IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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言っていたけど、タイミングを計っていたのでなかなか書けなかった番外編です。
お陰様でお気に入り件数3600件&トータル話数200話突破です!
とにもかくにも番外編をどうぞ!







お気に入り件数3600&トータル話数200話記念 「護衛任務は突然に」

 これは僕たちが二年生に進級する前、三学期の学年末テストも終わった頃のこと――

 

 

 

 

 

 

「護衛任務……」

 

「ですか……?」

 

 集められた僕たち。その中で鈴とセシリアの言った問いに織斑先生が頷く。

 

「ああ。対象はアサギ電子の社長の一人娘、浅葱凛子。小学四年生だ。先日彼女の父親、浅葱尊氏に誘拐をほのめかす脅迫文が届いたらしい。最近IS関連の製品の利益で大きく成長し始めていた会社のせいか、それをよく思わないテロリストか他会社の仕業だと言うのが我々の予想だ。普段なら大丈夫なのだが、次の日曜日は浅葱社長がどうしても外せない用事があるらしく、我々に護衛の依頼があった」

 

「でも、なんだって俺たちにその依頼が?」

 

 織斑先生の言葉に一夏が訊く。

 

「詳しいことは知らないが、なんでも浅葱社長たっての希望らしい」

 

「はぁ……なるほど……?」

 

 織斑先生の言葉に一夏は首を傾げながら頷く。

 

「とにかく、次の日曜日、お前たちには護衛の任務に就いてもらいたい。ただし、全員でなくていい。『亡国機業』の活動も活発になっている。何かあったときに動けるように学園に残るメンバーもいてもらいたい。そこで、この護衛には四人も行けば十分だと判断した」

 

「それで、そのメンバーは?」

 

 織斑先生の言葉にラウラが訊く。

 

「うむ。そこは特に指定は無い。お前たちでテキトーに決めろ」

 

 ラウラの問いに織斑先生が答える。

 

「では、こちらからは以上だ。護衛任務に就くメンバーが決まれば私に報告しに来い。詳しい資料はここに置いておく」

 

 そう言って織斑先生は立ち上がり、去って行った。

 

「織斑先生はああ言ってたけど……」

 

「どうしようか?」

 

 簪と僕が周りを見渡しながら訊く。

 

「そうですわね……」

 

「特に指定は無いならそれこそアミダくじとかでいいんじゃない?」

 

 セシリアが考えるそぶりを見せ、鈴が言う。

 

「まあそれが妥当か。我々も誰かを護衛するなんてことは初めてなものばかりだろう」

 

「まあ護衛とは言っても、要は小学生の子守りと言ったところだろうな」

 

 箒とラウラも頷く。

 

「ちなみに護衛対象は聞いたけど、護衛ってどこでするの?」

 

「えっと、資料によると……」

 

 鈴の問いに僕は織斑先生の置いて行った資料に目を通し、

 

「『デザニーランド』、都内の遊園地だね」

 

 

 

 〇

 

 

 そして、護衛当日。

 

「初めまして、今日凛子ちゃんを護衛することになったシャルロット・デュノアです」

 

「更識簪、です……」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「織斑一夏だ。よろしくね、凛子ちゃん」

 

「……………」

 

 僕らが合流した少女は彼女を連れてきた人物の影に隠れるように僕ら四人の顔を警戒したような怖がるような視線で僕らを見る。

 

「ほら、凛子……。すみませんね、この子、人見知りをしてるみたいで」

 

 凛子ちゃんを連れてきた男性は困ったような笑みを浮かべる。

 

「初めまして、凛子の父の尊です。今日はよろしくお願いします」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「……一つお伺いしてもいいでしょうか?」

 

「なんでしょうか?」

 

 ラウラの言葉に浅葱社長が首を傾げる。

 

「我々への依頼は社長自らいただいたとお伺いしましたが、どうして我々だったのでしょうか?」

 

「ああ、そのことですか。皆さんの活躍は常々聞いていましたから。それに皆さんのような学生さんの方がこの子も気張らずにすむかと思いまして」

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

「いえ。それでは、私はそろそろ仕事に向かわないといけないので。娘のこと、よろしくお願いします」

 

「はい!任せてください!」

 

