「おう、颯太」
四人掛けの席に一人で座り、夕食を食べていた俺のもとに一夏とセシリアと鈴がやって来た。
「一緒に食べていいか」
「おう。四人掛けの席を一人で使ってて若干罪悪感を感じてたところだ」
「ありがとう」
俺に礼を言いつつ三人が座る。
「そういえば、お前ら仲直りしたんだな」
一夏と鈴を見ながら俺は言う。
「ま、まあね……」
「おう。おかげさまでな」
一夏は嬉しそうに笑っているが、鈴は若干苦笑いだ。
関係はこれまで通り友達で落ち着いたようだ。まあ、本人がそれでいいならいいんだろう。
「まあ、今日はお互いお疲れ様」
「あの襲撃者には驚いたな」
「セシリアの攻撃カッコよかったぜ。こう、スナイパーって感じで」
「ありがとうございますわ」
俺の言葉にセシリアが嬉しそうに笑う。
「でも、一夏には肝を冷やしたぞ。相手がビーム撃ってくるところに突っ込むとか」
「ホントよ、まったく」
「見ていたこちらの気持ちにもなってほしいですわ」
「あ、あははは……。悪かったよ」
俺とセシリア、鈴のジト目を受け、一夏が苦笑いを浮かべる。
「そ、そういえば聞いたぜ。お前の壊した扉とかは特に処罰の対象にはならなかったんだってな」
「おう。まあな」
今日の一件での俺の破壊行動(扉を壊すなど)は、その場でできる最善の行動だったと判断され、また、俺の行動で助かったと申し出た人物が多数出たため、俺の行動はお咎めなしとなった。
「ホントよかったよ。反省文くらいは覚悟してたんだけど」
俺は頷きながら箸を進める。
「……ところでさ…箒のことって聞いてるか?」
一夏が言いずらそうに俺に訊く。
「懲罰部屋一週間だろ?」
「聞いてたか……」
俺の答えに一夏が少し浮かない顔になる。
「ちょっと厳しすぎると思わないか?」
「そうか?妥当……むしろ軽いくらいじゃないか?」
俺はデザートのバナナの皮を剥きながら言う。
「でも、箒は何も悪い事なんてしてないだろう……」
納得がいっていない顔の一夏。
「一夏、お前それ本気で言ってるのか?本気で篠ノ之が何も悪くないと?」
バナナを口に運ぼうとしたところで俺は手を止める。
「そ、そりゃちょっとは悪いことだとは思うけど……」
「ちょっと?本当にちょっとだと思ってるんだったら、甘いと思うぞ。少なくとも俺以外にも鈴やセシリアは彼女がやったことのでかさは理解しているぞ」
「えっ?」
俺の言葉に一夏は鈴とセシリアの顔を見る。ふたりとも微妙な顔をしている。一夏にどう言っていいかわからないといった顔だ。
「あいつは、お前と鈴が襲撃者との戦闘中にアリーナのピットで大声を上げて敵に狙われた。しかも生身で。その結果死にかけた」
「でもそれは颯太が助けたから……」
「確かに俺は助けた。でも、そんなものたまたまだ。彼女は運が良かっただけだ。俺があの時篠ノ之を助けに入るのがあと数秒遅れていたら…そもそも廊下で彼女を見かけていなければ、今頃彼女がいるのは懲罰部屋じゃなく死体安置所だっただろうさ」
「そ、そんな……」
俺の言葉に一夏は絶句する。
「ISってのは今やスポーツになっているが、とんでもない。あれは一歩間違えれば大量殺戮兵器だ」
篠ノ之束が何を思ってISを作ったのかは知らないが、あれは宇宙での活動を目的としたマルチフォーム・スーツなんて領域のものじゃない。
「前に俺も師匠に言われたよ。俺も一夏も他の専用機持ちの人みたいに努力の末専用機を手に入れたわけじゃないんだ。俺たちはISの危険性を他の人よりも理解してなきゃいけない」
「……………」
俺の言葉に一夏は何も言えないようだ。俺も師匠に言われたときは驚きつつも納得したものだ。
「お前も篠ノ之もそのことを理解してない。はっきり言って甘いんだよ、お前らは」
一夏だけでなく、セシリアや鈴も何も言わない。
「まっ、二か月前まで何も知らなかった俺がそんな説教しても説得力ないかもしれないけどな」
俺は食べ終わった食器を片付けるために立ち上がる。
「ごちそうさん。悪いけど先行くよ。ちょっと用事もあるんでな」
三人とも俺の顔を見るが何も言わない。
俺の悪い癖だ。言わなくてもいいことまで言ってしまって空気を悪くする。まあ、これだけは言っておかないとと思ってしまったからしょうがない。
