IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第171話 出回っているものがすべてとは限らない

 

「……ん……ここは……?」

 

 目が覚めた時、目の前にあったのは知らない天井だった。

 周りを見るとどうやら俺は豪華なベッドに寝ていたようだ。まわりの調度品や家具を見るに結構な高級そうなものばかり。

 とりあえず体を起こしベッドから這い出してベッドの脇に腰掛ける。

 

「えっと……俺は……確か『亡国機業』の人たちと交渉して……手を組むことになって……オータムさんとじゃれ合ってたら………――はっ!?そうだ!織斑先生に似た人が現れて……それで………どうしたんだっけ?」

 

 俺は記憶の途切れる前の記憶を一つずつ思い出していく。と――

 

「あら?目が覚めたのね。おはよう、同盟者さん」

 

 背後から俺の意識が途切れる前にあっていたスコールの声が聞こえる。

 振り返るとドアを開けたところにバスローブ姿のスコールが自身の頭にバスタオルを当てて髪を拭きながら立っていた。

 タオルから見える髪は湿っており胸元の大きく開いたバスローブから見える彼女の豊満な胸の谷間に首すじから伝い落ちる水滴がゆっくりと――

 

「って、なんちゅう格好しとんじゃ!?」

 

 俺は飛び退き顔を逸らす。

 

「フフ、随分とウブな反応ね。昨日はオータム相手にあれだけセクハラかましてたのに」

 

 スコールの楽しげな声が聞こえてくる。

 

「それに格好に関してはあなたには言われたくないわ」

 

「は?何を言って……」

 

 言いながら俺は自身の体を見下ろした。

 

\コンニチハ/

 

「って……裸や!」

 

 裸だった。一切身に着けていなかった。下半身で我が息子が\コンニチハ/してた。

 

「とりあえず服着たらどう?そこのベッドの脇にあるわ。ちゃんと洗濯してあるわよ」

 

 スコールの指さす方に視線を向けるとベッドの脇の小さな机に俺の服が畳まれておかれていた。

 スコールに言われて俺は前を隠しながらスゴスゴと服を着る。

 まずは状況を整理しよう。

 目が覚めると見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上。

 部屋にやって来る風呂上りらしき半裸の女性。

 なぜか全裸で寝ていた俺。

 定かではない記憶。

 導き出される答えは…………事後?

 

「いいいいいいいいやいや落ち着け俺。落ち着いて素数を数えろ。落ち着いてまず俺がすべきこと、それは……」

 

 そう!全力で記憶の空白部分を思い出すこと!

 初体験が記憶にございませんじゃあまりにももったいなさすぎる!しかも相手(?)はあのボ~ン!キュッ!ボ~ン!な金髪の美女のスコールだぞ!そんな全国の童貞たちの夢を詰め込んだような初めてを忘れてしまっていいものか!?いやよくない!

 さあ思い出せ井口颯太童貞(?)16歳!たとえ脳内シナプスのすべてが焼き切れようとその行為の一分一秒すべてを必ずや――

 

「元気そうで何よりね。かなりいい角度と勢いで椅子に頭をぶつけて意識を失ったからかなり焦ったのよ。一応診察の結果は異状なし、後遺症も残らないわ」

 

 頭を抱え全力で思い出そうとしていた俺を尻目にスコールは言いながら部屋の脇の小さめの冷蔵庫から水か何かのペットボトルを取り出し窓際の椅子に座る。座りながら長くすらっとした白い脚を組む。太股の半ばまでしかない丈の短いバスローブのせいで非常にエロい!