 社長の言葉に元気に頷いた一夏に笑みを浮かべながら浅葱社長が凛子ちゃんに視線を合わせるように屈む。

 

「それじゃあ凛子、このお兄さんお姉さんの言うことをよく聞くんだよ」

 

「………うん」

 

 頷いた凛子ちゃんの頭を優しく撫でて浅葱社長は乗ってきた車で去って行った。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「えっと………とにかく入ろうか?」

 

「………(コクリ)」

 

 僕の言葉に凛子ちゃんが頷いたのを確認して僕らは遊園地に入った。

 遊園地の中は休日と言うこともあってたくさんの人で賑わっていた。

 

「さて、凛子ちゃん。せっかく来たんだし、まずはどのアトラクションに――」

 

『やあ、いらっしゃい!ようこそデザニーランドへ!』

 

 凛子ちゃんに視線を合わせて屈んだ一夏の言葉を遮って横から声がかかった。

 見ると、白いウサギの着ぐるみキャラクターが立っていた。

 遊園地にいるオリジナルのキャラクターと思われる。

 

『初めまして!僕はこのデザニーランドの森の妖精、〝ケレ・ナグーレ〟ちゃんだニュ!よろしくね!』

 

「ケレ……」

 

「ナグーレ……」

 

「なんか……嫌な名前だ……」

 

 僕と簪、一夏が困惑する中、ラウラと凛子ちゃんは少し興味を持ったようで近づいて行く。

 

「ケレ・ナグーレちゃん……」

 

「可愛い……」

 

『ありがとうだニュ!』

 

 着ぐるみのマスコットキャラクター特有のオーバーアクションで嬉しそうに動いたケレ・ナグーレちゃんは凛子ちゃんと小柄なラウラの頭を撫でる。

 

『ここにはたくさんの楽しいアトラクションがいっぱいだニュ!楽しんでいってね!』

 

「あ、ああ。ありがとう……」

 

 ケレ・ナグーレちゃんの言葉に一夏がお礼を言うとオーバーアクションでフリフリと両手を振って去って行った。

 

「なんか……変わったキャラクターだったな」

 

 一夏の言葉に僕と簪は頷く。

 

「とりあえず……どこから行こうか?」

 

「そうだな……まずは……」

 

 思案した様子で考え込んだラウラは

 

「まずは……あれかな?」

 

 そう言って指さしたのは

 

 

 

 

 

 

「なんで、観覧車?」

 

 僕ら五人は揃って観覧車のゴンドラに入って揺られていた。

 

「何かおかしいか?」

 

 ゴンドラから周りを見ながらラウラが訊く。

 

「おかしくないけど……」

 

「最初はジェットコースターとか行くかと思ったよ」

 

「こういう時は、まずは高いところから全体を見れば、込み具合などが見えて回る順番を決めた方が楽しめる」

 

「へ~」

 

「――と、言っていた」

 

「人伝かよ」

 

 簪と僕の言葉に答えたラウラの言葉に一夏が言う。

 

「誰からそんな高等テクニックみたいなの聞いたんだよ?」

 

「………颯太だ」

 

 ラウラの言葉にみんなが息を呑むのがわかる。

 

「そっか……颯太が……」

 

「ああ……」

 

「………?」

 

 僕らの雰囲気が変わったことに少し困惑したように首を傾げる凛子ちゃん。

 

「――それで、ラウラ、どのアトラクションに乗るか決まった?」

 

「あ、ああ……そうだな、まずは……」

 

 ラウラのチョイスを聞きながら凛子ちゃんの乗りたいアトラクションも考えながら回ることにした。

 回るコーヒーカップのあれや、ジェットコースター、振り子のように動く船のアトラクションなどなど、多数のアトラクションを回り

 

「ふぅ……結構疲れたな」

 

「まあラウラのおかげで効率よく回れたからね」

 

 ベンチに座る一夏の言葉に僕も頷く。隣で簪も少し疲れた顔で座っていた。

 

「そろそろ、時間的にもいいし……そろそろお昼にしよう……」

 

「ああ、そうだな」

 

 簪の言葉に一夏が頷き、視線を正面のアトラクションに向ける。

 そこではメリーゴーラウンドが華やかな音楽とともにくるくると回っていた。

 今、メリーゴーラウンドには凛子ちゃんとともにラウラが乗っていた。

 ドイツの軍隊にいたせいか、こういう遊園地で遊ぶという機会がなかったらしく、なんだかんだでこの五人の中で一番ラウラが楽しんでいるように見える。

 

