらに初日にシャワーあがりの篠ノ之に遭遇してしまったらしい。え?それなんてギャルゲー?と思ったのは言うまでもない。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と井口颯太君に特別インタビューをしに来ました~!」

 

 突然の取材に一同が盛り上がる。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

 名刺を受け取る俺と一夏。いいね「黛」。前にやったギャルゲーでそんな武士娘が出てきてた。

 そこから俺と一夏はいくつかの質問に答えたりし、インタビューをこなした。ちなみに質問の答えが面白くないときなんかは黛先輩が、「適当にねつ造しておくか」なんて言っていた。それでいいのか新聞部。

 その後、セシリアと一夏のツーショットを取るという時になって、全員が一瞬で集合。俺も引っ張り込まれ、ただのクラスの集合写真が出来上がった。普段のんびりしているのほほんさんまでもがちゃっかり入り込んでいた。う~む。実は意外とやるのかもしれない。

 

 

 ○

 

 

 次の日の朝。教室では転校生の噂でもちきりだった。おそらく俺が昨日会った鈴のことだろう。

 

「俺その子に昨日会ったな」

 

「え?井口君それ本当!?」

 

 俺の言葉にクラスメイト達が興味を持つ。

 

「確か中国の代表候補生だって言ってたな」

 

「うん、そうらしいね。噂でもその話は出回ってるよ」

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

 セシリアが腰に手を当てながら登場。絶対違うと思う。昨日聞かれたのは一夏のクラスだし。

 

 話題の転校生は一夏も気になっているようで興味深そうに話に加わってくる。そんな一夏が面白くなさそうな篠ノ之。

 

「……気になるのか?」

 

「ん? ああ、少しは」

 

「ふん……今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに」

 

 箒の言葉に教室内の話題は一気にクラス対抗戦のものになる。まあ一位のクラスには優勝商品として学食デザートの半年フリーパスが配られるし、甘いもの好きの女子にはたまらないだろう。もし手に入ったらコーチお礼として簪や師匠にも何か奢ってあげようかな。

 

「まあ、やれるだけやってみるか」

 

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

 

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよ!」

 

「おりむー、がんばってねー」

 

「フリーパスのためにもね!」

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

 みんなの勢いに一夏も頷くしかない状況だ。

 

「――その情報、古いよ」

 

 と、教室の入り口から声が聞こえた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 見ると入口のところにかっこつけて腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていた鈴だった。

 

「鈴……?お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

「何格好付けてるんだ?すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ……!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 あ、急に雰囲気が変わった。昨日会った時の雰囲気に戻った。どうやらかっこつけていただけのようだ。

 

「おい」

 

「なによ!?」

 

 パシンッ!

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません」

 

 すごすごと入口の前からどく鈴。ものすごいビビってる。一夏だけじゃなく織斑先生とも面識があったようだ。

 

「またあとで来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

 なんか三下みたいなセリフだな。「勝負はお預けだ!覚えてろ~!」みたいな。

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はいっ!」

 

 相当織斑先生が恐ろしいらしく、鈴は二組へ猛ダッシュしていく。

 

「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」

 

「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったな?」

 

「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で――」

 

 箒とセシリアが詰めより、更にはクラスメイトからの質問集中砲火を喰らう一夏。俺もそれなりには気になるので横で話を聞いている。と――

 バシンバシンバシンバシン!

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

 織斑先生のありがたーい出席簿攻撃が容赦なく振り下ろされた。泣きそうなほど痛かった。というかちょっと泣いた。

 




今回の話はあまり見せ場なかったっすね。
もうちょっと頑張ります。

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