まだ20話にいってないのに200を超えるとは、もう一つの方よりも早いっすね。
嬉しい限りでございます。
「ねえ、これはどう?」
体の前に紺のワンピースを掲げた師匠が俺に訊く。
「そうですね……それよりさっきの白の方が似合ってたと思いますよ」
俺は先ほど同じように見せられた服を指さす。
俺と師匠はモール内の店のひとつに来ている。
楽しげに服を選びながら俺に見せ、俺に意見を聞く。師匠は美人なのだから何を着ても似合う。そう言ったら、俺の好みや主観でいいから意見を言ってほしいそうだ。なんでも、そうやって俺の意見を聞くことで俺の好みを知り、お互いのことを知り合うのだそうだ。
そんなこんなで、今はお昼前なのだがここまで数件の店を回り、いくつか服やアクセサリーを購入した。もちろん運んでいるのは俺。まあそんなに量はないので平気だ。ひとつの店でせいぜい一商品くらいだ。もっと買うと思っていたので少し拍子抜けだ。
「うん、これにしよーっと」
楽しそうに笑いながら師匠が服を掲げた。それは俺が似合うといった白のワンピースだった。
「いろいろ見て回ってますけど、あんまり買わないんですね」
「うん。まあね」
俺の問いに師匠が頷く。
「師匠ならもっと豪快に買うかと思ってました」
「ほしいものを全部買ってたらきりがないじゃない」
そりゃそうだ。ほしいものを好きなだけ買ったんじゃお金がいくらあっても足りないだろう。
「じゃあ買ってくるわね」
「はい」
「そろそろいい時間だし、お会計終わったらお昼にしましょう」
「了解っす。先に店の外にいますね」
俺の言葉に頷いて師匠はレジへと歩いて行った。
「ふう」
両手に袋を持ったまま俺は店から一旦出て一つ息を吐き出す。服一枚一枚は軽いがこうして袋に入って何種類か持つとそれなりにかさばる。
店の前のベンチに腰を下ろそうとした俺はふと隣の店先に置かれたものが目に入る。
「これは――」
俺が見つけたのは二つのキーホルダーだった。
親指ほどのサイズの猫でそれぞれ紫と青。紫の猫はイタズラっぽく人懐っこい笑みを浮かべ、青の方ははにかんだ笑みを浮かべている……ように見える。そう、あくまで見えるだけで作った側は違うイメージなのかもしれない。
この店は手作りの商品を扱っているらしく、この二匹の猫もこの一点ものらしい。
「…………」
数秒考えた後、俺は二つとも手に取ってレジに向かう。
「いらっしゃいませ」
レジにやって来た俺に笑顔を見せる店員の女性にキーホルダーを渡す。
「分けて包んでくれますか?」
「はい」
店員の女性が紫と青の猫をそれぞれ別々に包装紙で包み、袋に入れる。
「彼女へのプレゼントですか?」
財布からお金を取り出そうとする俺に店員が笑顔で訊く。
「いえ。残念ながら友達へのプレゼントですよ」
お代を渡しながら苦笑い気味に言う。
「そうですか」
ほほ笑みながら店員の女性が袋を俺に渡す。
「ありがとうございます」
店員の女性にお礼を言いながら俺は店を出る。
「お待たせ~」
店を出てベンチのところに来た俺に師匠がやってくる。
「いえいえ。そんなに待っていませんよ」
師匠の言葉に笑顔を見せながら右手を差し出す。
「ありがとう」
師匠は俺にお礼を言いながら手に持っていた袋を渡す。
「それじゃあ行きましょうか」
師匠は俺の横に並んで歩き出す。
「お昼はどこで食べます?」
「そうね――」
○
一方その頃簪と本音は――
「かんちゃん。かんちゃんにはこの服が似合うんじゃない?」
「ほ、本音…お姉ちゃんたちが移動するから…早く……」
ふたりの監視をしながらも買い物を楽しんでいた。
○
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
店員に迎え入れられながら俺と師匠は案内された席に座る。
「では、ご注文が決まりましたらそちらのボタンでお呼びください」
そう言って店員がさがる。
「どれにしよっかな~」
楽しげにメニューを眺める師匠。俺もメニューに目を向ける。
「ここはパスタがおすすめみたいですね」
「そうね。色々な種類があるわね」
メニューには写真付きで数種類のパスタが載っている。どれもおいしそうだ。
「じゃあ~私は~これ~♪和風キノコスパ♪」
「じゃあ、俺はカルボナーラにします」
ふたりともメニューが決まったのですぐに店員を呼び、注文をする。
数分待って注文したメニューが届く。
「「いただきまーす」」
ふたりで声を合わせて合掌し、フォークを手に取って食べ始める。
「……今日はありがとう、買い物に付き合ってくれて」
カルボナーラをすすっていた俺に師匠が笑顔を浮かべながら口を開く。
「別にいいですよ。俺が師匠の顔に落書きした罰でもあるんですから」
「まったくよ。おかげであの日から『会長が新しいメイクを始めた』なんて噂が流れたんだからね。簪ちゃんにも笑われちゃうし」
「ホントすいません」
笑いながら俺は頭を下げる。
「……でも、あなたには感謝してるわ。おかげで簪ちゃんとも仲直りできた」
「そうっすか……その後簪とはどうですか?」
「良好良好。今度一緒に買い物行くのよ」
「お!よかったじゃないですか。じゃあ今日の買い物はその予行練習も兼ねて見て回ってるんですか?」
「んー、まあそれもあるかな。それが100%じゃないけど」
ふーん。荷物持ちがいるから普通に買い物楽しみたかったってのもあるのかな?
