IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第116話 茜色に染まる部屋

 

「アハハハハハハハッ!」

 

「……………」

 

 事件後、医療室に笑い声が響き渡る。

 

「アハハハッ!」

 

「いい加減笑いすぎじゃないですかね!?」

 

 颯太は耐え切れずに叫びをあげる。

 颯太の目の前には今まさに現在進行形で大笑いしてる人物、楯無がベッドに腰掛けている。

 襲撃者事件が一応の落ち着きを見せた。

 後ほど教師陣の説明によると、颯太たち以外のペアのところにも一基ずつ無人機が来ていたことが聞かされた。

 それぞれそれなりに手間取ったり被害はあったものの、とりあえずみな無事だったようだ。

 一番被害を受けたと言うか一番重傷だったのは楯無だったらしい。――だったのだが……

 

「だって!だって~!わ、わたしが!わたしがあの襲撃者にやられたと思って!ぶちぎれて大暴れって!」

 

「早とちりだったのは認めますけど!」

 

 手など見えるところに何か所か包帯を巻いていたり、少し痛々しいところはあるが

 

「てか超元気っすね!」

 

「うん、お陰様でね」

 

 颯太の言葉にテヘへ~という効果音でも聞こえてきそうな感じで後頭部のあたりを掻きながらはにかむ楯無。

 

「その怪我のほとんどが自爆したせいって……」

 

「いや~、結構追い込まれちゃってね」

 

 参った参ったと笑う楯無。

 

「笑い事じゃないですよ。本当に心配したんですから」

 

「……心配して損したって感じかな?」

 

「………はぁ?」

 

 楯無が茶化すように言う言葉に颯太はジト目を向ける。

 

「何バカなこと言ってんですか!こっちは本気で心配したんですから!」

 

「っ!……その…ごめんなさい……」

 

「いえ……」

 

 颯太の言葉にシュンとする楯無の姿に思ったより語調が強くなってしまったらしいことを自覚し、少し申し訳なく思うと同時に少し気まずい空気が流れる。

 

「その……私、ちょっと焦ってたのかも……」

 

「焦ってたって?」

 

 楯無がポツリと呟くように言う。

 

「最近颯太君頑張ってるし、簪ちゃんもいろんな人の助言貰いながらIS完成させて、でも私は学園祭の時もキャノンボールの時も敵を取り逃がすし……」

 

「……………」

 

「なのに、颯太君と簪ちゃんからは目標だって言われて、そんな二人のちゃんと目標らしく、もっと憧れてもらえるように、ちょっと頑張っちゃった……」

 

「……………」

 

 楯無の言葉に颯太は無言のまま立ち上がり

 

「え!?ちょっ!?な、何々っ!?」

 

 ワシワシワシ~、と楯無の頭を撫でる(と言うより髪をめちゃくちゃにかき回す)。

 

「師匠深く考えすぎです。今のままで師匠は十分俺たちの目標で、俺たちの憧れなんですから」

 

「でも、二人に憧れてもらえるようにもっと完璧な私に――」

 

「師匠って自分で思ってるほど完璧人間じゃないですよ?」

 

「なん……ですって……?」

 

 颯太の言葉に驚愕の表情を浮かべる。

 

「師匠、簪と仲直りしてからも簪コレクション増えてるでしょ?」

 

「ど、どうしてそれを!?」

 

「テキトーに言ったのに図星って……」

 

「ぐっ…………え?じゃあ前みたいにどこからか情報を仕入れたとかは……」

 

「してませんよ。プライバシーってものがありますからね。何よりする理由ないですし」

 

「する理由があればやるの?」

 

「…………」

 

「あっ!いま目を逸らした!」

 

 痛いところを突かれた颯太が咄嗟に目を逸らすと楯無が叫ぶ。

 

「ね、ねぇ……本当にそのとある情報筋から情報収集してないのよね?」

 

「してませんってば」

 

「よかった~!〝アレ〟のこと知られてたらこの場で舌噛み切るところだったわ」

 

「え?待ってください。そんなやばいものがあるんですか?」

 

「~~~~♪」

 

 颯太の問いに脂汗を掻きながら口笛を吹いて目を逸らす楯無。

 

「え?何その反応、怖い……」

 

 楯無の反応に恐々としながら一つ咳払いをして話題を戻す。

 

「それはともかく!師匠は今のままでいいんです!むしろ俺や簪ばっかり助けてもらってるんですから、もっと俺らの事を頼ってほしいくらいです」

 

「…………本当に?」

 

