IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第160話 君の名は。

 

「すみません遅くなりました!」

 

「すみません……!」

 

 僕と簪は言いながら慌てて会議室に入る。

 会議室内にはもういつものメンバーが揃っている。

 

「構わん。まだ始まっていない、すぐに着席しろ」

 

「「はい!」」

 

 織斑先生の言葉に声を揃えて返事をし、僕らは席に座る。

 なぜ僕らがこうして再び集まったかと言うと、例のサイトに動きがあったからだ。

海斗君からの電話の直後、サイトが更新された。

 僕らの視線の先にはディスプレイに移された『亡国機業』のサイト。そこには「14時から生放送!お楽しみに~!」の文字が躍る。

 僕らは諸事情で集合時間ギリギリになってしまったが、その件は織斑先生に報告済みだったので特に怒られることはなかった。

 僕はちらりと腕時計を確認する。時刻は13時55分あと五分ほどで動画が始まる。

 

「いつもならテロから一時間ほどで動画をアップしていたのに……」

 

「なぜ今回だけ一日空けたのでしょうか?」

 

 ディスプレイに映る文字を見ながら鈴とセシリアが言う。

 

「そのへんの事も今回の動画で触れるのかもな」

 

「なんでいきなりこれまでのやり方を変えたかも……」

 

 箒、一夏も真剣な顔で画面を見ている。

 みんな一様に今か今かとその瞬間を待っている。

 そんな中で僕の隣に座る簪はみんなとは違い、鋭い視線でディスプレイを睨んでいた。

 

「簪……」

 

「っ!」

 

 僕は簪の名前を呼びながら机の下でギュッと握られている手を包むように握る。

 

「落ち着いて」

 

「でも……」

 

「大丈夫……大丈夫だよ……」

 

 言いながら僕は簪に笑いかける。

 

「………」

 

 簪は頷きながら大きく息を吐く。

 先ほどより肩から力が抜けたようで、視線も少し鋭さが減った気がする。

 

「……時間だな」

 

 と、織斑先生の言葉に視線をディスプレイに視線を戻す。

 画面に表示されていた文字が消え、突如、ノイズが走り、そのまま画面が切り替わり「Y♡Mチャンネル」と言うロゴが浮かぶ。

 直後ポップな音楽とともに画面が切り替わり、一人用の豪華なイスに座った一人の人物が映し出される。椅子の脇には小さな白い丸机が置かれている。

 いつもと同じ和洋折衷の衣装に身を包み、顔をキツネのマスクで隠した人物、『安木里マユ』である。

 流れているポップな音楽が徐々に音量が下がる。と、同時に女性の朗らかな声が響く。

 

『やぁやぁみなさんこんにちは~!老若男女、紳士淑女の皆さんお待ちかね!『Y♡Mチャンネル!』の時間だよ~!

 お相手はわたし!皆さんお馴染みの『亡国機業』のボス、〝安木里マユ〟がお送りしま~す!イエ~イ!』

 

 画面の向こうからこちらに手を振りながらいつものハイテンションで言う。

 

『さてさて、視聴者のみんなはなんで今回は動画更新に一日空けたのかって思ってるかな~?実はね~、今回はいつもと違ってミサイル使ったから、みんなの反応が見たかったんだ~♡おかげでこのサイトにみんなからどしどし質問が寄せられたね~』

 

 言いながら数枚の紙の束を取り出す安木里マユ。

 

『今日はなんと特別編!これらの質問にどんどん答えて行こうと思いま~す♡』

 

 そう言って安木里マユは紙の束をペラペラとめくる。

 

『さてさて、結構な数の質問が来てたけど、特に多かったのは「なんで今回はミサイルを使ったんですか?」って言う質問だったね~。う~ん、これね~、ぶっちゃけ気まぐれなのよ。わざわざ出向いて襲撃するのがめんどくさくなったからなんだよね~』

 

 頭を掻きながら答える安木里マユの言葉に全員が息を呑む。

 今彼女はなんと言った?めんどくさくなったから?めんどくさくなったからミサイルを撃ち込んだ?そのせいで何人もケガを負ったって言うの?

