IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第124話 オタクのロマン

 

「では、状況を説明する」

 

 IS学園の地下特別区画、オペレーションルーム。

 本来なら俺たち一般生徒は例外なく、その存在すら知ることのない場所に、現在俺を含めた今IS学園にいる専用機持ちのメンバーが集まっていた。

 俺、そして箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、師匠が並び、その前には織斑先生と山田先生が立っている。

 このオペレーションルームは完全に独立した電源で動いているらしく、ディスプレイにはちゃんと情報が表示されている。が、そのディスプレイは最新の空中投影型ではなく数世代前のディスプレイだった。

 どこぞのアニメとかで出て来そうな秘密基地や作戦本部のようで、緊急時に関わらず若干興奮してしまう。

 が、俺の横でこっそりと周りを見ていたらしいセシリアと鈴が織斑先生に注意される声に気を引き締める。

 そうこうしていると山田先生が一歩前に出て改めて状況の説明を始める。

 

「現在、IS学園ではすべてのシステムがダウンしています。これはなんらかの電子的攻撃……つまり、ハッキングを受けているものだと断定します」

 

 山田先生の声も緊張のためかいつもよりも堅い気がした。おそらく俺たち一般生徒がこの部屋に入るという状況そのものが今の緊急性の証明なのだろう。

 

「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められることはあっても、命に別状があるようなことはありません。すべての防壁を下ろしたわけではなく、どうやらそれぞれ一部分のみの動作のようです」

 

 だからトイレにも行けますよ、と冗談めかして山田先生が言うが、状況が状況だけに誰も笑わない。

 

「あ、あの、現状について質問はありますか?」

 

「はい」

 

 ラウラが挙手する。相変わらずこういう時の行動に迷いがない。

 

「IS学園は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされることなどあり得るのでしょうか?」

 

「そ、それは……」

 

 ラウラの質問に困ったように視線を横に向ける山田先生。それを受けて織斑先生が口を開く。

 

「それは問題ではない。問題は、現在なんらかの攻撃を受けているということだ」

 

「敵の目的は?」

 

「それがわかれば苦労はしない」

 

 確かにそうか、と納得したように頷き、ラウラは質問を終えた。

 俺を含め、他に質問をする人はいなかったので、山田先生が作戦内容の説明に移行した。

 

「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップを、井口君には別件がありますので残ってください」

 

 スラスラと山田先生の告げる言葉に俺は呆然とする。他のメンバーも驚いているようだ。

 何の反応もないことに不審に思ったのか、山田先生が首を傾げる。

 

「あれ?どうしたんですか、皆さん」

 

 キョトンとする山田先生に師匠を除く全員が口をそろえて訊く。

 

『で、電脳ダイブ!?』

 

「はい。理論上可能なのはわかっていますよね?ISの操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化しての侵入ができる……あれは、理論上ではないです。実際のところ、アラスカ条約で規制されていますが、現時点では特例に該当するケース4であるため、許可されます」

 

「そ、そういうことを聞いてるんじゃなくて!」

 

 鈴がぶんぶんと拳を縦に振る。

 

「そうですわ!電脳ダイブというのは、もしかして、あの……」

 

 セシリアが困惑気味に言うと、シャルロットが続ける。

 

「個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、電脳世界へと侵入させる――」

 

「それ自体に危険性はない。しかし、まずメリットがないはずだ。どんなコンピューターであれ、ISの電脳ダイブを行うよりもソフトかハードか、あるいはその両方をいじった方が早い」

 

 ラウラの言い分に、簪が付け加える。

 

「しかも……電脳ダイブ中は、操縦者が無防備……。何かあったら、困るかと……」

 

「へ~……そんなことできたんだ~」

 

『いや、お前(颯太〔さん〕)も専用機持ちだろ(でしょ)!?』

 

 最後に言った俺の言葉に同級生の専用機持ちメンバーが全員でつっこむ。

 

「いや、だって会社の人も教えてくれなかったし」

 

「でも、お姉ちゃんが教えてなかったの……?」

 

「あ、そう言えば、颯太君が変に興味持たないようにあえて教えてなかったわ」

 

 思い出したように師匠が言う。

 

「なんでそんな面白そうで最高にロマンのあること教えてくれなかったんですか?」

 

「さっきも山田先生が言ってたように、条約で制限されてるからよ。あと、ちゃんとした専用のシステムがないと危ないしね」

 

「なるほど……」

 

 師匠の言葉になんとなく納得する。確かにそんなこと聞かされていたらいの一番に挑戦していただろう。

 マト〇ックスとかSA〇とかオタクのロマンなのでものすごく興味ある。というかやりたい!

