IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第103話 霧ときどき土砂降り

 

「きゃあああっ!」

 

 誰かの悲鳴が聞こえる。突然の事態に大会主催者側もどう対応していいかわからず、パニックは客席に広がっていった。

 

「落ち着いて!みなさん、落ち着いて避難してください!」

 

 スタッフの声が響くが、誰も耳を貸そうとはしない。

 

「きゃっ……!」

 

「っ!?だ…大丈夫?」

 

 どんっとぶつかってよろめいた蘭。その蘭を心配して慌てる赤毛の少女。

 倒れそうになる蘭に赤毛の少女が手を伸ばすがそれよりも先にその体を優しい手が受け止める。

 

「あなた、大丈夫?」

 

「は、はい……」

 

 その手の主は楯無だった。

 今日に二人目の年上美人に蘭はドキドキとしてしまう。が――

 

「あ、アキラさん!?どうしてここに……」

 

 自身の隣に立つ少女の存在に驚く楯無の姿に首を傾げる。

 

「……あ、そう言えば颯太君の招待で………」

 

「う、うん。あいつに誘われて……結果こんな感じに……」

 

「颯太…さん?」

 

 楯無の口から出た名にさらに驚愕する蘭。

 

「参りましたね。――そうだ!さっき指南社長にも会いました。企業関係者や政府関係者通路の方に向かったんでそっちに行きましょう」

 

「う、うん……あ、この子も一緒でいい……?」

 

「ええ」

 

 言いながら蘭とアキラを連れて楯無が歩を進める。

 関係者以外立ち入り禁止のドアを開き、脇の通路の前に着く。

 

「じゃあこの先がその通路なんで。誰か来たら生徒会長に案内されたと言えばいいので」

 

「わ、わかった……」

 

「それじゃあ、失礼します。あなたも、じゃあね」

 

 ぴっと投げた指がかっこいい。

 自身も同じ生徒会長でありながら、明らかに自身とは一線を画す楯無の姿に見惚れながら、はたとアキラのことを思い出す。

 

「あ、あの…あなたって……」

 

「ん?…あぁ……そう言えば名乗ってなかった……」

 

 歩き出そうとしていたアキラが頷く。

 

「連坊小路アキラ…指南コーポレーション所属のISプログラマーをしてる……」

 

「え………えぇぇぇぇ!!?」

 

 

 

 〇

 

 

 

「大丈夫か!ラウラ、シャルロット!」

 

 壁に激突したラウラとシャルロットを庇いながら《火打羽》を広げる。

 同時にBTライフルの攻撃が雨霰の如く降り注ぐ。

 

「くっ……!!」

 

「颯太!大丈夫か!?」

 

「一夏!」

 

 俺の脇にやって来て雪羅のエネルギーシールドを展開する一夏。

 

「なんだよあいつ!」

 

「たぶんだが……あいつもしかしたら俺を――」

 

「一夏さん!颯太さん!あの機体はわたくしが!」

 

「セシリア!?おい!」

 

「BT二号機『サイレント・ゼフィルス』……!今度こそ!」

 

 俺の言葉を遮りセシリアが単機、襲撃者へと向かって行く。

 しかし、高速機動パッケージを装備しているセシリアは今、通常時と違ってビットの射撃能力が封印されている。そのための大型BTライフルらしいが、火力が下がっているのは疑いようもない。

 それに何より先ほどのセシリアの口から出た『サイレント・ゼフィルス』の名。相手は『亡国機業』だ。

 

「一夏!ここは任せる!」

 

「颯太!お前はどうするつもりだ!?」

 

「決まってんだろ!」

 

 言いながら先ほどの攻撃でイカれた《火神鳴》の左アームをガコンと切り離す。

 

「俺も行く!セシリアの力量を信頼してないわけじゃないが、〝アレ〟はやばい!」

 

 先ほどの冷たい雰囲気を思い出しながらキッと『サイレント・ゼフィルス』を睨む。

 

「あたしも手伝うわ!一夏!防御任せたわよ!」

 

 鈴とともにセシリアの元に飛ぶ俺。

 セシリアのビーム射撃と鈴の衝撃砲、俺の荷電粒子砲が襲撃者に向かう。

 

「逃がしませんわ!」

 

「いけえええっ!」

 

「っ!」

 

 しかし、襲撃者は特に回避することもなく、不敵な笑みを浮かべる

 攻撃が当たる瞬間、ぱぁんっとビーム状の傘が開いた。

 

「なっ……!」

 

「あれは……!?」

 

「くっ!やはり、シールドビットを……鈴さん!颯太さん!多角攻撃、一度に行きますわよ!」

 

「お、おう!」

 

「あたしに命令しないでよ!ったく、付き合ってあげるけどさあ!」

 

 俺たちの多重攻撃、しかし、それに合わせるように『サイレント・ゼフィルス』は飛翔する。

 

『颯太!俺も!』

 

「一夏はそのままラウラ達を頼む!こっちは俺たちが!」

 

 一夏の通信に応えながら《火人》を抜く。

 途中やって来た箒とともに連携攻撃で格闘戦へと持ち込むが

 

「このぉぉぉ!!」

 

