IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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今回の話の颯太君は若干口悪くなってしまった……(;´・ω・)
あと、若干長めです。



第114話 拳の痛み

 

「簪」

 

「は、はい!」

 

 俺が名を呼ぶと簪はビクリと身体を震わせながら慌てて返事をする。

 

「向こう……少し離れたところに師匠が倒れてる」

 

「え……?」

 

「頼む……」

 

「で、でも、颯太一人であいつら二人を相手にするなんて……」

 

「大丈夫。簪が師匠を運ぶくらいの時間は稼いでやるよ」

 

「で、でも……」

 

「簪!」

 

「っ!?」

 

 俺が大声で名前を呼ぶとまた身体を震わせる。

 

「……頼む」

 

「…………うん」

 

 じっと簪の顔を見つめて言うと、簪は少し間を空けて頷き、俺の指さした方向に走り出す。

 

「さて……無人機でも空気は読めるようだな」

 

 俺は視線を先ほど吹き飛んでいった襲撃者たちに視線を向ける。

 二基の襲撃者たちはゆっくりと立ち上がり俺に顔を向けていた。

 

「黙って見逃がしてくれてありがとう。それじゃあ――」

 

 言いながら俺は瞬時加速で距離を詰め

 

「バイバイ」

 

 右側に立っていた襲撃者〝その2〟を《火神鳴》で殴り飛ばす。

 

 

 〇

 

 

 颯太に言われた簪はすぐさま倒れ伏す楯無に駆け寄る。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ウッ……」

 

 駆け寄り抱き上げると楯無は瞼を震わせ瞼をゆっくりと開く。

 

「簪…ちゃん……?」

 

「お姉ちゃんっ!よかった……!」

 

「いったい…何が……――っ!」

 

 少し記憶を探るようなそぶりの見えた楯無はすぐに自身が気を失う直前の出来事を思い出したらしく顔を引き締める。

 

「あいつ…あのISは!?」

 

「あいつ等なら、颯太が……」

 

「颯太君?」

 

 簪の言葉に顔を上げた楯無は顔を上げる。そこにあったのは――

 

「あれは……」

 

 そこに繰り広げられていたのは二基の無人機を相手に立ちまわる颯太の姿だった。

 

「颯太が食い止めてくれてるから…お姉ちゃんは今のうちに……」

 

「ダメ……」

 

「え…?」

 

「颯太君を止めて!あの戦い方じゃ、颯太君の身がもたない!」

 

 楯無の言葉に簪は呆然とする。

 

「それって…どういう……」

 

「颯太君に何があったのか知らないけど、あれは颯太君本来の戦い方じゃない」

 

「でも――」

 

「今の颯太君は自分にフィードバックしてる痛みを無視している。自分への被害を度外視している」

 

「それって……」

 

「相手を殴った時の拳の痛みを無視し続けたら、いつか拳の方が砕けてしまう。今の颯太君はその痛みを無視しているわ」

 

「そんな……」

 

「このままじゃ敵を倒す前に『火焔』がダメになる……だから――」

 

 真剣な眼差しで簪に顔を向けた楯無。

 

「簪ちゃん、お願い。今私は動けないから、颯太君を助けてあげて!」

 

「っ!う、うん!」

 

 楯無の言葉に力強く頷いた簪は立ち上がる。

 

「待って!これ……!」

 

「これって……」

 

 楯無が簪に渡したのは

 

「……お姉ちゃんの、『ミステリアス・レイディ』のアクア・クリスタル……?」

 

「お守りよ」

 

 受け取ったそれを強く握りしめ、簪は頷く。

 

「行ってくるね……」

 

「うん……頑張って、私の自慢の簪ちゃん」

 

 

 

 〇

 

 

 

「弱いぞっ!」

 

 俺の蹴りで飛んでいった〝その2〟を無視し〝その1〟を《火神鳴》で掴み、ぐるりと左向きに回転しながら地面に叩きつける。

 叩きつけた勢いで一瞬浮かび上がった〝その1〟の身体めがけて

 

「役立たずのっ!!」

 

 右腕に装着した八咫烏を握りこみ、『エキゾースト・ヒート』で地面に押し付けるように殴る。

 

「メタルのクズめっ!!」

 

 右手の八咫烏を解除し、《火人》を握り、八咫烏で殴った個所を執拗に切り付ける。

 

「ガラクタのスクラップがぁ!!このっ!このぉっ!!」

 

 ピシッと言う音とともに俺の手元から何か音が聞こえた気がした。

 手を退けてみると〝その1〟の胸元、俺が斬りつけた部分にヒビが走っていた。

 

「っ!」

 

 追撃を掛けようとした俺は背後からの攻撃に飛び退く。

 俺が一瞬前にいた場所に〝その2〟の右腕のブレードによる斬撃が来る。

 

「危ないなぁ!」

 