 

『そもそも私たちがわざわざ出向いてたのって施設潰すついでに情報も抜き取るためだったしね~』

 

 僕らの困惑なんてお構いなしにディスプレイの向こうでは安木里マユが続ける。

 

『そう言えばネットでも少し話題になってたけど、私たちが人命救助してたって話があるけど、あれは間違ってないよ。まあ、あれは助けた人が重要人物だったらそのまま人質にしようと思ってのことだけど。でもそんな重要人物が逃げ遅れるなんてへましないから結局徒労に終わったんだよね~』

 

 安木里マユはやれやれと言った様子で肩をすくめる。

 

『で、まあこれまでに潰した施設とかハッキングしてきた人を逆にハッキングし返して、私たちが欲しい情報はもうあらかた手に入ったから、もう私たちが直接出向く必要性が無くなったんだ。だから今回はミサイルにしたってわけです。みんな理解できたかな~?』

 

 朗らかにディスプレイの向こうから首を傾げる安木里マユの様子に僕らは呆然とする。

 僕らが散々頭を悩ませた、意図の見えなかった行動がただの気まぐれであることにただただ驚くばかりだった。

 安木里マユは読み終えた質問の書かれた紙をバサリと背後に投げ捨てる。

 

『さて、次の質問行ってみよ~♡次は……これにしよう!「ミサイルを使って被害者が出ましたが、『亡国機業』の皆さんは正義をもって行動していたんじゃないですか?」って質問ですが……ひひひっ、これはぶっちゃけ読んだときお腹抱えて笑っちゃったなぁ~』

 

 言いながら安木里マユはひひひっと気味悪い笑い声を漏らす。

 

『だってさぁ…みんな何か勘違いしてるけどさぁ、私たち別に正義の味方じゃないよ?別に女性権利団体の行いが許せないから懲らしめるためにやったわけじゃないよ?最初に言ったけど、私たちのことを好き勝手にいいように使うだけ使ってあとはポイッしようとしたことへの復讐だからね。

 ついでにこの場を借りて言わせてもらうけど、私たちのことを神格化して讃えてる人がいたけどさ~、ぶっちゃけ頭おかしいんじゃない?私たちテロリストだよ?私たちがやってること、言ってることにどれだけ大義名分があろうと襲撃したり爆弾使ったりミサイル使ってちゃ正しいわけないじゃん。ちなみにこれは全世界で活動してる耳障りのいいうたい文句でテロやってる人たちに向けても言ってるからね?だいたい私たちの行動に大義なんてないし』

 

 このときたぶんこの場にいる全員の思考が『お前が言うな』という一言に揃っていたと思う。と言うか一夏は口に出してたし。

 先ほどと同じように読み終えた用紙を背後に投げ捨てる

 

『さぁてどんどんいこっか~♡次は――』

 

 

 

 〇

 

 

 こんな調子で三十分近く質問に答えた安木里マユは

 

『それじゃああらかた質問にも答えたし、次は今回初の試み、なんとなんと~……今からランダムで視聴者のみんなと電話を繋いで生でお話をしたいと思います!』

 

 安木里マユの言葉にみんなで息を呑む。

 

『今から電話番号を表示するから、私とお話したい人はその番号にかけて来てね~。先着じゃなく、ランダムで繋ぐんだから慌てなくても大丈夫だからね~。それじゃあいっくよ~』

 

 安木里マユの言葉とともに画面に番号が表示される。

 

『さぁ~みんなどんどん電話してきてるかな?さてさてその中からランダムで私の手元の――』

 

 ジリリリリリリッ!!