「まあなんにしてもよかったじゃないですか」
「ええ」
俺の言葉に師匠は嬉しそうに微笑む。
「本当にありがとうね、颯太君。これは何かお返ししないとね。ねえ颯太君、私にしてほしいことはないの?」
「してほしいことですか?」
「そう。なんだっていいわよ。私にできることならなんだってやってあげる」
「やってほしいこと…か……」
師匠の言葉に俺は数秒考える。
「………んー、今のところは特にないですね」
「そう?なんだっていいのよ?どんな願いでも一つだけ叶えてあげるわ」
フォークをいったん置いて考える俺に師匠が微笑む。
「世界征服でも永遠の命でもこれから地球にやってくるサイヤ人を倒してほしいでも」
「師匠は神龍をも超える力を持っているというのか!?――って!これは『化物語』の戦場ヶ原のセリフじゃないですか!」
「あ、ばれた?」
師匠がペロッと舌を出す。
「最近簪ちゃんの好きなアニメやヒーローものを見るようになってね。話題のアニメはいろいろ見てるわよ。颯太君が前に真似したっていうジョジョも全部読んだわ」
ふふん、と誇らしげに胸を張る師匠。
「まあそれは置いておいて、本当に何かないの?なんだっていいのよ?」
「う~~~ん。……今ぱっと思い浮かばないですね」
俺は考え込むがやっぱり思い浮かばないので、素直にそう伝える。
「じゃあ何か私にしてほしいことができた時に言って」
「はい。そうします」
頷いて食事に戻る。
「話は変わるんだけど、そのカルボナーラおいしそうね。一口ちょうだい」
「いいですよ」
師匠の言葉に頷いて皿ごと師匠に渡そうとすると
「ああ、いいわよ皿はそのままで」
「え?じゃあどうやって?」
俺が首を傾げると師匠がにやりと笑う。
「あーん」
「は?」
突然大きく口を開ける師匠。これは……そういうことか!?そういうことなのか!?
「ほらほら。早く早く。あ~ん」
「え、えっと……」
これはしないといけないのだろうか。
「ほらほら。ずっと口開けてるのは少しつらいのよ」
「わ、わかりましたよ!やればいいでしょやれば!」
くっそ、恥ずかしいけど、やらないと延々催促し続けるだろう。ここは腹をくくるか…。
「あ、あーん」
「あ~ん。うん、おいしい」
嬉しそうに微笑む師匠と少しぐったりする俺。
ものすごいまわりからの視線を感じる。この店の全男性客の視線を受けている気がする。自意識過剰とかじゃなくマジで。心なしか妙に殺気のこもった視線も感じる。フォークでグサグサ刺す音も聞こえる。
「はあ……」
俺は姿勢を正してフォークを握り直す。気を取り直して俺も食事を再開――
「ねえ、こっちの和風キノコもどう?おいしいわよ」
「…………」
なんだろう。勧めてくれただけなのに何か嫌な予感がする。
「……えっと…じゃあ…いただきます」
「うん。じゃあ――あーん」
満面の笑みで俺に向けてパスタの巻かれたフォークを差し出す師匠。
ちくしょう、やっぱりか!!
「……自分で食べられますよ?」
「いいからいいから」
断ろうとする俺の言葉を満面の笑みで断り返す師匠。これも腹をくくるしか…。
「あ…あーん…」
「あーん」
差し出されたフォークを口に入れる。キノコの食感とパスタのつるりとした食感が和風のソースに絡んでおいしい…のだが…
「おいしい?」
「お、おいしいです…」
味を感じるほどの余裕はないさっきよりも視線を感じる。しかもその中にはやはりものすごく殺気のこもった視線がある。なんかフォークで刺す音が大きくなってないか?
「うんうん。ここのパスタはどれもおいしいみたいね。またこよーっと」
なぜかさっきよりも機嫌がいい師匠と
「…………」
あーんされたときよりもぐったりする俺であった。
○
「さーてっと、これからどうしようかしら?」
パスタの店から出た俺と師匠。師匠は地図を開きながら地図に視線を巡らせる。
「じゃあ、午後からは――」
「見つけましたよ、お嬢様!」
「「!!」」
突然背後から聞こえてきた声に俺も師匠もびくっと震える。ゆっくりと振り返った先には
「う、虚ちゃん…」
そこに立っていたのは制服姿の布仏先輩と
「や、やっほー、ぐっちー」
「ど、どうも…」
布仏先輩の背後からのほほんさんと簪が現れる。
「今日の仕事はとても大事なものだって…私言いましたよね…?」
普段温厚な布仏先輩。今の言葉も笑顔のまま普段のトーンで言われた言葉だったはずなのに…。なぜだろう、先輩の背後に般若が見えるようだ。ま、まさか…これがスタンド!?
