「……………」
「……おい……おい井口颯太!」
「はっ!はい!」
ぼんやりとしていた俺は御剣さんの声に慌てて顔を上げる。
「たく、考え事もいいがまずは飯食ってからにしろ。伸びるぞ」
「は、はい……」
俺は頷きながら眼前のどんぶりに視線を向ける。
目の前には湯気を立てるおいしそうな醤油ラーメンと餃子が並んでいる。
御剣さんに連れられてきたのは一件のラーメン屋だった。
店の奥の四人掛けのテーブル席に案内された俺たちはメニューを見ながらそれぞれ注文をした。
それほど食欲のなかった俺は醤油ラーメンだけのつもりだったが御剣さんに若いやつが遠慮なんてするなと餃子も追加で注文された。まあ好きだから食べられると思うが。
「ほら、君原も資料とにらめっこしてねぇで食べろ」
「は、はい!」
言われた君原さんは持ってきていた先ほどまとめた資料をわきに置いて割り箸を手にとってパチリと割る。
君原さんの前には塩ラーメンが置かれている。
俺も割り箸を割ってどんぶりに手を伸ばすと、御剣さんも自分の食事を再開、湯気を立てる味噌ラーメンを豪快に啜る。
俺も麺を取り、数度息を吹きかけて軽く冷ましたのちに啜る。
「あ……おいしい」
「ふっ」
思わず俺の漏らした言葉に御剣さんが口元に笑みを浮かべる。
「難しい顔してねぇで、飯食ってる間くらいウマいとかマズいってことだけでいいだろ」
「……そうですね。ありがとうございます」
御剣さんの言葉に頷き、食事に集中する。
麺によく絡む豚骨ベースの醤油のスープがおいしい。上にのせられている焼き豚も手作りなのかスープによく合う。
餃子もよく焼かれたパリパリの皮とジューシーな具が非常にうまい。
「前にもツルさんに連れて来ていただきましたけど、相変わらずおいしいですね」
「よく来るんですか?」
「まあそれなりにな。〝仕事場〟からも近いし、何よりうまいしな」
俺の問いに答えながら御剣さんが麺を啜る。
「学食のもおいしいですけど、やっぱ専門のお店の味はいいですね」
「外の店に食べに行ったりはしないんですか?」
「まあ行きたいですけど、そうそうホイホイとは学園からでれないですよ。警備とかいろいろ問題ありますし」
「なるほど」
君原さんの問いに答えると納得したように頷く。
「まあその分学園の食堂はそんじょそこらのお店よりおいしいからいいんですけどね」
言いながら餃子を食べる。
「学食もいろんな国から人が来てるせいかいろんな国の料理食べられるんで楽しいですし。まあその分俺ら生徒会にメニュー増やせって要望もよく舞い込んできますけどね」
「それは大変だな。そういうのは対処とかはどうしてるんだ?」
「ええ、ちゃんと精査しますよ。お試しで期間限定でメニューに入れて生徒の反応見たりとか」
「なるほどな」
納得したように頷く御剣さん。
「…………」
「……どうかしましたか?」
急に箸を止めた俺に君原さんが訊く。
「………いえ、そういう要望、師匠は――会長の楯無さんはできるだけこたえようとしてたなぁって……」
「あっ……」
俺の言葉に君原さんがしまった、と言う顔をする。
「「「……………」」」
三人の間に重い沈黙が下りる。
「………しかし」
俺は口を開く。
「『亡国機業』についてはいろいろ調べましたけど、結局俺がなんで狙われたのかはわかりませんでしたね」
言いながら俺は資料をめくる。
「謎は深まるばかりだし、やつららしくない事件って言う新しい謎まで増えるし、こんなんじゃ師匠の仇なんて……」
「おい」
御剣さんの言葉とともに俺の手元からベキッという何かが折れるような音が聞こえる。
見ると俺の手の中で割り箸が真ん中のあたりで折れて四本になっていた。
「……すいません」
俺は謝りながら折れた割り箸をわきに置いて新しい割り箸を取って割る。
「さっきも言ったが飯は余計なこと考えずにウマいとかマズいでいいんだよ」
呆れ気味に言いながら御剣さんはお冷に口を付ける。
「たくっ、わからねぇこと考えても答えなんて出ないんだ。あとでゆっくり考えればいいんだよ。次余計なこと考えたらこの店の名物の激辛担々麵食わすからな」
「うえっ、アレですか……」
御剣さんの言葉に君原さんが顔をしかめる。
「前にツルさんが注文したの少しもらいましたけど、あんなの注文する人いるんですかってくらい辛かったじゃないですか」
味を思い出したのか顔をしかめながら言う。
「確かに辛かったな。まあ、ああいう辛い物が好きな奴はどこにでもいるもんだ。俺やお前はダメでも、どこかしらには需要があるもんなんだよ」
「そうですけど……」
言いながら思い出した辛さを和らげるようにお冷を飲む君原さん。
なんとなく空気のほぐれた様子を感じながら俺はラーメンを食べようとしたと箸を伸ば――
「ん?」
――そうとしたところで俺は何か引っかかりを覚える。
今俺は何に引っ掛かりを覚えた?
