IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第131話 父と子と会社と……

 

「やあ、休日にわざわざ来てもらってごめんね」

 

 会議室に入ると、時縞春人副社長が出迎えてくれる。

 会議室には春人さんの他には今入ってきた俺とアキラさんの他はミハエルさんと貴生川さんしかいない。

 

「あれ?今日は社長はいないんですね?」

 

「ああ。社長は提携を組んでいる会社の社長との会食があってな、秘書の野火とともに出ている」

 

 俺の問いに座るように示しながらミハエルさんが言う。

 

「そうですか……それで、今日呼ばれた件っていったい何だったんでしょうか?」

 

 俺が訊くと春人さんが正面からじっと見て口を開く。

 

「実は……今日来てもらったのは先日のIS学園へのハッキングと襲撃についてのことなんだ。颯太君にはあの事件の後に『火焔』に記録された映像を送ってもらっていたよね?」

 

「はい」

 

 春人さんの言葉に頷く。

 先日の一件で現れた謎の無人機のことが気になった俺は会社に映像を送っておいたのだ。

 

「何かわかったんですか?」

 

「……颯太君が見た機体って……これだよね?」

 

 時縞副社長が言うと、壁に備え付けられたディスプレイに一つの画像が表示される。

 それは俺が遭遇した無人機と思われる機体の画像だった。

 

「これですね」

 

「そう……」

 

 俺の返答に少し悲しそうな顔をする春人さん。

 

「確認として聞いたんだけど、できれば違ってほしかったかな……」

 

 そう言って春人さんは俺に笑みを浮かべるが、その顔に覇気はなかった。

 

「……何か知ってるんですか、この機体について?」

 

「…………」

 

「……ああ、知っている」

 

 俺の問いに春人さんは言いずらそうに口をつぐみ、代わりにミハエルさんが答える。

 

「この機体の名は『キルシュバオム』。高いパワーと強力な荷電粒子砲を備え付け、IS初の可変式という構想を持って試作された機体だ」

 

 ミハエルさんが言うと同時に画面の映像が切り替わり、画面には誰かが描いたらしい

イラストが映し出される。

 それは細部は違うものの確かに先日俺が相対した機体だった。

 

「『キルシュバオム』……」

 

 俺はそのイラストを目に焼き付けるように見つめ、ミハエルさんに視線を向ける。

 

「……お前の聞きたいことはわかる。――この機体はどこの物か、だろう?」

 

「ええ……」

 

 ミハエルさんの言葉に頷く。

 

「この機体の試作した会社の名は『指南コーポレーション』――うちの会社だ」

 

「え……?」

 

 ミハエルさんの言葉に、そのあまりに意外な名前に俺は一瞬思考が止まる。

 

「それって……それってどういうことですか!?なんで指南の機体に襲われるんですか!?ま、まさか、あのハッキングに会社が何か関わってるんですか!?」

 

「落ち着け、井口颯太」

 

「最後まで聞いてほしい」

 

「ちゃんと、せ、説明するから」

 

 興奮して立ち上がった俺にミハエルさん、貴生川さん、アキラさんに宥められ席に座り直す。

 

「先に言っておく。先日の襲撃には我々は関わっていない」

 

「じゃあなんで指南の機体が襲撃者と一緒に――」

 

「あれは厳密にはうちの会社の機体ではない」

 

「え?でもさっき『キルシュバオム』を作ったのは指南だって……」

 

「確かに作りはした。だが、『キルシュバオム』試作段階で没になった機体なんだ」

 

 俺の疑問に貴生川さんが答える。

 

「この機体を構想していた時、最初の頃は上手くいっていた。これまでに可変式のISなんてなかったから、これが完成すれば画期的な躍進になる。当時は社員のみんなも『キルシュバオム』の作成に期待を寄せていた」

 

「でも、問題が起きた」

 

「問題……?」

 

「……試作した『キルシュバオム』の試験運用中、操縦者が負傷したんだ」

 

「え……?」

 

 俺の問いに答えた貴生川さんの言葉に、俺は呆然とする。

 

「『キルシュバオム』は初期の構想であれば問題なかった。しかし、結果を急いだ当時の技術主任にして開発責任者によって無理な改変が行われていたらしい」

 

