IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第106話 健全不健全

「「「襲われた!?」」」

 

 月曜日、夕食の時間に箒と鈴と俺が大声を上げる。

 

「ああ、昨日の夜にな」

 

 一夏は何でもないことの様に頷く。

 一夏曰く昨日の夜、俺が箒たちに折檻されている間に飲み物を買いに行った一夏はその時、サイレント・ゼフィルスの操縦者に襲われたそうだ。

 危うく殺されかけたがちょうど一夏を手伝うために後から追いかけたラウラが間に入ることで事なきを得たようだ。

 

「なぁ一夏……お前バカだろ?」

 

「はぁ!?俺のどこがバカだって言うんだよ!?」

 

「いや、バカだよ!前々からお前ってどこか危機感無いとは思ってたけど、なんで襲われたその時に言わねぇんだよ!」

 

「そ、それは……せっかくみんなが誕生日を祝ってくれてるんだし、その雰囲気に水差したくなかったから……」

 

 一夏の言葉に俺はため息をつく。

 

「この際だから言わせてもらうけどさ、一夏って自己中だよな」

 

「え?」

 

 俺の言葉が意外だったのか一夏が呆けた顔をする。

 箒や鈴、また、この場に同じようにいるシャルロットと簪、セシリアとラウラも少し驚いた顔をする。

 

「だってさ、みんなが祝ってくれてる雰囲気に水を差したくないって言うけどさ、お前が逆に俺たちが襲われたって言うのを後から知らされたら怒るだろ?」

 

「それは……」

 

「違うって言えるか?お前は確実に怒るだろ?なんでその時に言わなかったんだ!って。だからさ、結局お前のそれは自分本位なんだよ」

 

 俺の言葉に押し黙る一夏。すこし言い過ぎたかもと心配になってくる。

 

「颯太よく言ったわ!ホントそれよ!」

 

 そんな俺に賛同するように鈴が頷く。

 

「まったくだ」

 

「一夏さんには今の言葉をきちんと受け止めてほしいですわ」

 

「わかったか?」

 

「お、おう。これから気をつける……」

 

 箒、セシリア、ラウラも頷き、一夏もみんなの反応に反省したようだ。そんな光景を見ながら苦笑いで簪とシャルロットが口を開く。

 

「でも…そのサイレント・ゼフィルスの操縦者……いったい何が目的だったんだろう……」

 

「一夏は思い当たること、ある?」

 

「さあ、な」

 

 シャルロットの問いに一夏は短く答える。

 なんだか少し含みを感じたが気のせいかな?

 

「それはそうと一夏さん、次は卵焼きをいただけますかしら?」

 

「ん、わかった。ほら」

 

 と俺の思考を遮ってセシリアとの会話が聞こえてくる。

 昨日の一件で右腕を負傷したということで、利き腕の使えないセシリアの食事を手伝っているらしい。

 それはいい。ケガしてるのに無理させるのもよくない。でも――

 

「あ、あーん……」

 

 ぱくっ、と口を手で隠しながら咀嚼するセシリアの顔は幸せいっぱいだった。

 

「……なによ、セシリアってば。わざとらしく箸の料理頼んでさぁ……」

 

「……パスタを片腕で食べればいいだろうに……」

 

 鈴と箒がジト目で睨む。

 二人の言葉通り、セシリアの今日のメニューはどれも箸の必要な物ばかりだ。これはきっと一夏に食べさせてもらうために意図的に選んだのだろう。

 

 

 

 その後アツアツの茶わん蒸しをろくに冷まさずラウラに食べさせられたりしてわいわい騒ぎながら夕食は進み

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪~~♪~~~♪」

 

 夕食後、自室で明日の予習を進めていると

 

 コンコン

 

「ん?誰だろう、こんな時間に」

 

 ドアをノックする音に首を傾げながらドアを開けると

 

「やはろ~、颯太君」

 

「……どうも」

 

 笑顔で言う師匠に会釈しながら俺は視線を巡らせる。

 正面に立つ師匠以外にその後ろにはシャルロットと簪、さらになぜか織斑先生と山田先生が立っていた。

 

「どうしたんですか、お揃いで、しかもこんな時間に」

 

「うん、実はね、颯太君――」

 

 笑顔で頷きながら胸ポケットから何か書類を取り出し広げる師匠。

 

「御用改めである!大人しくしなさい!」

 

「っ!」

 

 師匠の言葉に俺は咄嗟にドアを閉める。

 

『あっ!こら!開けなさい!』

 

『観念しなよ、颯太!』

 

『逃げ場は…ない!』

 

 ドアの向こうから師匠たちの声が聞こえてくるが、俺はドアに鍵をかけ背中で押さえつける。

 

「なんなんですか急に!俺やましい事なんてないですよ!」

 

