前回の話を読んでいないかも?と言う方は今すぐ164話へ!
そんなわけで165話、始まるよ♪
俺たちがバルベルデ共和国に来て一週間が経った。
この一週間でホテルを拠点に様子を見ていたが、二日くらい前に近くの地域でデモが起きたという知らせが入った。
この一週間はアキラさん達が各所へのハッキングなどから情報を探していたが、ちょうどいいので現地に行ってみることにした。
一週間の間にタダ同然でゲットしたケッテンクラートを移動手段にして実際に行ってみた。
と、言うのも、その場所にバルベルデ共和国の政府の結構な高官の家があることが分かったのだ。
もしかしたら家に重要な書類なんかを持って帰っているかもしれない。その中に『亡国機業』に繋がる情報が得られるかもしれない。
とか期待して行ったんだが……結局そう都合よく見つけることはできず、それでもダメもとでいろいろ調べているうちに俺は地下に続くドアを見つけた。
もしかして重要な書類とかは地下に隠してるんじゃね?と期待して、持ってきていた懐中電灯を片手に地下に入る。
階段をゆっくりとおりきると、そこには三つの扉が並んでいた。
とりあえず一個づつ開けていくかと、一番手前のドアを開ける。
一つ目のドアの中には、真っ暗な部屋で向かいの壁には何かを繋ぐような金具があったが、それ以外に部屋の中には何もなかった。
その部屋を後にし、隣の二つ目のドアを開ける。
最初に感じたのは臭いだった。何かが腐ったような独特の匂いがドアを開けた瞬間鼻腔を刺す。
顔をしかめながら右手で鼻を押さえながら室内を照らす。
臭いのもとはすぐに分かった。
部屋の奥、一つ目の部屋と旁は同じで、奥の壁の金具の一つから鎖が伸び、その先には形容しがたいものがあった。
それは恐らく数日前まで人だったもの。
腐敗が始まっていて恐らく臭いはそのせいだろう。あまり長時間見つめていたいものではないが堪えて少し観察すると、ボロボロの服らしきものから見える体に青黒いあざが見える。
恐らく女性。暴行の末にここに放置されたのだろう。
俺はその死体にゆっくりと手を合わせ、黙祷し、部屋を後にする。
そうして俺は最後のドアの前に立った。
一つ目は空。
二つ目は死体。
さぁ、三つ目の部屋からは何が出るのか、鬼が出るか蛇が出るか。
俺は大きく息を吐き、覚悟を決めてドアを開ける。
そして――三つ目の部屋には全く予想外のものがあった。
そこにあったのは、床に横たわる、まだ息のある少女だった。
そんなこんなで俺はクリスを拾ったわけだが。
ケッテンクラートを走らせる間荷台でずっとブスっとした表情で俺のモッズコートにくるまる少女の様子に、話かけられず、結局拠点にしているホテルに戻るまで終始無言だった。
「ほい、着いたぞ」
「ん……」
ケッテンクラートを停め、荷台に乗せた自分の荷物を取りながらクリスに声を掛けると、クリスはゆっくりと立ち上がり
「っ!」
ゆらりとバランスを崩す。咄嗟に抱きとめる。
「おいおい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ!」
言いながら俺を突き飛ばすように距離をとり、フラフラな足取りで荷台から降りてホテルの方に歩いて行く。が、明らかに大丈夫じゃない。
「………はぁぁぁ」
俺は大きくため息をつくと歩を進める。クリスがフラフラと弱々しく歩いた距離をたったの3歩で追いついて後ろから抱え上げる。
「お、おいてめぇ!何すんだ、放せよ!」
「大人しくしてろ。あと勘違いするな。クリスのその足取りに付き合ってたら日が暮れるからだ」
「っ!」
俺の言葉に悔しそうに顔をしかめながらも大人しくなる。
「そうそう。それでいい」