 

『あ、来た来た』

 

 言いながら大きな音のする、ソファーの脇から古めかしい黒電話を取り出し机の上に置く。

 

『それじゃあ栄えある全世界70億人の中から選ばれたラッキーボーイorラッキーガールはぁ~?――君だ!』

 

 言いながら安木里マユが受話器を手に取る。

 

『もしもし~?安木里マユで~す♡お名前をどうぞ~。あ、恥ずかしかったら偽名でもいいよ~?』

 

 安木里マユの言葉の後に数秒の間を空けて電話がつながったであろう相手の声が聞こえてくる。

 

「織斑一夏だ」

 

 ………あれ?気のせい?一夏の名前が出たよ?と言うかディスプレイからじゃなくてすぐ近くから聞こえたような……。

 僕は恐る恐る声の聞こえた方に視線を向ける。僕と同じようにみんながそちらに視線を向けていた。

 そこには、携帯を耳に当てディスプレイを睨んでいる一夏の姿があった。

 

『おやおや~?織斑一夏君?それってあの世界で二人しかいない男性IS操縦者でIS学園の現生徒会長の織斑一夏君かな~?』

 

「そうだ!その織斑一夏だ!」

 

「「「「「「ちょっとちょっとちょっと!?」」」」」」

 

 慌てて箒たちが一夏に掴みかかる。

 

「ちょっとあんた何考えてんのよ!?」

 

「そうですわ!なんで電話なんて!?」

 

「お前は馬鹿か!?」

 

「よく考えて行動しろこの馬鹿!」

 

「え!?ちょっ!?何だよ急に!」

 

 僕らに詰め寄られ、一夏は困惑しながら周りを見る。

 

『あれれ~?もしかして今の声……中国代表候補生の凰鈴音ちゃんにイギリス代表候補生のセシリア・オルコットちゃん、ドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒちゃんにあのてんっっっさい!篠ノ之束の妹の篠ノ之箒ちゃんじゃない?なんだなんだ~!てっきり名前を騙った偽物かと思ったのに、本物だったパターン?わ~い、あの有名人と電話がつながるなんてマユちゃんマジラッキーガール!』

 

 電話を通してこっちの声が聞こえたのか安木里マユが嬉しそうに小躍りする。

 

『そう言えばいまってみんなでIS学園の生徒会だったっけ~?すっご~い!一夏くんカッコいい~!よっ!生徒会長!』

 

「おい、何をバカをやっているんだお前らは」

 

 言いながら織斑先生も一夏のそばにやって来て

 

『さらにおやおや~?今のってもしかしてあの初代ブリュンヒルデ、織斑千冬さんじゃ~あ~りませんか?うひっ!すっごい!各国の代表候補生だけじゃなくて織斑千冬さんまでいるなんて!』

 

 興奮したように更に小躍りする安木里マユ。

 

『でも、そっかそっか~!私ね~実は君たちのファンなんだよ~!』

 

「ファン?」

 

 安木里マユの言葉に一夏が訊く。

 

『そう!世界で初めてISを起動した男子高校生!専用機を持った友人たちとともに切磋琢磨し合い成長していくなんて、まるで漫画の中の物語のようじゃない?』

 

 くるくると回りながら安木里マユが言う。

 

『しかも、同じくISを起動できた男子、井口颯太を追い出し、IS学園の生徒会長の座に就いた。そう!まるで漫画の中でライバルとすべてをかけて戦う熱いバトルのよう!最高にカッコいいよ~!』

 

 ビシッとディスプレイの向こうからこちらを指さす。

 

「ふざけるな!お前が俺たちの何を知ってるって言うんだ!?」

 

『ふひひっ!私は何でも知ってるよ。君らのことはなんでもね?』

 

 気味悪い笑い声を上げながら安木里マユは言う。

 

『例えば……セシリアちゃん。君のご両親は数年前に電車事故で亡くなってるね?それからはイギリスの代表候補生の地位でオルコット家を守ってきたんだよね?ご両親想いでいい娘だね~セシリアちゃん』

 

「それは……」

 

『鈴音ちゃん。君は確か一夏君のセカンド幼なじみだったね?中華料理店を経営するご両親が離婚して中国に帰国するまで一夏君と仲良しこよしの幼なじみ。一夏君とは「料理が上手くなったら毎日食べてもらう」って約束してたんだよね?きゃっ!だいた~ん!♡』

 

「な、なぜそのことを!?」

 

