IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽
<< 前の話 次の話 >>

174 / 208
第150話 進歩と悪意

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

「っ!?」

 

 颯太の絶叫とともに加速し、《火人》を振りかぶる颯太の気迫に《雪羅》をシールドで展開。振り下ろされる《火人》を受け止め、同時に《雪片弐型》を振るう。が――

 

「なっ!?」

 

 一夏の振るった《雪片弐型》は持ち手の位置で《火神鳴》の左のアームで受け止められる。同時に右手に握った《火遊》が一夏の左腕を下から掬い上げるように襲う。

 反応できずに胸元に《火遊》を受けて強制的に動きを止められる一夏。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 気合いの掛け声とともに《雪片弐型》ごと一夏の右腕を掴んでいたアームで一本背負いのように引き上げ地面に叩きつける。

 

「ぐっ!?」

 

 苦悶の表情を浮かべながら顔をしかめる一夏。

 地面に倒れる一夏に追撃を加えようと右手に《インパクト・ブースター》を装着して振りかぶる。

 振り下ろされる拳に一瞬速く『ハミング・バード』の拘束から抜け出た一夏は地面を転がるように回避する。

 一瞬前に一夏のいた地面に重たい衝撃音とともに颯太の拳が叩きつけられ地面が少し抉れる。

 転がりながら体勢を整えようとした一夏は立ち上がろうとした矢先にその身に二本の荷電粒子砲が襲う。

 

「――がっ!?」

 

「おいおいなんだよ一夏!お前の全力はそんなもんか!?そんなことで俺の代わりにIS学園守れんのか!?」

 

「何っ!?」

 

 荷電粒子砲を追加で放ちながら叫ぶ颯太に攻撃から逃れながら一夏が顔をしかめる。

 

「だったらお前のやり方なら守れるって言うのかよ!?」

 

 放たれた荷電粒子砲を避けながら逆に《雪羅》の荷電粒子砲を撃つ一夏。

 

「お前のやり方じゃついてくるのも救われるのも一部だけだ!全員救って初めて守れたって言うんじゃねぇのか!?」

 

「一夏は優しいなぁ――優しくて愚かだ」

 

 一夏が連続で撃つ荷電粒子砲を最小限の動きで躱しながら颯太は口元を歪ませるように笑みを浮かべながら言う。

 

「そんな理想論じゃ救えないんだよ。犠牲無くして得られるものは無い。10を救うために1を切り捨てて何が悪い?」

 

 互いに荷電粒子砲を撃ち合いながら距離を詰め、同時に振りかぶった近接ブレード同士が甲高い音を立ててぶつかり合う。

 

「そんなの……そんなの認められるわけないだろう!?誰かの犠牲の上で成り立つ平和なんて……!」

 

「そこが甘いって言ってんだ!」

 

 一夏の言葉に叫びながら《火人》を押し込むように力を籠める。

 

「一夏!お前は自分の享受してる平和が何の犠牲も、何の悪意も無く存在してるものだとでも思ってんのか?」

 

「なに……?どういう意味だよ!?」

 

 颯太の言葉に一夏が疑問の言葉を叫びながら《雪片弐型》で斬り返し、距離をとるように飛び退く。

 

「例えば、今は移動手段として発達した飛行機。最初は、1900年にライト兄弟によって作られたグライダーは空を飛びたいって言う夢から生まれたものだ。でもな、その七年後に作られたものは、もう米軍のものだ。――この意味が分かるか?」

 

「っ!」

 

「ダイナマイトはもともと鉱山での掘削なんかに使うためのものだった。それが今やどうだ?テロだの敵国との戦争に使われてる」

 

「…………」

 

 颯太の言葉に一夏は口籠る。

 

「飛行機は戦闘機、化学は爆弾、インターネットはエロサイト、出世には袖の下……物事が前進するにはある程度の悪が必要なんだよ」

 

 颯太は目を細めながら呟くように言う。

 

「ホントにそうなのか……?」

 

「何?」

 

「ウソも悪意も無く前に進むことは、本当にできないのか!?」

 

 一夏の言葉に颯太は鼻を鳴らしてあざ笑う。

 

「自分の周りの悪意にも気付けないやつが言うじゃねぇか」

 

「それ…どういう……?」

 

「今にわかるさ」

 

 笑いながら颯太は《火人》を構え直す。

 

「言っただろう?俺は俺のやり方で戦う。俺の言葉が信じられなきゃ俺を倒してお前の信じる正義をなせ。ただしお前のその理想の先に生半可な地獄が待ってると思うなよ」

 

「っ!」

 

「さあおしゃべりはここまでだ!俺とお前、どっちの正義が上か、決着着けようぜ!」

 

 叫ぶと同時に颯太は一夏の周りに《インパクト・ブースター》を四基展開。同時に《インパクト・ブースター》に備え付けられた機銃を一斉砲撃の弾幕で包む。

 

「くっ!」

 

 一夏は苦悶の表情でその弾幕の中を、比較的弾幕の薄い場所を探して走る。

 その中で見つけた道を進んでいた一夏を真横から黄色い太い腕が襲う。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

「っ!?」

 

 寸でのところで避けた一夏はさらに振り下ろされる《火人》を真下から救い上げるように迎え撃つ。

 

 カキンッ!