普段とは違う布仏先輩の雰囲気に本音も簪もまるで生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている。
「い、いやー、これは…その……」
師匠もたじたじだ。
「あ、あの、布仏先輩。これは俺の――」
「颯太君いいの」
俺の言葉を師匠が遮る。
「虚ちゃん、わがままを言ってごめんなさい」
師匠が素直に頭を下げる。
「お嬢様の気持ちはわかりますが、やらなければいけない仕事を投げ出されては困ります。私にもフォローできないことはあるんです」
「ええ、その通りね。本当にごめんなさい」
しおらしくしゅんとしている師匠。
「では行きましょう、お嬢様。今日中に終わらせなければいけない仕事もありますので」
「ええ」
布仏先輩の言葉に師匠は頷き俺に向き直る。
「ごめんね、颯太君。そういう訳だから私は学園に戻らないと」
「いえ、仕事なら仕方がないっすよ。てか、布仏先輩に全部押し付けてもダメだったんじゃないですか。仕事サボるのもほどほどにしてくださいよ」
「は~い」
苦笑いを浮かべながら師匠が頷く。
「じゃあ荷物もらうわ。このまま私が持って帰るから」
「俺がこのまま持って帰りましょうか?」
「いいわよ。あなたにもいきたい店があったんでしょ?私も一緒に行きたかったけど…」
師匠が一瞬寂しそうな顔になる。
「また一緒に行きましょ」
「……はい」
俺は師匠の言葉に頷く。
「あ、そうだ。師匠、これどうぞ」
俺はポケットにしまっていた袋を取り出し、その中から紙に包まれたものを一つ取り出して渡す。
「これは?」
「まあ記念みたいなもんですよ」
「そう…ありがとう」
嬉しそうに微笑んだ師匠に俺もニッと笑う。
「井口君、今日はお世話になりました。お騒がせしてすみません」
ついで師匠の横にやって来た布仏先輩が俺に頭を下げる。
「いいんですよ。これはもともと俺の罰ゲームだったんですから」
俺は笑って言う。
「それでは……お嬢様行きましょう。本音。あなたも手伝って」
「え~私もー?」
「そうよ。普段仕事を手伝わないあなたにもうやってもらわないと仕事が終わらないわ。猫の手だって借りたいのよ」
「は~い」
「それじゃあね」
「それでは、失礼します」
「ばいび~」
そう言って三人は去って行った。残されたのは俺と
「……えっと…」
簪だけだった。
「……なあ簪」
俺が声をかけると簪がビクッと震える。
「な、何…?」
「これ、やるよ」
俺は袋に入っていたもう一つの包装されたものを簪に渡す。
「たいしたもんじゃないけど、師匠とおそろいのもの買っといた」
「お姉ちゃんっと…?」
簪は受け取って包装紙を解く。
「これは……」
中から出てきたのは紫の猫のキーホルダー。
「その猫、楯無師匠になんか似てる気がしてさ。もう一個師匠にあげた方はなんとなく簪に似てる気がしたんだ。だから両方買ってお互いがお互いに似た方にしてみた」
「……え、えっと…」
簪がそのキーホルダーを見つめながらモジモジとする。
「……そ、その…ありがとう…。大切にする…」
「おう」
嬉しそうに笑った簪に俺も笑いかける。
「さって!」
俺はその場でグッと伸びをする。
「簪はこれからどうする?何か予定とかあるのか?」
「え?と、特にないけど……」
「じゃあさ、アニメイトいかね?」
「……え…?」
俺の言葉に簪きょとんとする。
「ここアニメイトあるんだよ。本当は今日最後に行くつもりだったんだ」
俺は手に持ったこのモールの地図を開いて見せる。
「どうだ?今からふたりで行かないか?」
「……え、えっと…」
簪が少し慌てたように少し顔を赤くする。
「う、うん……行く…!」
「おう、そうか」
一人で行くのも寂しかったし、よかった。
「じゃあ行くか」
「…うん」
こうして俺たちはアニメイトで買い物を楽しんだのだった。
ついでに帰りにケーキショップでいくつかケーキを見繕って生徒会に差し入れしたところ、いつもの倍以上積み上がった書類の山に埋もれる三人の姿があった。
………お疲れ様です。
てなわけで、これにて楯無さんとの買い物デートは終了です。
食べさせ合いっこって男の浪漫だと思うのは僕だけでしょうか。
あと、ISって妙にあーんが多いっすよね。
原作者の趣味でしょうか…。
それはさておき
次からはまた原作に戻ります。
そろそろクラス対抗戦かな。