 俺は意識を〝その2〟へと切り替えながら《火人》を構える。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 《火人》で斬りかかる俺の斬撃を〝その2〟が構えたブレードで受け止められる。

 

「おらぁ!!」

 

 数度鍔迫り合い、しかし如何せん、俺には剣術の心得も才能もない。

 

「っ!」

 

 襲撃者の下から掬い上げるような斬り上げに俺の手から《火人》が飛ぶ。が――

 

「なんの!」

 

 俺の《火人》を弾いたことでできた一瞬の隙に《火遊》を左手で構え、叩きこむ。

 襲撃者の動きが止まる。だが、ここで終わるつもりはない。

 

「もってけダブルだ!!」

 

 右手に装着した八咫烏で〝その2〟の左腕を掴む。

 そのまま八咫烏第二の能力、『シェイクハンド・モード』を発動する。

 

 

 

この能力は『火焔』に溜められた熱を排熱するのではなく、相手に送り込む、と言うものだ。

 これは本来は『火焔』と同じタイプのISができた時のための機能、熱を溜め込むタイプのISが誕生した時の対策として付け加えられていた能力だ。

 本来は対象の熱を『火焔』に、もしくはその逆に移動させ、『ハラキリ・ブレード』を発動させやすくするなどを目的とした能力だ。

 これをある時試しに会社でのシャルロットとの性能実験で使ってみたのだ。

 結果どうなったか。答えは――排熱のために一時的にシャルロットのISは機能不全を起こした、のである。

 さらに試したところ、この『シェイクハンド・モード』と《火遊》の『ハミング・バード』を重ね掛けすると、同時に処理する必要が出るためか対象ISは復活までに要する時間が伸びるのである。

 シャルロットとの実験で検証した結果、最長で10秒だった。それも数十回と試した中で一度しかできなかった。後は平均して7,8秒と言ったところか……。

 

 

 

 今回もなかなかの手ごたえを感じた。

 8秒くらいは動きを止められたはずだ。

 俺はそう確信しながらスッと上体を逸らす。

 俺の頭のあったあたりを〝その1〟のブレードが通り過ぎていく。

 そのまま俺は体勢を整え、

 

「オラァ!」

 

 右手に装着されたままだった八咫烏を握りこみ、〝その1〟の胸元に『エキゾースト・ヒート』を打ち込む。

 衝撃に吹き飛ぶ〝その1〟を瞬時加速で追い、地面に叩きつけられた〝その1〟の両腕を《火神鳴》で押さえつけ

 

「ぐぅ…んぬぅあぁぁぁ!!」

 

 先ほどの一撃で大きくなった胸部のヒビに手を滑り込ませ、強引に引き剥がさんと力を籠める。

 ミシミシと悲鳴を上げて装甲が少しずつその溝を開いて行く。

 痛みに悶えるように〝その1〟がもがくが《火神鳴》で両腕は拘束していうる上に

太もものあたりに俺が腰かけて拘束しているので俺を蹴り上げることもできない。

 

「――へぇ……これは……」

 

 少しだけその穴から中身を露出させた襲撃者。その中身は胸の中心にISのコアと思われる物体と、本来人間が収まっているべき場所に詰まったよくわからない配線と機械パーツだった。

 

「本当に無人機か……一夏の勘が当たってたわけか……」

 

 俺は《火神鳴》で〝その1〟を抑え込んだまま右手を手刀にして構え

 

「とりあえず――1体目!!」

 

 そのままパックリと口を開けたその胸部装甲の穴へと突き刺す――その寸前

 

「がぁぁ!?」

 

 左から俺を超高密度圧縮熱線が襲った。

 完全に意識外だったせいで辛うじて《火打羽》で防いだもののダメージを幾分か貰ってしまった。

 おかげで吹き飛ばされ、〝その1〟の拘束が溶けてしまった。

 直に体勢を立て直そうとする俺の頭に追撃の打撃が振り下ろされる。

 

「ガハッ!」

 

 まるで鈍器で殴られたような衝撃が体に走る。

 さっき〝その1〟に殴られたときにも感じたが、今日はやけに痛い。まるで絶対防御が効いていないようだ。

 そう考えながらISのステータス・パネルを開く。

 

『敵ISの腕部から未知のエネルギー放出を確認。シールドバリアー展開に障害が発生しています』

 

 ああ、やっぱり。と、納得した。と同時に反則だとも思った。

 

「くそっ!思ったより復活が早い――なっ!!」

 

 このままやられてたまるかと《火神鳴》で殴る、が、受け止められる。

 そのまま振り下ろされるブレードを受け止め、お互いに両腕と《火神鳴》で押し合う。

 

「くぅぅ!」

 

 そのまま力比べを続けるが、なぜか《火神鳴》がいつもの力を発揮しない。

 なんで、と目を向けると《火神鳴》にところどころ電の様にバチバチと瞬いている。

 

