IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

161 / 309
久々の投稿になってすみません(^-^;
ちょっと所用が重なり二週間ほど更新できませんでした
そしてまた一週間ほどまた用事で忙しくなるのでまた少し間が空きますがご了承ください。m(__)m


第138話 渡る世間は意外と狭い

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 警視庁の地下、資料室で俺と他二人の人物の計三人で黙々と作業をする。

 お互いに会話はなくただ俺も他の二人の人物も黙々と自身の手元の資料に目を通している。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 俺は基本的には無言の空間に対してそこまで苦手意識はない。

でも、こうして俺の調べ物に手伝ってもらっているのでなんとなくこの無言は気まずい。

 

「……おい、そこの資料取ってもらえるか?」

 

「あ、はい」

 

 資料に目を通していると目の前に座っていた男性、御剣橙悟さんが読んでいたファイルをぱたんと閉じながら言う。

 俺は頷きながら横の箱から新しいファイルを取り出す。

 ファイルを受け取った御剣さんはファイルを開く前に目頭のあたりを軽く手で揉んでから大きく息を吐く。

 

「……あの、ちょっと休憩します?」

 

 俺は時計をちらりと見てから言う。

 調べ物を始めてからそろそろ一時間半くらいが経っていた。

 

「……そうだな」

 

 御剣さんは手に持っていたファイルを机に置き首を左右に揺らしてコキコキと鳴らす。

 

「君原さんも、そろそろ休憩にしませんか?」

 

 俺は視線を御剣さんの隣に座る女性、君原茶々さんに向けて言う。が――

 

「……………」

 

「………君原さん?」

 

 君原さんは調べ物に集中しているのか黙々とファイルに目を通してページをめくる。

 

「君原さん?」

 

「……………」

 

「君原さ~ん?」

 

「……………」

 

「………ちゃっちゃん」

 

「誰が『ちゃっちゃん』だ!?それほど親しくないのに変なあだ名で呼ぶんじゃない!」

 

「だって君原さん、何度呼んでも返事しないから」

 

「え……?」

 

 気付いていなかったらしく驚きに目を見張り御剣さんの顔を見る君原さん。

 君原さんの視線に御剣さんが頷く。

 

「そ、それは、失礼しました。それで……」

 

「調べ物し始めて休み無しだったんでいったん休憩しましょう、って話してたんです」

 

「な、なるほど」

 

 納得がいったようで頷く君原さん。

 

「じゃあ何か飲み物淹れてきます。ツルさん、コーヒーでいいでしょうか?」

 

「ああ、頼む。井口君もコーヒーでいいかな?」

 

「はい。あ、君原さん、手伝います」

 

 俺は扉の方に歩いて行く君原さんに申し出て立とうと腰を上げる。

 

「いいです、座っていてください」

 

「でも……」

 

 手を伸ばして制する君原さんに食い下がる。

 

「座っていてください。経緯はどうあれ、今日はあなたはお客なんですから」

 

「……はい」

 

 そう言われてしまってはこれ以上は余計だろう。

 俺は大人しく席に座る。

 椅子に座り直した俺に満足そうに頷き、君原さんは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 さて、なぜ今俺はこうして御剣さんと君原さんとこうして資料室で調べ物をしているかと言えば、話は今朝、指南の食堂での一幕の後に話は遡る。

 

 

 〇

 

 

 

『――もしもし』

 

 春人さん達に言いながら携帯を操作して目当ての連絡先を選んで電話する。

 数秒間のコール音とともに約一か月半ぶりに目当ての人物の声が聞こえる。

 

「あっ、もしもし!お久しぶりです!井口です!」

 

『ああ、久しぶりだな。相変わらずの活躍ぶりらしいな』

 

「ええ、まあ……そちらも変わりありませんか、駒形さん?」

 

『まあな』

 

 電話の向こうから相手、駒形さんが答える。

 駒形蓮司さん。夏休みの盆時期、一週間の帰省中にあった敦さんの痴漢騒動で出会った。京都府警の警部さん。本来は京都府の警察署所属なのだが、どうやらその事件は何か思うところあってわざわざ地方の田舎町までやって来たらしい。

 あの事件の時も事件のことでいろいろ骨を折ってもらった。

 

『……どうだ?元気にしていたか?怪我なんかは……』

 

「お陰様で。まあいろいろありましたけど」

 

『そうか』

 

 電話口で少し安心したような、ほっと一息ついたような声が聞こえた。

 

「そんなに俺って危なっかしかったですか?」

 

『……今朝全国の警察組織に緊急の通達があってな』

 

「え……?」

 

 俺が冗談めかして言った言葉に答えず、駒形さんがゆっくりと言う。

 

『曰く、IS学園で謎の爆発物の爆発が起き、生徒一人が被害にあった。詳しいことはまだ調査中であったが、現状の情報から犯人の有力候補は世界的に活動しているテロリスト『亡国機業』と思われる。被害にあった唯一の女生徒はいまだ意識不明の重体。その被害者の名前は――「更識楯無」、IS学園の生徒会長』

 

「――っ!」

 

 俺は駒形さんの俺は息を呑む。

 

『現在犯人側の意図は不明、今後IS関連の組織や企業が同じように狙われる可能性もあるということで、全国の警察組織に緊急で通達されたようだ。――この被害者の名前、あの時君と一緒にいた子だよな?』

 

「……ええ」

 

 駒形さんの言葉にゆっくりと答える。

 

『IS学園での事件、しかも君の関係者と言うこともあって少し気になっていたんだ。君は無事だったようだな』

 

「そうですか……まあ、お陰様で」

 

『それで、今日はどうした?なにも世間話をするために電話してきたわけではないだろう?』

 

「………相談があります」

 