大人しくなったクリスをそのまま抱えてホテルに入り、クリスの分の手続きを受付でする。
受付のホテルマンがクリスを抱えている俺の姿になんとも言えない表情をしていたが無視する。
手続きを終え、そのまま部屋に向かう。
エレベーターに乗ってる間もクリスは大人しくしていた。
そのまま部屋に戻ってきた俺は、決めていたノックの方法でドアを叩く。
「は~い、おかえり、颯太。何か収穫は――」
言いながらドアを開けたアキラさんは俺の姿を認め、俺が抱えているクリスに視線を向け
「……………」
ゴミを見るような目で俺を見て部屋のドアをゆっくりと占め――
「ちょっと待った!なんで閉めるんですか!?」
俺は慌ててドアに足を挟んでクリスを抱えていない方の手でドアを掴む。
「うるさい黙れ、このロリコン。そんな年端も行かない少女を金で買ってくるようなクズ、私たちの知り合いにはいない」
「誤解です!クリスは金で買ったんじゃなくて――」
「無理矢理連れてこられた」
「そうそう無理矢理――ってこらこらこら!」
「死ねロリコン」
「ギャイン!」
クリスの言葉にさらに鋭い視線で俺を睨んだアキラさんは挟んでいた俺の脚を蹴りつけ、怯んでいる俺の隙をついてドアを勢いよく閉める、ドアを掴んだままだった俺の手を巻き添えにして。
「あんぎゃ~!!?」
ホテルに俺の叫び声がこだました。
〇
「――で?要するに情報は得られずこの子を拾った、と?」
「まあそういうことですね」
アキラさんにドアで挟まれた指を冷やしながら語った俺の説明にアキラさんが一応は納得してくれたようだ。
「でもどうするの?」
「どうするって……」
言いながら俺は視線を部屋の隅に向ける。
そこには体育座りで部屋の隅に座り込むクリスがいる。
「そりゃ、連れてくしかないでしょ?」
「無理に決まってるでしょ!元いたところに返してきた方がいい!」
「お願いですよ!ちゃんと俺が世話しますんで!」
「ダメ!そんなこと言ってどうせ三日坊主でしょ!」
「そんなことありません!ちゃんとご飯も食べさせますし、ちゃんと世話――」
「アタシは犬や猫かなんかか!?」
俺とアキラさんの会話にクリスが憤慨した様子で叫ぶ。
「ふざけんな!さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって!アタシは勝手に生きるからほっといてくれ!」
言いながらクリスは憤慨した様子で部屋の出入り口の方に歩いて行き――
「おまたせ~。できたよ~」
言いながら貴生川さんが奥の簡易キッチンの方からその両手に湯気の立つナポリタンをもって現れる。
「わ~い!お腹減ってたんですよ!ありがとうございます!」
言いながら俺は自分の分を受け取り、手を合わせる。
「いっただきま~す!」
「はいどうぞ~。あ、ほら!クリスちゃんも!」
貴生川さんがクリスちゃんを手招きする。
「べ、別にアタシは……」
「ほら、クリスちゃんの分もあるよ。消化にいいようにお粥にしておいたから。三日近く何も食べてないんでしょ?」
「だ、だから別にアタシはお腹は空いて――」
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~
と、クリスの言葉を遮って大きな音が響く。
首を傾げながら俺が顔を上げると、クリスが顔を真っ赤にして肩を震わせていた。
「今の、もしかしてお腹の音?」
「っ!ち、ちがっ!今のは別に――」
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~
「こ、これはそうじゃなくて――」
グギュルルルルゥゥゥゥゥ~
クリスは言い訳をしようとするがそれを遮るようにその音は響き渡る。
