IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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前回後書きで原作とこの話での違いについて少し触れましたが、一つ言い忘れていました。
若干原作のネタバレですがこの小説では原作のようにシャルロットの父親と義母がいい人でした、みたいな描かれ方してましたが、私個人の気持ちとしてそれでは納得いかなかったので
このお話ではシャルロットの父親と義母は原作とは違う描き方をしています。
ただ、名前だけは原作通りに直してあります。
シャルロットの本当の母親の名前は私の記憶が正しければ出てこなかった気がするので、オリジナルとなっています。
その辺のことを考慮した上で、最新話です。どうぞ!






第158話 母を訪ねて

 あれから会議では、結局後手に回ってしまっている僕らでは情報が少なすぎな上に女性権利団体側からも情報を規制されているので動きようがない。現在、人的被害が起きていないので、僕らは様子見をすると言うことで結論付けられた。

 そして翌日、月曜日の放課後僕と簪は風紀部の仕事を片付けていた。

 

 

 

 

 

 

「簪、この書類の資料ってどこにあったかな?」

 

「あ、それは確か……あぁ、あったあった。これだよね?」

 

「それそれ!ありがとう!」

 

 簪からファイルを受け取り、書類に向き直る。

 僕の机の上には書類の山。新学期だからか、まだまだできたばかりの組織だからか。とにかく毎日仕事は多い。

 しかも始動したのが今年からのせいかまだまだ人では足りない。

 

「あ、あの、シャ、シャルロット先ぱ――あ…えっと……い、委員長……!」

 

「陽菜ちゃん、言いづらければシャルロットのままでもいいよ」

 

「は、はい!それで…その……ここはどうすれば……」

 

「あぁ、そこはね――」

 

 言いながら僕は陽菜ちゃんの差し出す書類を見ながら解説する。

 潮陽菜ちゃん、彼女は颯太の中学時代の後輩で、僕らが夏休みに颯太の実家に帰った時に出会ったあの潮陽菜ちゃんだ。

 今年新一年生としてIS学園に入学してきた彼女は入学と同時に僕と簪を訪ねてやってきた。もちろん颯太のことを聞くためだ。

 僕らも詳しいことは話せない上に、行方は依然わからないまま。落胆する彼女を慰めつつ、彼女の面倒を見るうちにあれよあれよという間に風紀部のメンバーとなっていた。

 さらに見知った顔がもう一人――

 

「ただいま戻りました」

 

「あ、おかえりなさい……各部の書類は集まった……?」

 

「はい。あ、でも、陸上部と美術部が記入漏れがあったのであとで持ってくるそうです」

 

「了解。今ある分だけ、貰う……」

 

「どうぞ」

 

 そう言って簪に書類を渡す蘭ちゃん。

 五反田蘭ちゃん、彼女も今年入学してきた一年生だ。去年の一夏の誕生日会の時に顔を合わせていたので一応知り合いではあった。

誕生日会の時から薄々感じてはいたが、どうやら彼女は一夏のことが好きらしく、一夏の手助けがしたかったらしい。本当は生徒会に入ることも考えたようだが、生徒会は役員だけで組織されているので、風紀部のメンバーとして働くことを決めたらしい。

 中学校では生徒会長も務めていたからか、仕事はてきぱきとこなしてくれる。

 

「陽菜ちゃん、私手が空いてるから手伝うわ。半分ちょうだい」

 

「あ、ありがとう蘭ちゃん」

 

 陽菜ちゃんの横に座った蘭ちゃんが言うと陽菜ちゃんが書類の束から半分ほどを渡す。

 二人は風紀部のメンバーの中で唯一の一年生メンバーのせいか仲がいい。何でもクラスも一緒なんだとか。

 一年生はまだ入学したてで二人だけだが二、三年生はそれなりにメンバーもいる今も部屋の中で書類の整理などをしたり、学内の見回りを行っている。

 

「それにしても、今日はいつにもまして委員長の仕事多いですね」

 

「そう言えば……」

 

