IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第181話 決戦の地

「ロゼンダ・ヴァレーズがシャルロット・デュノアに接触したそうね」

 

  吉良香澄暗殺予定日まで残り七日となった。俺たちは着実に準備を進める。そんな中俺はあてがわれている自室でベッドに座り、壁に背中を預けながら天井を見上げていた。

 そんな俺の思考を遮ってドアの開く音ともに声が聞こえてくる。

 

「………ノックくらい」

 

「したわ」

 

 ドアの方に視線を向け、不満を籠めた眼差しで言う俺の言葉を遮ってスコールが答える。

 

「……彼女はあなたの友人で顔見知り、そんな彼女に女性権利団体のメンバーであるロゼンダ・ヴァレーズが接触。このタイミングでよ?確実に何か意図があるはずよ。何か手を打つ必要は?」

 

「ないね」

 

 俺はベッドから下り、大きく伸びをする。

 

「ロゼンダ・ヴァレーズは女性権利団体のメンバーだが、シャルロットの義理の母親だ。しかも元旦那に変わってデュノア社の社長でもある。何かするかもしれないことは予想していた」

 

「あらそう」

 

 俺の言葉にスコールは頷く。

 

「予想通りの割には、あまり元気がないわね?本当はそうなってほしくなかったかしら?」

 

「……まあね。ロゼンダ・ヴァレーズが、というか女性権利団体のやつらがシャルロットに接触したってことは、今後IS学園のやつらが今回の件に関わってくる可能性が高くなるからな」

 

「あら?学園のお友達とは戦いたくないかしら?」

 

 俺の言葉にスコールはクスリと笑う。

 

「……ああ、戦いたくないね。あいつ等とは半年も一緒に過ごしてたんだ。アイツらがどれだけ厄介か痛いほど知ってる。アイツらが関わってくると吉良香澄暗殺の難易度が一気に上がる」

 

「それだけ?情が湧いて戦いずらくなるんじゃない?」

 

「まさか。言ったでしょう?相手が誰であろうと、どんな手を使ってでも吉良香純の命をいただくまで止まることはないって。相手が元仲間だろうと何だろうと戦ってやりますよ。そんなんではもう立ち止まれないんですから」

 

「………そう」

 

 俺の言葉にスコールは安心したような、しかし、何か含みのあるような表情で肩をすくめる。

 

「それで?そんな世間話するためにわざわざ来たわけじゃないんでしょ?」

 

「ええ、まあね。――あと三十分ほどでここを発つわ。エムと一緒に先に行って準備を進めておくわ」

 

「あいよ。よろしく頼みます」

 

 スコールの言葉に俺は頷く。

 俺たちは事前の作戦会議の段階で、十日間のテロで吉良香澄が身を隠すとしたら一番可能性の高いところにアタリをつけていた。

 これは一月からの情報収集で得た情報を元に考えた結果だ。

 その話し合いは三日前、宣戦布告直後の作戦会議にまで遡る。

 

 

 〇

 

 

 

「北海道の奥地?」

 

「そそっ!いろいろ情報を精査した結果、吉良香澄が最後に逃げ込む可能性が一番高いのはそこだと思うよ。正確には北海道の奥地にある女性権利団体所有の研究施設、だね」

 

「そこに一体何がある?」

 

 エムはディスプレイに映し出された情報に疑問の声を上げ、それに束博士が答える。

 

「女性権利団体にハッキングを仕掛ける過程で各国の女性権利団体所有の施設についてはあらかた調べたんだけどね、ここだけ一番情報がなかったんだよ」

 

「どういうことだ?情報が少ないってことは、そこはそれほど重要じゃないってことじゃねえのか?」

 

「チッチッチ~、甘いよ、マーちゃん」

 

「だから、マーちゃんって呼ぶな」

 

 疑問を漏らすオータムに俺は肩をすくめながら言うとオータムが文句を言うが俺は無視して続ける。

 

「そりゃ重要度が低いって可能性はあるよ?でも、それにしてはここの情報が少なすぎるんだよ。まるで意図的に記録に残さないようにしてるみたいにね。つまり――」

 

「つまり!この施設についての情報が少ないのは外にここのことが漏れないように!今回のようにこうしてハッキングされて情報を抜き取られてもいいようにわざと重要なことを記録に残してなかったんだよ!」

 

 俺の言葉を遮って結論を言う束博士にむっとしながら俺は椅子に深く座り込む。

 

「てことは……」

 

「そう!この施設はやつらにとって極めて――」

 

「極めて重要な何かを担っているってことだ!きっとそれは吉良香澄にとっても切り札になるような、な!」

 

「 チッ 」

 

 仕返しに今度は俺が束博士の言葉を遮って言ってやると俺を睨みながら束博士が小さく舌打ちをする。

 

「つまりお二人はこう考えているわけですね?その北海道奥地にある施設では秘密裏に何かが行われている。吉良香澄は有事の際はそこににげこむ、と」

 

「「まあそういうことになるな(ね)」」

 

 スコールの問いに答えた俺はすぐ近くで同じことを言った人物に視線を向け

 

「おい、てめぇ真似してんじゃねぇよ」

 

「はぁ?お前が真似したんだろ?」

 

「んだと?だいたいさっき俺の言うこと遮りやがったな?」

 

「それはそっちもだろ?」

 

「あぁ?てめぇ舐めたこと言ってるとそのウサミミをチタタして鍋の具にすんぞ?」

 

「上等だこの野郎。こっちはテメェの脳ミソに塩かけて食ってやるよ」

 

「あぁん!?」

 

「あぁん!?」

 

 

 

 〇

 

 

 と、まあそんなこんなで、俺たちはその案を第一案とし、二人づつで数日に分けて日本に入国、北海道に向かう手筈になった。

 先遣隊として最初はスコールとエムのペアが、次は俺とオータムが、最後にすべての準備を終えて束博士とクロエが向かう手筈になっている。

 そして今日、さっそく第一陣のスコールとエムがこの基地を発つのだ。

 

「あなたたちは二日後に来るのよね?」

 

「ええ」

 

 スコールの言葉に頷く。

 ちなみに、さらにその二日後に束博士たちがここを発つ。

 北海道では束博士が北海道に隠している基地を拠点にする。と言うか実は世界各地にこう言った施設は隠してあるらしい。かく言う、今俺たちがこうして生活しているここもそんな隠れ家の一つだったりする。

 

「まあ何かあったら随時報告するわ」

 

「うっす。よろしくです」

 

 頷きながら俺はスコールさんの正面に立つ。

 

「俺もすぐ行くんで、先に行って準備お願いします」

 

「ええ」

 

 言いながらスコールさんの差し出した手を俺は握り握手を交わす。

 

「それじゃ、あんまり考えすぎないように、ね」

 

「わかってますよ」

 

「考えすぎて頭おかしくなっても、オータムを襲っちゃだめよ?」

 

「襲うわけないでしょ!殺されるわ!」

 

 スコールの言葉にツッコミを入れるとフフフッ微笑みながら踵を返す。

 

「それじゃあ、先に行ってるわね」

 

「はい。気を付けて」

 

 歩いて行くスコールの背中に言う。

 振り返らずに手を振って歩いて行き、角を曲がる。と、角の向こうからスコールが顔を出す。

 

「合意の上ならいいわよ?」

 

「しません!」

 

 俺の叫びに笑ったスコールは今度こそ去って行った。

 


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