『ならここを開けてください!』

 

「やです!」

 

 山田先生の声に全力で拒否する。

 

『何もないならいいでしょ!』

 

『颯太君!今君には卑猥な漫画などの不法所持の疑いがかかってるわ!こっちにはちゃんと令状だってあるんだからね!』

 

『大人しく出て来なさい!』

 

「俺そんなもの持ってませんよ!」

 

『織斑君の誕生日プレゼントで送ったのに自分は持ってないんですか!?』

 

「はい!」

 

 山田先生の言葉に全力で返しながら俺は考える。

 このままいてもらちが明かない。どうにかして逃げなくては。かといってもここは学園の寮。窓から逃げることもできない。ISを起動すれば逃げられなくもないが、無断のISの私的使用は禁止されてるし……。なんて考えていると――

 

『山田先生、お前たち、離れていろ。私がやる』

 

「ん?」

 

 ドアの向こうから今まで黙っていた織斑先生の声が聞こえてくる。

 

『井口、最終通告だ。今すぐこのドアを開け、部屋の中を改めさせろ』

 

「だからそんなやましいものなんてないですって!」

 

『そうか……では――力づくでいかせてもらう』

 

 その言葉に俺は嫌な予感がして、本能的にドアから離れていた。

 結果的に言えばその選択は正解だった。俺がドアから離れると同時に

 

 バキャア!

 

 大きな音と衝撃とともにドアが蹴破られる。

 

「進入路確保!Go!Go!Go!」

 

 師匠の言葉とともにシャルロットと簪、山田先生と織斑先生が駆け込んでくる。

 

「あっ!ちょっと!?」

 

「大人しくしろ」

 

 ドアから離れて床に頭を押さえて蹲っていた俺が体を起こそうとするが後ろから織斑先生に押さえつけられる。

 

「は~い、これが令状ね~。家宅捜索が終わるまで決して部屋の中のものに触れないでね~」

 

 師匠が俺の目の前で一枚の書類を広げる。

 ご丁寧に「家宅捜索令状」の文字と師匠と織斑先生の名前、またそれぞれの判子が押されていた。

 

「さぁさっそく始めるぞ!クローゼットの中や本棚の本の後ろ、ベッドの下まで徹底的に探せ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 織斑先生の言葉に四人が返事をし、あれやこれやと探し始める。

 ありがたいことに漫画などを乱暴に扱うことはない。

 

「あったか?」

 

「いえ……」

 

「それが……」

 

「それらしいものはありません……」

 

 シャルロット、簪、師匠が織斑先生の言葉に歯切れ悪く答える。

 

「本当に織斑君にあげた分だけで自分では持ってなかったんじゃ……」

 

「………まあいい」

 

 言いながら俺の拘束を解く織斑先生。

 

「だから言ったじゃないですか。やましいものなんて俺は――」

 

「それでは最後にそこのノートパソコンの中身を見せてもらおう」

 

「っ!?いや…それは!」

 

「大人しくしていろと言っている」

 

 PCを取ろうとするが織斑先生に肩を掴まれる。

 

「更識妹、やれ」

 

「はい」

 

 頷いた簪は俺のPCを開く、が――

 

「パスワード……」

 

 そうだった!俺が言わない限りこのPCを開くことなんて――

 

「こういう時大抵颯太の性格上、生年月日とか名前のアルファベット、名前の数字にもじったもので組み合わせて…………開いた」

 

 何ぃぃぃぃぃ!?そんなあっさり!?単純すぎたか!?

 

「……インターネットの履歴には怪しいものはありません」

 

 簪がパソコンを操作しながら言う。

 フッ!甘いな!何かの偶然で誰かに見られても大丈夫なようにそういうサイトを見た後は履歴をちゃんと削除してるのさ!これで本当に大丈夫なはず――

 

「でも…インターネットの履歴を消してても…パソコン本体に履歴は残ってたりするから……あった」

 

 マジでぇぇぇぇぇ!?

 

「簪ぃぃぃぃ!お願い、やめて!ホント!ホントお願い!300円あげるから!」

 

「織斑先生、ありました」

 

「簪ぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 俺を押さえていた織斑先生が手を放し、俺以外の全員がPCの画面をのぞき込む。

 俺はその場に崩れ去る。終わった、これで俺の性癖がすべて露見する!もうだめだ……おしまいだ……何より、よりによってこの三人がいるのに……。

 

「なるほどなるほど。いろいろ出てくるわね~」

 

 師匠が楽しそうに言う。

 

「この履歴のタイトルを見た感じだと……へ~…颯太君洋物見るんだね」

 

「あと他によく見てるものは……年上系?」

 

「あと、眼鏡ものや小柄な人のも見てるみたいだね」

 

 アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!やめて!それ以上言わないで!!颯太のライフはもう零よ!

