IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第118話 陽炎

 指南の会社でアキラさんにこってり絞られた翌日は昼前に学園に戻り、昼食後にはもはや恒例ともいえる取り調べを受けた。

 一夏たちは午前から始まり夕方くらいには終わったらしいが、俺は会社に行っていたということもあり、午後まで待ってもらえていた。その分終わったのは遅かったが……。

 そんなこんなでとりあえず事後処理も済み、一旦はこの襲撃事件の決着はつき、その翌日からはもうすでにIS学園は通常運転に戻り始めていた。

 

 

 〇

 

 

 

「で?結局颯太の『火焔』は会社で修理してもらってるんだっけ?」

 

「ああ。結構な蓄積ダメージらしくてな。自己修復に任せてもよかったんだけど《火神鳴》に関しては自己修復じゃ無理だし、ついでに全部会社でやってしまおうってことらしい」

 

 放課後、生徒会室で書類を片付けながら一夏と話す。

 

「一夏の『白式』もオールメンテだっけ?」

 

「ああ。今度倉持に行かなきゃいけなくてな」

 

 俺の問いに一夏が頷く。

 

「簪とシャルロットは自己修復に任せるんだったっけ?」

 

「うん」

 

「僕のは颯太たちほどのダメージはなかったからね」

 

 俺の問いに今日はいつもより多い書類を片付けるために助っ人として来ていた簪とシャルロットが頷く。

 

「颯太は無茶しすぎ」

 

「アキラさんに連れ去られたって聞いたけど、怒られたんじゃない?」

 

「色々あって専門書を顔面に投げつけられた」

 

「それ、どういう状況……!?」

 

「だ、大丈夫だったの?」

 

 俺の言葉に二人は驚きの声をあげ、一夏も心配そうな表情を浮かべている。

 

「そのまま後頭部を床にしたたかにぶつけて数十分ほど気絶してた」

 

「大丈夫じゃなかった!」

 

「夢見が悪かったなぁ~。がたいのいい彫りの深い神父に激辛麻婆を食べさせられるという意味わからない夢だった。無駄に殺気放ってるし」

 

 驚愕の声をあげるシャルロットの言葉に頷きながら遠い目をしながら言う。

 

「フォルテ先輩とダリル先輩は本国で緊急修理でしたっけ?」

 

「そういう話だったわね」

 

 と、師匠が俺のとなりで書類に判を押しながら頷く。今日はいつものように自分の机ではなく俺たちとともに同じ長机の上で作業に取り組んでいる。

 

「師匠は大丈夫だったんですか?装甲とかボロボロでしたけど」

 

「私はちょっと思うところがあってね。学園の設備で直すことになったの」

 

「思うところ?」

 

 俺が首を傾げるが、師匠はそれ以上答えるつもりはないようでフフッと笑って躱される。

 

「でも、『火焔』預けちゃったならいざって言うとき大変ね」

 

 と、話題を変えるように師匠が言う。

 

「まあと言っても次の日曜までですけどね。一応代替機借りてますし」

 

『代替機?』

 

 俺の言葉に師匠と一夏、簪とシャルロットに加え、同じように書類を片付けていた虚先輩とのほほんさんが首を傾げる。俺は首元から楕円形の赤いネックレスを取り出す。

 

「これ、指南で構想、作成された第二世代ISです。これと倉持の『打鉄』とで日本の量産機の地位を争ったらしいです。基本設定は『打鉄』と同じようになってるんでフォーマットとかも必要ないんですよ。簡単に言えば指南限定の訓練機かな」

 

「へぇ~…てことは、これが噂の『陽炎』ね」

 

「あ、知ってましたか」

 

「まあね。当時日本のIS委員会の人たちも頭を悩ませたらしいわ。性能面では『陽炎』が上だったらしいけど、燃費とか使い勝手が『打鉄』の方がよかったらしくてね。最終的には『打鉄』が選ばれたってことらしいわ。――そう…これが……」

 

 言いながら師匠は俺の胸元に顔を寄せて興味深そうに『陽炎』の待機状態のネックレスをまじまじと見ながらネックレスの飾り部分を触る。

 

「し、師匠?」

 

「ん?」

 

 俺に呼ばれて、顔を上げる師匠。その顔はビックリするほど近く、師匠の整った顔が目の前に、それこそ息のかかるほど近くにあった。

 

「その………引っ張られると首が痛いです」

 

「あ、ごめんね」

 

 一瞬ドキリと跳ね上がった心臓を飲み下すように一つ息を呑んで視線を外しながら言うと師匠はパッとネックレスから手を放して姿勢を戻す。

 

「いえ」

 

 俺は頷きながらネックレスを制服の下に仕舞い、ふと視線を感じて顔を上げると、訝しげな表情で簪とシャルロットが俺と師匠を交互に見ていた。

 

