IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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用事が区切りついたので書けるときに更新!
12月中も何かと忙しいかもしれませんのであまり頻繁には更新できませんがかける時に書きますんでよろしくお願いします。





第139話 社会の闇の片鱗

 

「――さて、だいたいこんなもんか」

 

 御剣さんはグッと背中を伸ばしながら資料から書きまとめた紙の束をトントンと揃える。

 途中休憩をはさみながらまとめた資料に目を通していたらいつの間にか時間は少し早い夕食、と言った時間になっていた。ここは地下なのでわからないが、窓があればそこから見える景色は暗くなった空と灯りの燈った建物たちが見えたことだろう。

 

「…………」

 

 俺は手元の資料の束に視線を向けながら少し考え込む。

 

「……どうした?何か気付いたことでもあったか?」

 

「いえ……」

 

 御剣さんの問いに俺は言い淀みながら視線を上げる。

 俺の言葉の続きを待つように御剣さんも君原さんも俺に視線を向けていた。

 

「なんて言うのか……大したことじゃないんですが、違和感を覚えたと言いますか……」

 

「違和感?」

 

 俺の言葉に君原さんが首を傾げる。

 

「第二次世界大戦のころから存在したって言われてるだけあって『亡国機業』の事件って結構な量あったじゃないですか。そのどれもいろいろありましたけど、大きく分けたら二種類に分けられると思うんですよ」

 

 俺は言いながら右手の人差し指を立てる。

 

「一つは『亡国機業』の構成員が出張って来て襲撃や紛争への介入をするパターン。学園祭の時や『キャノンボール・ファスト』の時の襲撃なんかがこれです」

 

 俺の言葉に二人が頷く。

 それを確認しながら右手の中指を立てる。

 

「もう一つが構成員がどこかに襲撃するんじゃなく、爆弾やなんかで被害を出すパターン。これは今回のIS学園の学生寮で師匠――更識楯無生徒会長が被害を受けた爆発事件なんかがこれです」

 

「ふむ、確かにな……それで?そのことがどこに違和感がある?」

 

「いや、ホントに何か根拠があるわけじゃないんですけど……」

 

 御剣さんの問いに言い淀みながら俺は自分でもまだ明確になっていない違和感をどうにか言葉にしようと思考する。

 

「一つ目は要人の暗殺や何か設備や機材の奪取、紛争の激化って感じで明確な目的が見えるのに、二つ目の方は目的が不明瞭と言うか、やつらの意図の見えないものが多い気がして……」

 

 言いながら俺は資料をめくり

 

「あ、これとかそうです」

 

 言いながら目当てのページを見つけて指さす。

 

「この事件、IS関連の装備や設備を取り扱ってる会社、『古見重工』の工場で爆発が起き、復旧のために少しの間生産をストップせざるを得なかったわけです。この件がきっかけで『古見重工』は経営不振になり、結果この会社は他の会社の傘下に入ることで経営を持ち直したそうです」

 

「その事件は覚えているぞ。確かそこで使われた爆弾も今回のIS学園での爆弾と同じものだったはずだ」

 

 御剣さんは思い出すように視線を少し上に向けながら顎を擦る。

 

「その事件が何か?」

 

「この事件、確かに被害は出ていますけどそれだけなんです。何十人、何百人と死んだわけでも、この会社から何かが盗まれたわけでも、言っては悪いですがこの会社がとんでもなく重要な何かを作っていたわけでもないんです。じゃあ何を目的に『亡国機業』のやつらはこの会社にテロを行ったのか……」

 

「確かに目的が不明瞭ですね」

 

 君原さんの問いに答えると納得したように頷く。

 

「でも、無差別ってことなんじゃ」

 

「それはもっとない気がします。二度しか遭遇してないですけど、あいつらは意図はわかりませんが何かしら目的を持って行動してるように見えました」

 

 君原さんの言葉を否定する。

 

「そして、この『古見重工』のように目的の見えない事件が多数あるんです」

 

 俺は資料をペラペラとめくりながら言う。

 

「あと、やっぱり今回の件も気になるんです」

 

「今回の件?」

 

 俺の言葉に二人が首を傾げる。

 

「なんでやつらは今回爆弾を使ったんでしょうか?二度も直接襲撃しかけて俺を殺しにかかったのに」

 

「二度失敗しているからアプローチを変えたとか……」

 

「でもそれならそれでもっとやりようはあった気がしますよ?実際暗殺は失敗しました。俺は今こうして生きてます」

 

「それは……」

 

 俺の言葉に君原さんが言い淀む。

 

「考えれば考えるほど腑に落ちないことが多い気がします。今あげたこともありますし、他にも疑問は尽きません――どうやってIS学園の警備網をすり抜けて爆弾を送りつけてこれたのか、とか」