「おっ!一夏!シャルロット!簪!」

 

「お~い……」

 

 僕らの姿を見つけて楽しそうに手を振るラウラに僕らも手を振り返しながらアトラクションに近づく。

 一周してきたラウラに言う。

 

「そろそろお昼にしようって話してるんだが、ラウラは何か食べたいものあるか~?」

 

「任せるぞ~!」

 

「そうか~!」

 

 目の前を通って去って行くラウラを見送りながら視線を戻し、

 

「凛子ちゃんは~?」

 

「何か食べたいものとかあるか~?」

 

 ラウラと少し離れたところに乗っているはずの凛子ちゃんを探し

 

「一夏~」

 

 もう一周して戻ってきたラウラが手を振っていた。

 

「……あれ?」

 

「凛子ちゃんが……いない?」

 

「い、いや、そんなはずは……きっと見逃しただけ……」

 

 僕らは困惑しながらもう一度メリーゴーラウンド内に視線を向け

 

「お~い!みんな~!」

 

 再びまわってきたラウラの姿に愕然とする。

 

「ラウラ大変!凛子ちゃんがいない!」

 

「何っ!?それは本当――」

 

 言いかけたラウラの姿が消え、また一周して戻ってきたラウラが反対から現れる。

 

「それは本当か!?」

 

「うん、とりあえず降りようか、ラウラ」

 

 

 

 〇

 

 

 

「はぁ……はぁ……よし、目標確保したぞ!」

 

「よくやった!護衛がついてる時はどうしようかと思ったが上手くやつらが目を離したすきにさらえてよかったぜ!」

 

 五人の黒ずくめの男達が言いながら走っていた。

 そのうちの一人男は先ほどまで一夏たちが護衛していた浅葱凛子が抱えられていた。

 

「よし、このままここからでて、アサギ電子の社長からがっぽりと――」

 

「させないよ!」

 

 出口に向かって走る男たちの前に突如人影が飛び出し、五人男たちを通せんぼする。

 

「っ!お前らは!?」

 

 その姿に男たちは慌てて立ち止まる。

 その人物はシャルロットだった。

 周りを見渡すと両脇からも簪、ラウラ、一夏が現れる。

 

「な、なんで俺たちの居場所が!?」

 

「残念だけど、凛子ちゃんにはもしもの時のことを考えて発信機を持っていてもらってるんだよ」

 

 言いながら一夏は携帯を見せる。一夏の携帯画面にはこのデザニーランドの地図上に赤く点滅するアイコンが移っていた。

 

「さあ、観念しろ!これ以上暴れても意味はないぞ!」

 

「っ!?ちくしょ~!!」

 

 一夏たちに追い詰められた男たちはもはや破れかぶれと言った様子で一夏たちにナイフ片手に襲い掛かり、

 

「ふんっ!」

 

「甘い!」

 

「なんの!」

 

「このくらい……!」

 

 そこはさすが専用機持ちたち、と言った様子で、危なげなく制圧する。

 

「なっ!?くそっ!」

 

 残された最後の一人は悔しそうに顔をしかめ

 

「くそっ!動くな!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 取り出したナイフをわきに抱えていた凛子に向ける。

 凛子も驚いた様子で顔を強張らせている。

 

「お前――」

 

「動くんじゃねぇ!一歩でも動いてみろ!この子の命はないと思え!」

 

 追い詰められた男はもはや破れかぶれで震える手でナイフを振り回す。

 

「動くんじゃねぇぞ!このまま……このまま俺のことを見逃せ!」

 

「そんなことできるわけ――」

 

「動くんじゃねぇ!!」

 

 ナイフを振り回しながら叫ぶ男に詰め寄ろうとしたシャルロットはナイフを向けられて足を止める。

 

「動くんじゃねぇぞ!そのまま……そのまま……」

 

 男はニヤニヤと笑いながら四人にナイフを向けながらゆっくりと出口に向かって行く。

 その様子を四人は悔しそうに顔をしかめてその様子を見ながら、しかし、ゆっくりと後を追う。

 

