IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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続きです





お気に入り件数3200記念 「アポトキシン」 後編

 

「検査結果が出ました」

 

 あれから一夏たちの詳しい説明により、颯太の部屋で見つかった赤ちゃんの詳しい生体検査などが行われた。

 

「検査結果の結果この赤ちゃんは――井口颯太君本人と断定されました」

 

「やっぱり……」

 

 真耶の言葉を聞き、楯無、簪、シャルロットの三人は納得し、他の面々は驚きを隠せないという表情を浮かべ、千冬はただ黙って聞いていた。

 

「アブ?」

 

 ただ一人、真耶に抱っこされた件の人物、赤ちゃんとなってしまった颯太本人だけはキョトンと首を傾げながらミニカー遊びを再開していた。

 

「発達状況から察するに恐らく二歳児ほどと推察されます。もう自分で立って歩きまわるので少し目を離すとすぐどこかに行こうとします。相当好奇心旺盛のようで、検査中もちょっと目を離すとすぐに……」

 

「チャ~ンチャ~ン!」

 

 そう真耶が話す間も興味津々に真耶の眼鏡に手を伸ばす颯太。

 

「問題はこの状態の井口がどこまで自分のことを理解しているか、だな……」

 

「えっと、どういうことだ千冬姉ぇ?」

 

 神妙な顔で言う千冬に一夏が訊く。

 

「この状態の井口が高校生のところまでの記憶があるのか、自分が井口颯太16歳であるという自覚があるのか、私たちが誰なのかを理解しているのか、と言うことだ」

 

「な、なるほど……」

 

「まあ……」

 

 納得する一夏を尻目に千冬は颯太に視線を移す。

 

「ハイィ?」

 

「理解してなさそうだな……」

 

 ジッと自分を見つめる千冬に首を傾げる颯太の様子に千冬はため息をつく。

 

「とりあえず試してみませんか?私たちの名前を言って何か反応するかもしれませんし、もしかしたら何か思い出すかもしれませんよ?」

 

 真耶は言いながら颯太に自分の顔を指さしながら見せて、

 

「私は真耶です。山田真耶、ま・や!あなたの所属する一年一組の副担任ですよ?わかりますか~?」

 

「アブ?」

 

「この人は千冬先生。織斑千冬先生ですよ~?ち・ふ・ゆ!わかりますか?」

 

「ウゥ~……?」

 

「………やっぱりダメですかね……」

 

 キョトンとした顔で首を傾げる颯太の様子に真耶がため息をつく。と――

 

「ち…ちぃー……?」

 

『っ!?』

 

 首を傾げながら颯太の口から出た言葉にその場の全員が目を見開きながら詰め寄る。

 

「い、今なんて言った!?」

 

「『ちー』って言ったよね!?」

 

「もしかして織斑先生のこと!?」

 

「そ、颯太君?こ、この人は?この人はなんて言うのかなぁ~?」

 

 楯無が千冬の顔を指さしながら訊くと

 

「……ちー…?」

 

『喋った!?』

 

 颯太の言葉に全員が驚愕の表情を浮かべる。

 

「そ、そうです!ち・ふ・ゆ!千冬ですよ~!」

 

「ちー!ちー!」

 

 真耶の言葉に楽しそうにキャッキャッと笑いながら「ちー」を連呼する颯太の様子にみな顔をほころばせながら頷く。

 

「千冬とは言わないけど、これって『ちー』って千冬姉ぇのことで間違いなさそうだな!」

 

「これ、私たちのことも呼ぶんじゃない?」

 

 興奮した様子で言う一夏と鈴。

 

「ほ~ら、颯太く~ん?た・て・な・し!楯無だよ~!?」

 

「しゃ・る!しゃ・る・ろ・っと!シャルロットだよ、颯太~?」

 

「か、か・ん・ざ・し!簪……!」

 

「一夏だ、颯太!い・ち・か!」

 

「箒だ!ほ・う・き!言ってみろ?ほ・う・き!」

 

「セシリアですわ、颯太さん。せ・し・り・あ!」

 