 と、蘭ちゃんが顔を上げて言い、陽菜ちゃんも頷く。

 

「あぁ…それは……」

 

「ちょっと僕用事があってね。今週の金曜日から日曜日にフランスに一旦戻るんだ」

 

「用事……ですか?」

 

「会社のことで、とかですか……?」

 

 僕の言葉に二人が首を傾げる。

 

「ううん。会社は関係ないんだ。今回は――お墓参りなんだ」

 

 

 

 〇

 

 

 土曜日の昼。金曜日の授業を休んでフランスにやってきた僕は数年ぶりに懐かしい風景の中を春の心地良い日差しを浴びながら歩き目的地を目指す。

 ゆっくりと周りの景色に目を向けながら歩いているといつの間にか目的地に着く。

 

「久しぶり。一年ぶりかな?なかなか来れなくてごめんね、お母さん」

 

 僕は母、『カーラ』の名の刻まれた墓石に笑いかけながら屈む。

 今日はお母さんの命日だ。

 IS学園に来てから忙しく、今日までお墓参りに来ることもできなかったが、織斑先生に相談して昨日今日の授業を休み、今日こうしてお墓参りにやって来たのだ。

 墓石には先に誰かが供えてくれたのか黄色い花が添えられていた。花の傷み具合からしてつい最近、それこそ昨日一昨日くらいに供えられたものだろう。

 お母さんはご近所づきあいとかで近所に住む人とも仲良くしていたからそんな人の誰かが供えてくれたのかもしれない。

 先に供えてあった花に添えるように僕も持ってきた花を供える。

 

「前に来たのはIS学園に行く前だったよね。あの時はスパイをしなきゃいけなくて不安で、正直そのまま逃げちゃおうかと思ってたけど、今はあの時逃げなくてよかったって思ってるよ」

 

 僕はその時のことを思い出しながら笑みを浮かべる。

 

「お母さん、僕ね、僕……好きな人ができたよ」

 

 僕は彼、颯太のことを思い浮かべながら言う。

 

「優しくて、誰かを思いやることができて、僕が普通の女の子として生きていけるようにしてくれたんだ。すごく頼りになって、真面目で、それでいてムードメーカーで。でも自分のことをあんまり評価しないから、自分の魅力に気付かないし、周りからの好意にも気付かない。おかげでライバルは多そうだよ」

 

 僕は苦笑いをしながら言う。

 

「本当は紹介したかったんだけど、連れてこれなかったんだ。今はどこにいるのかわからないけど、いつか……いつかちゃんと紹介するから……」

 

 僕は少しぼやけた視界を手でこする。

 

「そ、それでね、お母さん!僕今、IS学園で風紀部って部署の委員長をしてるんだ!」

 

 僕は話題を変えて笑顔で言う。

 そこからはIS学園のことを中心に指南コーポレーションのことや簪たち友人の事を話した。

 そして、気付けば思ったよりも長い時間が過ぎていた。

 

「………それじゃあ、僕はそろそろ行くね」

 

 僕は立ち上がりながら言う。

 

「風紀部で忙しいから、次はいつ来れるかわからないけど……また必ず来るからね……」

 

 笑顔を浮かべ軽く手を振りながら来た道を帰ろうと踵を返し

 

「――えっ……?」

 

「ん……お前は……」

 

 目の前に今来たらしい一人の男性が立っていた。

 元はそれなりに値の張る高級なものだったと思われるヨレヨレのスーツに身を包み、短い金髪のぼさぼさの頭に顎には無精ひげが生えている。

 

「……お父さん………」

 

「フンッ……久しぶりだな」

 

 その男性、僕の父アルベール・デュノアは僕の顔をちらりと見てすぐに目を逸らす。

 颯太が僕をデュノア社から引き抜いたあの一件から責任を取らされる形でデュノア社の社長の座を追われ、本妻のロゼンダ・デュノアさんとも離婚。現在はそのロゼンダさんがデュノア社の社長として経営していると聞いている。

 

「あの……その顔……」

 

「……お前の気にするようなことではない」

 

