IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お久しぶりです。
少し用事があったりして一週間以上間が空いてしましました。
と言うわけで最新話どうぞ!


第112話 六式

「あ、あ……あっ……」

 

 突撃の襲撃者に簪はいまだISを展開できずにいた。

 ガチガチと噛み合わない歯を鳴らしながら怯えた表情で後ずさる。

 

(なに……これ……?なん、なの……?)

 

 圧倒的な恐怖が簪の心を支配していく。

 

「ひっ……!?」

 

 後ろに進み続けていた簪の背中が壁にぶつかる。

 震える瞳で一度壁を見た簪は視線を前方に戻す。

 そこには襲撃者――黒いISが立っている。

 無機質な機械特有の何の感情も感じることのできない気配、その様子は以前現れた無人機『ゴーレムⅠ』に似た、しかしよりスリムに、より洗礼された女性的なシルエットを描き出していた。

 この襲撃者、『ゴーレムⅠ』をより強化された機体、『ゴーレムⅢ』である。

 その見た目は複眼レンズだった頭部が、より視野を広くするためかバイザー型のライン・アイに置き換えられ、羊の巻き角のようなハイパーセンサーが大きく突き出している。

 その両腕も大きく変わり、右腕は肘から先が巨大ブレードになっており、左腕はそこだけが『ゴーレムⅠ』のまま、巨大な腕となっている。しかしその左腕はさらに改良が加えられ、掌に超高密度圧縮熱線を放つ砲口が四つ、ぽっかりと空いていた。

 

「――――――」

 

 漆黒の無人機、『ゴーレムⅢ』は簪の右手にISの待機状態の指輪が付いているのを見つけ、ゆっくりと迫ってくる。

 

(たす……けて……。誰か…助けて……)

 

 ギュッと目を閉じ、祈るようにすがるようにただひたすら念じる。

 こんな時にヒーローがいてくれたら、きっと自分を助けてくれるに違いない。

 風を纏って颯爽と、闇を切り裂いて堂々と、完全無欠のヒーローが現れる。

 

「―――っ!」

 

 自分の憧れるヒーローたち、かっこよく頼もしい、そんなヒーローたちの背中のイメージにふと、見慣れた温かな背中が重なる。

 一歩、また一歩と近づいて来る『ゴーレムⅢ』。

 

「そ、そう……た……」

 

 ゆっくりと伸ばされる『ゴーレムⅢ』の左腕。

 その指先が触れる瞬間、簪は全力で叫ぶ。

 

「颯太っ!!」

 

 ピシッ――。

 

 背中の壁に亀裂が入ったかと思うと、次の瞬間壁が吹き飛ぶ。

 

「簪!!無事か!?」

 

「そ、颯太ぁ!!」

 

 右手に《インパクト・ブースター》を装着し、煙を突き破って現れた颯太の姿は、簪には紛れもなくヒーローに見えた。

 

「おらぁぁぁ!!」

 

 ピットに入ると同時に両肩の砲門から『ゴーレムⅢ』に向けて放つ。

 

「っ!」

 

 が、『ゴーレムⅢ』も同じタイミングで左手から超高密度圧縮熱線を放つ。二つのエネルギーが空中で衝突して大爆発を起こす。

 

「簪!!」

 

「っ!?」

 

 とっさの判断で簪を庇うように抱きかかえ、《火打羽》を開く颯太。

 

「簪もISを起動しろ!巻き込まれる!」

 

「う、うん!」

 

 颯太の言葉に頷いた簪の身体が光に包まれ、『打鉄弐式』が現れる。

 それを尻目に颯太は『ゴーレムⅢ』に斬りかかる。

 

「っ!こいつ……一撃が重い!」

 

 颯太の斬撃を左腕で受け止め、右腕のブレードで斬りかかって来た『ゴーレムⅢ』の斬撃を《火打羽》で受け止めながら颯太が顔をしかめる。

 

「――簪!いけるか!?」

 

「うっ、うんっ!」

 

 颯太の言葉に頷いた簪は急いでシステムをチェックする。それぞれのパワーゲージが上昇し、OKの表示が溢れる。

 

「行くよ……『打鉄弐式』!」

 

 ギィンッ!