「もう意地張ってないでこっち来て食べろよ」
「~~~~~!」
顔を赤く染めたクリスはずんずんとこちらに戻って来て俺の隣にすとんと座る。というか小さな丸机を三人で囲ってるので俺のとなりくらいしか空いていなかったのだ。
「はい、どうぞ」
貴生川さんから渡されたお皿を受け取り、スプーンで一口掬い、口に運ぶ。
と、おいしかったのか目見開き、そのままガツガツと効果音が聞こえそうな勢いで食べ始める。
「そんな慌てて食わなくても誰も取らないからゆっくり食えよ」
俺は言うがクリスは首を振りながら余計に勢いよく食べる。そのせいで顔の周りに米粒が飛び、頬に着く。
「あぁ~、もう!ほれ、こっち向け!」
無理矢理クリスの頭を押さえつけて机の上に置いていたタオルで口の周りを拭く。
「なっ!痛い!やめろ!」
「やめてほしけりゃもっと大人しく食え!」
嫌がるクリスを押さえつけて綺麗になるまで無理矢理拭く。
ある程度綺麗になったところで解放すると、恨みがましい目で俺を睨みつけるクリス。
俺を睨みながら食事を再開するクリスを眺めながら俺は口を開く。
「クリス。交渉しよう」
「交渉?」
警戒した様子で俺を睨みながらクリスが訊く。
「そう。当分お前の面倒は俺たちが見てやる。衣食住ちゃんと世話してやる」
俺の言葉に胡散臭そうに俺を睨むクリス。
「その代わりもちろんタダじゃない」
「……どうしろって言うんだよ?言っておくけどアタシは金なんて持ってないぞ?」
「知ってるよ。そんなもん期待してない」
「だったら!」
「俺たちはこの国に来てまだ一週間だ。正直この国のことは疎い。お前にはこの国のことをいろいろ教えてほしい。言うなれば衣食住与える代わりに情報を寄越せ、ってことだ」
「なるほど……でも、アタシほとんどあの屋敷の中でこき使われてたから……」
俺の提案にクリスが心配そうに言う。
「まあ有力な情報が出せなくても、そんときゃ身体で払ってもらうさ」
「……はぁ!?」
と、俺の言葉にクリスが自分の身体を抱くように俺から飛び退く。
「……なんだよ?」
「てめぇやっぱロリコンじゃねぇか!」
「はぁ?俺のどこが……」
「颯太?」
クリスの言葉に叫ぶと横でアキラさんが冷たい声で言う。
「初めからそういう目的でクリスを拾っていたんじゃ……?」
「そんなわけないでしょ!」
「だったらなんで身体で払えなんて……!?」
「そうだそうだ!」
アキラさんが鋭い視線で俺を睨みながら言う言葉にクリスが同調する。
「それは情報が出せないなら労働力として働いてもらうって意味で、決してそんな意味じゃないです!」
「「…………」」
心底信用できないという目でアキラさんとクリスから睨まれる。
「っ!だ、だいたいいくら俺が思春期でもこんなまな板みたいなフラットチェストに興奮したりしませんよ!」
「なっ!?」
俺の言葉にクリスが顔を赤く染めて憤慨する。
「ま、まな板だと!?あ、アタシだっていくら何でももうちょっと――」
「黙れフラッチェ!」
「変な呼び方すんな!」
クリスが怒った様子で叫ぶ。
「あ、あたしのママそれなりだったんだから、アタシだってあと二、三年もすれば!」
「寝言は寝て言えフラッチェ」
「だからフラッチェ言うな!見てろよ!いつかてめぇをギャフンと言わせてやるからな!」
「おぉやってみろ!楽しみにしといてやるよ!」
売り言葉に買い言葉。なんだかよくわからない言い争いの末、こうしてクリスが俺たちのパーティーに加わったのだった。
ちゃーらーらーらー♪
ちゃーらーらーらー♪
ちゃーらーらーらー♪
ちゃーらーらーらー♪
ちゃんちゃらららら♪
ちゃんちゃらららら♪
ちゃ――――ん――――ちゃ――――ん――――♪
クリスが仲間になった