「……………」

 

 ライフルの先端の銃剣で俺の《火人》を受けるサイレント・ゼフィルス。

 《火人》と《火神鳴》の肩の荷電粒子砲とバレルフィンを放つが絶妙のタイミングでシールドビットが割り込んでくる。

 

「お前の狙いは……なぜ俺を狙う!?」

 

「……知りたいか?」

 

「っ!?」

 

 《火人》を受け流し、そのまま俺に蹴りを浴びせる。咄嗟に《火打羽》で防ぐ。

 

「ぐっ!」

 

「颯太っ!」

 

 ライフルからの零距離射撃を、ギリギリの箒の突進によって逃れる。

 しかし、それならばとサイレント・ゼフィルスはBT傾向射撃を行ってきた。ぐにゃりと進路を変えたビームが俺を狙う。

 

「くぅぅぅ!」

 

 《火打羽》でどうにかその射撃を捌く。が――

 

「よく躱した。ならば――」

 

 バイザーに覆われて見えないはずのその視線が別の方向に向けられた気がした。

 

「っ!」

 

 追撃するように俺に放たれたライフルのビーム。正確に放たれたそれを俺は確実に防げたはずだった――そう、俺を狙っていたのなら。

 

「なっ!?」

 

 直前に俺へと飛んでいたビームはぐにゃりと曲がりその矛先には――

 

「狙いは一夏か!」

 

 一夏へと飛ぶビームを加速しながら《火打羽》で防ぐ。が、少し無理があったらしい。

 

「グハッ!?」

 

 そのまま背中から壁に激突した。

 致命的な隙の生まれた俺にサイレント・ゼフィルスは

 

「死ね……」

 

 バカッと中央から割れたライフルが、最大出力で俺を狙う。

 バチバチと放電状のエネルギーを溢れさせるそれが、俺に向かって放たれた。

 

 

 〇

 

 

 

「ふふ、さすがはエムね。あれだけの専用機持ちを相手に、よく立ち回るものだわ」

 

 サングラス越しに襲撃者――エムの戦闘を見ながら、その女性は楽しそうに目を細めた。

 よく見ると、それは先ほど蘭とぶつかった女性だった。

 

「しかし、彼ももう少しやるかと思ったのだけれど……」

 

 ふう、とため息を漏らすその女性の背に声がかけられる。

 

「あら、イベントに強制参加しておいて、その言い草はあんまりじゃないかしら。それに…うちの弟子をあまり甘く見ない方がいいわよ」

 

 女性は振り返らない。

 

「そう言えばあなたに師事してるんだったわね。IS『モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)』だったかしら?あなたの機体は」

 

「それは前の名前よ。今は『ミステリアス・レイディ』と言うの」

 

「そう」

 

 女が振り返る。刹那、煌めくナイフが投げられる。

 

「マナーのなっていない女は嫌われるわよ」

 

 瞬間的にISを展開した楯無は、それを蛇腹剣『ラスティー・ネイル』で叩き落とし、そのまま鞭のようにしなるそれで女性を狙う。

 

「あなたこそ、初対面の相手に失礼ではなくて?」

 

 サングラスを捨てると同時に女性は自身のISを腕部部分展開して蛇腹剣を受け止める。

 

「『亡国機業』、狙いは何かしら?」

 

「あら、言うわけないじゃない。せっかくいいシチュエーションができたっていうのに」

 

「うちの可愛い弟子を狙う理由、無理矢理にでも聞き出してみせるわ」

 

「それができるかしら?更識楯無さん」

 

「やると言ったわ、『土砂降り(スコール)』」

 

 蛇腹剣を手放し、同時にランスを呼び出す。

 四連装ガトリング・ガンを内蔵しているそれは、形成するなり一斉に火を噴いた。

 

 ドドドドドッ――!!

 

「…………」

 

 正確に相手を捉えた楯無だったが、その顔に余裕の色はない。

 スコールの姿は金色の繭に包まれていて、弾丸は一発たりとも届いていなかった。

 

「やめましょう」

 

「…………」

 

「あなたの機体では私のISを突破できない。わかっているでしょう?」

 

「勝てないから、倒せないから、戦わない。それは賢い選択なのかもしれない――けれど!」

 

 楯無の水のヴェールを刃に変えて、一気に攻勢へ転じる。

 

「私は更識楯無。IS学園生徒会長、ならばそのように振る舞うだけ……!」

 

 水のドリルを纏ったランスによる高速突撃をひらりとかわして、スコールはまたナイフを投げる。

 

「そんなもの!」

 

 水の刃がナイフを切り裂く。しかし、その瞬間ナイフが大爆発を起こした。

 

「!?」

 

 もうもうと黒煙が立ち込める。

 ISにこの程度の視界阻害はないに等しいが、楯無のハイパーセンサーには逃走するスコールの姿が見えていた。

 

「くっ……これで二回連続で逃がしたわね……」

 

 はぁ…とため息をつく楯無。

 

「これじゃあ師匠の面子が丸潰れね。せっかく最近颯太君が活躍してるって言うのに……」

 

 不貞腐れたように呟くその楯無の顔は、本当に悔しそうだった。

 


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