IS学園を襲った一連のハッキング&襲撃事件から、早くも一週間ほどが経っていた。
その間、箒、セシリア、鈴、ラウラを一夏が避け、ひと悶着あったが、なんだかんだと二日ほどで元の関係に戻った。
そう、〝一夏たちは〟元通りだった。だったのだが――
「はぁ~………」
日曜日の午前中、食堂では憔悴した様子で机に突っ伏すシャルロットの姿があった。
「その様子だと、颯太君は相変わらず?」
「みたいだね……」
その様子に同じ机につき、心配そうな顔で楯無と簪が言う。
シャルロットの周りには楯無と簪以外にも箒、セシリア、鈴、ラウラの専用機持ちの女子たちが揃っていた。
「シャルロットさんの気持ちもわかりますわ」
「ここ一週間、ずっとあの調子じゃあねぇ~……」
セシリアと鈴もため息をつきながら言う。
「しかし、なぜ急に颯太はよそよそしくなったんだ?」
「しかも、シャルロットに対してだけ」
心底疑問だと言わんばかりにラウラと箒が言い、全員が首を傾げる。
そう、シャルロットがここまで落ち込んでいる理由。それは、ここ一週間ほど颯太のシャルロットへの態度がおかしいのだ。
例えば、ある時は昼休み――
「颯太、今日のお昼は?一緒に食堂でも――」
「あ、悪い。授業でわからないところがあってな。図書室で調べ物しようと思ってたんだ」
「でも昼食は?」
「購買で適当にパンでも買って手早く済ませるわ。それじゃっ!」
例えば、ある時は放課後――
「颯太、この後なんだけど、一緒にアリーナで――」
「悪い!生徒会の仕事があって生徒会室いかないと!」
「そうなんだ……あっ!じゃあ前みたいに何か手伝えることがあれば――」
「いやぁ……今回はいいよ。生徒会役員じゃないとできないこともあるし。それじゃっ!」
「あっ!颯太!」
ちなみに楯無曰く、その日急いで片付けなければいけない仕事はなかったらしい。
例えば、ある日の授業後の休み時間には
「ねぇ、颯太。さっきの授業のことなんだけど――」
「一夏!連れション行こうぜ~!」
「えっ!?俺は――」
「実はさっきの授業の途中からずっと我慢してたんだ~」
例えば、ある日の夕食の食堂では――
「あ、颯太、一夏。隣いいかな?」
「おう、シャルロット。もちろんいいぜ。なぁ、颯太――」
「ハグシャグッガツガツガツッ!――ふぅ……ああ、いいけど俺はちょっと山田先生に呼ばれてるから先に行くわ!」
「えっ?颯太?」
「さっきはそんなこと一言も――」
「それじゃっ!二人はゆっくりしていけばいいから!ごちそうさま!」
「あっ!颯太!?」
この様にここ一週間、いつどのタイミングでシャルロットが颯太に話しかけても、颯太は別の用事を言いながら去って行く。
別に四六時中そうではない。
実技など授業の関係で同じ班になったときなどは話すのだが、それも最低限、授業に関係した内容のみとなっている。
そんなこんなで颯太に理由もわからず避けられ続けるシャルロットは、颯太に嫌われてしまったのではないかと落ち込んでいるのだった。
「しかし、ホント急にどうしたというのか……」
「別におかしなことは無かったよね?」
「そのはず…だけど……」
ラウラと鈴の言葉に力なくシャルロットが頷く。
「何か颯太さんを怒らせるようなことをしてしまったとか?」
「してない…はず、たぶん、おそらく」
セシリアの言葉に言い切ろうとして、自信無さげに声が小さくなっていく。
「颯太さんのラノベを床に落としてしまったとか」
「してない……」
「颯太さんの前で日本の文化を貶したとか」
「してない……」
「颯太さんの読んでいるラノベを貶したとか」
「してない……」
「颯太さんの前でオタク文化を貶したとか」
「してない……」
「……さっきからのそれは、全部お前ではなかったか?」
「ギクッ!そ、そのことは忘れてくださいまし!」
「アンタそんなことしたの!?」
「あ、あの時のわたくしは…その…天狗になっていたと言いますか……って!今はそのことは関係ありませんわ!」
箒の指摘に顔に脂汗をたらし、鈴の問いに答えながら慌てて話を戻す。
「他に颯太君の怒りそうなこと……颯太君から借りたマンガにお菓子の食べかすこぼしてたとか」
「それあたしじゃない!」
楯無の言葉に鈴が叫ぶ。
「颯太の作ったプラモデル、壊したとか……」
「それ私じゃないか!」
簪の言葉に今度は箒が叫ぶ。
「……こうしてみるとみんななんだかんだで颯太君を怒らせてるわね」
「セシリアと鈴と箒だけだがな。私は怒らせたことはない」
「「「うっ……」」」
ラウラの言葉に三人が苦しそうに声を漏らす。
「でも、そう考えると、颯太って何かに怒ってるって感じじゃない気がする……」
ふと、簪が首を傾げながら言う。
「それは……」
「確かに……」
「颯太なら怒るともっと態度に出るだろうな。きっと無視して口も聞かないだろうな」
全員が頷き、箒が言う。
「そうなると……本格的にわからないわね」
