IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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どうも改めましてあけましておめでとうございます。
少し間が空きましたが新年最初の本編です。
これからもよろしくお願いします。

それでは142話、どうぞ!






第142話 開戦の狼煙

 

 週が明けた月曜日。

 颯太が学校を休んでから一週間。今日で帰ってくると言う朝、IS学園一年一組の教室には予鈴五分前になっても颯太の姿はなかった。

 

「颯太……」

 

「あいつはまだ来ていないんだな」

 

「今日が復帰のはずですが……」

 

「今だに姿も見せん」

 

「何してんのやら、あいつは……」

 

「まさか戻ってこないつもりじゃ……」

 

 時計を見ながら心配そうにするシャルロットの姿に周りに集まったラウラ、セシリア、箒、鈴、一夏も落ち着かない様子で口々に言う。

 

「で、でも、織斑先生も何も言ってなかったし」

 

 仲間たちの言葉に否定はしながらも不安感は拭えないのかシャルロットはため息をつく。

 と、口々に話していると、予鈴がならないうちに教室に真耶と千冬がやって来る。

 

「お前たち、今日は予定が変わった。一時間目は体育館で全校集会だ」

 

「とにかくすぐに体育館に移動してください」

 

 教卓に立った二人の言葉に教室にいた生徒たちは席を立って移動し始める。

 

「先生!織斑先生!」

 

「……なんだ?」

 

 生徒たちの移動を確認しながら自分たちも移動しようと動き始めた千冬と真耶にシャルロットは呼び止める。

 

「あ、あの!颯太が……颯太が来ていないんですが!?今日からのはずですよね!?」

 

「……ああ、井口は……もうすでに登校してきている」

 

「え?それじゃあ……」

 

「一足先に体育館に向かっているはずだ」

 

「っ!わ、わかりました!ありがとうございます!」

 

 千冬の言葉にお辞儀をしたシャルロットは大急ぎで走り出した。

 

「………………」

 

「……あの、織斑先生、よかったんですか?」

 

「……よかった…とは?」

 

「いえ、だって……井口君は……」

 

「どうせすぐにわかることだ。私たちも行くぞ」

 

「は、はい……」

 

 言いながら歩き出した千冬の後を真耶は慌てて追いかける。

 

 

 〇

 

 

 体育館内は急な全校集会の召集に生徒たちのざわめきで満たされていた。

 そんな中、体育館内に虚の声がマイク越しに響く。

 

「静粛にお願いします。これより緊急の全校集会を始めたいと思います。本日緊急で集まっていただいたのは、先日起こった爆発事件についてです。あの一件で現生徒会長、更識楯無が緊急で入院、いまだ退院の目途が立っていないということで、一時的に生徒会長代理を立てることになりました。本日の集会はその生徒会長代理の就任あいさつとその他連絡事項です。それではさっそく挨拶とさせていただきます。IS学園、生徒会長代理に就任しました、井口颯太君です」

 

 虚の言葉に静かになっていた体育館内がざわめき始める。

 しかし、そのざわめきをまるで気にも留めず、堂々とした足取りで現れた颯太の姿に一同口をつぐむ。

 その様子は約一か月半前に緊張で固まっていた時とは違う、全くの別人とも思えるその雰囲気に一同呆然としていた。

 ゆっくりと、しかし、どっしりとした足取りで一歩一歩踏みしめるように進んでいた颯太は壇上の演台に立つ。

 

「どうもみなさん、おはようございます!先ほどご紹介に預かりました、生徒会長代理に就任しました井口颯太です!Everybody Clap Your Hands!」

 

 言いながら颯太はにこやかに拍手をするが、体育館内は誰一人として拍手をする者はいない。

体育館に颯太一人の拍手の音が響き渡る。

 

「ンンッ!さて、改めまして、俺が今回生徒会長代理に就任しました、井口颯太です。副会長からの繰り上げと言うことで、更識楯無会長が戻るまでの間の代役としてこの学園のために粉骨砕身頑張りたいと思います!」

 

 言いながら颯太は壇上で演台を前にお辞儀をする。今度は頭をぶつけることはなかった。

 

「…………さて、みなさんは今こう思っているんじゃないでしょうか?『あの爆弾テロはお前のせいだろう?』『この一週間姿も見せずどこで何をやっていたのか?』と」

 

 颯太の言葉に体育館に集まった生徒たちが息を呑む。大多数の人間が颯太の言葉に覚えがあったからだ。

 

「この一週間、時間をいただき、俺なりにこの事件について調べました。そのおかげでいろいろと知ることができました。今回の一件は皆さんの噂する通り、テロ集団『亡国機業』による俺を狙ったテロだと言うことがわかりました」

 

 颯太の言葉に生徒たちがざわつき始める。

 

「しかし!その爆弾が俺を狙ったものであろうと誰を狙ったものだろうと関係ない!今回の件は――IS学園に爆弾を送り込んでくるという行為は『亡国機業』及びそれに加担しているとある団体によるIS学園への攻撃と言えるでしょう!」

 

 颯太の言葉にざわついていた生徒たちは黙る。

 

「その加担していると思われる団体の名前も本来ならここで公表したいところですが、学園長からも止められているのでここでは言いません。しかし!俺が、このまま黙っていると思わないでもらいたい!――聞いているか、『亡国機業』!およびそこに加担している団体のやつら!」

