IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第12話 兄弟姉妹

「待ってたわよ、一夏!」

 

 昼休み。昼食食べに学食にやって来た俺たちを出迎えたのは、ラーメンの乗ったトレーを持って仁王立ちする鈴だった。

 

「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

 

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

「のびるぞ」

 

「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 

 そんな会話をしつつ俺たちは昼食を注文する。俺は今日の気分で麻婆豆腐定食。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

 とかなんとか会話をしながら空いた席へ移動。ちなみに俺と一夏以外にもクラスメイト達が数名ついて来ている。もちろん篠ノ之とセシリアも。

 

「そう言えば昨日はありがとね」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

「あらためてよろしくね、颯太」

 

「おう。よろしくな、鈴」

 

 昨日で俺に礼を言う鈴。話してみてわかるけどたぶんいい奴だ。なんというかいい意味でさばさばしている感じだ。

 

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたわよ」

 

 席に着いた途端一夏が訊く。なんとも楽しげな会話だ。すごく親密な感じ。あれかな?彼氏彼女の関係なのかな?そう思っていたのは俺だけじゃなかったらしく、

 

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

 

「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」

 

「………………」

 

「?何睨んでるんだ?」

 

「なんでもないわよっ!」

 

 あっ…そういうことか…なんかこれは修羅場りそうだ。

 一夏の言っていたことを要約するとこうだ。

 鈴とは幼なじみ。篠ノ之とも幼なじみだが、篠ノ之が引っ越していったのが小四の終わり。鈴が転校してきたのは小五の頭で中二の終わりに帰ったので、会うのは一年ちょっとぶりらしい。こちらにいた時は両親が中華料理屋を経営していたらしく、よく晩御飯をごちそうになったそうだ。

 ちなみに、お互いが一夏の幼なじみ同士だと知って、篠ノ之と鈴の間に火花が散ったのは言うまでもない。

 

「一夏、アンタ、クラス代表なんだって?」

 

「お、おう。成り行きでな」

 

「ふーん……」

 

 どんぶりをもってごくごくと豪快にスープを飲む鈴。そういう豪快な女の子、嫌いじゃないぜ。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

 コーチを名乗り出る鈴を遮るようにバンッとテーブルを叩いて篠ノ之とセシリアが立ち上がる。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

 

「あなたは二組でしょう!?敵の施しは受けませんわ」

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

 

「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

 

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ」

 

 わかってはいたが一夏はモテモテだな。まるでハーレム系主人公だな。チッ

 

「まあいいや。今日の放課後って時間ある?あるよね。積もる話もあるでしょ?」

 

「――あいにくだが、一夏は私と一緒にISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」

 

 おい、篠ノ之。一夏が『そんなの聞いてねえぞ』って顔してるぞ。

 

「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから?ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なのです」

 

 おお、セシリアまで援護射撃。

 

「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」

 

 そう言い残し、飲み干したラーメンのどんぶりを片付けて鈴は去って行った。

 

「なんというか……お疲れ、一夏」

 

「お、おう」

 

 俺のねぎらいに一夏が苦笑いとともに頷いた。

 

 

 ○

 

 

 

「ただいまー」

 

 放課後。なぜか俺まで特訓に参加させられ、いつの間にか俺&一夏VS篠ノ之&セシリアのタッグ戦をさせられた。まあ師匠との特訓に比べたら軽いものだったので何とかなったけど。

 その後、バテバテの一夏をほっといて俺だけ寮に戻ってきたのだ。途中鈴にあったので今頃一夏もあっているころだろう。

 自分の部屋に戻ってきた俺はルームメイトに向けて話かける。が、返事はない。見ると無言で何かをキーボードで打ち込んでいる。

 

「ただいまー」

 

「………おかえり」

 

 一応もう一度言うと数秒の間を空けて返事があった。

 ここのところずっとこの調子だ。いつも何か思い悩んだ様子で何かのデータ見ながら画面とにらめっこしてキーボードを叩いている。まあ別に四六時中そうしてるわけじゃないし、ちゃんと以前と同じように会話もする。アニメ鑑賞会だってするし、一緒に一狩り行ったりもするし、その他色々なゲームに興じたりもする。が、何かにつけてこのように難しい顔してキーボードを叩いている場面には遭遇する。

