「おいおいどうしたよ一夏?俺を止めるんだろう?そんなところで寝てていいのかよ?」
地面に転がり驚愕の表情を浮かべる一夏に颯太はニヤニヤと笑みを浮かべて言う。
「っ!颯太!今のは何をした!?」
「何ってお薬だよ。ISとのシンクロ率を上げるためのね」
「なっ!?そんなもの使って大丈夫なのか?身体とかやばいんじゃ――」
「射精の100倍気持ちいぜぇぇぇぇ!!お前もやってみろよぉぉぉぉ!!」
叫びながら颯太は『瞬間加速』で接近。立ち上がろうとしていた一夏に《火人》を振りかぶり振り下ろす。
「っ!」
寸でのところで颯太の一撃を避けた一夏は地面を転がりながら避ける。が――
「はいドーン!」
「がっ!?」
地面を蹴った颯太は立ち上がろうと顔を上げていた一夏の顔をサッカーボールでも蹴るように蹴り飛ばす。
「相手のゴールにシュゥゥゥーッ!超!エキサイティン!!」
激闘を繰り広げる簪とオータムの近くまで吹き飛んでいった一夏を見ながら颯太はカズダンスを華麗に決めて叫ぶ。
「い、いったい何が!?」
突如吹き飛んできた一夏の姿に簪が驚愕の声を上げる。
「あの野郎……リンカーまで使いやがった。マジでどうなっても知らねぇぞ……」
「えっ?……ちょ、ちょっと…それどういう意味ですか!?」
踊るようにスキップをしながら一夏のもとへやって来る颯太を見ながら呟いたオータムの言葉に簪が反応する。
「あぁ?どうもこうも、ありゃもともと試作品の薬なんだから、多少の副作用もあんだよ。人体実験だってしてないんだから作った本人――篠ノ之束でも知らないようなのがあっても不思議じゃねぇんだよ」
「なっ!?それって……!」
「それホントかよ颯太!?」
オータムがため息まじりに言った言葉に簪と一夏は驚愕の声を上げて颯太を見る。
「も~、マーちゃんったら余計なこと言っちゃって~」
「はぐらかさないでよ颯太!」
「そんな危険なもの使って万が一があったら!?」
「だからどうした?」
スキップをやめた颯太はひどく冷たい声で二人に言う。
「これが俺の覚悟だ。目的を達成するためなら俺は自分の命でもベットしてやる」
「そんな……」
「でも、目的のために命まで……!」
「いいか?この世の中では自分の望むもののすべてなんて手に入れることなんてできないんだよ」
「そんなこと!」
「はぁぁぁ……お前らはいつも自分たちの行動の意味を理解していない」
「だったら颯太は自分のしてることの意味が分かってるって言うの!?」
「ああ。理解してるぜ?」
簪の言葉に俺は頷く。
「さっきから前の四人もお前らも判を押したように同じことを言う。やれ投降しろだの、もうやめろ、他に方法を見つけようってさ……じゃあ聞くけど俺が本当に投降したらどうなると思う?」
「それは……」
「警察とか国連が拘束してその後裁判にかけられて、罪の度合いによって罰を受ける、って感じじゃ……」
「ん~おしいな~」
颯太はやれやれと言った様子で肩をすくめる。
「え~正解は、裁判にかけられて問答無用で死刑or人体実験のモルモット、で~し~~たっ!」
「「っ!!」」
颯太の答えに二人は驚愕の表情を浮かべる。
「信じられない?」
「信じられるわけないだろ!」
「そんなことあるはずが……!」
「でもこれが事実だ。この半年間女性権利団体が俺を殺そうと画策し師匠を――更識楯無を殺しかけたのに、誰からも裁かれることが無かったのがいい証拠だ。国連まで女性権利団体の息がかかってるんだよ」
「そんな……」
「っ……」
颯太の言葉に反論できず驚愕の表情を浮かべる一夏と簪。この瞬間二人の意識はそれていて、その隙を見逃すほど颯太は甘くはなかった。
「ぅぅぅうううらぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あぁぁぁ!!」
「がっ!」
『瞬間加速』で一気に距離を詰めた颯太は《火神鳴》を振るい簪をラリアットのように吹き飛ばし、もう一方の《火神鳴》で一夏を地面に叩きつける。
地面に倒れた一夏を二度、三度と踏みつけながら叫ぶ颯太。そのまま一夏の脚を《火神鳴》で掴み左右に振って地面に叩きつける。
「その程度の因果も理解せずに!やみくもに進む!その行動の!言葉の結果!誰かが傷つくかもしれないことに何故気付かん!」
最後に大きく振りまわし一番力強く地面に叩きつけた颯太は一夏を見下ろす。
「自分たちが正しいと信じて疑わず突き進む。お前の言葉は正しいだけだ。そこには薄っぺらな信念と幻想みたいな理想だけしかない。そんなお前らに自分の行いで俺が死ぬという結果が想像できたか?元友人の俺を死に追いやる覚悟が、俺以上の覚悟があるのか!?」
言いながら颯太はギュッと拳を握りしめる。握りしめた力の強さで拳がワナワナと震える。
「友を裏切って、家族を捨てて、師匠の差し出した手を払いのけて、自分の命すら賭けてこの場に立つ俺の覚悟に敵う道理があるか!?――否っ!」
言いながら颯太はその握りしめた拳を倒れた一夏の腹に叩きこむ。
「否っ!否っ!否っ!否っ!否っ!断じて否ぁぁぁぁぁ!!!!」
「げはっ!!」
