IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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いつの間にか無い物~よりもお気に入り件数が増えてる
やったね(^ω^)♪


第18話 襲撃者

「あっ!!!」

 

 という間に時間は流れ、気付けばクラス対抗戦当日となった。

 

「ぐっちーどうしたの?急に大きな声出して」

 

「コホン。……なんでもない。気にするな。こっちの話だ」

 

 俺の横でのほほんさんが不思議そうな顔で俺のことを見ている。よく見ると周りのクラスメイト達も俺のことをおかしなものを見るような目で見ている。

 第二アリーナ第一試合。対戦は一夏VS鈴。俺はアリーナの観客席でクラスメイト達とともに試合開始の時を待っていた。

 アリーナ内にはもうすでに一夏と鈴の姿がある。

 アリーナ内の声は聞こえないが、ふたりの口が動いているので何かしゃべっているようだ。

 

「何話してるのかなー?」

 

「さぁ?きっとお互いに挑発し合ってんじゃないか?」

 

 ふたりの表情を見ていればわかる。どちらもふてぶてしい笑顔を浮かべている。

 

「ねえ、井口君はどっちが勝つと思う?」

 

 俺の背後にいた女子たち、相川と谷口が身を乗り出して訊く。隣ののほほんさんも興味深そうだ。

 

「ん~。一夏の『白式』も鈴の『甲龍』も、どちらも同じ近接型。単純に考えれば起動時間の多い鈴の方が有利かもしれない。でも、ここぞという時の一夏の強さはそういう経験の差を一気に埋めるだろうし……」

 

 なかなかに難題だ。

 

「……てかなんで俺にそれを聞くんだ?」

 

「そりゃ……ねえ?」

 

「井口君の師匠は生徒会長だから」

 

 なるほど。

 

「まあどっちが勝つかなんて話はともかく…みんなにとっては一夏が勝って学食フリーパス手に入れてほしいんだろうね」

 

『そりゃもちろん!』

 

 話を聞いていたその場の全員が頷く。

 

「だったらそんなの気にせず応援すればいいんじゃないか?」

 

「それもそうだね!」

 

「頑張れ織斑くーん!」

 

「私たちの幸せのために!」

 

 周りの女子たちはそろって一夏を応援しだし、観客席は織斑コールが巻き起こる。

 同じ一組として、同じ男として一夏を応援したいが、鈴の気持ちを知っている俺としては鈴の応援もしてやりたいところである。

 ここのところぎくしゃくしていたふたりだが、きっとこの試合が終われば勝敗に関係なくふたりは仲直りすることだろう。いや、鈴が勝てばふたりの関係は変わってしまうかもしれない。ことによっては篠ノ之とセシリアは黙っていないだろう。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 俺の思考を遮るようにアナウンスが聞こえ、同時にふたりが動く。

 一夏の《雪片弐型》と鈴の異形の青竜刀がぶつかり合う。

 まるでバトンのように異形の青竜刀を振り回す鈴に一夏も手が出しずらいようだ。いったん距離を置こうとしているようだが、その瞬間に一夏の体が殴られたように吹き飛ぶ。

 

「な、何今の!?」

 

「織斑君は何されたの!?」

 

 周りのクラスメイト達がざわつく。そうしている間にまたもや一夏の体が吹き飛ばされ、アリーナの地面に叩きつけられる。

 

「なるほど。あれが資料で読んだ『衝撃砲』か」

 

「しょ、『衝撃砲』?」

 

「それは何なの?」

 

 俺の言葉にクラスメイト達の視線が俺に向く。

 

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す兵器。セシリアのブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器だよ」

 

 俺の言葉にみんなは息をのむ。

 

「簡単に言えば、鈴は見えない砲弾を見えない砲身で撃ったってことだ。しかもあの衝撃砲は砲身斜角がほぼ制限無しで撃てる。真上だろうが真下だろうが真後ろだろうと。ただ、射線はあくまで直線だ」

 

「どうにか感知はできないの?ハイパーセンサーとかでさ」

 

「無理だな。空間の歪み値と大気の流れを探らせる事は出来るけど、感知しても既に撃っているから手遅れだ」

 

「そんな……」

 

 心配げな表情でみな一夏を見ている。

 

「……どっちにも負けてほしくないから、どっちかを応援しないでいようとは思ったが……一夏はこの状況でどう出るのかな?」

 

 俺の呟きはどうやら誰にも聞こえていなかったらしい。みな真剣な表情で二人の試合を見ている。

 アリーナ内では一夏が何かを仕掛けようとしているのか、《雪片弐型》を握りしめた。何かを仕掛けようとしているらしく、体勢を変えた時

 

 ズドオオオオオンッ!!!

