IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

143 / 309
第122話 密かな夢

「えっと、つまりあれか?君は同じく人質にされていた布仏虚が友人の男性との仲が上手くいくように強盗のふりをして一芝居うとうとしていたと。あの時被っていたストッキングはその変装用だった、と?」

 

「ええ…まあ……そうです、はい」

 

 警察署の一角、取調室にて俺と警部補の御剣橙悟さんが一つの机を挟んで向かい合っている。

 と言うか俺の人生の中であのドラマとかでよく見る取調室に入って警察官に取り調べされるとは思わなかった。

 この部屋に入る前に所持品はほとんど、携帯と財布はもちろん『火焔』もウォークマンも持ってたラノベも取り上げられた。

 ちなみにストッキングを被っていた俺が相当怪しかったのか、取調室に連れてこられたのは俺だけで師匠たちや虚さんたちは別室で普通に事情聴取だけ受けているらしい。

 

「はぁ……だからってなんでストッキングにした?他にいくらでも変装に使えるものはあっただろ?」

 

 心底めんどくさそうにため息をつきながら鋭い視線をさらに細めて俺を見る御剣さん。

 

「俺も別に好きでストッキングにしたんじゃないんですよ。ただ近くにちょうどよくそういうもの売ってる店がなかったんですよ。ドン・〇ホーテとかあったらそこで適当なマスクでも買ったんですけど」

 

「そのストッキングはどこで手に入れた?まさか初めから持って――」

 

「違います!あの二人がデート中にコンビニ寄ったんでその時に俺もこっそりコンビニで買いました!レジの女子店員にめっちゃ白い目で見られました!」

 

「はぁ~……」

 

 眉間に手を当てながら大きくため息をつく御剣さん。

 と、ノック音とともに先ほど御剣さんとともに来ていた君原茶々さんが入ってくる。

 

「失礼します、ツルさん」

 

 言いながらちらりと俺を見るので愛想よく笑顔を向けると睨むとも笑顔を返すともなく、無表情で視線を御剣さんに戻す。

 

「彼の身元の確認が終わりました。申告と他の彼の友人たちの証言通り、彼の名前は井口颯太、16歳。今年の二月に発見された最初の男性IS操縦者、織斑一夏の発見と同時に世界的に行われた検査によって発見された唯一の事例、世界で二人目の男性IS操縦者です。四月からIS学園の1年1組に所属し、五月から日本のIS関連会社『指南コーポレーション』所属として所属IS操縦者として活動しているようです」

 

「だからそう言ってるじゃないですか」

 

「悪いがこういうことはしっかりと裏付けとして確認を取らないといけなくてな」

 

「警察も大変ですね。で?どこに確認とったんですか?」

 

「IS学園と指南コーポレーションよ」

 

 俺の問いに君原さんが答える。

 その答えに俺の頭に一瞬嫌な予感がよぎる。

 

「………ちなみにIS学園に確認したって、誰が対応したんですか?」

 

「あなたの担任の織斑千冬と言う人ね」

 

「へぇ?初代ブリュンヒルデじゃないか」

 

 君原さんの言葉に御剣さんが少し驚いた様子で言う。

 

「………あ、あの、先生何か言ってました?」

 

「ええ。伝言を頼まれているわ」

 

「なんて?」

 

「えっと、『帰ったら私の部屋に来い。話がある』だ、そうよ」

 

「oh……!」

 

 思わず外国人のような反応をしながら俺は机に突っ伏す。

 

「………あの俺って今日この後はこのまま警察署に泊まるとか」

 

「いや、確認も取れたし、あまり褒められたことではないが今回は厳重注意でこのまま解放だ。お勤めご苦労さん」

 

「そんなこと言わずに!このまま帰ったら織斑先生にぶっ殺されます!いや!むしろ死よりも恐ろしい特訓と言う名の体罰をされてしまう!」

 

「よかったな。先生の愛の鞭だ」

 

「先生の指導には愛を感じないんですよ!」

 

 御剣さんの言葉に叫ぶがどこ吹く風でひらひらと手を振って話を聞いてくれない。

 

「……わかりました。ここは素直に帰りましょう。しかし!どうせならここで俺の前から密かに抱いていた夢を叶えさせてください!」

 