「鈴よ!り・ん!言いやすいでしょ!?」

 

「ラウラだ。ら・う・ら!」

 

 みな口々に、言いやすいようにゆっくりと大きく口を動かしながら颯太に言い聞かせるように言う。が――

 

「アウ~?」

 

 颯太はキョトンとした顔で周りを見渡す。

 

「ダメか~!」

 

 その様子にみな残念そうにため息をつく。

 

「もう一回試してみよう――颯太~?この人は、誰だ~?」

 

「ウ~?ちー?」

 

「なんでか千冬さんだけ言うのね……」

 

 千冬を指さしながら訊くと「ちー」と言う颯太の様子に鈴が感心した様子で言う。

 

「でもなんで千冬姉ぇだけ……はっ!まさかこの子、颯太じゃなくて本当は千冬姉ぇの隠し子とかなんじゃ……!?」

 

「そんなわけないだろう、馬鹿者が!」

 

「ぎゃふん!」

 

 一夏の言葉に千冬が一夏の頭に拳骨で殴る。が――

 

「フゥゥ……ウゥ……」

 

 その様子に颯太が目を見開き、その顔をどんどんと崩していき泣きそうな顔になっていく。口からは徐々に嗚咽が漏れ始める。

 

「あぁ!今の織斑先生の拳骨で颯太君が!」

 

「お、お~よしよし~!大丈夫ですよ~!怖くないですよ~!」

 

 楯無が言い、真耶も慌ててあやすが颯太はどんどん破顔させ、その眼に涙があふれてくる。

 

「せ、先生!織斑先生!は、速く!速く何か言ってあげてください!」

 

「な、何故私なんだ!?」

 

 シャルロットの言葉に千冬が慌てたように言う。

 

「千冬さんが一夏を殴ったせいなんですから!」

 

「先生が何か言えば収まるかもしれないじゃありませんか!?」

 

「ぐっ……それは……!」

 

 鈴とセシリアの言葉にいたいところを突かれたと顔を苦悶の表情を浮かべる。

 

「ほ、ほら、千冬さん!」

 

「は、速くしないと颯太が泣き出してしまいますよ教官!」

 

「~~~~!わ、わかった!やればいいんだろう、やれば!!」

 

 箒とラウラにさらに言われ観念した千冬は颯太の正面に立つ。

 

「そ、その、井口?こ、これはその…コイツが悪くてだな……別に私がいじめた訳では……!」

 

「フゥゥ…ふぇぇぇ……!」

 

「っ!?~~~!!あぁ~もう!い、一夏!こ、来い!こっちに来い!」

 

「えっ!?あ!はい!!」

 

 言い訳をしつつも泣き止まず、さらに泣きそうな顔になる颯太の様子にさらに慌てた千冬は観念したのか、急いで一夏を呼び寄せる。

 

「くぅ……そ、その…す、すまなかった…少しやりすぎた……!」

 

 憎々しげに言いながら先ほど殴った一夏の後頭部のあたりを撫でる千冬。

 

「ほ、ほら!こ、これでどうだ!?」

 

 千冬が急いで颯太の方を見ると

 

「ウゥ……ぅ……」

 

 少し嗚咽を漏らしながらもその表情を戻していく颯太。

 

『はぁ~……』

 

 やっと泣き止んだ颯太に全員が揃ってため息をつく。

 

「あ、危なかった……泣かれたらどうしようかと思った……」

 

「っ!も、元はと言えばお前が~~!!」

 

「ふえぇっ!」

 

 ため息をつきながら呟く一夏をギロリト睨む千冬の表情に再度颯太が泣きそうな顔になる。

 

『お、織斑先生!』

 

「ほ、ほ~ら!べ、別に怒ってないぞ~!」

 

 颯太に引き攣った笑みを浮かべながら千冬が言うと颯太は落ち着いたのか表情を戻していく。

 

「そ、颯太の前でヘタなことできませんね……」

 

 簪が疲れた表情で言い、みなため息をつきながら頷く。そんな中一人、一夏だけは神妙な表情で颯太を見ている。

 