「へへっ!追って来るんじゃねぇぞ!追って来たらこの子に……!」

 

 圧倒的優位に立ったという余裕から男は笑みを浮かべながら後退りしていく。

 どうすることもできず四人は男の言葉に従うしかない状態に唇を噛む。

 そんな中、ナイフを振り回す漢の背後に忍び寄る白い影が……

 

『………(ちょんちょん)』

 

「んだよ、邪魔すんな」

 

 その影は背後から男の肩をチョンチョンと突く。男はそれを振り払うように肩を振るい、なおも警戒した様子で一夏たちにナイフを向け続けている。

 

『………(チョンチョンチョン)』

 

「だから、邪魔すんな」

 

 再度肩を突かれるが男はまた肩を振るう。

 

『………(チョンチョンチョンチョン)』

 

「だから、邪魔すんなって――」

 

 鬱陶しそうに男は振り返り

 

『フンッ!』

 

「グエッ!?」

 

 そのまま顔面を勢い良く殴られて吹き飛ぶ。

 

「あ、あれは……」

 

「「「「ケレ・ナグーレちゃん!?」」」」

 

 吹き飛ばされて男の拘束から逃れた凛子が駆け寄ってくるのを迎えた四人は驚きの顔で男を殴ったものの名前を呼ぶ。

 

「てめぇ、いったい――!」

 

『やぁ!僕の名前はケレ・ナグーレちゃんって言うんだニュ!よろしくね!』

 

 殴られた頬を押さえて着ぐるみのウサギを睨む男にウサギは朗らかに言う。

 

「てめぇ!ふざけやがって!いったい何者――」

 

『ダメだよ~!楽しい楽しいデザニーランドでそんなもの振り回しちゃ!これはぼっしゅ~!』

 

「ギャッ!?」

 

 男の言葉を遮ってケレ・ナグーレは男の腕を踏みつけてナイフを奪う。

 

「てめぇ!何しやが――」

 

『ねぇねぇ!僕の名前を言ってみてほしいニュ!』

 

「はぁ!?」

 

『ほらほら!自己紹介したでしょ?僕の名前を言ってみてほしいニュ!』

 

「えっ!?えっと……ケレ・ナグーレ……?」

 

『OK!任せるニュ!』

 

 男がウサギの名を言うと同時にウサギのケレ・ナグーレは大きく頷くと男をいきなり殴りつけ、そのまま蹴って殴って大暴れし始める。

 

「ちょっ!痛い!やめっ――やめろ!」

 

『うん?』

 

 たまらず叫ぶ男にケレ・ナグーレは手を止める。

 

「てめぇ!何しやがる!?」

 

『君が言ったんじゃないか、蹴れ殴れって』

 

「お、俺はお前の名前を言っただけだ!お前が呼べっていたんだろ!そんなふざけた格好しやがって!頭おかしいんじゃねぇのか!?」

 

『――っ』

 

 男が叫んだ言葉にケレ・ナグーレの雰囲気が変わった。

 

『ふざけた格好……だと……?頭おかしい……だと……?――フンッ!』

 

「グハッ!?」

 

 ブツブツと何かを言ったケレ・ナグーレは再び男を殴り、そのまま殴る蹴るを再開する。しかも先ほどよりも鬼気迫る様子で。

 

『てめぇ!俺が着たくてこれ着てると思ってんのかよ!あぁん!?』

 

「ギャ―――――!!」

 

『なめんな!!森の妖精なめんな!!』

 

「ぎゃ―――――!!」

 

 あまりの鬼気迫る様子にシャルロットは思わず困惑しながら凛子の目を両手で覆う。

 

「え、えっとケレ・ナグーレちゃん?……あ、あの!ケレ・ナグーレちゃん!?ケレ・ナグーレさん!?」

 

『ニュ?』

 

 一夏の叫びにケレ・ナグーレが手を止める。ちょうど男の胸倉を掴んで拳を振りかぶったところだった。

 

「えっと、その辺で……もう完全に気絶してますし……」

 

『……OK!そうだニュ!』

 

 一夏の言葉に一瞬男の顔を見つめたケレ・ナグーレはポイッと男を放り出す。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 と、周りにいた他の客から通報を受けたのか、数名の警備員とともに遊園地のスタッフがやって来た。