 

 颯太がブレードを弾いて距離を取ると同時に簪が『ゴーレムⅢ』に突進し、背中に搭載された速射荷電粒子砲《春雷》二門の下からくぐらせて正面を向かせる。

 

「これなら、外さない……!」

 

 超至近距離からの荷電粒子砲の連射を浴びせる。

 

「!?」

 

 しかし、簪の攻撃は『ゴーレムⅢ』の周囲に浮いている可変シールドユニットの集中防御で完全に防がれた。

 

「簪、下がれ!」

 

「ど、どうする、の?」

 

 颯太が《火神鳴》の援護射撃を受けながら簪は『ゴーレムⅢ』から距離を取る。

 

「この狭い空間じゃ簪の『打鉄弐式』も俺の『火焔』も性能が発揮できない!」

 

「で、でも、アリーナのシールドがロックされてて……」

 

「こいつを使う!」

 

 言いながら颯太は左手で《火遊》を掴む。

 

「『ハミング・バード』ならせいぜい五秒程度だけどシールドを解除できる…はず!」

 

「でも、それだけじゃ開かないんじゃ……」

 

「シールドさえ切れれば無理矢理壊してぶち破る!」

 

「わ、わかった……」

 

「よし、接近戦で押し込むぞ!」

 

 颯太は《火人》を右手で構え、簪も近接武装である対複合装甲用超振動薙刀《夢現》を呼び出して両手で構える。

 

「行くぞ!」

 

「う、うん!」

 

『火焔』と『打鉄弐式』二基のスラスターが開き、二人は同時に『ゴーレムⅢ』に突進し、そのままピットの壁にぶち当たる。

 

「簪!そのまま抑えててくれ!」

 

「わかった…!」

 

 簪が頷くのを見ながら颯太は左手を伸ばして扉脇の操作基盤を《火遊》で叩く。

 画面にノイズが走るのを尻目に《火人》と《火遊》を放り出しながら両腕に《インパクト・ブースター》を装着し、拳を合わせるように構える。

 

「簪!避けろ!」

 

「っ!」

 

 颯太の言葉に飛び退く簪。

 

「本当はこの技は完成してないんだけど――!」

 

 言いながら颯太はその合わせた両方の拳を『ゴーレムⅢ』の腹部に押し当てる。

 

「見よう見まね!『六王銃(ロクオウガン)』!!!!」

 

 叫びながら颯太の両腕に装着された《インパクト・ブースター》が強力な一撃――エキゾースト・ヒートを放つ。

 

 ドゴォォォンッ!!!

 

 轟音と共にの背後の壁が『ゴーレムⅢ』とともに吹き飛ぶ。

 

「うまくいったけど……やっぱ出力のバランスが難しい!」

 

 颯太が呟くと同時に両腕の《インパクト・ブースター》からくの字型のパーツが飛ぶ。

 

「やった……?」

 

「だといいんだけど――」

 

 簪が訊くと同時に吹き飛んだ『ゴーレムⅢ』がゆっくりと立ち上がる。

 

「あぁもうっ!ちょっとは期待したんだけどなぁ!!!」

 

 颯太は悔しそうに叫ぶ。

 

「まあでも、これで広いところにでら――」

 

 ドガァァァンッ!!!

 

「なんだっ!?」

 

 颯太の言葉を遮ったのは反対側で突如巻き起こった大爆発だった。

 颯太と簪はその爆発に目を見張る。

 

「反対側……まさか師匠っ!」

 

「っ!?」

 

 颯太の言葉に簪は咄嗟に楯無と箒にプライベート・チャネルを開くが反応がない。

 この『ゴーレムⅢ』が強力なジャミングを行っているようだ。

 

「っ!簪!」

 

「わっ!」

 

 簪を抱きこむように《火打羽》を広げる颯太。

 直後、強力な超高密度圧縮熱線が飛んできた。

 

「ここは俺がやる!簪は向こうのゲートを!」

 

「で、でも…!」

 

「大丈夫だ!さあ行って!」

 

「わ、わかった……!」

 

 颯太の言葉に頷き、簪はもうもうと煙のあがるゲートへと向かう。

 

(お姉ちゃんっ!箒!無事でいて……!)