 颯太の言葉に少し考え込んだ師匠は呟くように言う。

 

「ええ」

 

「私が困ってる時は頼ってもいいの?」

 

「もちろんですよ。何のための副会長だと思ってるんですか?生徒会関連だろうがそうじゃなかろうが力になりますよ」

 

「私が傷心の時は慰めてくれる?」

 

「本当に傷ついてるならいくらでも、俺にできる範囲で」

 

「………わかった」

 

 颯太の言葉を聞き、楯無は俯くと小さく頷く。

 

「颯太君……ちょっとそのまま動かないで」

 

「へ?あ、はい……」

 

 楯無に言われ、颯太は首を傾げながら頷く。と――

 

「………」

 

「し、師匠!?」

 

 突然、楯無が颯太のお腹のあたりにポスッと頭をくっつけ、颯太の背中に手を回して抱き着く。

 

「あ、あの、いったい――」

 

「な、慰めてくれるんでしょっ?」

 

「確かに言いましたけど」

 

「いいから黙ってジッとしてて」

 

「は、はい」

 

 言われて颯太は姿勢を正す。

 楯無は無言のままさらに颯太のお腹に顔をうずめるように抱き寄せる。

 

「…………」

 

「………あの、シャワー浴びてないんで汗臭いんじゃないですか?」

 

 沈黙に耐えかねて颯太が口を開く。

 

「別にいいわ。むしろ私、颯太君の匂い嫌いじゃないし」

 

「………師匠って匂いフェチ?」

 

「そういうムードのないこと言うのは、お姉さんどうかと思うなぁ~!」

 

「いだだだだだだ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」

 

 颯太に抱き着いたまま背骨をへし折らんと鯖折りの要領で背中に回した手で締めあげる。

 

「まったく……」

 

 ふう、とため息をつき締めあげていた力を抜く楯無。ちなみにこの間、楯無は顔を上げないので、颯太には今楯無がどんな表情をしているのか想像するしかない。

 

「その……すんませんした」

 

「まったく、余計なこと言わないで傷心のお姉さんをいかに癒すか考えたら?」

 

「癒すって言われても……」

 

 颯太は数秒考え込み

 

「えっと……こ、こう…とか?」

 

 手持無沙汰だった両手を楯無の頭に回し、右手で後頭部のあたりを優しく撫でる。

 

「…………」

 

 手を回した瞬間体を少し震わせたように思えたが無言のままでいる。

 試しに手を止めてみる。

 

「~~~~~!」

 

 颯太を抱く手の力が強くなり、顔をぐりぐりとお腹に押し付けながら揺らす。

 やめるなと言う意味と判断して撫でる手を再開させるとゆっくりと手に込めていた力を抜き、顔を揺らすのも止める。

 どうやら正解だったようだ。

 そのまま楯無をお腹にくっつけたまま頭を撫でる手を休めない。これでまた手を止めようものなら今度こそ背骨がへし折られてしまいそうだ、なんて考えながら苦笑いを浮かべる颯太。

 

「…………颯太君」

 

 どのくらいそうしていたのか。数十秒か、はたまた数分か、とにかくその姿勢のまま少したってから、ポツリと呟く様に楯無が言う。

 

「…………ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

 楯無の呟きに答え、颯太は変わらず師匠の頭を撫で続ける。

 

「ねぇ、颯太君」

 

「はい?」

 

「あのね……」

 

「はい……」

 

 普段飄々としている楯無から緊張が伝わってくる。

 そのせいでつられて颯太も体を強張らせる。

 

「あの……私……」

 

「…………」

 

楯無が何かを言うべく息を吸った。

 

「私ね――」

 

「井口颯太ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 そんな楯無の言葉を遮ったのは扉の開く音ともに飛び込んできた人物の怒声だった。

 

「「っ!?」」

 

 急なことに颯太と楯無は揃って扉の方に顔を向ける。

 そこにいたのは――

 

「井口颯太……お前、装備壊しといて女とイチャつきやがって……」

 

「あ、アキラさん……!?」

 

 開いた扉の前に仁王立ちするアキラは普段から悪い目付きをさらに細め颯太を睨んでいた。

 

「あ、アキラさん!これはその…イチャついていたとかではなく――」

 

「言い訳とかいいから。今重要なのはお前が無茶して《火神鳴》を壊したって言う事実、ただそれだけ」

 

 いつもならオドオドと喋るアキラが流暢にしゃべっている。

 