「『キルシュバオム』に施された無理な改変により、機体そのものがそのエネルギー運用や出力などに耐え切れず、結果、操縦者の負傷により『キルシュバオム』の製作は白紙に戻され、責任を取る形で開発責任者は解雇となった」

 

「そんなことが……」

 

 俺は呆然としながらも頷く。

 

「その事件があったのが四年前。その翌年、翔子が大学を卒業するのと同時に翔子のお父さんも社長の座を翔子に譲ってる。けじめを付けたかったんだと思う」

 

 春人さんが少し遠い目をしながら言う。

 

「その後、『キルシュバオム』についての資料は会社に半ば封印する形で保管され、この件は一応の終幕を迎えた――はずだったんだが……」

 

「俺が遭遇してしまったわけですね。そのイワク付きの機体と」

 

 ミハエルさんの言葉に俺が言うと、その場の全員が重苦しく頷く。

 

「……でも指南で作っていないんなら…あの機体は?俺が遭遇した機体は明らかに改良されていました!誰かが未だに開発を続けてたってことですか!?」

 

「ああ。そして、それができるのは一人しかいない」

 

「それって当時の開発責任者の人……その人って今はどこに?」

 

「わからない。会社を解雇されてから音信不通の行方不明だ」

 

 俺の問いにミハエルさんが答える。

 

「……そんなことがあったんですね」

 

「ああ……」

 

「ごめん……」

 

 ミハエルさんが頷き、春人さんが頭を下げる。

 

「なんで謝るんですか?」

 

「だって、会社の過去の機体が颯太君や学園に迷惑を……」

 

「でも今は『キルシュバオム』は作ってないんでしょ?そもそも世間にも出ていない。だったらこの会社には責任はありませんよ。まして時縞副社長が謝ることじゃありません」

 

「颯太君……」

 

 俺の言葉に顔を上げ、しかし悲しそうな目で春人さんは続ける。

 

「でも、やっぱり僕は君に謝らなきゃいけない」

 

「なんでそこまで……」

 

「…………」

 

 俺の問いに少し逡巡する様子を見せた春人さんは意を決したように口を開く。

 

「その『キルシュバオム』の開発責任者の名前は〝時縞宗一〟。僕の実の父親なんだ」

 

「…………」

 

 俺は時縞副社長の言葉を受け、少し考え

 

「へ~、そうなんですか」

 

「「「反応軽っ!?」」」

 

 俺の反応が思ったより薄かったのか、春人さんと貴生川さんとアキラさんが驚きの声を上げる。

 

「え?だってそうじゃないですか?だって、作ったのは春人さんのお父さんですけど、別に春人さんがそれ使って学園を襲ったわけじゃないですよね?ならいいんじゃないですか?」

 

「いいんだ……」

 

 俺の言葉に春人さんが少し呆然と言う。

 

「だから、この件で春人さんが責任を感じる必要はありません」

 

「颯太君……ありがとう……!」

 

 俺の言葉に嬉しそうに笑った春人さんの笑顔は、先ほどまでの覇気のないものではなく、心から嬉しそうだった。

 

 

 〇

 

 

 

「今日はありがとう。わざわざ休日に来てもらってごめんね」

 

 その後、取り留めのないことを話した後、春人さんが言う。

 

「別にいいですよ。特に予定もなかったですし」

 

「へ~?IS学園は女の子ばかりなんだ。君も誰かとデートに言ったりはないのかい?」

 

「デートって……そんな相手は生憎――」

 

 貴生川さんの言葉に言いかけて、今まで忘れていた件の問題を思い出す。

 

「……どうした、急に黙り込んで」

 

「あぁ……えっと……」

 

 急に黙った俺を不審に思ったミハエルさんが訊いてくる。

 

「なんと言いますか、さっきまで悩んでいたことを思い出してしまって……」

 

「あぁ~……さっき言ってたアイデンティティクライシス……」

 

「「「アイデンティティクライシス?」」」

 

 アキラさんの言葉に三人が首を傾げる。

 