 

 アリーナ全体が揺れ、アリーナの中心に土煙が立ち上る。

 俺たちが確認できたのはそこまでだった。すぐに目の前が防御壁に包まれる。一瞬の暗転の後、非常灯の赤い光がぼんやりと灯る。

 

『きゃあああああ!!!』

 

 観客席内は一瞬にして混乱状態となりみな出口へと走り出す。が、なぜだか誰一人ここから出ることなく押し固められたように押しくらまんじゅう状態が出来上がる。

 

「早く出てよ!」

 

「扉があかないの!!」

 

「何がどうなってるの!?」

 

 観客席は阿鼻叫喚状態だ。聞こえてくる声や現状から見るにどういう訳か扉があかなくなってしまっているらしい。

 俺はすぐさま『火焔』のISコアネットワークを起動。ピットにいる織斑先生と山田先生に通信を繋ぐ。

 

『織斑先生、山田先生!聞こえますか!』

 

『井口か!』

 

『はい!聞こえています!』

 

 俺の通信にすぐさま返事が聞こえてくる。

 

『今俺は観客席にいます!防御壁が下りてきたり扉が開かないんですが、今何が起きてるんですか!?』

 

『それが、防御シールドを突き破って謎のISが侵入してきたんです!そちらの救出に向かいたいのですが、なぜか遮断シールドがレベル4に設定されて扉がすべてロックされているんです!』

 

『どうやらその侵入してきたISの影響らしい』

 

『そんな……』

 

『現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる』

 

 くっ!このまま待っていればいつかクラックは成功するだろうが、悠長に待っていたらけが人が出てしまう。

 

『織斑先生!後で反省文でもなんでも書くんで扉ぶった切ってもいいですか!?』

 

『ちょっと待て井口!』

 

『このまま待ってたら取り返しのつかないことになるかもしれないんで!じゃっ!』

 

『待て井口!!――』

 

『井口く――』

 

 織斑先生と山田先生の言葉の途中で俺は通信を切る。

 

「みんな!落ち着け!」

 

 俺は大声をあげながら立ち上がる。

 

「扉の前にいるやつ!どいてくれ!今からこじ開ける!」

 

 叫ぶと同時に俺は右手を前に突き出す。右手に着いている赤いリングが眩く光り、浮遊感とともに俺の体を『火焔』が包む。

 扉の前に集まっている全員がすぐさまどく。

 

「ちょっと離れてろよ!」

 

 扉の前に移動しながら右手に《火人》を展開。両手で握り、扉の前で構える。

 

「せい!!」

 

 気合いとともに一閃。扉に斜めの切り口が走る。

 

「はあ!!!」

 

 切り口に蹴りを叩きこむと大きな音とともに扉が倒れる。

 すぐさま俺は扉からどき、向き直る。

 

「開いたぞ!ゆっくり順番に行け!絶対に前のやつ押したりして事故とか起こすなよ!」

 

 俺の言葉に全員が素直に頷き、迅速に観客席から出て行く。それを見届けながら俺は『火焔』の展開を解く。

 全員が脱出できるように俺は奥に行き、避難の誘導をする。人がいなくなっても逃げ遅れた人物がいないかを探していく。

 奥へ奥へ行くと、一人の少女が蹲っていた。

 

「簪!?」

 

 その少女は驚いたことに簪だった。まわりには簪の他に誰もいない。

 

「大丈夫か簪!」

 

 すぐさま駆け寄る。

 

「あ……颯太……」

 

 顔をあげた簪の顔は苦痛に歪んでいた。見ると左足を押さえている。

 

「どうした!?何があった!?」

 

「逃げる人に押されて転んじゃって……その時に足ひねっちゃったみたいで……」

 

「見せてみろ!」

 

 俺はすぐさま左足に視線を向ける。簪の手を退け、手を当てていたところを触診する。

 

「っ!!」

 

 俺が触れると、痛そうに顔をゆがませる。

 

「……折れている感じではないけど、すぐにちゃんと診察しないと……。歩けるか?」

 

「う、うん……。やってみる」

 

 俺が手を貸しながら簪は立ち上がるが

 

「くっ!」

 

「あぶない!」

 

 すぐに顔をしかめ、バランスを崩す。そんな簪を受け止める。

 

「歩いては無理だな。それなら……。簪、悪いけど少し我慢してくれ」

 

「え?」

 

 すぐに『火焔』を展開。簪の返事を聞かずに俺は簪を抱え上げる。俗にいうお姫様抱っこだ。

 

「えっ!?えっ!?」

 

「しっかり掴まっててくれ!このまま急ぐぞ!」

 

 簪を抱えたまま俺は走り出す。

 他の人は無事脱出できたらしく進む先には誰もいない。すぐに先ほど俺の切り裂き蹴り開けた扉のところまでやってくる。

 

「あ!井口君!」

 

「かんちゃん!」

 

 出口のところにはまだのほほんさんや相川、谷口など一組のクラスメイト達が数名残っていた。

 

「足を捻ったらしい。すぐに医務室に連れて行ってやってくれ」

 

「う、うん!」

 

 俺の言葉にその場にいた全員が頷き、簪を受け取る。

 

「俺はまだ逃げ遅れたやつがいないか見てくる!簪を頼んだ!」

 