「……おい、織斑。貴様、今『もしかして颯太が一生このままなら、俺このまま千冬姉ぇに怒られずに済むんじゃないか?』とか考えているだろ?」

 

「っ!?べ、別にそんなこと……すみませんちょっと考えました!」

 

「ほう?織斑、貴様……!」

 

「ふえぇぇ……」

 

『織斑先生!!』

 

「ほ、ほ~ら。ち、ちーちゃんですよ~。べ、別に怒ってないよ~!」

 

 半ばヤケクソ気味に引き攣った笑みを浮かべながら颯太をあやそうと必死になる千冬の姿に誰もが目を逸らしたという。

 

 

 〇

 

 

 その後、疲れたと言って自室に引っ込んだ千冬と幼児化した颯太のために必要なものを揃えに行くと真耶が去って行ってから一時間ほどしたころ。

 

「ウゥゥ……ふえぇぇ……」

 

 再び颯太がぐずりはじめていた。

 

「ほ、ほ~ら颯太く~ん?泣かない泣かない!」

 

「ほら!颯太の好きなミニカーだよ~!」

 

「ほ~ら、見て見て~!可愛いウサギさんだよ~!」

 

『颯太君、泣かないで~!一緒に遊ぼうよ~!』

 

 楯無、シャルロット、簪は泣きそうな颯太を全力であやそうとする。

 簪は自分で用意したパペットの片目に眼帯をしたウサギ、通称「かんちゃん」をパクパクと動かしながら腹話術であやそうとするも、一瞬そのウサギを見て、しかしすぐに泣きそうになる。

 

「だ、ダメだ!さっきまでこれでどうにかなってたのに!」

 

「な、なにか別に理由があるんじゃありませんの!?」

 

「と、トイレとかか!?」

 

「で、でもまだ何も食べてないし……あぁ!!」

 

 箒とセシリア、ラウラが口々に言う中、鈴がふと何かに気付いたように叫ぶ。

 

「そ、そうよ!お腹すいてるんじゃない!?よく考えたら颯太って朝から何も食べてないんじゃない!?」

 

「た、確かに!」

 

 鈴の言葉に簪が頷く。

 

「で、でも何を食べさせたら!?このくらいの子が食べられるようなものなんてここにはないよ!?」

 

 慌ててみなで手分けして戸棚などを探すが、出てくるものと言えばポテトチップスや炭酸ジュースなどジャンクな食べ物ばかりである。そんな中――

 

「仕方がない……私に任せて!」

 

 そんな中、楯無が神妙な顔で言う。

 

「お、お姉ちゃん!何かあるの!?」

 

「任せて!――よいしょ…っと」

 

 自信満々に頷いた楯無は、おもむろに上に来ていた服を脱ぎ始める。

 

「って、何してるんですか楯無さん!?」

 

 シャルロットが慌てて言い、箒とセシリアと鈴とラウラが急いで一夏を殴って蹴って叩いてビンタして無理矢理部屋から叩き出す。

 

「え?何って…授乳?」

 

「無理に決まってるじゃないですか!」

 

「大丈夫。今、私は颯太君への母性で溢れているわ、もはや本当のお母さんと言っても過言ではないくらいに。今なら私、母乳出る気がするわ」

 

「出るわけないでしょ、お姉ちゃん!」

 

「速く服を着てださい!」

 

「ちぇ~……」

 

 渋々と言った様子で服を着直す楯無。

 

「でもどうしよう!今の颯太が食べられるようなものは無いし……」

 

「やっぱり私の母乳で――」

 

『それはもういいですから!』

 

 また服の裾に手を掛ける楯無に全員で叫びながら言う。と――

 

「いや~お待たせしました!今の井口君用の服を用意してきましたよ!あとオマルと一応おむつ!あとそろそろお腹減ってるんじゃないかと思って赤ちゃん用の離乳食を食堂で作って来てもらいました!」

 

『山田先生!』

 