今の話は、飯の時には余計なことを考えないことと次に考え込んだら激辛担々麵を食べさせられること。あとはその担々麵があまりに辛すぎて誰が注文するのか、っていう話くらいだ。
まあ俺も辛いものがものすごく苦手ってわけではないが、わざわざ好んで激辛メニューを頼もうとは思わない。
御剣さんの話ではないが需要があるとは言えわざわざ食べられそうにもないものを作らなくても――
「あっ……」
――需要?
「需要……需要……需要…………そうか、需要だ!!」
『っ!?』
俺が急に大声を出したものだから御剣さんと君原さんに加えて近くにいた店員さんがびくりと体を震わせるが俺にはそんな事どうでもいい。
大急ぎで資料をめくる。
「お、おい、急にどうした?」
「な、何かあったんですか?」
「需要ですよ!」
問いかけてくる二人に俺は答えながら資料をめくり、目当ての物を抜き出していく。
「さっきまで疑問だったのは、なんで『亡国機業』のやつらに利益の無いテロをやつらがしていたのかってことでした」
「え、ええ。そうですね」
「なら、考え方を変えればいいんですよ」
「考え方を変える?」
俺の言葉に御剣さんが言いながら首を傾げる。君原さんも分かっていないようだ。
「〝やつら〟が得をしていなくても、どこかには〝需要〟があったんですよ」
「「っ!」」
俺の言葉に二人は目を見開く。
「『亡国機業』の起こした事件で何かしらの得をしているやつらがいるってことは、そいつらはきっと『亡国機業』のやつらと何かしらの繋がりがあるはずです。それさえ見つかれば……」
「さ、さっそくこの資料を元に警視庁に戻って――」
「いえ、警視庁に戻って調べるのは得策じゃないと思います」
「え?それはいったい……」
「公安に働きかけて捜査を止めに来るような奴らだ。しかもIS学園内にもやつらの味方がいるかもしれない。警視庁だって同じだ。どこに敵がいるかわからない以上、ヘタに動くべきじゃない」
「ええ。だから調べるならこのままその辺のネットカフェとかの方がいいかと」
「だな。とりあえずとっとと食っちまえ」
「はい!」
御剣さんに言われて俺も大きく頷いて大急ぎでラーメンをかき込む。
御剣さんも残りをどんどん食べる。
「えっ?あっ!わ、私も食べないと」
その様子に呆然としていた君原さんも慌てて食べ始めた。
そして、俺たちはその数時間後、一つのことに辿り着いた。
俺の睨んだ通り、『亡国機業』の事件の中で『亡国機業』に利益があると思えなかったものは必ず何か別のところで利益を得ている組織、会社があった。
たとえで言えば警視庁内で例として出した『古見重工』の事件。あれで言えば『古見重工』を傘下に置いた会社がそれだ。
そして、それら『亡国機業』の起こした事件で利益を得た組織、会社には何か知らの共通点があるのではないのかとさらに調べた。
そして、一つの共通点に辿り着いた。
『亡国機業』による事件によって利益を得ていた組織、会社をたどっていくと、それらの団体は軒並みある団体の傘下、下部組織だということが分かった。
その一番トップにいた団体の名前はとても聞き覚えがあるものだった。
やつらと何かしら、もしくはもっと大きなつながりを持つであろう団体の名前は
もしかすると警視庁の捜査を中止するように手を回したかもしれないその団体の名前は
その団体の名前は
――『女性権利団体』と言った。
颯太君の到達した真実。
この事実を知ったとき、果たして颯太君の決断は……
さて、本当はもっと前にいただいていたのですが答えられていなかった質問がありましたのでお答えしておきたいと思います!
さてさて、今回の質問は春の初芽さんからいただきました!
が、現在楯無さんは答えられる状況ではないので、以前に訊いていたってことでお願いします。
ちなみに質問内容は
「楯無、簪、シャルに質問!
もし颯太が付き合ってくれたらどこに行きたいとか何したいとかありますか?あれば教えてください!」
とのことですが
楯無「そうね。私は遊園地とか遊べるところで思いっきり二人で朝から晩まで一日遊びたいかしらね」
簪「わ、私は、二人で一日中お互いが好きなアニメお勧めし合いながら見たい、かな……」
シャルロット「そうだな……僕も楯無さんと同じで遊園地とか行きたいかな。でも、それだけじゃなくて、お昼ご飯は僕が用意したものを食べて、おいしいって言ってほしい、かな」
だそうです!春の初芽!
そんなわけで今回の質問コーナーはここまで!
また次回!