 

「「っ!」」

 

 俺の言葉に二人が息を呑むのが分かった。

 

「ま、まさか……」

 

「学園内にやつら側の人間が、いる?」

 

「…………考えたくはありませんが、そう仮定すれば――」

 

 コンコンコン

 

 俺の言葉を遮った音に顔を上げる。

 誰かがドアをノックしたようだ。

 

「どうぞ。鍵は開いています」

 

 一瞬俺や御剣さんに視線を向け、ドアの向こうの人物に向かって君原さんが答える。

 

「失礼する」

 

 言いながら入ってきたのは警察の制服に身を包んだ眼鏡の男性だった。

 年のころは御剣さんや駒形さんと変わらないくらいだろう。

 

「君が蓮司の紹介の少年か。初めまして、警視庁刑事部長、警視監の須藤朱臣だ」

 

「井口です。井口颯太、おっしゃる通り駒形さんのご紹介でお邪魔しています」

 

 言いながら須藤さんが差し出した手を取って握手をする。

 

「本当なら僕が頼まれた件だったが、予定が開けられず申し訳ない」

 

「いえ、気にしないでください。御剣さんに手伝っていただきましたし」

 

「そう言ってもらえると助かる。燈悟も僕の代わりにすまなかった」

 

「構いませんよ」

 

「ここでは上下関係を口うるさく言うやつはいない。堅苦しいのは抜きだ。昔みたいに朱臣でいい」

 

「……ああ」

 

 須藤さんの言葉に一瞬考えて御剣さんが頷く。

 

「それで?調べ物はそれなりに成果が出たのかな?」

 

「ええ…まあ……」

 

 須藤さんの言葉に俺は言い淀む。

 

「……何かあったのか?」

 

「……正直わかったこともあります。でも余計な疑問が増えた気がします。下手をすればこの〝社会の闇〟みたいなものに一瞬掴みかけた気分です」

 

「そうか……」

 

 俺の言葉に須藤さんが顔を少し歪ませる。

 

「それで?お前はなんでここに来た?ただの様子見ってわけではないんだろう?」

 

 御剣さんの問いに一瞬考えるそぶりを見せた須藤さんは口を開く。

 

「……先ほど、本格的に今回の件、IS学園での爆発テロを『亡国機業』によるものだと断定された。その結果、この件の捜査は公安に委託することになった。僕たち警視庁は通常の業務に戻るよう通達が来た」

 

「なっ!?」

 

「それってつまり……」

 

「この件は公安が引き継ぐからお前たちは手を出すなってことだ」

 

 君原さんは驚愕の声を漏らし、俺の言葉に御剣さんが目を細めて答える。

 

「どうして急にそんな……」

 

「わからん。僕のところにも先ほど通達が来たばかりだ」

 

 君原さんの言葉に須藤さんが首を振る。

 

「……こんな通達、おかしくないか?こういう時は公安と警視庁一丸となって捜査すべきだろう。それが手を出すな、なんて……」

 

「僕だって納得しているわけじゃない。正直これは何かがおかしい。何かしら、誰かしらの思惑が働いたとしか思えん。もしかしたら君らが調べていて掴みかけた〝社会の闇〟によるものかもしれんな」

 

 鋭い視線で虚空を睨みながら須藤さんが言う。

 

「とにかく、通達があった以上警視庁はこれ以上の捜査を中止せざるをえない。君たちも調べるのはいいが、気を付けろ。下手に嗅ぎまわって余計なものに目を付けられてしまわないように」

 

「……はい。ご忠告感謝します」

 

 須藤さんの言葉に俺はお礼を言いながら頭を下げる。

 

「くそっ、なんだよそりゃ」

 

 ため息をつきながら御剣さんが頭を掻く。

 

「燈悟、お前も納得できんかもしれんがあまり深入りするんじゃないぞ」

 

「わかっているさ。俺だって引き際ってやつくらいわかってるさ」

 

 言いながら御剣さんは椅子から腰を上げる。

 

「おい、どこに行く気だ?」

 

「飯だよ。もういい時間だしな。君原、井口も来い」

 

「あ、はい」

 

「え、でも、俺迎えが……」

 

「俺が送ってやる。いいから来い」

 

「は、はい――それじゃあ、失礼します。今日はありがとうございました」

 

「ああ。あまり力になれずすまなかった」

 

 有無を言わさず部屋を出て行く御剣さんを慌て問いかけながら俺は須藤さんに頭を下げる。

 君原さんも須藤さんに会釈し、俺と君原さんは小走りで先に部屋から出て行った御剣さんを追いかけたのだった。

 


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