「と、と言うかアキラさん?ここまで一人で来たんですか?引き籠りのアキラさんが?コミュ障のアキラさんが?わざわざ?」

 

「山田と犬塚先輩と来た。犬塚先輩は学園の人と手続してる。山田はスピード違反で免停の手続きでも受けてるんじゃないか?」

 

「サンダーさんの身に一体何が!?」

 

「ここまで法定速度ギリギリで来たけど、ギリギリアウトだったらしい。――まあそれはいい」

 

「それはいいで片付けてあげないでくださいよ!」

 

 俺のツッコミを無視してアキラさんがゆらりとこちらに歩を進める。

 

「とりあえず井口颯太、お前……顔をひし形にしてやろうか?」

 

「脅し文句が独特!しかも怖い!」

 

 マンガで言えばハイライトの無い目になっているアキラの瞳に颯太は震えあがる。

 

「あ、アキラさん?あの……大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよ。大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫。大丈夫なのぉ?大丈夫だよ。大丈夫なのぉぉ?大丈夫だよぉ。大丈夫か?大丈夫だよ。大丈夫なの。だぁい丈夫だよぉ。大丈夫かぁぁ?大丈夫さぁぁ。大丈夫だろうかぁぁ?大丈夫だよ。大丈夫なんでしょうかねぇ?大丈夫ですよ。大丈夫か?大丈夫だぁ。大丈夫なんだよ。大丈夫……大丈夫……大丈夫…………顔をひし形にしてやろうか?」

 

「怖い!怖い上に絶対大丈夫じゃない!」

 

「あ、いたいた」

 

 と、ドアの方から新たな人物が現れる。

 先ほどアキラが一緒に来たと言っていた犬塚だ。

 

「お待たせ~。手続き終わったよ。それじゃあ行くか」

 

「え?行くってどこにですか?」

 

「あれ?アキラから聞いてない?」

 

 楯無の問いに犬塚が首を傾げる。

 

「アキラさん、ここに来てからずっとこの調子で……」

 

「あぁ……」

 

 楯無の指し示す方を見て犬塚が納得する。

 ちなみに今颯太はアキラに壁際まで追いやられ零距離でガンを飛ばされている。

 しかも小声で「顔をひし形にしてやろうか?」を延々リピートだ。

 

「颯太君が《火神鳴》壊しちゃったし、他の装備もそれなりに消耗してたからな。颯太君にはうちの会社に来てもらって詳しい報告とお説教を受けてもらうことになったんだよ」

 

「え……今からっすか?」

 

「うん、今から」

 

 震える声で訊く颯太の問いに犬塚が頷く。

 

「明日にしてもらうことは……」

 

「俺たちはそれでよかったんだが、颯太君の目の前にいる人が今日引っ張てくるって聞かなくて……」

 

 苦笑いを浮かべながら視線を少し下に向ける犬塚。

 その視線の先には颯太にガンを飛ばすアキラがいる。

 

「まあそんなわけで、諦めて一緒に来てくれるか?」

 

「……はい」

 

 力なく頷く颯太。

 頷いたのを確認すると同時にアキラは颯太の胸倉をむんずと掴み、無理矢理に引っ張る。

 

「ちょっ!痛い!痛いですアキラさん!てか強っ!引き籠りの運動不足のはずなのにアキラさん握力つっよ!」

 

 ぐいぐいと引っ張るアキラさんに半ば引き摺られながら着いて行く颯太。

 

「あ、じゃあ更識さん、俺たちはこれで行くけど、なんか話してる最中だったみたいだけど、大丈夫かな?何か急ぎならその用事待ってからにするけど」

 

「っ!い、いえ!特に急ぎでもなかったんで大丈夫です!」

 

 犬塚の言葉にブンブンと手を振りながら言う楯無。

 

「そうかい?それじゃあ俺たちはこれで。お大事に――」

 

「し、師匠ぉぉ!た、助けてぇぇぇ!今日のアキラさん超怖いっ!」

 

 にこやかに手を振る犬塚の言葉を遮って颯太が叫ぶ。が、楯無は――

 

「颯太君……ガンバ!」

 

「ししょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 グッとガッツポーズをするようににこやかに頷く楯無に、颯太は泣き叫びながら引き摺られていったのだった。

 




と言うわけで颯太君強制連行。
生きて帰ってこれっるのか……(;´・ω・)

ちなみに楯無さんがはじめ大爆笑していたのは照れ隠しです。
自分のためにそこまで怒ってくれたことがそれなりに嬉しかったようです( ´艸`)

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