「まかせて!」

 

 頼もしく頷くみんなに笑顔を見せる。

 

「颯太!」

 

 逃げ遅れたやつの捜索に向かおうとした時、簪が俺の名を呼ぶ。

 

「その……ありがとう!気を付けてね!」

 

 

「…………」

 

 俺は無言のまま親指を立ててニッと笑い、俺は走り出した。

 

 

 ○

 

 

 俺は『火焔』を纏ったまま走り回っている。

 逃げ遅れた人がいないか。何か事故が起きてないか見て回る。

 走り回ったがどうやら問題ないようだ。簪の様子を見に医務室に向かおうとした俺の視界に影をとらえた。

 

「あれは……篠ノ之か?」

 

 走る背後に長いポニーテールが見えた。あの後ろ姿は間違いないだろう。

 俺はすぐに追いかける。

 篠ノ之が曲がった方に俺も曲がると、ちょうど一つの扉に篠ノ之が入って行くところだった。

 追いかけて扉に手をかけるが開かない。

 

「なんでだ?確かに今篠ノ之が入ったはずなのに。……こうなったら――」

 

 俺は先ほどの観客席と同じように《火人》を展開し、扉を斬る。そこから扉を蹴りつけ、扉を破壊する。

 

「篠ノ之!いるか!?」

 

 部屋の中に声をかけるが返事はない。間違っていたのだろうか。

 そう思って俺の耳に篠ノ之の声が聞こえた。

 

「今のは!」

 

 すぐさま声の聞こえた方向に行くと、すぐにアリーナ全体を見渡せる場所に来た。

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 箒がアリーナの方に向かって叫んでいた。

 アリーナには一夏と鈴の他に両腕の大きな全身装甲の黒いISがいた。その黒いISがじっと箒の方を見ながら右手を上げる。

 

(まずい!)

 

 なんとなく嫌な予感がし、すぐさま状況を確認する。見渡すと近くに誰もいない。

 すぐさま俺は箒に接近。箒を包むように《火打羽》を展開する。

 

「なっ!お前は井口――」

 

 篠ノ之の驚愕はビームが飛んできて《火打羽》に当たった衝撃に掻き消される。強い衝撃に俺の体が揺れる。それでも俺はその場にどっしりと構え、腰を落としながら篠ノ之を庇う。

 

『一夏!いけ!』

 

『おう!』

 

 オープンチャネルで一夏に向けて通信を飛ばし、一夏の返事が返ってくる。

 ビームがやんだところで見ると、一夏の雪片が敵ISの右腕を切り落とすが、反撃を食らい、そのまま左手が一夏に向けられる。どうやら先ほどのビームをゼロ距離で放つつもりらしい。

 

『……狙いは?』

 

『完璧ですわ!』

 

 よく通る声とともに客席からブルー・ティアーズの四機同時狙撃が敵ISを打ち抜いた。敵ISは小さな爆発を起こして地上に落下した。

 

「ふう」

 

 俺は息を吐きながら『火焔』の展開を解く。

 

「お、おい井口。なぜおまえがここに――」

 

 パシンッ。

 

 篠ノ之の言葉を俺はビンタで遮る。

 

「な、何をする!」

 

 怒った篠ノ之が俺に掴みかかるが俺はその篠ノ之を真正面から睨む。

 

「てめぇふざけんなよ!死にたいのか!」

 

 俺の言葉に篠ノ之がビクッと震え、掴んでいた手を放す。そのまま今度は俺が篠ノ之の胸ぐらを掴む。

 

「俺があと数秒遅れていたらお前今頃消し炭になってたぞ!」

 

「…………」

 

 俺の言葉に篠ノ之は黙って俺の目から顔を逸らす。

 

「死にたきゃ勝手に死ねばいい!だがな、俺の目の前で死のうとするな!目の前で誰か死ぬところなんて見せられても迷惑だ!!それが知った奴なら尚更だ!!」

 

「っ!」

 

 俺の言葉に篠ノ之はさらに俯く。

 そんな篠ノ之を俺は突き飛ばすように放す。

 そのままアリーナに目を向けると気が抜けたように笑っている一夏たちと、ぎこちなく左手を持ち上げる敵ISの姿が見えた。

 

『ダメだ一夏!そいつまだ動いてるぞ!』

 

 俺の通信と同時に一夏は敵ISに視線を向け、すぐさま雪片を構え直して敵ISに向かって行った。

 一夏は敵ISの放ったビームを受けながらも最後にやつに一撃叩き込んだ。

 一夏の一撃を受け、敵ISは今度こそ動かなくなった。

 一夏も意識を失ったらしくその場に連れ落ちる。

 

「一夏!」

 

 立ち尽くす篠ノ之をその場に残して俺は一夏のもとへと走った。

 その後、一夏は医務室へ運ばれ、教師が声をかけるまで篠ノ之は立ち尽くしていた。




誰だ!簪を突き飛ばしたのは!
断罪してくれるわ!!

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