 父の左の上頬から左目のあたりが腫れているのを見て僕が訊くと、父は顔を逸らしながら憮然と答え、僕の脇を通り過ぎる。

 そのままさっきまで僕のいた位置に屈み、持ってきていた花を供える。

 

「母の、墓参りに来たんですか……?」

 

「……悪いか?」

 

「い、いえ……」

 

 ただ、あまりにその事実が予想外だったので思わず間抜けにも訊いてしまった。

 

「で、でも、なんで……?」

 

「フンッ、私だって別に来るつもりはなかったさ。ただ、あの男が……」

 

「あの男?」

 

 僕の問いにため息をつきながら僕の方に顔を向け、自身の左目のあたりを指さす。

 

「これをした相手だ。おそらく日本人。昨日夕方ごろに酒場で呑んでいたら急に背後から声を掛けられてな。振り向きざまに殴られた」

 

「えっ?あ、相手の顔は……?」

 

「見ていない。結構な力で殴られてな。顔を上げたころにはもう後姿だった。その男が殴られて倒れてる私を見ながら言ったんだよ。『一度でも愛した女の命日が明日だって言うのにこんなところで呑んだくれて、本当に見下げたクズ野郎だ』とな。日本語で言われた」

 

「そう…ですか……」

 

 僕は驚きながら、どこか半ば確信しながらそれをしたであろう人物の顔が思い浮かぶ。

 

「ハッ、しおらしい顔をして、どうせお前が一枚噛んでいるんだろう?」

 

「え?」

 

 自嘲気味に笑いながら言う父の言葉に僕は何のことかわからず呆ける。

 

「あの日本人、どうせお前が指示したんだろう?今日ここに私が来るように仕向け、私のこの落ちぶれた情けない姿を見て笑うつもりだったんだろう?仕返しのつもりか?気は済んだか?」

 

「そ、そんな!?ぼ、僕はそんなこと――!」

 

「どうだかな」

 

 言いながら父は立ち上がり、僕の横を素通りする。

 

「あ、あの!」

 

「言っておくが私はお前にしたことを悪かったなんて思ってはいない。今日ここに来たのもちょっとした気まぐれだ」

 

 呼び止めようとした僕に振り返らずに父が言う。

 

「……しかし、仮にも血を分けた娘だ。一つだけ助言をしてやる。――ロゼンダには気を付けろ」

 

「えっ……?」

 

 そのまま振り返ることなく歩いて行く父に僕は詳しく聞こうとあとを追いかけようとして

 

「~~~」

 

 ISがプライベートチャネルの通信を受けたことを告げる。

 

「はい、シャルロット・デュノアです」

 

『シャルロット!?よかった、そのあたりは何も無かった!?』

 

「えっ!?簪!?いったいどうしたの……!?」

 

 通信の向こうから聞こえてきた簪の慌てた声に首を傾げながら訊き返す。

 

『い、今!ついさっきまた『亡国機業』が動いたの!しかも今度の標的はフランス内にある施設!』

 

「えっ!?ってことはまた亡国機業のメンバーが襲撃を?」

 

『ち、違うの!今度はこれまで違って……今度は直接施設にミサイルを撃ち込んだ!』

 

「っ!?」

 

 簪の言葉に息を呑む。

 

「そ、それで被害状況は!?」

 

『まだ詳細はわからなけど、施設内にはまだ人がいたらしくて、もしかしたら被害を受けた人がいるかも……』

 

「そ、そんな!?」

 

『例のサイトもチェックしてるんだけど、今のところ動画の更新情報は出てない……とにかく今すぐ戻って来れる!?』

 

「わ、わからないけど、とにかく予定繰り上げてすぐに戻る!」

 

『わかった!とにかくいつ頃戻って来れるかわかったらすぐに連絡を!織斑先生にはそう伝えておくから!』

 

「ごめん、お願い!」

 

 言いながら簪との通信を切り、僕は慌てて駆けだす。

 ここ数か月とは違う『亡国機業』の行いに違和感を覚えつつ、僕は急ぎ移動するのだった。

 


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