第1話 突き刺さる視線の入学式
(こ、これは…なかなかにきつい!)
俺は今新たなる学校生活を開始。希望に胸膨らむピカピカの一年生だ。しかし、俺にはその喜びをかみしめる余裕はない。
なぜか。それは俺と俺の右横に座る男子以外、全員が漏れなく女子だからだ。しかも自意識過剰とかそんなのじゃなく本当にほぼ全員の視線を背中に受けている。誰だよ俺の席ここにしたやつは!!最前列だし真ん中だし、後ろからも横からも見やすいしさ!!
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」
黒板の前でにっこりとほほ笑む女性副担任の山田真耶先生。
どうでもいいけどこの人凄いな。どことは言わないけど、まああえて言えば胸部。しかも名前が真耶。重巡か!?字が違うけど…。しかも胸部装甲だけ見れば高雄。しかもメガネだから鳥海。これで金髪だったら高雄型要素フルコンプだな。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「よろしくおねが…い…します…」
山田先生の言葉に返事をしたのは俺だけだった。え?こういうのって返事するもんじゃないの?
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
俺が返事したことが嬉しかったのか、若干微笑みながら言う。
てか自己紹介!?ここでミスするわけにはいかない。ここで変な挨拶をすればこれから待ち受ける輝かしい三年間が灰色になってしまう!
「じゃあ、次は井口君」
もう俺の番だと!?って、そうか!俺の名字は「いぐち」だから結構初めの方なんだ。
「は、はい」
返事をしつつ立ち上がる。こういう場合はあれかな?後ろ向いたほうがいいのかな。
「うっ!」
後ろを向いた途端、先ほどまで背中に受けていた視線を真正面から受けることになる。もしも視線に殺傷能力があれば今頃俺はハチの巣になっていただろう。
落ち着け俺。こういう時は…あれだ!黒人神父が言っていたやつだ。素数を数えるんだ。えっと、1,3,5,7,9,11……
「あの、井口君?どうかしましたか?」
「ひゃい?」
あ、声が裏返った。
それによってクラスでクスクスと笑いが起こる。う~、ハズイ。
「す、すいません。ちょっと緊張してしまって……」
山田先生に言い訳しつつ、姿勢を正す。
「えっと…。井口颯太です。なぜかISを動かすことが出来てしまったのでこのIS学園に入学しました。出身は京都の海の方です。勉強は得意って程ではないです。運動もまあ人並です。趣味は読書です。これからよろしくお願いします」
そう言って俺は頭を下げる。頭を上げて着席。
「んー。イケメンでもないけどブサイクでもない。フツメン?」
「平凡な感じだね」
はいはい、わかってますよ。自分の顔のレベルくらい弁えてますよ。
他の女子たちが俺のことを評価したのを聞いて自虐しつつ、ぼんやりとしていると気づけばいつの間にかもう一人の男子の番になったのだが、
「……お、織斑一夏くんっ」
「は、はいっ!?」
順番になっても何も言わない彼に山田先生が呼び掛ける。それによって俺のように声を裏返らせてしまっている。俺の時のようにクスクスと笑いが巻き起こる。
「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?」
副担任の山田先生はなぜかあたふたとしている。先生なんだからもっとどっしりと構えていればいいのに。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
立ち上がって自己紹介をするもう一人の男子――織斑一夏。だが、いかんせん。そんな自己紹介では十代女子たちは満足するわけがない。見ろ。もっと喋ってオーラが半端ないじゃないか。
「…………………」
織斑は無言。お?深呼吸した。何か言うのかな?
「以上です」
がたたっ。驚いて思わずずっこける女子が数名+俺。勢いよく頭を机にぶつけてしまったせいで額が痛い。
「あ、あのー」
顔を上げた俺が見たのはどうしていいかわからないといった顔の織斑と、その背後に立つ黒のスーツにタイトスカートで鋭い吊り目の女性。ちなみに美人。
あ、手に持ってる何か(たぶん出席簿)を振りかぶった。
「あ、あぶ――」
パアンッ!
「いっ――!?」
「――ないよ」
忠告が遅かった。無慈悲にも振り下ろされた出席簿により織斑は頭を押さえる。
「げえっ、関羽!?」
パアンッ!無慈悲な一撃その二が振り下ろされる。そりゃそうだよ。女の人のこと関羽って。まあさっきからの叩く力は相当だもんな。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「すまなかったな、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてしまって」
おろ?さっきまで人の頭叩いてた人とは思えない変容だな。
「い、いえ、副担任ですから、これくらいはしないといけませんから……」
山田先生は先生ではにかんでいらっしゃるし。
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になるIS操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は若干十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らっても構わんが、私の言うことは絶対に聞け。いいな?」
なんという無茶苦茶な。これが教師のセリフか?
「キャ~~~~~! 素敵ぃ! 本物の千冬様をこの目で見られるなんて!」
「お目にかかれて光栄です!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に北九州から来ました!!」
ええぇぇぇ!?今の言葉のどこに歓声を上げる要素がありましたか?
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しくも本望です!」
「私、お姉さまの命令なら何でも聞きます!」
あまりの声援に当の本人も鬱陶しそうにしている。
「……はぁっ。毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿者共がたくさん集まるものだ。ある意味感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者だけを集中させるように仕組んでいるのか?」
え?毎年これ?大変っすね先生。てか、これだけ言われれば女子たちも目が覚めるかな?
「きゃあああああっ!お姉さま!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして~!」
ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?みなさんそれでいいの?いいならいいけど。でも、ええー。もしかしてこの学校の人間って全員こんな感じなん?まともな人もちゃんといるよね?
「で?挨拶も満足に出来んのか、お前は」
「いや、千冬姉。俺は――」
パアンッ!本日三回目。これで織斑の脳細胞は一万五千個死んだな。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
てか今のやり取りからして、もしかして二人は姉弟なのかな?
そう考えたのは俺だけじゃなかったらしく、他の女子たちもこそこそと話し始める。
「え……?ひょっとして織斑くんって、あの千冬様の弟なの……?」
「それじゃあ、世界で男で『IS』を使えるっていうのも、それが関係してるのかな?あ、でも、もう一人いるよね」
はい、いますよ~。
「ああっ、いいなぁっ。立場を代わってほしいなぁっ。そうしたら私がお姉様の妹に……」
そんなにうらやましいのか。そこまで行くとあの織斑先生のこと知りたくなってきたな。何者なんだあの人。
「さあ、SHRはもう終わりだ。あまり時間が無いので、諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらうぞ。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染みこませてもらうぞ。いいか、いいなら返事をしろ。文句があっても返事をしろ、私の言葉には絶対に返事をしろ。いいな?」
「イエス・マム!」と心の中で言いつつ素直にはいと言うしかなかった。
俺の高校生活、一体どうなるんだか。
ん~、もう一個書いてるほうは原作に沿ってやってるんで、こっちはもうちょっと気を抜こうかと思います。
ー追記ー
何度かご指摘を受けたので……
この話の中で颯太君が素数を数えるシーンで奇数を数えてますが……わざとです