 両脇に大きな袋を抱え、手にお盆を持って現れた真耶の姿は彼女たちには救世主(メシア)に見えたという。

 

 

 〇

 

 

 

「はぁ……今日は疲れましたね」

 

 その日の夜。昼食後も何度もグズるわがままな颯太に引っ張りまわされたメンバーは夕食後、颯太の面倒を楯無と簪とシャルロットの三人に任せ、各々疲れた様子で自室に帰って行った。

 疲れた表情でつぶやくシャルロットの言葉に楯無と簪が頷く。

 

「しかし…結局元に戻らなかったわね……」

 

「原因も…わからずじまい……」

 

 疲れた顔で三人がベッドの上に視線を向ける。

 ベッドの上では颯太が機嫌よくミニカーで遊んでいる。

 午後からも追加でいくつか検査をしたが、結局新たに分かったこともなく、なぜ颯太が幼児化したのかは謎のままである。

 

「このまま戻らない……なんてことになったらどうしましょう……」

 

「「…………」」

 

 シャルロットが心配そうにつぶやく。

 

「もしそうなったら……」

 

 神妙な顔で頷いた楯無は

 

「もしそうなったら、仕方がない、私が責任をもって育てるわ」

 

「「………はぁ!?」」

 

 楯無の言葉に簪とシャルロットは呆然と声を漏らす。

 

「ちょ、ちょっと楯無さん!?何言ってるんですか!?」

 

「私、颯太君を育てる!」

 

「あ、この顔、本気だ……」

 

 楯無の力強い言葉に簪は呟く。

 

「安心して二人とも!」

 

 呆れ顔の二人に力強く頷きながら楯無は言う。

 

「大丈夫!私『源氏物語』全巻原文で読んだから!」

 

「それのどこが大丈夫なんですか!?」

 

「お姉ちゃん、颯太を自分好みに育てる気だ!颯太を自分の〝紫の上〟にする気だ!」

 

「大丈夫!颯太君が18歳になっても私まだ33歳だから!まだまだ女盛りだから!」

 

「何が大丈夫かわからないんですけど!?」

 

「考え直してよお姉ちゃん!」

 

 変な方向に思考が飛んでいる楯無を引き戻そうと両側から揺するシャルロットと簪。

 そんな三人を現実に戻したのは

 

「クアァァァァ……」

 

 大きく欠伸をしながら目を擦る颯太だった。

 

「あ、颯太もうおねむ?」

 

「もう赤ちゃんには遅い時間だもんね……」

 

「そうね。もう寝ましょうか」

 

 三人は頷き、颯太をベッドに寝かせ、タオルケットを掛ける、が――

 

「うぅぅ!」

 

 まだ寝たくない、と言わんばかりにタオルケットを蹴飛ばす颯太。

 

「えぇ~?さっきあんなに大きな欠伸してたのに……」

 

「どうしたら寝てくれるのかしら……」

 

「子守歌、とか?」

 

 簪が言うと、三人は顔を見合わせ、

 

「ね~むれ~♪ね~むれ~♪」

 

「うぅぅっ!」

 

「ね~んね~ん~♪ころ~り~よ~♪」

 

「うぅぅっ!」

 

「ゆ~りかご~のう~た~を~♪」

 

「うぅぅっ!」

 

 三人がそれぞれ順番に歌っていくが、どの歌も気に入らないのか颯太が暴れる。

 

「どれもダメなんて……」

 

「いったい、どうすれば……?」

 

 シャルロットと簪がため息をつく。

 

「逆に大きい颯太君が好きだった歌を歌ってみるとか?」

 

「それ効くんですかね?」

 

 楯無の提案にシャルロットが首を傾げる。

 

「とりあえずやってみましょう?最近颯太君がよく聞いてる曲って何かないの?」

 

「あ…それなら私、一つ心当たりがある……」

 

 と、簪がおずおずと手を上げる。

 

「それじゃあ簪ちゃん、それ歌ってみて」

 

「う、うん……ちょっと待ってね……」

 

 頷いた簪はポケットから携帯を取り出す。

 