 

 甲高い音と共に《火人》が颯太の手から舞う。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 気合いの掛け声とともに《雪羅》をクロー状に展開し、振りかぶる。

 

「っ!」

 

 目前に迫る《雪羅》を颯太は

 

「おぅらぁぁぁ!!!」

 

 《雪羅》と自身の間に右肩の《火打羽》を滑り込ませる。

 《雪羅》の『零落白夜』を帯びた爪が《火打羽》を覆っていたエネルギー皮膜を切り裂き、《火打羽》を突き破って止まる。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

 目の前に迫る《雪羅》の爪をものともせず左手に《インパクト・ブースター》を装着して振りかぶる。

 その動きに右手に握った《雪片弐型》を斬り上げるように振るう。

 

「だりゃぁぁぁぁ!!!」

 

「このぉぉぉぉぉ!!!」

 

 颯太の拳と一夏の剣が交差する。

 

「ガハッ!?」

 

 一瞬の火花を散らして一夏が吹き飛ぶ。

 が、颯太も左手を大きく振って投げ捨てるように左腕に装着されていた《インパクト・ブースター》を解除する。空中を数度回転しながら舞った《インパクト・ブースター》は小さな爆発とともに砕け散る。

 

「やるな一夏!だが、『八咫烏』はまだあと三基ある!その程度じゃ俺を止められないぞ、一夏!!」

 

「くっ!はぁぁぁぁ!!!」

 

 颯太の言葉に悔しそうに顔を歪めながら立ち上がり、《雪片弐型》を構えながら颯太へと疾駆する。

 

 

 〇

 

 

 

「なんなんだ……アレは……?」

 

「颯太のあの鬼気迫る戦い方……」

 

「一夏さんの攻撃を受けてから、まるでスイッチが切り替わるみたいに……」

 

「まるで何かにとりつかれてるみたいに……」

 

 モニターを見ながら颯太の異様な変わり様にみな固唾を飲んで声を漏らす。

 

「あの颯太の戦い方……まるでお姉ちゃんが無人機にやられたときの……ううん、それ以上に……」

 

「颯太、いったい何が颯太をそこまで駆り立ててるの……?」

 

 モニターに映るまるで一匹の獣のように闘う颯太の様子に簪とシャルロットも呆然と呟く。

 

「……貴生川さん」

 

 ピットの中を異様な雰囲気が支配する中、千冬が口を開く。

 

「貴生川さん、そろそろ教えていただけませんか?」

 

「……教える、とは?」

 

「とぼけないでいただきたい」

 

 首を傾げてとぼける貴生川に間髪入れずに千冬が訊く。

 

「やつは…井口颯太は何に焦っている?あなたが先ほどから時間を気にしていたことと、何か関係があるんじゃないんですか?」

 

「織斑先生……焦ってる、と言うのは?」

 

 千冬の言葉に真耶が訊く。他の面々もその様子に視線を向けていた。

 

「井口は織斑から二発の左脇腹への攻撃を受けてから、明らかに何かにとりつかれたように攻撃が荒くなった。それはまるで決着を急いでいるようだ。攻めているのは井口のはずなのに、私には井口の方が余裕がないように見える」

 

「…………」

 

 千冬の言葉に貴生川は押し黙り、他の面々は颯太の異様さの正体に改めてモニターに視線を向ける。

 

「改めて訊きます。あなたは先ほどから何の時間を気にしている?あいつは何を焦っている?」

 

「それは……」

 

「答えろ!私の生徒に何が起きているっ!?」

 

 千冬の恫喝にその場の全員が息を呑む。

 

「………今…颯太君は――」

 

 千冬の睨みに息を呑んだ貴生川は数秒考え込むように黙った後、口を開く。が、それを遮るものがいた。

 

「あの!失礼します!」

 

 扉の開く音と共に一人の女生徒がピットに入ってくる。

 

「悪いが今は取り込み中だ!後にしろ!」

 

「忙しいと思いますが、どうしても言わなければいけないことが!」

 

 そう言って千冬の方へと歩いてくる女生徒。

 

「……手短に言え、なんだ?」

 

 その様子にため息をついた千冬はその女生徒、相川清香に視線を向ける。

 

「はい……実は――!」

 