「……なあ颯太!」
歩いて去ろうとする俺に背後から一夏が呼ぶ。
「……俺、いまいちその辺理解してなかった。勉強不足だった」
一夏の言葉を聞きながら一夏の方を向く。
「知らなかったならこれから勉強していけばいい。ここはそういう学校なんだからさ。一緒に勉強していこうや」
「…おう!」
俺の言葉に一夏が力強く頷く。その姿に俺はニッと笑いながら、簪の分の定食を受け取って学食を後にする。
○
「――て、事があったんだよ」
「そう……」
俺の運んだ定食を食べる簪に食堂でのことを俺は話していた。
「うん…間違ったことは言ってないと思う」
「ハハハ、そうかな。まあ何様だよって感じだけどな」
冷蔵庫の中からドクペを取り出しながられは苦笑いを浮かべる。
「ところで、足の調子はどうだ?」
「うん…平気。あなたのおかげ」
簪は少し微笑みながら答える。
簪の足の怪我は幸い骨折ではなかったらしいが、当分は少し引きずったりと歩きづらいかもしれないらしい。せいぜい二週間ほどで治るとのことだが、それまで不便だ。というわけで同室のよしみでできることは手伝ってやろうと思う。まずはできるだけ移動しなくてもいいように夕食を運んできたのだ。
「ありがとう」
「俺は何もしてないよ」
笑顔で答えつつドクペを飲む俺。
「ううん。あの時すごく不安だった。それを助けに来てくれたのは…あなた。本当に感謝してるの」
「そうよそうよ。もっと誇っていいのよ」
そんなふうに言われると照れる。………ん?あれ?
「……いたんですか?」
「ええ、ずっと」
クローゼットの中から顔を出している楯無師匠に俺はため息をつく。
「このことを簪は?」
「えっと……颯太を驚かせたいから黙っててって言われて……」
「そうか……」
逆に考えるんだ…姉妹仲が良くなったんだと。
「まあまあ、いいじゃない」
クローゼットから出てきて俺のベッドに腰掛ける師匠。
「二人に話があったんだけど、颯太君いなかったから。どうせならドッキリしかけようと思ったの」
「そうですか」
ドッキリの割にあんまり脅かそうとしてなかったな。なんかいつの間にかいた感じでぞくっとした。
「で?どうかしました?」
「何が?」
「何か用があったから来たんでしょ?」
「用事がないと来ちゃだめなの?」
寂しそうな顔をしながら俺の顔を見つめる。
「別にいつでも来てくれて構いませんけど。……てかさっき自分で言ったんじゃないですか。俺たちに話があってきたって」
「あれ?そうだっけ?」
俺の言葉に師匠が首を傾げる。でも顔が笑顔だからわかってて言ってる。
「まあそれはいいや」
いいのかよ。
「実は二人にお知らせがあった来たの。本当は山田先生あたりが来るはずだったんだけど、今回の事件で色々と忙しいらしくてね。代わりに私が来たのよ」
「はい…」
俺も簪も首を傾げる。どんな話だろうか。
「実は……」
勿体付けたように師匠は言葉を区切る。
「部屋割りの調整ができたから、二人は別々の部屋になるのよ」
「「……へ?」」
とうとう部屋割りが完了か。
「まあ、簪ちゃんもその足だから今すぐじゃなくていいらしいわ」
それは一安心だ。すぐに変わらなければいけなかったら大変だった。
「そっか……部屋変わるんだ……」
少し簪が寂しげだ。俺との同室気に入っていてくれたのかな?俺も同じオタクで簪との同居は過ごし易かった。
「とりあえず私の方でも少しづつ荷物移動させるの手伝うから」
「うん……」
簪は少し元気がない。
「簪…」
「うん…?」
「ありがとうな」
「えっ?」
俺の急な礼に簪がきょとんとする。
「俺実家遠いから知らない人だらけのここでうまくやって行けるか心配だったけど、簪が同室でよかった」
「えっ?えっと……うん。私も颯太が同室でよかった……」
俺の言葉に簪は顔を赤く染めながら頷く。
「部屋変わってもいつでも遊びに来てくれ。またアニメ見ようぜ」
「……うん!」
簪が笑顔で頷き俺も笑う。
「うん、まあ今すぐじゃないんだけどね」
「「……あっ」」
師匠の言葉に俺たちは二人して顔を見合わせるのだった。
はい、というわけでこれにて一巻の内容は終わりです。
次は二巻の内容。
今のところ主人公の機体あまり出てないし、二巻の範囲ではもう少し出そうと思います。