「ンンッ!それじゃあ…歌うね?」

 

 一つ咳払いをした簪は携帯を操作する。簪の携帯からアップテンポの曲が流れ始め――

 

「(~~♪アガッタビリー)宝生永夢ゥ!なぜ君が適合手術を受けずに、エグゼイドに変身できたのか、なぜガシャットを生み出せたのか、なぜ変身後に頭が痛むのくわぁ!(アロワナノーシラナイクライガイイノニワイワイワーイ)その答えはただ一つ、アハァー…(トマラナーイ)宝生永夢ゥ!(カーンジルコノヨカンハー)君が、(ザニュービーギーニン)世界で初めて、バグスターウイルスに、感染した男だからだー!ヴァーハハハハハハハハハハハハァハーハハハハハハハハハハハァーーー(ターカーナールーエキサイエキサイコーコーローガーミーチビークアノーバショーヘーカーケヌーケ)僕が・・・ゲーム病?(ッヘーイアマラメッシェンライナウッヘーイアマラメッシェンライナウエキサーイ)嘘だ・・・僕を騙そうとしてる…(エキサイエキサイ)あっうっ(コーターエーハー)頭がっ(ワーンコノテノナカーススンデクラーイフイキテクダケー)」

 

「って寝れるかぁぁぁぁ!!」

 

 簪の携帯を楯無がもぎ取り、シャルロットが叫ぶ。

 

「簪ちゃん!選曲!!」

 

「でも…颯太最近ヒマなときには、You〇ubeでこの動画ばっかり見てるし……」

 

「だからって、この曲はいくら何でも……颯太だってこれじゃあ寝れな――」

 

「……zzZ……zzZ……zzZ」

 

「……寝てるわね」

 

 三人で視線を向けた先には同じテンポで胸を上下させ、何の以上も感じられない寝息を立てる颯太の姿があった。

 

「………なんか…ドッと疲れて来たわね」

 

「………僕たちも寝ます?」

 

「………寝よう」

 

 三人は頷き合うとゴソゴソと一人分には大きな、その颯太の眠るベッドに三人で寝転がり、瞼を閉じた。

 そのまま、一分もたたないうちに部屋には四人分の寝息が聞こえ始めた。

 

 

 〇

 

 

 

「で?どういうつもりだ?」

 

『も~!電話に出るなりそれは何、ちーちゃん?』

 

 深夜、千冬は学生寮の屋上で携帯電話の向こうの人物に言う。

 

「しらばっくれるな。人を一人幼児化させるなんて芸当、お前以外に誰ができると言うんだ?え?――束?」

 

『たははは~、やっぱりバレちゃった?』

 

 千冬の電話口からはまったく悪びれた様子のない女性の声、篠ノ之束の朗らかな声が聞こえてきた。

 

『いや~、ね?この間暇つぶしに名探偵コ〇ン一話から見返してさぁ~。そしたら出て来たあの薬作ってみたくなっちゃったんだ~』

 

「一応理由を訊こうか?」

 

『うん。なんとなくロリちーちゃんやロリ箒ちゃんやショタいっくんが見てみたくなって』

 

「そんな理由で……」

 

『あ、もちろん安心して!あんな高確率で死んじゃうような毒じゃなくて、ちゃんと100%若返る完成版だから!』

 

「じゃあ何故我々ではなく井口に使った?」

 

『ほら、ちゃんと完成したか人体実験しとかないと危ないじゃん?』

 

 まったく悪びれる様子の無い声で言う束にため息をつく千冬。

 

「で?アレの効果はいつまでなんだ?ちゃんと元に戻るんだろうな?」

 

『あったりまえじゃない!私を誰だと思ってるの?この稀代の天才篠ノ之束さんが元に戻れないような不良品を作るわけないでしょ~!それにあれは試供品みたいなものだからね~。効果はそれほど長続きしないんだよ。せいぜい24時間かなぁ~。たぶん朝には戻ってると思うよ~』

 

「そうか」

 

『次はちゃんと完成した薬持って行くから楽しみにしててね~』

 