 俺は一度大きく深呼吸して口を開く。

 

「あの爆発物、本来は俺を狙ったものらしいんです」

 

『何?』

 

「それがいろいろあって俺ではなく師匠――更識楯無生徒会長が……」

 

『そうか……それで?』

 

「俺は知りたいんです。なんでこんなことになったのか、なぜ俺が狙われたのか、相手の目的は何なのか……」

 

『だがそれは……』

 

「ええ、警察だってまだ調べてる途中なのにわかるわけないってことはわかってます。だからせめて、『亡国機業』について知りたいんです。だから――」

 

『それで、警察にある『亡国機業』関連の資料が見たいわけか』

 

 納得したように駒形さんが言う。

 

『いいだろう。協力はさせてもらおう』

 

「……ありがとうございます」

 

『構わんさ。君には君の故郷での捜査協力という借りがある。このくらいでそれを返せるとは思わんがな』

 

 電話の向こうでフッと駒形さんが笑ったように感じた。

 

『ちょうど俺の同期がそっちの警視庁にいる。警視監で「警視庁刑事部長」なんていう大仰な肩書を持っているからそれなりに権限があるだろう。そいつがダメでも捜査課の課長で警部補をやっているやつもいる』

 

「同期がそんなに出世してるって……しかも駒形さん自身警部ですし……もしかして駒形さんって結構エリートですか?」

 

『フッ……さて、な』

 

 俺の問いにごまかすように笑う駒形さん。

 

『とりあえず、これからそいつらに連絡してみるから、詳しい話は追って連絡する』

 

「わかりました――駒形さん」

 

『……なんだ?』

 

「……ありがとうございます」

 

『………フッ、これくらいどうということはない。それでは、また後で連絡する。じゃあな』

 

 そう言って駒形さんは電話を切った。

 

 

 

 

 

 それから数十分後、駒形さんから来た連絡により俺は午後からさっそく警視庁に行くことになったわけだ。しかし、駒形さんから届いたメールに書かれていた人物の名前には、ここ最近見た覚えのある名前だった――

 

 

 〇

 

 

 

「おい、君原、一緒に来い」

 

「は、はい」

 

 警視庁の一室でパソコンに向かっていた君原茶々は背後からかかった上司、御剣橙悟の言葉にパソコンでしていた作業を一度保存し、パソコンの電源を落とす。

 

「それで、これから何を?」

 

「ああ、実はな――」

 

 御剣の元に行き、一緒に部屋出て歩きながら訊く君原。

 

「実はさっき刑事部長から連絡があってな」

 

「警視監からですか?」

 

「ああ。実は俺たちの同期からあいつに頼みごとをされたらしい。が、生憎あいつも忙しくてな。で、同じ同期の俺に役目が回ってきたわけだ」

 

「なるほど……で、その頼み事と言うのは?」

 

「同期のやつ――駒形ってやつなんだが、そいつが世話になったやつがある事件関連の調べ物をしたいらしいんだが、一般で手に入る情報では限界があるらしくてな。その〝調べ物〟に協力してほしいんだと」

 

「ある事件?」

 

「昨日のIS学園での爆発騒ぎだ」

 

「あの事件の……」

 

 御剣の言葉に君原が息を呑む。

 数日前にとある一件で少しだけ関わった少女が被害者と言うこともあり、君原にとってもこの事件はそれなりの衝撃を受けていた。

 しかも、絶対的な警備を誇るIS学園の中で起きたということもあり、警察でも大きな話題となっていた。

 警察内部にも捜査本部がたち、捜査がされている。

 君原と御剣もその捜査本部のメンバーではあるが、所属の関係で今は手が空いていたのだ。

 

「その本人が今受付に来たらしくてな、さっそくそのお出迎えと言うわけだ」

 

「なるほど。それでその相手と言うのは……?」

 

「それが詳しいことがわからなくてな。事件の関係者だとしか聞かされていないんだよ」

 

「そう…なんですか……」

 

 言いながらふたりはやって来たエレベーターに乗り込み一階に行く。

 

「御剣です。来客と言うのは……」

 

「あ、はい。あちらの方です」

 

 受付の女性に声を掛けると近くのソファに腰掛けている背中が一つあった。

 小柄な、まだ学生とも思えるくらいの小さな背中だった。

 事件を調べている人物、ということで大人を想像していた君原は少し驚くと同時にその背中に幽かな既視感を覚える。

 

「すみません。お待たせしてしまって」

 

 御剣はその背中に歩み寄り声を掛ける。

 

「あなたが駒形の紹介の方、ですよね?」

 

「……ええ。その……お久しぶりです……」

 

 言いながらその人物は立ち上がり、顔をふたりの方に向ける。

 

「お前は……」

 

「なんで……」

 

 驚きの声を漏らす二人にその人物は――

 

「すいません。また警察のお世話になっちゃいました」

 

 そう言いながら申し訳なさそうに笑いながら少年――井口颯太は軽く会釈した。

 




御剣 燈悟(みつるぎ とうご)
 「警視庁捜査零課」の部長の警部補。零課などと仰々しい肩書ではあるが警視庁の捜査圏内で起きた面倒な事件の受け皿、要は厄介ごと専門の部署の所属である。駒形、須藤、そして御剣の三人は同じ警察学校の同期である。

駒形 蓮司(こまがた れんじ)
京都府警の警部。御剣、須藤の同期。初登場は颯太の実家帰省中の痴漢事件に捜査官としてやって来ていた。

須藤 朱臣(すどう あけおみ)
 「警視庁刑事部長」警視監。駒形、御剣の中で一番の出世をした。最初に駒形が頼った人物。その肩書のせいで駒形の頼みに時間を作れず同じ同期の御剣に代役を頼んだ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。