IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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一方その頃颯太君は?





第130話 アイデンティティクライシス

 日曜日。

 学校に居心地の悪さを感じていた俺は、本来ならお昼前に予定されていた会社での用事を理由に朝から会社にやって来ていた。

 平日より人が少ないとはいえ、出社している人はいる。とはいえ仕事をするために会社にいる人たちは俺に構っている暇はない。

 結果俺は一人でぼんやりとしているしかない。そして、ソファにうつ伏せに倒れ、思考をわきに追いやろうとしてもぼんやりしていると、おのずと思考は一つのことで埋め尽くされる。

 埋め尽くすのは先日の襲撃事件の後の一夏の一言。

 

『シャルロットの『ワールド・パージ』の相手って、お前だったぞ、颯太』

 

 その言葉と一緒に頭を埋め尽くすのはシャルロットの笑顔。

 『ワールド・パージ』は対象者の秘めた願望、渇望する夢を形にしている。その証拠にシャルロット以外の四人が見ていたのは自分たちと一夏が幸せな未来を歩む夢、自分たちの思いを寄せる一夏への想いを形にしたような世界。

 じゃあシャルロットは?

 シャルロットの見ていた世界は他の四人とは違うのか?

 きっとシャルロットは四人とは違う。きっとシャルロットの『ワールド・パージ』の相手が俺だったのは、シャルロットにそういう相手がいなくて一番近くにいる異性の俺に白羽の矢が立った。きっとそれだけの理由だ。――と、考えられればどんなによかっただろうか。

 一夏じゃないんだから、俺はそこまで鈍感にはなれない。

 シャルロットの『ワールド・パージ』の相手が俺だった理由なんて、シャルロットが俺のことを好き、そういうことではないだろうか。

 確かに、俺の自意識過剰かもしれない。

もしかしたら本当にシャルロットにそういう相手がいなくて一番近くにいた異性である俺が相手になっただけなのかもしれない。――でも、シャルロットが俺に好意を寄せてくれている、そう考えると色々と腑に落ちることがあるのだ。

 これまで謎だったシャルロットの言動。

 時に俺の入っている風呂に全裸で入ってきたり。

 時に俺と一緒のCM撮影を異様に喜んだり。

 時に無理矢理俺の実家についてきたり。

 時に俺の褒めたメイド服を異様に喜んだり。

 他にもいろいろあるがとりあえずはこんなことだろうか。これら、一見奇妙にも思える言動も、シャルロットが俺に好意を持っていると言う事実が加わるだけで、まるでラノベの主人公に思いを寄せるヒロインの言動と同じになる。

 いや、〝まるで〟ではない。〝そのもの〟だ。

 これはもう、いくら他の人から自意識過剰と言われても、俺にはシャルロットが俺のことを好き、と言うことが疑いようもない事実にしか思えない。

 しかし、シャルロットがこんな俺のことを好きだと言うことも100歩譲って良しとしよう。そんなこと告白されたわけでもないのに結論を急ぐのはおかしな話だ。

 何より今一番の問題、それは――俺のこれまでの言動の方だ。

 なぜ俺はあんな恥ずかしいことを言ってしまったんだ……。

 

『ちょっと、あなたのバナナがブニュブニュだね、って言ってみて』

 

『まあ確かにシャルロットみたいな可愛い子が出てるCMの商品なら買ってみようって気になるかもな』

 

『シャルロットはその……十分可愛いって。並のアイドルなんて目じゃないって』

 

『シャルロットは今のままで十分女の子らしいから、安心しろって』

 

 うああああ!死にたい!死にたいよおおおお!明日学校行きたくないよおおおお!馬鹿じゃねーの!馬鹿じゃねーの!バーカ!バーカ!うおおおおおおおん!

 心中で叫び、低いうなる声を上げながらソファで悶える。高級感あふれるふかふかのいいソファでもサイズは常識の範囲内なために、ソファの上で数秒悶え苦しんだところでベチャッと冷たい床に落ちる。

 そのまま冷たい床にうつ伏せのまま数秒倒れ伏していた。

 

「……死にたい」

 

 俺がぼそりと呟くと同時に俺の上方で扉の開く音が聞こえる。

 ゆっくりと顔を上げると、ちょうど部屋に入ってくるところだったのだろう、ドアの前でドン引きのご様子でいらっしゃるこの部屋の主のアキラさんと目が合った。

 

「……どうしたの、颯太」

 

 アキラさんは呆れ半分、恐れ半分で問うてくる。だが、いかにこの部屋の主であるところのアキラさんでも相手をする気にはなれなかった。

 

「放っておいてください。俺、今ちょっとアイデンティティクライシスですから」

 

 だらだらじめじめした声で言うと、アキラさんが大仰なため息を吐いた。

 

「あのね、颯太」

 

 言いながらアキラさんは俺を見下ろしながら目を半開きにし口をへの字に曲げる。そして、そのおかしな表情のまま、何か言い出した。

 