 相川は口を開――こうとしたところで、爆発音が響く。

 見ると、モニターの向こうで颯太の真横で《インパクト・ブースター》が一基、一夏の《雪片弐型》によって斬られ、爆ぜていた。

 が、同時に颯太の零距離での《火神鳴》による荷電粒子砲が一夏を吹き飛ばしていた。

 

 

 〇

 

 

 零距離で荷電粒子砲を受け、地面を転がりながら颯太との距離をとった一夏は《雪片弐型》を構え直しながら立ち上がる。

 

「やるなぁ!まさか二基目をやられるとは思わなかったぜ!」

 

 肩で息をしながら颯太が言う。

 

「結構続いたこの戦いも、そろそろ終わりかねぇ!お互いあと一発くらいでかいの喰らえば終わりか!」

 

「……だろうな」

 

 口を歪めるように笑う颯太に一夏は睨み返しながら頷く。

 

「さぁ一夏!決着と行こうぜ!」

 

「ああっ!」

 

 言うと同時にふたりは地面を蹴る。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「颯太ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 二人は互いの名を絶叫するように呼び合いながら刃をぶつけ合う。

 甲高い金属音が断続的に響かせながら、二人の間に火花が散る。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

 一夏が《雪片弐型》を引き絞り、突きを放つ。

 『零落白夜』を帯びたその刃がその身に迫るのを颯太は気合いの声とともに《火神鳴》の左のアームで受ける。太いアームを突き破ってなお颯太に迫る刃をアームごと分離させて弾き飛ばす。

 

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「まだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 一瞬の隙に《火人》を振り下ろす颯太。しかし、一夏も素早くそれに反応し、左手の《雪羅》で颯太の《火人》を握る手にぶつけるように叩く。

 甲高い音と共に颯太の《火人》が回転しながら飛ぶ。

 そのまま互いに拳を振りかぶり、一夏はクロー状にした《雪羅》を颯太に、颯太は拳を振りかぶりそれに呼応するように《インパクト・ブースター》が舞う。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「っ!」

 

 先に攻撃を放ったのは一夏だった。

 颯太の顔に向かって放たれた《雪羅》の爪を颯太は迫りくる爪を寸でのところで躱す。

 

「もらったぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 勝利を確信して叫ぶ颯太は拳を前に突き出し、しかし、その拳はただの拳であり、《インパクト・ブースター》を纏っていなかった。

 

「なっ!?」

 

 そのことに驚愕する颯太は背後に来ていたはずの《インパクト・ブースター》を見るがそこには

 

「まさかっ!はじめから!?」

 

「ああ!上手くいったぜ!」

 

 一夏の《雪羅》の爪に貫かれた《インパクト・ブースター》が直後に爆発した。

 

「まだもう一基!!!!」

 

「遅い!!!!」

 

 もう一基の《インパクト・ブースター》を呼び寄せようとするがそれよりも速く一夏が動く。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 叫びとともに一夏が伸ばしていた左手を引き戻し、そのまま颯太の右肩から左脇腹へと切り裂く。

 一夏は切り裂いた姿勢のまま下を向き、颯太は数歩後退り、空を見上げるように顔を上げる。

 二人の間に数秒の沈黙が続き、その沈黙を破ったのは――

 

『井口颯太、シールドエネルギー0!勝者、織斑一夏!』

 

 アリーナに響いた放送の声と、割れんばかりの観客の生徒たちの歓声だった。

 

「……やっ…た……」

 

 一夏は声を漏らしながら片膝をつく。同時にその身を包んでいた白い鎧が光と消える。

 

「……………」

 

 颯太はその身を包んでいた『火焔』を解除し、踵を返す。

 

「あっ、颯太!」

 

「…………」

 

 その様子に一夏が颯太を呼び止める。

 足を止め、ゆっくりと颯太は振り返る。

 

「………颯太、その……俺……」

 

 颯太の下に駆け寄った一夏は、しかし、なんと言ったものかと言い淀み俯く。そんな一夏に颯太は数秒黙り

 

「………お疲れさん」

 

「え……?」

 

 颯太の言葉に一夏は呆けながら顔を上げる。

 

「お疲れさん。喜べ一夏、これでお前の望みは漸く叶う。俺と言う邪魔者を排除し、晴れてお前の正義が押し通せる」

 

「そんな……俺は――!」

 

「だがこれだけは言っておくぞ、一夏」

 

 一夏の言葉を遮って、颯太は一夏に向き直る。

 

「お前の掲げる正義はいつかお前を苦しめる。お前が自分の正義に負け、理想に押しつぶされたなら、そのまま理想に潰され惨たらしく絶命しろ」

 

「颯太……」

 

 颯太の言葉の意味を理解できず呆然と立ち尽くす一夏に背を向け、颯太はそのまま一歩踏み出し――

 

「……え……そう…た……?」

 

 そのまま崩れ落ちるように倒れ伏した。

 








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。