 

「つまり颯太君は年上でメガネをかけた小柄な人がタイプ、と……」

 

『……………』

 

 師匠の言葉に全員が押し黙り、揃って一人の人物に視線が集まる。

 

「………え?……私ですか!?」

 

 その視線に、視線を向けられている人物、山田先生が驚きの声をあげる。

 そうじゃないけどそれはそれでマズい!

 

「そっか……」

 

「颯太君の好みは……」

 

「山田先生……」

 

 なぜか鋭くなった視線で三人が山田先生を見る。

 

「こ、困ります、井口君!私とあなたは先生と生徒であって、そういう気持ちを向けられてしまうのは困ると言いますか……でも男の子ですから仕方がないのかもしれませんが……」

 

 三人の視線に気付かない山田先生は一人ブツブツと呟く。

 と、そんな中ふと織斑先生と目が合う。

 

「…………フッ」

 

「っ!?」

 

 やばい、この人本当のことに気付いている!気付いたうえで何も言わないつもりだ!何が目的だ?俺の弱みを握ること?俺を脅す気か?

 

「井口君!」

 

「は、はい!?」

 

 織斑先生の不敵な笑みに焦っていると、山田先生に大声で呼ばれる。

 

「その…井口君も男の子ですし、こういうことは仕方がないのかもしれませんが……その、私は教師ですので……」

 

「あの……違いますよ?」

 

「へ?」

 

 俺の言葉に山田先生が困惑した顔をする。

 

「そりゃ、山田先生は魅力的な方だとは思いますがそれとこれとは違うというか……その履歴は別に山田先生のことじゃないです。たまたま見てたジャンルに山田先生が当てはまったと言いますか……」

 

「そう…なんですか……?」

 

「はい」

 

 俺の言葉に山田先生は顔を赤く染め、三人はなんだか安堵しているように見えた。織斑先生は心底楽しそうに笑っている。

 

「で、でも!その……やっぱりこういうエッチなのはもっと控えた方がいいと思います!」

 

「――っ!」

 

 俺は山田先生のその言葉にグッとくちびるを噛む。

 

「エロの何が悪いんですか……」

 

「「「「え?」」」」

 

「エロの何が悪いんですか!?」

 

 困惑する四人に俺は立ちあがりながら言う。

 

「自分たちがエロを謳歌して年を重ねたのに……しかし、若者にはそれを見せず、聞かせず。そこまで言うのならエロをせずに、子供を作ってみろ!恋人とエロなしで付き合って見せろ!所詮、愛などのエロの文学的表現にすぎない!正しくエロを育むことこそ、愛を育むことに他ならないんですよ!よく聞いてください、真の犯罪者とは自分のことを棚に上げて身勝手な倫理を押し付ける不健全な輩のことなんですよ!!」

 

「「「「っ!」」」」

 

 俺の言葉に四人が衝撃を受けたように驚愕の表情を浮かべる。

 

「まあそういうのがいい悪い云々の議論はともかく、学園内の寮でそういうものを頻繁に見るのはあまり褒められたものではないと思うぞ、井口」

 

 俺に論破された四人を尻目に織斑先生が言う。

 

「とりあえず、この履歴のもの以外は特に問題はなさそうだ。今後はあまり疑われるような行動は慎めよ、井口」

 

「はい……すみませんでした」

 

 俺は素直に頭を下げる。

 

「とりあえず今回の件はこれで不問にする。それと井口、あとでドアの修理申請をしに来るように」

 

「いや、ドア壊したのは先生じゃ――」

 

「いいな?」

 

「イエス ユア マジェスティン」

 

 織斑先生の睨みに背筋を伸ばして答える俺を尻目に五人は去って行った。

 はぁ……一応こんなこともあろうかと備えておいてよかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃とある会社のとある一室では

 

 

 

「アキラちゃ~ん!晩御飯一緒に食べに行きましょ!」

 

「翔子ちゃん……う、うん…行く。ちょっと待って……これだけ済ませるから……」

 

「オッケ~!…………ん?アキラちゃんこれは?こんな段ボール箱この間まで無かったよね?」

 

「ああ……そ、それは、この間颯太が、少しの間だけ預かってほしいって持ってきて……」

 

「ふ~ん……中身は?」

 

「本だって聞いてる……なんか部屋を整理して、収めるための本棚が届くまで、預かっててほしいって……」

 

「へ~……」

 

「………これで…よし。お待たせ翔子ちゃん」

 

「うん!さてさて、今日は何食べる?あ、なんだったら私が何か作ってあげようか?」

 

「それもいいけど……もう遅いし……どこかお店で……」

 

「それもそうね……じゃあとりあえずレッツゴ~!」

 


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