楯無がため息をつく。と――
「フワ~~ッ……あっ!すみません!みんな僕のためにいろいろ相談にのってもらってるのに……」
「しょうがない。シャルロット、お前最近気にしすぎてあまりよく眠れてないだろ?」
大きく欠伸をしたシャルロットにラウラが言う。
「そう言えばあまり顔色がよくありませんわね」
「あんまり体調が良くないなら部屋で休んできたら?」
セシリアと鈴が心配そうに言う。
「でも……」
「無理しないで。体調悪い時に考え込んでも悪い方に悪い方に考えちゃうわよ」
「休息も大事」
渋るシャルロットに楯無と簪が言う。
「……わかりました。それじゃあちょっと部屋で休んできます」
「一人で大丈夫か?辛いようなら誰か一緒に――」
「そこまでじゃないから大丈夫だよ」
箒の言葉に微笑みながら言って立ち上がるが、その笑顔にはやはり覇気がない。
そのまま軽く会釈したシャルロットは自室に戻って行った。
その後ろ姿を見送った六人は神妙な表情で顔を見合わせる。
「そう言えば話題の颯太は?」
「今日は会社に行ってる」
「なんか大事な用があるんだって」
鈴の問いに簪と楯無が答える。
「でも、本当になんで急に颯太君はシャルロットちゃんによそよそしくなったのかしらね」
「颯太本人に訊いてもはぐらかすばっかりだし……」
楯無、鈴が言い、六人は揃ってため息を吐く。
「いったい何があったって言うのか……」
「少なくともこの間の襲撃の時はいつも通りだったな」
「あの次の日くらいからでしたわね、今のようになったのは」
「シャルロットの話ではその日の夕方くらいにはもうすでにああだったらしい」
ラウラの言葉に全員その日のことを思い出すようなそぶりを見せる。
「あの日は確か……」
「箒ちゃんたち四人が織斑先生に連れていかれちゃったから私たちで事後処理とか片付けをしていたのよね」
簪と楯無の言葉に四人の顔が青くなる。
「で、確かその後は……」
「織斑君が目覚めたってことで、颯太が様子見のついでに事件の詳細を話しに行って……」
「シャルロットの話ではその後、颯太に出会った時にはもうよそよそしくなっていたようだ」
「つまり、私たちと別れてから何かがあった、と……」
ラウラの言葉に簪が呟き、六人が一斉に顔を見合わせる。
「これって……」
「もしかして……」
「一夏が……」
「一枚噛んでる……?」
六人が神妙な面持ちで呟いた時――
「あれ?楯無さんまで、みんな揃って何してるんだ?」
食堂にやって来た一夏が六人に気付き、六人の座る席までやって来る。
一夏の顔を見た六人は一斉に、しかし、ゆっくりと立ち上がる。
「みんな揃って何を話してたんですか?あ、そう言えばさっきシャルロットと会いましたけど、なんか調子悪そうでしたね。………あの?なんでみんな黙ってるんだ?……なぁ……みんな?……あれ?なんでみんな俺を睨んでるんだ?……ねぇ?……ちょっと?」
「――ねぇ、一夏君」
と、六人の中から楯無が一歩踏み出し、一夏の肩に右手をポンと置き、笑顔で言う。
「ちょっと話、聞かせてくれる?」
一夏のもたらした情報に揺さぶられている颯太君。
颯太君の内心やいかに……
さて、第十回質問コーナー!
今回の質問は蓮零さんからいただきました!が!質問内容があまりにもタイムリーな感じなんでさすがに今の颯太君では答えられませんでしたので、あらかじめ訊いていたってことでよろしくお願いします!
ちなみに質問内容は
「颯太君に質問です!颯太君から見た、楯無さん、簪ちゃん、シャルロットちゃんの印象はどんなものですか?また、普段から一緒にいる彼女のしぐさなどに魅力を感じることがありますか?」
でした。
ということで
颯太「まぁ、前にもどこかで言ったけど、師匠は頼りになる師匠。簪は気心の知れたオタ友。シャルロットは気配りできるいい奴。って感じかな」
ほうほう。
じゃあ魅力を感じるしぐさは?
颯太「そうね……師匠は普段大人っぽいのに、ときどき子どもっぽく無邪気に笑うんだよね。その笑顔がすっごく可愛いと思う」
きれいじゃなくて?
颯太「あの笑顔は年相応な女の子って感じがして〝きれい〟ってのもあるけど、どっちかと言うと〝可愛い〟って感じだった」
ほうほう。
じゃあ簪は?
颯太「簪は小柄なのもあってかオドオドしてる感じが小動物みたいだよな。しかも背丈の関係で近くで話してると上目遣いになってすっげぇ可愛い」
ほうほう。
じゃあシャルロットは?
颯太「シャルロットは俺が褒めたりして嬉しい時、それをできるだけ隠そうと、でもやっぱうれしい、みたいな感じではにかむ感じがすっごい可愛い」
だそうです!蓮零さん!
しかし、これはあくまで一夏からの暴露を受ける前の颯太君の解答であり、今の颯太君はこの印象に変化が起きているかもしれません。
その点はご了承ください。
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!