IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第144話 ひとりぼっちの

「………はぁ……」

 

 一夏たちが生徒会室を後にしてから少しして、颯太はため息をつきながら顔を上げる。

 

「で……お前らいつまでいんの?」

 

 頬杖をつきながら言った颯太の言葉に颯太の目の前、そして入口の扉の前、それぞれに立つシャルロットと簪は何も答えず颯太を見る。そこには話をするまで絶対に出て行かないという意思が見えた。

 

「………はぁ……とりあえず座れば?俺もそろそろ休憩するし、お茶でも淹れてやるよ」

 

 颯太はため息をつきながら立ち上がる。

 シャルロットと簪は颯太の示した席に座る。

 数分後、お盆に三人分のカップとティーポットを乗せて颯太が戻って来る。

 

「お待ちどうさん。味は期待するな。虚先輩の置いて行った茶葉だけど、淹れたのは俺だからな」

 

 颯太は言いながらふたりの前にカップを置く。

 

「………ねぇ、待って。今、虚先輩が置いて行った、って……」

 

 自分のカップとともに二人の向かいに座る颯太に、シャルロットが訊く。

 

「……生徒会職を辞職しなったよ。――いや、正しくは俺が追い出したのかな?俺が今朝発表した案のことで意見がぶつかってな。結果、晴れてIS学園生徒会は俺一人になったってわけだ」

 

 颯太は肩をすくめながら言う。

 

「本音も…出て行ったの……?」

 

「まあな」

 

 簪の言葉に颯太は言いながらティーカップに口を付け

 

「……やっぱあんまウマくねぇな。ネットで聞きかじった知識で淹れても上手くいかねぇか」

 

 独り言ちるように呟き眉間にシワを寄せて飲む。

 

「………師匠の容態は?」

 

 紅茶を半分ほど飲んだところで颯太が口を開く。

 

「……一応、峠は越えたらしい。……ナノマシン治療とかいろいろ併用してるらしいから、傷跡も…残らないらしい。……でも……まだ意識は戻らない」

 

「……そうか……」

 

 颯太は言いながら視線を下に向ける。

 

「……颯太、あれから楯無さんの様子見に行った?」

 

「……行ってない」

 

「なんで?楯無さんは颯太の師匠でしょ?なんでお見舞いに行かないの?」

 

「俺にそんな資格ない」

 

「でも……颯太が来てくれた方が、お姉ちゃんも……」

 

「……………」

 

 颯太はシャルロットと簪の言葉に答えず紅茶を啜る。

 

「で?わざわざ残って何が訊きたいんだ?」

 

 颯太は話題を変えるように訊く。

 

「……颯太……颯太は、何が目的なの?」

 

「俺の目的はたった一つだよ。師匠の仇を討つ。『亡国機業』を――その裏で糸を引いてるやつらを根こそぎ白日の下にさらす。それだけだ」

 

「本当にそれだけ?」

 

 簪の問いに颯太は答える。だが、その答えにシャルロットはさらに訊く。

 

「本当に、って?」

 

「本当にそれだけ?確かに颯太の目的はそうなのかもしれない。でも、それだけじゃないよね?」

 

「………さぁて、ね」

 

 颯太はシャルロットの問いに肩をすくめる。

 

「ここまで徹底的にやるのは何で?挑戦権を先着一人に限定したのは?全部何か目的があるからなんでしょ?」

 

「………目的、ねぇ」

 

 颯太は腕を組んで考え

 

「俺の目的は、ただこの学園を守ることだよ。師匠から託されたこの学園を。例え誰も味方がいなくても、たった一人になっても、な」

 

 言いながら颯太は残っていた紅茶をグイッと飲み干す。

 

「休憩は終わりだ。俺は仕事に戻らせてもらうぞ」

 

 言いながら立ち上がる颯太に二人は何も声を掛けることができなかった。

 すっかり冷たくなった紅茶を飲んだ二人は、今度こそ生徒会室を後にした。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――あっという間に一週間が経った。

 

 

 

 

 

 IS学園では八時限目の授業が終わり、時刻はもう夜と言ってもいい時間になっていた。

 一年一組の教室では授業の終わった喧噪が溢れていた。

 二時限増えた授業、しかも一日の大半をIS関連の過酷な実技と高度な知識の授業に費やすせいか教室の中の喧騒は一週間前までの物より疲労がにじんでいるように感じる。

 

 ギギッ

 

 そんな喧騒の中、教室の中で響いた音を合図に一斉に教室の中を静寂が支配する。

 それは椅子を引いた時の椅子の脚が床に擦れたかすかな音だったのだが、その音は異様な存在感を持っていた。

 その音源に教室中の視線が集まる。

 クラス中の視線を集める人物、颯太は立ち上がり教材を入れたカバンを肩にかけてドアへと歩きはじめる。

 颯太の一挙一動に視線が集まる中、涼しい顔でドアへと向かう颯太。そして、ドアに手を掛け――

 

「颯太!」

 

 自分を呼び止める声に振り返ると、数メートル後ろに立つ一夏がいた。

 

「なんだ?」

 

 顔だけを向けて、左手はドアに掛けたままで応える颯太。

 

「お前にいろいろ言われて、自分が恵まれてるってことを知って、ずっと考えてた」

 

 一夏はゆっくりと口を開く。

 

「俺がどうするべきなのか、どうしたいのか……」

 

 少しうつむいた一夏は顔を上げる。

 

「確かに俺は恵まれてるのかもしれない。俺は世間のことを知らないのかもしれない。でも、それでもやっぱり俺はお前の考えが正しいとは思えない」

 

「……へぇ…だから?」

 

 一夏の言葉に颯太は訊く。

 

「だから……だから、俺がお前を止める。お前の思惑、俺が止めて見せる!」

 

「へぇ……つまり、俺への先着一名の挑戦権を使うってことか?お前が全校代表で俺と戦うってことか?」

 

「ああ、そうだ!俺がお前を倒してお前を止める!」

 

 力強く頷いた一夏の言葉に、教室の中がざわめきだす。

 

「い、一夏!お、お前それは!」

 

「おっと、箒は黙ってろ。これは俺と一夏の話だ。――おい、一夏。本当にいいんだな?あとからキャンセルはできないぜ?」

 

 慌てて止めに入ろうとした箒を制し、颯太が訊く。

 周りには箒以外にもラウラ、セシリア、シャルロットも来ている。

 

「ああ。男に二言はない。俺がお前を倒してこの行き過ぎたやり方を正してやる」

 

「上等だ。お前の申し出、しかと受け取った。てめぇの挑戦、全身全霊を持って受けさせてもらうぜ、一夏」

 

 一夏の返答に笑みを浮かべた颯太は言う。

 

「詳しい日程は学園側とも相談になる。追って連絡するから待ってな。話はそれだけか?」

 

「ああ」

 

「そうか。それじゃあ俺は先に失礼する。お前と戦うこと、すぐに報告に行かないといけないんでな」

 

 そう言って颯太は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 颯太に一夏が勝負を挑んだという話はその日のうちに全校生徒の知るところとなった。

 


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