(やべぇ……ちょっと無茶しすぎ――)

 

「ガフッ!?」

 

 俺の思考を遮って、腹部に思い衝撃が走る。

 俺の一瞬の隙をついて腹に蹴りを入れられたらしい。膝をつきそうになりながら顔を上げる。

 

「このぉっ!!」

 

 空いていた両手で、その右手で〝その2〟の顔面を殴る。

 一瞬拘束が緩んだ隙に距離を空けようとバックステップする――が

 

「ゲフッ!?」

 

 〝その1〟が体勢を立て直したらしく、俺の回避した先に先回りしその巨大な左手を鞭のようにしならせて俺の背中を打つ。

 体を起こして迎え撃とうと手をついた俺の左手を〝その1〟が巨大な左腕で掴む。

 

「っ!?」

 

 そのままグリンと一本背負いの要領で無理矢理に引き上げられ、地面に叩きつけられる。

 

 ゴキンッ

 

 俺の左肩から嫌な音と共に鈍い痛みが走る。

 

「お返しってわけか――よっ!」

 

 肩口の荷電粒子砲を放ち、それを避けてバックステップで避ける〝その1〟を視界に収めたまま体勢を立て直す。

 

「グッ……」

 

 左腕の状態を確認しようと動かそうとしたところでまたもや鈍い痛みが走る。

 どうやら肩が外れたらしい。左腕は使い物になりそうにない。

 

「くそ……まずった……」

 

左腕を庇いながら立ち上がると、前方には〝その1〟、後方には〝その2〟。さっきまでだってギリギリだったのに左腕が使えない状態でどこまで戦えるか……

 

「あぁ~……クソッ、調子乗って戦いすぎたかな。まあきっと簪も師匠連れて逃げてくれただろうし……あとはせめてどっちか道連れにして!」

 

 言いながら右腕に八咫烏を装着して構える。

 そんな俺の動きを合図にしたように前方の〝その1〟が俺に向けて足を踏み出す。

 

「っ!」

 

 身構えた俺の予想に反して俺に向かってくる〝その1〟の身体を爆発が襲う。

 

「何がっ!?」

 

「颯太っ!」

 

「っ!簪!?なんで――!?」

 

「そんなのいいから今は――っ!」

 

 俺の横に来て身構えていた簪が咄嗟に俺を抱えるように飛び退く。

 一瞬前にいたところを〝その2〟のブレードが襲う。

 

「ゆっくり話してる間もないね」

 

「まったくだ」

 

 俺と簪は背中合わせに立ちながらそれぞれ両襲撃者を迎え撃つため身構える。

 

「一つ聞かせてくれ。師匠は?」

 

「無事。お姉ちゃんが今の颯太は一人にしちゃだめだ、って……」

 

「そっか……それを聞いて一安心だ――なっ!」

 

 言いながら俺は拳を構えて自分の顔を殴る。

 

「グッ……!」

 

「颯太っ!?」

 

「いった~!!……でも、頭に上ってた血がちょっとは下がったかな……」

 

 チカチカする目をこすり、笑みを浮かべる。

 

「簪!」

 

「うん!」

 

「勝つぞ!!」

 

「うん!!」

 

 俺たちの言葉を合図にしたように同時に襲撃者たちが動く。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 同時に飛び出した俺と簪はそれぞれの襲撃者を迎え撃つ。

 斬りかかって来た〝その2〟のブレードを左の《火神鳴》で受け流し、右の《火神鳴》を構える。

 

「このぉ!!」

 

 そのまま荷電粒子砲を放とうとするが一瞬早く巨大な左腕で射線を変えられる。

 

「ガハッ!」

 

 《火打羽》で守る間もなく〝その2〟の蹴りが俺の左腕を打つ。

 鈍い痛みに意識が飛びそうになるが歯を喰い縛って顔を上げると今度は逆に俺の眼前に襲撃者の巨大な左腕の砲門が向けられる。

 

「しまっ――」

 

「させるか!」

 

 咄嗟に《火打羽》を展開しようとするが、俺の思考を遮って上方から声とともに紅い物体が〝その2〟の左腕に二本のブレードを突き刺し、押しつぶしながら降って来る。

 

「遅れてすまない!」

 

「っ!?箒っ!?」

 

 〝その2〟の左腕を再起不能にし、そのまま流れるように襲撃者〝その2〟を切り裂く紅いISを纏った人物。真っ二つになって爆散する〝その2〟を背に『紅椿』を纏った箒が振り返りながら頷く。

 

「遅れてすまない!ここからは私も全力を尽くさせてもらう!」

 




と言うわけでおいしいところを持っていく箒さん。
――ちょっと、誰ですか!?「あ、箒いたの?」とか言わない!

次回で無人機戦を終わらせられるかなぁ~
もしかしたら夏休みネタの番外編も考えてるのでそっちを書くかも……

次回もお楽しみに!


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