「アイデンティティ?はぁー?往々にして個性個性言ってるやつに限って個性がねぇんだ。だいたいちょっとやそっとで変わるものが個性なわけあるかよ」

 

 顔が変だが、言ってることは妙に筋が通っている。おい、マジかよ。確かに言う通りだ。思わず納得してしまった。ただ、その顔と言い方は少しムカつく。

 

「アキラさん、何その言葉遣い。乱暴よ?あと顔が変だわ」

 

 アキラさんが乱暴な言葉遣いになったので、それを諫める意味も込めて、俺は丁寧な言葉遣いで訊いた。すると、アキラさんは変と言われたのがカチンと来たのか、こめかみをひくっと動かし、大層お怒りの様子で口を開く。

 

「……颯太の真似だよ」

 

「似てねぇ~……」

 

 言いはしたものの、自分の特徴なんて気にしたことないし、人を煽ってる時はもしかしたらこのくらいムカつく感じなのかもしれない。

 若干ショックを受けている俺の脇をスタスタと通り過ぎ、アキラさんはソファに腰掛ける。

 

「何があったか知らないけど、今更その捻くれた性格が直るわけないだろ。何度その性格のせいで『火焔』とその装備を壊した?」

 

「うっ!」

 

 アキラさんは俺を足でぐりぐりと踏みつけながら言い、俺はその言葉に痛いところを突かれる。

 

「でもまぁ、私はいい加減諦めたよ。そういうところも含めて、井口颯太は井口颯太なんじゃない?」

 

「アキラさん……」

 

 俺が顔を向けると、アキラさんは照れたように顔を少し赤く染めながらそっぽを向く。

 

「……ありがとうございます」

 

「フンッ!お、お礼を言われる筋合いはない。颯太が元気ないと、こ、こっちの調子が狂う」

 

 言いながら再度、さっきまでよりさらに強くグリッと踏みつけられ、俺の口からぐへっと声が漏れる。

 痛みに悶えていると頭をペシッと叩かれる。

 

「ほら、行くよ」

 

「え?行くってどこに……?」

 

 アキラさんの言葉に首を傾げる。

 

「颯太、今日何しに来たか忘れたの?」

 

「え?でも時間はまだ………あれ!?」

 

 俺は言いながら時計を確認すると、予定時間まであと十五分くらいになっていた。

 思った以上に考え込んでいたらしい。

 

「す、すみません!もしかしてわざわざ呼びに来てくれたんですか?」

 

「ち、違う!そ、そもそもここは私の部屋!」

 

 慌てたように言うアキラさん。

 

「て、ていうか、確かに好きにしていいって言ったけど、じ、地面に寝そべってるとは思わなかった」

 

「だからアイデンティティクライシスで」

 

「だからそう簡単に個性が変わるわけない」

 

 アキラさんの言葉に返すと、アキラさんもため息まじりに返し、数秒見つめ合い

 

「「ぷっ」」

 

 二人で同時に吹き出す。

 

「それじゃ、行くよ」

 

「はい、アキラさん」

 

 俺はアキラさんの言葉に頷く。

 シャルロットのことは気になるし、正直今にも知恵熱が出そうだが、とりあえず一旦頭を切り替え、俺はアキラさんに着いて行くのだった。

 




悶え苦しむ颯太君の元ネタは某ラノベ&アニメからです。
ちなみに知らない人のために捕捉しておくとヴァルヴレイヴにおけるアキラさんの声優さんは悠木碧さんです。



さて、第十一回質問コーナー!
今回の質問はizuさんからいただきました!
「颯太君と一夏君に質問です
ぶっちゃけ、学園にいてムラムラすることありますか
そういうときは、どうやって、解消してますか」
ということですが

颯太「そりゃまあムラムラすることもあるさ。IS学園の生徒のみんなって女子校出身の人が多いせいか、やけに無防備なんだよ。寮の中だと薄着の人多いし、ほぼ下着みたいな恰好の子とかいるし」

一夏「そうそう。そういう時って目を逸らしてもその先にも同じような格好の子がいたりしてどこ見ていいかわからないし困るんだよな」

大同爽&颯太「え、お前ってそういう欲求あったの!?」

一夏「あるに決まってんだろ!俺を何だと思ってたんだよ!?」

不能

颯太「煩悩を捨てた修行僧」

一夏「ひどい!」

だって裸のラウラに押し倒されても襲わないし

颯太「なぁ?あれは一歩間違えば襲うよな?」

一夏「あれはたしかにヤバかったな。なんだってラウラはあんなことしたのか………おい、なんだよその生暖かい眼差しは?」

大同爽&颯太「なんでもない」

で?
ムラムラしたらお前らどうするの?

颯太「言ったらこの小説が18禁指定食らうことして解消する」

一夏「別のことで気を紛らわす」

だそうです!izuさん!
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!

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