あれからできる限りを尽くし、と言うかミハエルさんの友人の手を借りてプライベートジェットを飛ばしてもらい、日本時間で八時に空港へと降り立った。
そのまま大急ぎで学園に戻り、会議の席に着いたのは九時だった。
「さて、これで揃ったな」
数日前に集まったのと同じ会議室、もはや定位置となった席に座った僕らを見て織斑先生が言う。
「それで、昨日の一件だが……」
「はい、昨日フランス某所にあった女性権利団体所有のIS関連の工場にミサイルが撃ち込まれました。今のところ犯行声明はありませんが、使われたものが『亡国機業』が所有し使用していることが判明しているものと同様のものだったため、『亡国機業』の犯行と断定されたようです」
織斑先生の言葉に山田先生はディスプレイに情報を表示しながら言う。
「施設はほぼ全焼。施設内には当時十五人の人間がいたようですが、その半数が現在も病院で治療中、さらにその半数、四人が意識不明の重体だそうです」
山田先生の言葉にみんなが息を呑む。
「これで一連の事件で初めての被害者が出たな……」
「これまでの『亡国機業』らしくないやり方だと思ってたのに、結局テロリストはテロリストだったってわけね」
ラウラがため息をつきながら言い、鈴は落胆した様子で言う。
「これでより一層やつらの目的がわからなくなりましたわね」
「結局やつらは何をしたいのか……」
セシリアと箒はため息をつく。
「はじめは世論を味方につけようとしてるのかと思ってた……」
「世論を味方に?」
簪の言葉に僕は首を傾げる。
簪は頷きながら続ける。
「女性権利団体のやって来たことを告発して、そいつらを悪だと言っても、だからってそいつらに何をしてもいいわけじゃない……。やつらと戦いつつ、犠牲者を出さない。正義と行かないまでも、世界の見方は変わる……」
「しかし、こうして被害が出た以上……」
「もうそれも無理……」
簪の言葉に続いてラウラと僕が言う。
「なんでわざわざ今回はやり方を変えたのか……」
ディスプレイを見ながら織斑先生も呟く。
「とにかくこうして被害者が出た以上、今後は我々にも何かしらの対処をしなければいけなくなるかもしれない。各々心づもりだけはしておいてほしい」
『はい!』
神妙な顔で僕らの方に視線を向けた織斑先生の言葉に僕らは大きく返事をし、この会議は終了した。
〇
「はぁ……」
僕と簪は会議の後、寮の食堂に移動した。
イスの背もたれに背中を預け、大きくため息をつく。
「大丈夫?時差ぼけとか……?」
「あ、ううん。そうじゃないんだけどね……」
心配そうに僕の向かいで簪が僕の顔を覗き込むように訊くので、僕は手を振りながら言う。
「その……確証はないんだけどね……」
僕は口籠りながらも続ける。
「その……手がかりを見つけたかもしれない……」
「手掛かり……?もしかして『亡国機業』の!?」
「ううん、そっちじゃなくて……その…颯太の……」
「っ!?」
「――ってことは…つまりその、シャルロットのお父さんを殴った日本人って言うのが……」
「颯太かもしれない……」
簪の言葉に頷きながら僕言う。
簪に昨日フランスで見聞きしたことを説明した僕。簪は神妙な顔で考え込んでいる。
「確証はないよ。でも、僕にはそうとしか思えないんだ。と言うか――」
「で、でも、いくら颯太でも初対面の人をいきなり殴ったりは……」
言いながらこれまでの颯太のやって来たことを思い出したのか簪は
「………ごめん、やっぱりやりそう」
「でしょ?」
頭を抱える簪に僕は苦笑いで頷く。
「颯太……元気そうではあるけど……」
「これじゃあこれまでもいろいろやらかしてそう……」
二人で揃って大きくため息をつく。
「……とにかく、このことは楯無さんに報告しておいた方がいいんじゃない?」
「うん……出るかわからないけど電話してみる……」
言いながら簪は携帯を取り出し
「あ、携帯の電源、会議中だったからきってたんだった……」
「あ、そう言えば僕も……」
簪の言葉に僕は言いながら携帯を取り出し
『~~~♪~~♪~~~~♪』
「「っ!?」」
すぐ近くで大きな音で流れ始めたポップなアニソンに揃って驚く。
「ご、ごめん、着信みたい……」
「すごいタイミングだね」
電源を入れたタイミングで着信があったらしい。苦笑いしながら簪は携帯を確認し
「あ、颯太の実家からだ……」
「なんだろうね?」
首を傾げながら簪がスピーカーにして僕にも聞こえるようにして電話に出る。
「はい、もしもし、簪で――」
『あぁ!簪姉ちゃん、やっと出た!さっきから散々電話してたんだよ!シャルロット姉ちゃんに電話したのに出ないしさぁ!』
「え?」
電話の向こうはどうやら海斗君のようだ。言われて慌てて携帯を起動すると、画面にはびっしりと着信履歴が表示される。
「あ、ごめんね。僕の方も電源切ってたから……」
『あ、シャルロット姉ちゃんもそこにいるんだ』
「うん。私たちさっきまで会議中で電話に出られなくて……」
『あ、そうだったんだ。じゃあしょうがないか』
「それで、要件は何だったの?」
『あっ!そうだった!大変なんだよ!』
僕の言葉に思い出したようで海斗君が慌てて言う。
『わかったんだよ!』
「わかった……?」
「って何が?」
『〝安木里マユ〟だよ!〝安木里マユ〟の名前をどこで見たか思い出したんだよ!』
「「っ!?どこで見たの!?」」
海斗君の言葉に僕らは声を揃えて訊く。
思わず大きな声が出たので、周りにちらほらいた他の人が一斉にこっちを見るがそんなことは気にしていられない。
『そ、それが、実は〝安木里マユ〟って言うのは――』