「さ、さっき私の部屋にいるときに、床に突っ伏して死にたいって言ってたから、り、理由を訊いたら『今アイデンティティクライシス中だ~』って……」

 

「なんだそれは?」

 

 アキラさんの解説に奇妙なものを見るような目で俺を見る。

 

「えっと……ちょっと先日とんでもない事実を知ってしまったと言いますか……そのことでいろいろ考え込んでしまって……」

 

「よかったら相談に乗ろうか?」

 

「でも……」

 

「人に話すだけでも気分が晴れるかもしれないよ?」

 

「………じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」

 

「もちろん」

 

 俺の言葉に笑顔で頷く春人さん。

 

「実は――」

 

 俺は相談しようと口を開――こうとしたところで、会議室に備え付けられた内線電話が鳴る。

 

「はい、もしもし?」

 

 一番近くにいた貴生川さんが受話器を取る。

 

「え?……うん、いますよ。……いま?ええ、いいですよ。もう話は終わってるからね。……了解、そう伝える……は~い、どうも~」

 

 電話口にそう言って貴生川さんは受話器を置く。

 

「なんだったんだ?」

 

「うん。颯太君にお客さんだって」

 

「え?俺にですか?」

 

 貴生川さんの言葉に俺は首を傾げる。

 

「いったい誰が?」

 

「すぐ来ると思うから待ってればわかるよ」

 

「はい……?」

 

 貴生川さんの言葉に曖昧に頷きながら、俺はその人物を待つ。

 数分後、会議室の扉をノックする音に春人さんが答えると、ドアが開き

 

「やっはろ~、颯太君」

 

「えっ、師匠!?」

 

 その人物は師匠だった。

 案内してきた七海さんにお礼を言った師匠は俺の元にやって来る。

 

「ごめんね~急に来て。皆さんもすみません、急にお邪魔してしまって」

 

「いいえ、話は終わっていたんで大丈夫ですよ」

 

 師匠の言葉に春人さんが答える。

 

「あの、この後って颯太君はまだ予定ありますか?」

 

「いいや。この後はない」

 

「じゃあ、颯太君連れて行っても問題ないですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

 師匠の問いにミハエルさんが答える。

 

「じゃあ颯太君借りていきますね」

 

「借りていくも何も、今日はこれで終わりでいいよ。颯太君も今日はわざわざ来てもらってありがとうね」

 

「いえ、大丈夫ですよ。今日は話せてよかったです」

 

 春人さんの言葉に俺も頷く。

 

「それじゃあ、皆さんの許可も取れたし行きましょうか」

 

「行くのはいいですけど……行くってどこにですか?」

 

 俺の手を取りぐいぐい引っ張って行こうとする師匠に訊く。

 手を引いたまま足を止め、ニッコリ笑った師匠は言った。

 

「颯太君、デートしましょ~」

 

 その瞬間、会議室内の空気が凍った。

 




突如現れ爆弾を投下した楯無さん。
彼女の思惑とは!?



さて、第十二回質問コーナー!
今回の質問は黒猫ユウさんからいただきました!
『潮陽菜さんに質問です。
「愛しの先輩が、美人三人娘と学園生活を過ごしている事に関してどう思ってますか?」
「実を言うと、眼鏡の女の子と金髪の女の子は愛しの先輩と、同じ部屋で暮らしてた事があるんですぜ?」
楯無さんに質問です。
「好きな人との同衾、妹に先を越された気分は?」』
ということですが

陽菜「せ、先輩が……簪さんやシャルロットさんと……」

潮ちゃん?

陽菜「せ、先輩が……女性と…ど、同室……」

潮ちゃん?潮陽菜ちゃ~ん?

陽菜「せ、先輩~!!う、ウソだと言ってください~!!!」(走り去る陽菜

あぁ~あ行っちゃった……
で?楯無さんの方は?

楯無「これ何気に気にしてるのよ。よく考えたら私って颯太君の実家行った時は二人きりじゃなかったからノーカンとして、颯太君と同室で寝起きしたことって無いのよ。それを……妹に先を越されるって……」

端的に言うと?

楯無「めちゃくちゃ悔しい!」

だそうです!黒猫ユウさん!
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!

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