 

「はい!織斑先生!」

 

「なんだ?」

 

「俺も電脳ダイブのメンバーに立候補したいです!」

 

「ダメだ」

 

「なんですと!?」

 

 無慈悲に却下さる。

 

「さっきも言ったようにお前には別件でやってもらうことがある」

 

「そんな……オタクのロマンが……」

 

 俺は膝から崩れ落ちる。

 

「で、ですが、本当にやるんですか?一か所に専用機持ちを集めるというのは、やはり危険ではないでしょうか?」

 

 心配そうな顔で箒が言うが、織斑先生はすっぱりと言い切る。

 

「ダメだ。この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。異論は聞いていない嫌ならば、辞退するがいい」

 

「はい!みんながいかないらここはぜひ俺に――」

 

「お前はダメだ」

 

「ガッデム!」

 

 織斑先生の迫力に全員が気圧されているので俺が再度立候補するが、スパッと切り捨てられる。

 

「い、いや、別にイヤとは……」

 

「ただ、ちょっと驚いただけで……」

 

「で、できるよね。ラウラ?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「ベストを尽くします……」

 

「や、やるからには、成功させてみせましょう」

 

 それぞれが同意したのを確認し、織斑先生がパンッと手を叩いた。

 

「よし!それでは電脳ダイブをはじめるため、各人アクセスルームへ移動!作戦を開始する!」

 

 その檄を受け、箒たちはオペレーションルームを出る。

 

「――だからお前は残れと言っただろ」

 

「ぐえっ!?」

 

 こっそりと箒たちの後をついて行こうとした俺は服の襟を掴まれのどが絞まる。

 オペレーションルームに残ったのは俺の他に師匠と織斑先生、山田先生だった。

 

「さて、お前たちには別の任務を与える」

 

「なんなりと」

 

「はい」

 

 いつものふざけた様子の無い師匠に、これはふざけてはいけないと俺は姿勢を正す。

 

「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやって来るだろう」

 

「敵――、ですね」

 

 織斑先生と師匠の言葉でなんとなく俺が残された理由を理解する。

 

「なるほど。だから俺が残されたわけですか」

 

「ああ。今のあいつらは戦えない。悪いがお前たちに頼らせてもらう」

 

「任されましょう」

 

「お前には厳しい防衛戦になるな」

 

「ご心配なく。これでも私、生徒会長ですから。それに――」

 

 言いながら師匠が俺の顔に一瞬視線を向ける。

 

「頼りになる弟子がいますから」

 

「……井口、更識のISは先日の一件で浅くないダメージを負った。今もまだ回復しきってはいない。お前が前衛となって戦わなければいけない。できるか?」

 

「……任せて下さい」

 

 数秒ほど間を空け、俺は力強く頷く。

 

「俺はIS学園最強の生徒会長、更識楯無の弟子ですから」

 

 師匠の顔に泥を塗らないために。

電脳ダイブをするみんなを守りきるために。

この学園を守るために。

いろいろな思いを込めて力強く頷く俺。

そんな俺の顔を、俺の目をジッと見て、織斑先生はふうっとため息をついた。

そこから俺と師匠をまっすぐに見据えて、一言告げる。

 

「では、任せたぞ」

 

 織斑先生の言葉に師匠とともにお辞儀をして、俺たちはオペレーションルームを出る。

 

「……いいの、颯太君?今ならまだ引き返せるわよ?」

 

「愚問ですよ師匠。今まともに戦力として戦えるのは俺と師匠だけなんですから。みんながシステム復旧のために頑張るんです。俺だってここでやらなきゃ男じゃないですよ」

 

「………そうね。そう来なくっちゃ。さすがは私の一番弟子。カッコいいわよ。でも――」

 

 言いながら師匠は俺の右腕を掴み、ポケットにつっこんでいた俺の右手を強引に引っ張り出す。

 

「――そういうことは、もっとうまく震えてるのを隠してから言いなさい」

 

「……普通気付いても言わないもんですよ、師匠」

 

「あら、ごめんなさい」

 

 俺の言葉に悪びれる様子もなく微笑みながら言い、俺の右手を両手で包むように握る。

 

「大丈夫。あなたには私がついてる。私と颯太君、最強の師弟コンビの力を見せてやりましょ」

 

 そう言ってにっこりと笑う師匠の顔に、声に、なんとなく俺は落ち着きを徐々に取り戻し始める。

 

「……いつぞやのマッスル・ブラザーズ結成ってわけですね」

 

「そういうことね」

 

 ニッと笑みを浮かべて言うと、師匠も笑って頷く。

 

「じゃあ行きましょうか、颯太君」

 

「はい、師匠!」

 




作戦開始です。
颯太君はどうしようかと思いましたが、現状数少ない戦力はやっぱり防衛に向かわされると思い、このようになりました。



さて、第五回質問コーナーです!
今回の質問はカーキャさんからいただきました!
「颯太君に質問で初めて見たアニメ(深夜系)は何?」
ということですが

颯太「これは今でも覚えてる。俺が一番最初に見たのは『Angel Beats!』だった。あのよくできたストーリーでアニメにハマったね。ネットとかだと評価分かれるけど、俺としては今でも一番好きなアニメだね」

ほほう。
ちなみに一番好きなキャラと一番好きなシーンは?

颯太「一番好きなキャラは音無とかなでだけど、日向も好きかな。最終話とユイと日向のシーンは何度見ても泣けるよね。あとテストのシーンは何度見ても腹抱えて笑うわ」

だそうです!カーキャさん!
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!

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