叫びながら拳を一夏に叩きつけ最後に右手に《インパクト・ブースター》を纏って殴る。その衝撃で一夏の口から嗚咽が漏れる。
「決意もなく!覚悟もなく!道理もなく!」
左手から持ち直した《火人》をめちゃくちゃに一夏に叩きつけながら颯太はなおも叫ぶ。
「できもしないくせに薄っぺらい耳障りのいい言葉を並び立ててうすら寒いポエムみたいなセリフを吐き出す!それがお前らの限界!そんなお前らが、俺は反吐が出るほど大っっ嫌いだ!」
そのまま《火神鳴》で足を掴み放り投げる。
「だからこそ俺はお前らと袂を分かったんだ!」
叫びながら投げた一夏へとゆっくりと歩いて行く颯太。
先ほど颯太に吹き飛ばされた簪はどうにか颯太と一夏の戦いに割って入ろうとする簪はオータムに足止めされ、近づきことができない。
「さぁどうした!?俺にここまで言われてんだ!立ち上がってみせろよ織斑一夏!」
「くっ!くそぉぉぉぉぉぉぉ!!」
颯太の言葉に一夏は叫びながら《雪片弐型》を構えて斬りかかる。
「それでこそだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
キンキンと甲高い音とともに火花を散らし、互いのブレードをぶつけ合って二人はその思いをぶつけ合う。
「さあどうしたぁぁ!!?お前の力はそんなものかぁぁぁぁぁ!!?」
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
なおも互いの剣戟を加速させ、二人の戦いは苛烈を極める。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
一夏の振るった《雪片弐型》の切っ先を《火打羽》で逸らし、一瞬で来た隙に颯太が左手に握った《火遊》を振るう。が、それを見越していたようで一夏も《雪羅》を構えてクローモードで《火遊》を弾く。
その勢いで振り戻した《雪片弐型》を振るい横から叩くことで《火人》を弾く。
叩き落とされないまでもその勢いに颯太は左半身を一夏に向ける。絶好の隙だ。
それを見逃さず、一夏は《雪片弐型》を振り上げる。
振り上げられた《雪片弐型》が『零落白夜』の輝きを帯び、颯太へと振り下ろされる。
「………」
振り下ろされる刃の輝きを見ながら颯太はゆっくりと息を吐く。と同時に颯太の身体を光が霧散するように弾け
「っ!?」
颯太の顔のわずか数センチのところで一夏の刃が止まる。
「颯太!お前…お前なんで……!?」
惑う一夏の言葉に答えず颯太はニヤリと笑い
「おいおいどうした一夏?あと数センチそいつを振り下ろすだけで決着はつくんだぜ?なにせこっちは――生身なんだからさ?」
言いながら颯太は一歩前に出る。
ISを纏っていない生身の颯太の額に一夏の《雪片弐型》の刃が触れる。薄皮が斬れその額から一筋の赤い筋が流れ落ちる。
「っ!」
それに息を呑んだ一夏は一歩引く様に《雪片弐型》を引き
「だからお前は甘いんだよ」
クルリと回転するように《雪片弐型》を避けながら一瞬で『火焔』を纏った颯太はその右腕に《インパクト・ブースター》を纏い、一夏に叩きこむ。
「がはっ!?」
口元にまで垂れてきた血をぺろりと舐めながら颯太は殴った姿勢から体を起こして倒れ伏す一夏に歩み寄る。
「言っただろ、殺す気で来いってさ?絶好のチャンスだったじゃん」
言いながら颯太は一夏の胸を踏みつけ顔を覗き込む。一夏は苦悶の表情を浮かべながらも颯太に鋭い支援を向ける。
「そんなこと……そんなことできるわけないだろ!」
「俺を殺さなきゃ吉良香澄が死ぬんだぜ?」
「そんなこと……選べるわけないじゃないか!お前を殺すか、吉良を見殺しにするか、そんなこと俺に……!」
「選べないか?」
颯太は笑う。
「そうだよなぁ、こんなもん、うんこ味のカレーかカレー味のうんこか、好きな方を選べって言われてるようなもんだもんな」
笑いながら言った颯太はスッとその顔から表情を消し、冷たい視線で一夏を見下ろす。
「生意気言ってんじゃねよ。お前は選べるんだよ。世の中には問答無用でうんこ食わなきゃいけないことだってあんだよ」
言いながら一層踏みつける足に力を籠める颯太。
「あぁ……なんかもうあれだ。ガッカリだ。結局お前はこの半年間で何一つ成長しちゃいないんだよ。肉体とかじゃないぜ?中身の話だ」
「そんなこと!」
「あるんだよ。あぁ~もう、ホントにガッカリ。なんかもうシラケた。だからもう……ここで終わっとけ」
そう言って颯太は右腕を振りかぶり
「たく、いつまで遊んでんだよ凡人野郎が」
振り下ろす瞬間、後ろから誰かの手が伸び、颯太の肘のあたりを掴む。
「っ!?」
颯太がその腕の正体を確かめようと振り返ろうとした瞬間
「ほいっと」
軽い掛け声とともに颯太の視界がぐるりと回り、気付けば床に叩きつけられていた。
「なっ!?」
慌てて顔を上げるとそこには
「ふっふっふ~!美女だと思った?せぇ~か~い!!世紀の大天才にして空前絶後の美女!篠ノ之束さんで~す!!」
「束……さん……」
突然の篠ノ之束の登場に一夏と簪だけでなくエムやオータムも驚愕の表情を浮かべ、颯太だけは
「……………」
ただ無言で見上げていた。