 と言うか――

 

「え?診察?じゃあ俺が裸だったのももしかして……」

 

「ついでに他に何か異常がないか調べるために服は勝手に脱がせたわ」

 

 言いながらスコールはペットボトルを開けて中身を飲む。

 

「……………」

 

 何もありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

「………どうかしたのかしら?なんだか残念な気持ちと安堵とその他いろんな感情がごちゃ混ぜになったような顔してるわよ?」

 

「いえ、気にしないでください。強いて言えば思春期の男の子って言うのはいろいろと難しいお年頃なんです」

 

「そう……よくわからないけど、色々と大変なのね」

 

 俺の言葉に首を傾げながらスコールが言う。

 

「さて、着替えも終わったなら行きましょうか」

 

「え?行くってどこへ?」

 

 椅子から立ち上がったスコールに訊く。

 

「昨日あなたが気絶したから話がまだ途中だったでしょ?まだ紹介してない子がいるから紹介しておこうと思ってね」

 

「それって……」

 

 俺は記憶が途切れる寸前に現れたあの謎の織斑先生(小)のことを思い出した。

 

 

 〇

 

 

 

「――と言うわけでエム、彼がこれから協力関係になった井口颯太君。颯太君、彼女はエム」

 

「よろしく……」

 

「…………」

 

 スコールに紹介されて俺は目の前の織斑先生(小)――エムにお辞儀するする。

 しかし、エムは一切動かず、俺に何の感情も読み取れない視線を向ける。

 と言うかホント見れば見るほど織斑先生に似てるな。

 

「……なんだ?私の顔に何かついているか?」

 

「あっ……いや……なんというか……」

 

 あまりにも俺がジロジロと見てしまっていたのだろう、エムが俺をギロリと睨んで言うので、その迫力に若干気圧される。

 

「えっと……知り合いにあまりにも似ていたもので……つい……」

 

「あぁ、それ、織斑千冬だろ?」

 

 俺の言葉に答えたのは離れたところに座るオータムだった。というか――

 

「なんでそんな離れたところに座ってんですか?」

 

「てめぇにケツ触られないために決まってんだろ、エロガキ」

 

「え~……人の命狙ったんですからその意趣返しにお尻の一つや二つ撫でて叩いて頬擦りしたっていいじゃないですか」

 

「いいわけねぇだろ!」

 

 俺の言葉に拳を握りしめてオータムが叫ぶ。

 

「まあそれは置いておいて、どういうことなの、オーちゃん?」

 

「オーちゃんって馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ!……そこにいるエムがお前の知っている織斑千冬に似てるのにはちゃんと理由があんだよ」

 

 ため息をつきながらオータムが椅子に座り直す。

 

「そこのエムはな、言っちまえば織斑千冬のクローンなんだよ」

 

「クローンって……クローン!?あのSFとかでよく出てくるあの!?オリジナルと遺伝子的に寸分たがわず同一人物を作る的なあの!?」

 

「それ以外に何があんだよ?」

 

 俺の言葉に笑いながら言うオータム。

 

「で、でもクローン技術なんて実用化されてたんですか?」

 

「されてるからこのガキがここにいんだろ?」

 

 オータムは言いながら歩いて来てエムの頭を掴んでワシワシとめちゃくちゃに撫でまわす。

 

「気やすく汚い手で触るな」

 

「あぁん?んだとこのガキが?」

 

 オータムの手を払いのけて睨むエムにオータムもにらみ返す。

 

「でも、そんなクローンが成功してるなんて話聞いたことなかったのに……」

 

「えてしてこういう技術って言うものは秘匿されるものよ。だいたい同一人物が何人も作れるなんて倫理的にいろいろアウトでしょ?その辺の問題もあるから、世間的に見ればクローン技術はいまだ成功していない技術なのよ。でも、出回っていないからと言ってできないわけじゃない。実際エムみたいに秘密裏にクローンを作っている国は相当数いるでしょうね」

 

「なるほど……」

 

 俺は納得しながらエムを見る。

 そう言われれば彼女が織斑千冬にそっくりなのも頷ける。

 なにせ、遺伝子的に見れば本人なわけだ。

 

「でも、なんだってその織斑千冬のクローンであるエムが『亡国機業』にいるんだ?」

 

「まあそれはいろいろあったのよ」

 

 俺の問いにスコールははぐらかすように笑う。

 

「さて、エムへの挨拶も済んだし、次は彼女への挨拶かしらね」

 

「彼女?」

 

「ええ」

 

 スコールの言葉に俺が首を傾げるとスコールが頷きながら口を開く。

 

「私たちはあなたと手を組むよりもさらに二か月以上前にとある天才発明家とも協力関係になったの。私たちとあなたが手を組む以上、彼女にも会っておく必要があるわ」

 