「どったの?」

 

「いや……なんていうか……」

 

「その………いや、なんでもないかな」

 

 俺の問いに一瞬考えるそぶりを見せ、簪とシャルロットはかぶりを振るが、その顔はまだまだ納得しないような訝しげな様子だった。

 

「「???」」

 

 その様子に俺と師匠が首を傾げるが、気を取り直して生徒会の仕事に戻る。

 

「てことは次の日曜までは颯太君はその『陽炎』を借りてるわけね」

 

「ええ。でも他の専用機持ってる人も自己修復とかでIS使えないんで一人でできる訓練には限りがありますけどね。この機会に知識面でも頑張りますかね」

 

「そう……なら私が見てあげよっか?」

 

 俺の言葉に師匠が訊く。

 

「いいんですか?」

 

「言いも何も私は颯太君の師匠だよ?どんどん頼ればいいのよ」

 

 と、にこやかに言いながら俺の肩をポンポンと撫でるような強さで叩く。

 

「っ!お、お姉ちゃん!わ、私も!私もその勉強会参加したい!」

 

「ぼ、僕もお願いしたいです!」

 

「お、俺はいいけど……どうした?急に大きな声出して」

 

「「べ、別に……?」」

 

 俺の言葉にふたりが声を揃えて否定する。

 

「わ、私たちもIS使えないし……」

 

「知識とか新たな発見とかできるかもしれませんし、是非僕たちも!」

 

「そう?じゃあみんなでやりましょう」

 

 師匠の言葉に二人がホッと一息つくように頷く。

 

 

 〇

 

 

 その後数分間みな言葉数も少なに黙々と作業し、机の上には書類の山ができていた。

 

「それじゃあ、私はこれを職員室に持って行ってくるわね」

 

「あ、俺も手伝いますよ。一人でその量は大変でしょ」

 

「あらそう?じゃあお言葉に甘えさせてもらうわね」

 

 立ち上がった楯無に颯太が言い、楯無が嬉しそうに微笑みながら頷く。

 

「それじゃあ私たちは書類持って行ってくるから。簪ちゃんとシャルロットちゃん、今日は手伝ってくれてありがとうね」

 

「い、いえ」

 

「このくらい大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

「うん。あ、虚ちゃん戸棚にしまってあるクッキーをふたりに出してあげて」

 

「はい、わかりました」

 

「それじゃあ、ちょっと行ってくるわ」

 

「んじゃっ」

 

 と、書類の山を手分けして持った颯太と楯無は生徒会室を後にした。

 

「……行ったね?」

 

「うん、行った」

 

「? どうかしたのか二人とも?」

 

 二人が出て行ったのを確認し神妙な顔つきで言うシャルロットと簪の言葉に伸びをしていた一夏が首を傾げる。

 

「ねえ一夏。あの二人、なんか変じゃなかった?」

 

「変?変ってどの辺が?」

 

「どこって……なんていうか……言葉にしづらいんだけど……」

 

 一夏の問いに二人は難しい顔をする。

 

「強いて言えば……」

 

「距離が近いって感じー?」

 

「「そうそれ!」」

 

 と、横でだらりと机に突っ伏していた本音の言葉に二人が強く頷く。

 

「そ、そうかな?」

 

 そんな三人の様子に一夏が首を傾げる。

 

「ん~……お嬢様って、いつもなら自分の机で作業するのに今日は私たちと一緒に、しかもぐっちーのとなりで作業してたしー、いつもよりボディータッチ多かった気がするよー?」

 

 本音に言われてもいまいちピンと来ていない一夏、しかし、シャルロットと簪は神妙な顔で頷く。

 

「あの二人、絶対何かあったよ」

 

「怪しい」

 




二人はそれほど気付いてないのに周りにはばれている、と言うか怪しまれている(;´・ω・)

そして今回の話で出てきた訓練機『陽炎』。
『火焔』とかいろんな武装を作れるほどの技術力ですし日本の量産機計画に参加していてもおかしくないかな……と思ったので。


さて、おかげさまで先日とうとうお気に入り件数が3200件突破です!
イエーイ!ドンドンパフパフ♪
と言うわけで次回は番外編です。
内容については多くは言いません。お楽しみにしていてください。
ただ次回予告っぽいことしたいんで、いれようと思っているセリフで内容を推察してみてください。
イメージははAngelBeats!の次回予告です。


~次回予告~

「あれ?颯太は?」

「ほ~らいい子でちゅね~」

「こ、これが母性というものか!?」

「ちょっと!胸で選んでんじゃないわよ!」

「なるほど、わからん」

「子どもと言うものはいいものですわね」

「ほ、ほ~ら。ち、ちーちゃんですよ~」

「今なら私、母乳出る気がするわ」

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