 原因はわかっている。簪がこういう風になったのはちょうどセシリアとの試合があって二日後だった。なんでも簪の専用機製造がストップしたらしい。理由は簡単。簪の専用機の製造元が倉持技研だからだ。

 倉持技研は現在総力を挙げて絶賛一夏の『白式』の解析と新たな武装制作に躍起になっている。そのあおりで簪の専用機製造の人員まで『白式』に回され、結果的に簪の専用機製造はストップしてしまった。

 そこから簪は、自分だけで専用機を完成させようとしているらしい。何でも彼女の姉、師匠こと更識楯無は自分の専用機を一人で組み上げたらしい。すごい人だとは思っていたがそこまでとは思わなかった。そんな師匠に簪は対抗心を燃やしているらしく、自分も一人で組みあげようと躍起になっているらしい。

 やはりというかなんというか、この二人の間にある溝はなかなかに深そうだ。何とかしてあげたい気持ちはあるが、二人を見ているとなんとも聞きずらい。今の簪を見てるとなんとかしたいところだが……。

 

「そろそろ夕飯の時間だけど、一緒に行かないか?」

 

「……うん」

 

 動きやすい部屋着に着替えた俺は、とりあえず簪を誘って食堂に行く。

 夕食。俺はかつ丼を、簪はかき揚げのうどんを注文。それが好きらしく、簪はよくこれを注文してかき揚げを全身浴させて食べている。今もおいしそうにうどんをすすっている。おいしいもの食べてる時はほっこりして話しやすいかもしれない。

 

「なあ、簪」

 

「?…何?」

 

 俺がかつ丼を食べる手を止めて口を開くと簪が首を傾げる。

 

「俺さ…弟いるんだ」

 

「………」

 

 俺の様子に何かを感じたらしく、簪も手を止める。

 

「五才ほど年は離れてるんだけどさ、面白い奴だぜ。俺の影響もろに受けて小学五年生なのにもうすでに立派なオタクだ。むしろ俺よりもオタクだ。アニメの声優とか俺よりも詳しいし、俺の見てないアニメも見てる。アニメ見すぎて親に見るのストップかけられたアニメまであるくらいだ」

 

 はがないとかそらおととか。

 

「でも、今じゃ仲いいけど、俺、昔はお兄ちゃんだってことが嫌だった時期があるんだ」

 

「…………」

 

「お兄ちゃんらしくしろとか弟の手本になるようにしろとか、親がうるさくてさ。弟は弟で俺より先に読んだ漫画とかドラマのネタバレするし、そのことに関してはまじでふざけんなって思ったね」

 

 ネタバレは重罪だよ。

 

「でもさ、どれだけいやだいやだって思っていても、結局俺はあいつの兄貴で、あいつは俺の大事な弟だ」

 

「………」

 

「たぶん、師匠もそう思ってんじゃないかな」

 

「…お姉ちゃんも?」

 

 おずおずと訊く簪に、俺はにやりと笑う。

 

「ああ。だって前にあの人の携帯の壁紙盗み見たとき、簪の写真だったぜ?」

 

「え?」

 

「昔ふたりの間に何があったかは知らないし、訊かない。でも、少なくとも嫌いな人間の写真をよく見る携帯の壁紙にはしないんじゃない?」

 

「……それは…」

 

「まあこれは俺の主観だ。本当のところなんて俺には分からない。俺はエスパーじゃないから師匠がどう思っているかもわからない。でも、あんまり根詰めすぎるより、本人とちゃんと話した方がいいんじゃないか?」

 

「……考えとく」

 

「おう」

 

 そこからは俺たちは無言で夕食に戻った。これで二人の関係がどうにかなるとは思っていない。でも、少しは考え方を変えることはできていれば幸いだ。

 ちなみに、師匠の携帯の壁紙の簪の写真。あれは絶対盗撮だ。だって簪の目線がカメラに向いていなかったんだから。本当は簪のこと、盗撮写真撮るほど好きなんだろうな、師匠は。




颯太君の話を聞いて簪ちゃんがどうするか、まあ仲直りの方向に持って行けるといいですが。

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