 言いながらスコールはエムとオータムに視線を向ける。

 二人はいまだ睨み合ったまま一触即発の雰囲気だ。

 

「と言うわけで、これから私は彼をあの人に紹介に行ってくるから。留守番は二人に任せたわよ」

 

「んだよ、このガキのおもりかよ」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

「くれぐれもよろしくね」

 

 スコールの言葉に嫌そうに言う二人にスコールは念押しするように言う。。

 

「さっ、行きましょう」

 

 そう言って歩き出すスコール。

 

「あ、ちょっと待ってくれ。その前に仲間に連絡入れてもいいか?アンタらの話だと俺は半日くらい寝てたんだろ?俺に何かあったらすぐに動けるように待機してるんだ」

 

「そう。いいわよ」

 

 スコールの許可をもらい俺は移動しながらアキラさん達に連絡を入れたのだった。

 

 

 〇

 

 

 

「ここよ」

 

 アキラさん達に連絡を入れ、スコールに連れてこられたのはどこかの施設の中の一室の前だった。

 この移動中そうするように言われているからと目隠しをされ、この部屋の前に来るまでずっと外してもらえなかった。

 なかなかに厳重なことで。

 

「ここにその協力者ってのがいるんだな?」

 

「ええそうよ。ちなみにかなり変わった人だから気を付けてね」

 

「はいはい、わかりやした」

 

 俺はスコールの言葉に頷く。

 まあ天災発明家なんて言われてるやつは得てして性格に難があるものなのだろう。

 平成の仮面ライダーに出てくる科学者だのなんだのは基本悪役かラスボスでしかも頭おかしいやつらばっかりだった。自称神の元ゲーム会社の社長とか実の子どもをモルモット扱いするベルトとか。

 今から会うやつもそういう輩なんだろう。

 さて、そんな変人との対面だ。ファーストコンタクトが重要だ。舐められないようにこっちもとことん変人を演じなければ。――よしっ!

 

「それじゃあ入るわよ」

 

 スコールは言いながらドアの脇にあるインターフォンを押す。

 

 ピンポーン♪

 

 よく聞くタイプのインターフォンの音を聞きながら俺はドアを開き

 

「ヒャッハ~~~!」

 

 全力のハイテンションで床をアイススケートを滑るように進み

 

「井口颯太で~~~すっ!!!」

 

 名乗りながら足の止まったところでくるりと半回転。相手がいる方向に背を向け、ボア・ハンコックのように背中をのけぞらせ、振り返る。

 

「この度『亡国機業』と協力関係を結ぶことになりまし――」

 

 そこまで言ったところで俺は初めてこの部屋の主の姿を視認した。

 部屋の中にいたのは二人の人物だった。一人は流れるような銀髪に黒いドレスを着た、ヘタすればうちの弟より年下なのでは?と思わせる少女。

 そして、もう一人は、水色の胸元の大きくあいたエプロンドレスに身を包み、頭には奇妙な機械的なウサミミを付けたぱっと見は美人な女性が立っており

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?部屋間違えましたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そこまで視認したところで俺は全力ダッシュで入ってきたドアまで走り

 

「人の顔見て逃げ出すなんて心外だねぇ~」

 

 頭の上から聞こえた声とともに、瞬きした瞬間には床におかしな体制で関節を決められ身動きの取れない状態で転がされていた。

 

「いやいや、思わずその背中にナイフを投げつけたくなるあっぱれな逃げっぷりだったねぇ~。なんなら今からでもぶっ刺してあげよっか?」

 

 俺の背中をグリッと踏んづけながら俺の顔を覗き込むように声の主が顔を近づけてくる。

 

「やあやあ久しぶりだねぇ~。もう二度とその面白みのない平凡な顔を拝むことはないと思ってたよ、凡人」

 

 そう言ってニッコリ笑う篠ノ之束に、俺はここ最近の出来事を振り返りつつ思うのだった。

 

――やっぱり俺って呪われてる。

 

 と。

 




エム、織斑マドカについての設定は自己解釈です。
原作ではまだそこまで触れられていないので。

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