「は?」

 

「夢だぁ?」

 

 俺の言葉に君原さんと御剣さんが怪訝そうな顔をする。

 

「はい!俺の秘かな夢、それは!」

 

 俺が少し間を空け、もったいぶり

 

「カツ丼ください!」

 

「「………はぁ?」」

 

 俺の言葉に二人が「何言ってんだこいつは?」と言いたそうな顔になる。

 

「だから!カツ丼です!刑事ドラマでよくあるじゃないですか!取り調べでカツ丼出すシーン!俺の平凡な人生の中で警察の取調室に入ると思ってなかったんで、このままもう一つの夢!取調室でカツ丼を食べてみたいんです!てなわけでカツ丼を!」

 

「「……………」」

 

 俺の言葉に御剣さんはめんどくさそうに、君原さんは謎の生物を見るようにジト目を向けてくる。

 

「あの、あなた状況わかってます?」

 

「はい?」

 

 君原さんの問いに俺は首を傾げる。

 

「俺の状況……学園の先輩の恋愛の手助けのためにしようとした作戦が失敗に終わり、なぜかそのまま強盗の人質になって、結果的に先輩は恋愛大成功だけど、俺の作戦のせいで俺は不審者として警察に取り調べ、ですかね?」

 

「わかっているなら――」

 

「それはそれとしてお腹がすいたのでカツ丼が食べたいです!」

 

「なっ!?」

 

 俺の言葉にポカンと呆れ顔になる君原さん。

 

「あなた……肝が据わってるのか、バカなのかどっちなんですか?」

 

「賢くはないと自負してます!」

 

 元気よく答えると君原さんが大きくため息をつく。

と、君原さんが離しだす直前に電話に出ていた御剣さんが携帯を懐に仕舞う。

 

「おい、井口颯太。会社の迎えが来たそうだぞ。お友達と一緒にとっとと学校に帰れ」

 

「カツ丼は――」

 

「出ねぇし出さねぇ」

 

「えぇ~!俺の密かな夢が!」

 

「うるせぇ。夢とかはいいからとっとと帰って先生にお説教されてろ」

 

「……はい、わかりました」

 

 俺はしぶしぶ頷きながら席を立つ。

 

「………もう二度と警察の世話になるなよ」

 

 扉に手を掛けたところで背後から御剣さんに声を掛けられる。

 俺はその言葉に足を止め、一瞬考えてから

 

「そうですね。お仕事お疲れ様です」

 

 ニッコリと笑みを浮かべてそう答えると、俺はドアを開けて廊下に出た。

 

 

 〇

 

 

 

「彼、なんなんですか?」

 

「……何、とは?」

 

 御剣と君原は取調室に残り話をする。

 君原は机の近くに立ち、御剣はドア脇の壁に背を預けて立つ。

 

「なんと言うか変に肝が据わってるかと思えば、取調室に通されたときには年相応に驚いていたようですけど、かと思えばカツ丼が食べたいなんて……」

 

「お前が身元確認したんだろ?俺に訊くよりお前の方がよく知ってんだろ?」

 

「そうですが……」

 

 御剣の言葉になんとも言葉にしずらそうにする君原。

 

「お前はどう思ったんだ?」

 

「それは……確かに変なところはありましたけど……やっぱり普通の男子高校生なのかと。変に思えたのはIS学園と言う環境のせいかと……」

 

「じゃあそうなんじゃないか?」

 

「でも…なんだかうまいく言えませんけど!彼は普通に見えて何かあるような気がして……」

 

「…………」

 

 御剣は大きくため息をついて頭をガシガシと掻きむしり

 

「俺も話す感じでは違和感はなかった。歳相応の男子高校生。ちょっと言動におかしな点があるのも自分と織斑一夏以外が女と言う環境のせい、とも思えた」

 

「じゃあやっぱり――」

 

「――ただ」

 

 間を置いて口を開く御剣。

 

「あいつの、あの最後の言葉を言ったときのあの目……あの目はまるで………」

 

『そうですね。お仕事お疲れ様です』

 

 そう言ってニッコリと微笑んだ颯太の顔を、目を思い出しながら御剣はスーツ内ポケットに手を入れる。

 

「あの目が、どうしたんですか?」

 