 

 ゲートに接近していくと、ハイパーセンサーがISの反応を捉える。

 

「お姉ちゃんっ!?」

 

 反応のある方向に簪が叫ぶ――が、煙の中から現れたのは無人機の巨大な左腕だった。

 

「ああぁっ!?」

 

 逃げようとするが左足を掴まれる。

 ブースターの逆噴射で逃げようとしてもがっちりと簪の脚を掴んだ無人機はそのまま振り回し壁に叩きつける。

 

「ああぁっ!」

 

 全身に激痛が走る。

 

(な、なんで……絶対防御が効いてないみたいに……まさか!?)

 

 簪はすぐにISのステータス・パネルを開く。

 

『敵ISの腕部から未知のエネルギー放出を確認。シールドバリアー展開に障害が発生しています』

 

(そんな……対IS用IS……!?)

 

 ISアーマーはどれも強固な鎧である。

 しかし、操縦者は生身の人間である以上、殺すことは可能である。

 

「っ!!」

 

 ブースターを使って強引に体を起こし、《夢現》で斬りかかる。

 だが、簪の攻撃は右腕のブレードによって阻まれる。

 

「!?」

 

 『ゴーレムⅢ』は簪の身体を振り回し、アリーナの内壁部に投げ飛ばす。

 

「ガハッ!」

 

 背中からの衝撃に息がつまる。口の中に鉄の味が広がる。

 

(だ、ダメ!今気絶したら……!)

 

 きつく歯を噛みしめて顔を上げると

 

「えっ……?」

 

 眼前に熱戦を放つために光り輝く左手が向けられていた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に顔をそむける簪、が――

 

 ガギンッ!

 

 大きな金属同士がぶつかる音と主に瞑った瞼の向こうに見えていた光が消える。

 目を開けて簪が見たものは

 

「え――?」

 

今まで自身の目の前にいた『ゴーレムⅢ』が飛んできた別の『ゴーレムⅢ』とともに地面を転がりながら吹き飛んでいく姿だった。

 

「――っ!そ、颯太!」

 

 咄嗟に『ゴーレムⅢ』が飛んできた方向に視線を向けると、颯太が立っていた。

 

「そ、颯太!これは――」

 

「――お前らってさ」

 

 簪の言葉を遮るようにゆっくりと歩を進めながら颯太が口を開く。その様子は簪など目に入っていないかのようだった。

 

「お前らってどこかで見た気がしてたんだけど、さっき気付いた。お前らクラス代表戦の時の襲撃者に似てるんだな」

 

「ヒッ――」

 

 簪の口から息を呑む声が漏れた。

 

「あの時一夏が変なことを言ってたなぁ~。あの時の襲撃者は無人機だぁ、とか何とか……」

 

「そ、颯太……?」

 

 簪は目を疑う。眼前の少年に。自身の目の前でゆっくりと歩を進める、〝冷たい笑みを浮かべた〟少年に。

 数分前に自分に向けられた優しい笑みとは違う、今までに見たことのないような背筋の凍えるような、まるで別人のような少年の様子に息を呑む。

 

「まあ仮に本当に無人機だとしたらさ。一つ聞きたいんだけど、お前らってさ、恐怖を感じるの?死にたくないとか思ったりするの?教えてくんない?」

 

 問いかけながら颯太は眼を鋭く細め、より一層口角をつり上げる。

 

「喋れないくらいスクラップになる前にさ」

 




颯太君のみに何が起きたのか……詳しくは次回をお楽しみに!

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