『ラウラちゃん。君は確かドイツの遺伝子強化試験体、試験管ベビーだよね?ISとの適合性向上のために行われたヴォーダン・オージェの不適合で左目が金色に変かわっちゃって、それをずっと隠してた。それを一夏君に綺麗だって言われたこと、すごく嬉しかったんだよね?』

 

「っ!」

 

『箒ちゃん。君はあのてんっっっさい!篠ノ之束の妹で中学時代には剣道の大会で優勝したサムライガール。さらには一夏君の周りに専用機を持った女の子が増えたことに焦ってお姉ちゃんに泣きついて専用機をもらった姉の七光りガール』

 

「そ、それは……」

 

 安木里マユの言葉に言われたみんなが驚きと困惑の声を上げる。

 今安木里マユがったことは一部の人間しか知らないことのはずだ。

 

『ひひひっ!私は何でも知ってるよ~。どう?当たってたでしょ?』

 

「……てめぇいい加減にしろよ?」

 

『ひひっ?』

 

 一夏の言葉に安木里マユが首を傾げる。

 

「お前はそうやって自分勝手に誰彼構わず傷付けて!気まぐれで人を助けたかと思えばめんどくさくなったからミサイル使って!お前の行動でいったい何人の人が傷ついてると思ってんだ!?」

 

『…………』

 

 一夏の言葉に安木里マユは黙る。

 

「そんなお面付けてるから!そんなお面ごしに世界を見てるからこんなひどいことができるんだ!そのふざけたお面をとって自分がしてきたことをしっかりと自分の目で見たらどうなんだ!」

 

『…………』

 

 安木里マユは一夏の言葉に俯き

 

『………ふひっ』

 

 小さく声を漏らす。

 

『ふははははははははっ!ふひひ、ひひひひひひひひひひひひひひひ!』

 

 狂ったように笑う安木里マユ。

 

「な、何がおかしいんだよ!?」

 

『いやいやごめんね~?だって私は嬉しいんだ~。君は〝自分の掲げる理想にいまだ押しつぶされることなく、いまだ惨たらしく絶命していない〟!私はその事実がどうしようもなく嬉しいんだよ~!』

 

「っ!?お、お前どうしてその言葉を!?その言葉は誰にも言っていない!それを知ってるのは俺以外は言った本人の颯太しか!」

 

『言ったでしょ~?私はあなたたちのことなら何でも知っているんだよ~』

 

「……ふざけないで」

 

『ひひっ?』

 

 低く怒りに震える声が安木里マユの言葉を遮る。

 

「あなたは確かに私たちのことを知ってるかもしれない。でも、それは彼から聞いただけ……!」

 

『その声は日本代表候補生の更識簪ちゃんかな?ふひひひっ!お姉さん元気?』

 

「黙れ!」

 

 簪が大声で叫ぶ。

 

「か、簪、落ち着いて……」

 

『へ~、元フランス代表候補生のシャルロット・デュノアちゃんまでいる~。ホントに揃い組じゃ~ん。ファンの私には涎が出るほどの環境じゃ~ん!ふひ、ふひひひひひ、ひひひひひひひひ!』

 

 楽しそうに笑う安木里マユに簪は叫ぶ。

 

「そうやって笑ってられるのも今のうち!あなたが私たちのことを知ってるように、私もあなたのことを知ってる!」

 

『………へ~?面白いこと言うね~?あなたが私の何を知ってるの?』

 

 簪の言葉に安木里マユは冷たい声で訊く。

 簪の言葉の意味が分からず織斑先生も含め、みんなその様子を見守っている。唯一、僕だけは簪の言おうとしていることがわかる。

 簪は鋭い視線でディスプレイに映る安木里マユを睨みつける。

 簪の言葉を聞きながら僕は数時間前に聞いた海斗君の言葉を思い出す。

 

「安木里マユ、あなたのその名前は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そ、それが、実は〝安木里マユ〟って言うのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――井口颯太(兄さん)の書いた小説のヒロインの名前(なん)だ!」』

 

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