 

「い、いったい何が!?」

 

「お騒がせしてしまってすみません。実は――」

 

 やって来たスタッフたちにシャルロットは簡単に状況を説明する。

 

「と、いう訳なんです」

 

「そ、そんなことが……」

 

「はい、とにかくこの男たちを速く警察に」

 

「は、はい!」

 

 頷くスタッフと、警備員の一人が無線に何かを呼びかける。

 

「すぐに来てくれるそうです」

 

「よかった……」

 

「しかし、すごいですね。よく人質を無事に……」

 

「ああ、それはそちらのゆるキャラのおかげです。彼(?)がいなければどうなっていたか……」

 

「あの?何のことですか?」

 

「え?ですから、ここの森の妖精のケレ・ナグーレちゃんが……」

 

「ケレ…ナグーレ……?」

 

 一夏たちの言葉にスタッフと警備員は顔を見合わせ

 

「あの、何の話でしょうか?」

 

「え?ですから、おたくのゆるキャラのケレ・ナグーレちゃんが」

 

「この遊園地にそのような名前のキャラクターはいませんが……?」

 

「「「「え……?」」」」

 

 

 

 〇

 

 

 五人の男達が警察に連れていかれる様子を俺は離れた位置から見ていた。

 俺はその様子に安堵のため息をつく。

 と、それ見計らったように通信がかかってきたことを知らせる着信音が聞こえる。

 

「はい」

 

『やぁやぁお疲れ様!無事終わったみたいだね?』

 

 通信機の向こうから朗らかな声が聞こえてくる。

 

「お陰様でね」

 

『その様子だと、私特性の特殊スーツは役に立ったみたいだね』

 

「ええ、まあ。でも、一つ言わせてもらえば、もうちょっとデザインどうにかできなかったんですか?」

 

『はぁ?君の注文通りでしょ?可愛らしいゆるキャラ風にって。なんか文句あんの?』

 

「文句ってわけじゃないけどさ……もうちょっとこう……ボコとかモッフルとかあるでしょ?」

 

『可愛いじゃんウサギ』

 

「はぁ~……」

 

 通信機越しの声に俺はため息をつく。

 

「それで?スコールたちの方は上手くいったって?」

 

『まあねぇ~。無事浅葱社長との交渉は上手くいったらしいよ~。社長の懸念してた脅迫文送ってきたテロ集団もいっくんたちが捕まえてくれたし』

 

「まああいつらなら上手くやると思ったさ。俺の助けなんかいらなかったかもな。あいつらを社長さんに推薦してよかった」

 

『そだねー』

 

 俺の言葉にのほほんと通信の向こうから返事が聞こえる。

 

「とりあえず、どっちも無事に終わったみたいだから、スコールたちと合流して俺もそっちに戻るよ」

 

『はいはい、お土産ヨロシク~』

 

 そう言った言葉を最後に通信が切れる。

 

「お土産って……何を買ってこいっちゅうねん……」

 

 俺は呆れながらため息をつく。

 

「アサギ電子と協力する手筈は整った。どこぞのテロリストどもが社長の娘を誘拐する計画を立ててるって知ったときはどうしようかと思ったが、何とかなってよかった」

 

 俺は言いながらもう一度一夏たちの方に視線を向ける。

 一夏たちは警察に事情を説明し終わったのか、移動を始めていた。

 

「……………」

 

 その様子を数秒見つめる。

 

「ママ~、見て~。ウサギさん~」

 

 と、脇を通った親子連れの女の子が俺を指さして言う。

 

『やあ!楽しんでいってね!』

 

 俺は被り物に搭載された変声機で声を変えながらそんな女の子にオーバーアクションで手を振る。

 女の子は嬉しそうに手を振り返す。その様を女の子の両親は微笑ましそうに笑ってみている。

 女の子が去って行くのを数秒見つめながら俺は踵を返す。

 

「さて、帰りますか」

 




改めまして、お陰様でお気に入り件数3600件&トータル話数200話突破です!!
こうしてここまでやって来れたのも読んでくださっている皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!
本編も着々とクライマックスに近づいています。
今後の颯太君の戦いにご期待ください!

ちなみに次回から過去編の「空白の半年編」は終了し、新章に突入です。
お楽しみに!

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