 

 颯太が一層大きな声で叫ぶ。

 

「俺を殺したかったんだろうが、思惑が外れたな!そして、この一件を受けて俺はIS学園生徒会長代理の名を持って、今ここに亡国機業並びにそれに加担するすべての組織・団体に対して宣戦布告する!今この瞬間この時を持って!亡国機業とそこに加担する組織・団体をIS学園の敵とし、学園の全戦力を持って戦い抜くことを、ここに宣言する!」

 

 言いながら颯太はビシッと指さす。

 

「そして!明日からIS学園のカリキュラムを大幅にIS主体にシフトする。授業は一日8時限。うち7時限はIS関連科目。加えてISランクと授業の成績から算出した学内ランク制度を採用。学内ランクに応じて訓練機の貸し出し優遇や学園内での施設利用への特典などを設ける。特典については以下の通り」

 

 言いながら颯太が背後の大きなディスプレイを指さす。

 そこにはズラリと文字が並ぶ。

 その文言を読んでいく生徒たちの中からざわめきが広がる。

 

「ちょっと!こんなの横暴よ!」

 

「そうよそうよ!」

 

「大体なんでアンタの問題に私たちが巻き込まれなきゃいけないのよ!」

 

「私たちは学生なのになんでそんなことしなきゃいけないのよ!」

 

 ざわめきはどんどん文句に変わり体育館内は喧騒に包まれる。

 あちこちから怒声と文句が颯太へと向けられる。

 

「…………………」

 

 颯太はそんな怒声と文句の中で目を瞑りながら数秒その言葉たちに耳を傾け

 

 バンッ!

 

「Fuck You!ぶち殺すぞコノヤロォ!」

 

 演台を叩き、颯太が叫ぶ。声の大きさにマイクがキーンとハウリングを起こす。

 颯太の言葉に水を打ったように体育館を静寂が支配する。

 

「文句言えば俺がこの案を撤回するとでも思ってんのか?ああん!?お前たちはみなまるで幼児のようにこの世は自分中心に、求めれば周りが右往左往世話を焼いてくれる、臆面もなくまだそんなふうに思っていやがる。甘えるな!世間はお前らのお母さんじゃない!」

 

 颯太は鋭い視線で周りを見回しながら言う。

 

「いい加減自分たちが学んでるものがなんなのかを気付け!何か!?ISはただのスポーツ競技だから人死にが出るようなことに使われることはないとでも思ってるのか!?現実を見ろ!何のために各国の軍にIS部隊があると思ってる!?今この瞬間に条約が破棄されてISの軍事利用転用が解禁になっても他の国に後れを取らないためだろうが!」

 

 颯太の言葉に意見する者はいない。みな黙って聞いている。

 

「今この瞬間IS学園はテロリストからの攻撃を受けたんだ。自分の周りで起きたテロも自分とは関係ない、悪いのはあいつだこいつだと他人事……ケンカを売られてるんだよ俺たちは!いい加減他人事でいるのはやめろ!狙われたのが俺だからって次にそのターゲットがお前らにならないとなんで思える!?戦わなきゃいけないんだよ俺たちは!!俺たちがいまなすべきことはただ勝つこと!勝つことだ!!勝ったらいいなじゃない勝たなきゃダメなんだ!!」

 

 そこで颯太は大きく息を吐いて回りをゆっくりと視線を向ける。

 

「俺がこれだけ言ってまだ納得いってないって顔のやつがいるな。言っておくがこれは俺の独断じゃない。学園長からの許可は出てるんだ」

 

 言いながら颯太は一枚の書類を掲げる。

 背後の大きなディスプレイにその書類が映し出される。

 そこには颯太の名前と数行の文言の下に学園長の印が押されていた。

 まさか学園長が許可を出していると思っていなかったのか、体育館にざわめきが広がる。

 

「これを見てもまだ納得のいかない人もいるだろうが、一つ言っておきます。俺はあくまでも代理だから、倒した人間がIS学園の生徒会長に成り代わるってルール、適応されないんで」

 

 颯太の一言にさらにざわめきが増す。

 

「ただ、それじゃあ納得がいかないって人はたくさんいると思う。俺も問答無用で襲われても困るのでね」

 

 颯太は肩をすくめる。

 

「なので俺への挑戦権を設ける。俺に勝てばIS学園代理の座をその人物にあけ渡します。あとはその人が好きにすればいい。学園を元に戻すもよし独裁をするもよし。好きにすればいい。ただし、無条件じゃない。こっちも譲歩してるんだ。こっちからも制限を付けさせてもらう」

 

 言いながら颯太は右手の人差し指を立てる。

 

「先着一名。俺を止めたきゃ学園の全生徒を代表して俺に挑戦してもらう。その人が勝てば俺は大人しく生徒会長代理の座をあけ渡します。ただし、俺が勝てばそれ以降の何者の挑戦も受け付けません。更識楯無会長が戻ってくるまで俺がこの学園を守ります。たとえどんな犠牲を払ってもね」

 

 颯太は真剣な顔で言い、大きく息を吐いて笑みを浮かべる。

 

「俺からの挨拶、連絡は以上です。皆さま、これから何卒よろしくお願いしますね」

 


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