「来なくていい!!」

 

 電話口に叫んだ千冬は乱暴に通話を切り、携帯を握り潰さんばかりに睨みつけた後、大きくため息をついたのだった。

 

 

 〇

 

 

 朝。

 ぼんやりとする頭が徐々に覚醒していく。

 なんだか体が重い、両手足がまるで拘束されたように自由に動かない。しかもそのくせやけに心地よい柔らかさに包まれている気がする。

 これは風邪かな?なんて思いながらゆっくりと目を開ける。

 目の前には見慣れた天井。

 そのままゆっくりと視線を巡らせ――

 

「は?」

 

 俺の目は信じられない光景を捉える。

 

「「「……zzZ……zzZ……zzZ」」」

 

 俺の右腕にシャルロットが、左腕に師匠が、俺の両足を抱き枕に簪が、三人がそれぞれ抱き着いて寝息をたてていた。

 さらに驚愕だったのだが

 

「なんかスースーすると思ったら……裸や!!」

 

 何故か俺は全裸だった。

 いや、マジで何故!?Why!?

 

「「「ん……」」」

 

 俺の叫びに三人がほぼ同時に身をよじりより強く抱き着いてくる。

 それと同時により強く感じる柔らかな感触。

 

「ダ、ダレカタスケテェェェェェ!!!」

 

 朝から思考の限界を超えた俺。

IS学園の寮に俺の叫び声が響き渡り、数分後にやって来た織斑先生にそれはそれはきつく怒られたのは言うまでもない。

 と言うかいつもより5割り増しくらい強く、まるで「あの時の恨み!」とでも言わんばかりの顔で殴られた気がする。――何故?

 




と言うわけで颯太君の幼児化は無事解決です。
ちなみに颯太君は一連の幼児化に際しての記憶はありません。
なので自分が幼児化していたことも、鈴を含めた女性陣をおっぱいで選別していたことも、織斑先生を「ちー」と呼んでいたことも、楯無さんに授乳されそうになったことも、その他下の世話も含め色々世話をされたことも何もかも覚えていません。

颯太「俺、下の世話されたの!?」

あ、颯太。
そりゃそうでしょ?2歳児とはいえ幼児なんだから。
自分でおむつ変えられる?
オマルでしたモノを自分で処理できる?

颯太「そりゃできないけど!」

他にも実は三人にお風呂に入れられたりもしてるけど、幼児とはいえ男の入浴シーン書いても…ねぇ?

颯太「風呂までいれられたのかよ!?もうアチシお嫁にいけない!!」

落ち着け、お前が行くのは婿だろ。

颯太「さ、最後に訊かせろ!?感想でもたくさん来てたけど、なんで楯無さん俺の股関節のところにホクロが三つあるって知ってたの!?」

え?それ訊いちゃう?訊いちゃう?
世の中には知らない方がいいこともあるよ?
ここは未来人の颯太くん(大)が教えてくれたってことでいいんじゃない?

颯太「納得できるか!?朝比奈さんの星型のホクロかよ!?自分でも知らなかった、しかも超際どい位置のホクロの位置知られてるとか怖すぎんだろ!?」

え~……もう、しょうがないなぁ~
じゃあ教えてあげるよ。
ミュージックスタート!
ピロロロロアガッタビリー井口颯太ァ!なぜ君のホクロの位置を、君の師匠が知っていたのか――

颯太「そのネタはいいから!普通に話せ!」

えぇ~……
わかったよ~
なんで颯太君のホクロの位置を楯無さんが知ってたかって言うと――

ピンポ~ン

颯太「ん?客か?ちょっと待ってろ。――は~いどちらさまで――ウワ!ナニヲスル!ヤメロ!ワァ!」

あれ?颯太?

???「世の中には触れてはいけないアンタッチャブルがある」

お、お前は!?
や、やめろ!僕は何も言わない!
僕は何も知らない!
お、おい!待ってくれ!
そ、それではみなさん!ここまで応援ありがとうございました!
これからも応援よろしくお願いします!
僕が無事だったらまた次回!

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