「………いや、なんでもない」

 

 言いながらスーツの内ポケットから煙草とライターを取り出し煙草を一本咥える。

 

「……禁煙したんじゃなかったんですか?」

 

「――チッ、また禁煙失敗だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、颯太?」

 

「……なんだ、シャルロット?」

 

「こうし始めて何分経った?」

 

「………一時間くらいかね」

 

「ねえ、颯太…」

 

「なんだ、簪?」

 

「そろそろ私、脚が…限界……無理……」

 

「奇遇だな。俺も開始二十分くらいから脚の感覚がないんだ」

 

「ねえ、颯太君?」

 

「なんですか、師匠?」

 

「なんで私たちも正座させられてるの?取り調べを受けたのは颯太君だけでしょ?」

 

「連帯責任って言ってたでしょ?作戦たてたのは俺だけど、実行したのはここにいる四人だってことで」

 

「だからって、食堂の入り口で3時間正座って……」

 

「そ、そろそろみんなの視線が……」

 

「脚が…無理……」

 

「このパターンは初めてだよね~、アハハハハハハハ~」

 

「笑い事じゃないわよ!」

 

「明日には笑いごとになってますよ」

 

「まだ今日なんだけど!?しかも現在進行形!」

 

「人間苦しい時ほど笑わないと」

 

「脚が…限界……!」

 

「耐えろ簪。後2時間!苦しくなったらアレを見ろ」

 

「「「アレ?」」」

 

「そっ。アレ」

 

「アレって……」

 

「虚先輩ですね」

 

「なんだか楽しそうに携帯見てるわね」

 

「あんな笑顔…初めて見た……」

 

「もしかして……」

 

「そそっ。多分お察しの通りじゃないかな?」

 

「「「…………」」」

 

「あの顔見たら、このくらい屁でもない気がしません?俺らが頑張ったから今虚先輩はああして笑っていられる」

 

「……そうね」

 

「普段お世話になってる虚先輩がああして笑ってくれるなら」

 

「このくらい…我慢する……!」

 

「よっし!あと1時間55分!」

 

 

 

 

 

 あれ?でもよく考えたら俺たちの作戦って結果的にはあんまり役に立って無かったよね?と、言うことに気付いたのは3時間の正座が終わり、ほとんど人のいない食堂で四人で夕食を食べているときだった。

 ――だったが、言うと俺たちの3時間の心の支えが脆く崩れ去るので、俺はそれを口にすることはなかった。

 言うことはなかったが、きっとほぼ同じタイミングで三人も同じことに気付いたようだった。

 食堂には俺たち四人分の食器の音が虚しく響いたのだった。

 

 




ちなみに前回と今回登場した警察官の御剣さんと君原さんにはモデル……というかある漫画からそのまんま引っ張って来てます。
あれ?この二人……でもなぁ、偶然同じ名前なんだな、と思ったそこのあなた!
正解です!



さて、第三回質問コーナー!
今回の質問はizuさんからいただきました!
「たっちゃんと簪とシャルに質問です 颯太君の何気ない仕草で、ドキドキすることは
ありますか?また、それは、どんな仕草ですか」
という質問ですが……お三方、どないですか?

楯無「そりゃ、あるわよ」

簪「ある」

シャルロット「僕もそれは…うん」

それはどんな仕草?

簪「颯太って、自分の好きな物、アニメとか漫画とかプラモデルとか、とにかくそういうものの話する時、子どもみたいに楽しそうに話すの。その表情と普段の頼れる感じとのギャップが……すごくいいと思う」

楯無&シャルロット「わかる!」

シャルロット「僕はあれかな。颯太って教室とかどこでも僕と別々のところで別のことしててふと顔を上げた時とかに視線があったときとか、ニコッと人懐っこい感じで笑うんだよね。あの感じが…なんとも言えない感じで」

楯無&簪「わかる!」

楯無「私はあれね。四月から少しずつ颯太君を鍛えてたおかげか、春に比べて颯太君体つきがよくなったのよ。そのおかげか、颯太君が何か重いもの持つときに腕まくりした腕に見える筋とかがっちりした感じが…もう、ね?」

簪&シャルロット「わかる!」

だ、そうです!izuさん!
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。