IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第189話 姿を現した悪意

 

「せいっ!!」

 

「はぁぁぁ!!」

 

「っ!!」

 

 斬りかかるエムとオータムの攻撃を回転するように避けたシャルロット。そんな彼女の背後から二基のゴーレムがその両腕をブレード状に変形させて斬りかかる。

 

「っ!」

 

 右腕に展開したシールドで防ぎながら避けたシャルロットは展開した機関銃を両手に構えてゴーレムへと放とうとその銃口を向ける。が――

 

「はぁっ!!」

 

「くっ!」

 

 右腕に《インパクト・ブースター》を装着した颯太が殴りかかる。すんでのところで避けたシャルロットは三人と二基から距離を取る。

 

「やるね~シャルロット。想像以上だよ。まさかこの10分で五人?がかりで一発も食らわないとはね……この半年で腕を上げたのか、はたまたその『コスモス』の力かな?」

 

「フフ、両方かな?」

 

 颯太の問いにシャルロットは不敵に笑う。

 

「今すごく動きやすいんだ。これはこの半年で積み重ねた物だけじゃない。この『コスモス』のおかげだよ」

 

「へぇ~……それはすごいな」

 

 颯太は興味深そうに見る。

 

「でもよ」

 

 興味深そうに見ながら颯太は口角を上げる。

 

「確かにさっきから俺たちの攻撃はほとんどお前にダメージを与えていない。でも、逃げてばかりじゃ終わらないぜ?」

 

「……確かにそうかもね」

 

 ニヤリと笑いながら言う颯太の言葉にシャルロットは頷き、しかしにっこりと微笑む。

 

「でも、それでいいんだよ」

 

「何?」

 

 シャルロットの言葉に颯太は訝しそうに睨む。

 

「忘れたの?この戦法は颯太が一度使ったものなんだよ?」

 

「俺が……まさかっ!?」

 

「フフ、気付いたみたいだね」

 

「……………」

 

 シャルロットの意図に気付いた颯太は悔しそうに唇を噛み、しかし、すぐに笑みを浮かべる。

 

「なるほど……やってくれるね、シャルロット。こりゃ本格的に本腰入れなきゃだな」

 

 そう言って颯太は《火人》を構える。

 

「行くぞシャルロット。増援を期待しているのかもしれないが、それより早く決着をつけてやる」

 

 

 

 〇

 

 

 一歩動くたびにその衝撃が脈打つような鈍痛となって頭に走る。

 拳を、《火人》を、振るうたびに胃袋が捩れるような感覚とともに喉の奥から酸っぱい味が口に広がる。

 今にも膝をついてしまいそうな倦怠感。

 はっきり言って絶不調だ。

 少しは回復したと思ったが、やはり『火焔』を纏うとダメだった。

 今にもゲロ吐いてぶっ倒れてしまいそうだ。

 それでも、俺は――

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 俺は鈍痛を、吐き気を、倦怠感を吹き飛ばす勢いで叫ぶ。

 

「ふっ!」

 

 息を軽く吐きながら俺の上段からの斬撃をシャルロットが舞う様に躱す。

 しかしその先に待ち構えていたエムが大剣のようなブレードで斬りかかる。

 

「ぐっ!」

 

 シャルロットがシールドでその攻撃を受け、しかし、衝撃を受け流せずに片膝をつく。

 

「もらったぁぁぁ!!」

 

 その隙を見逃さずオータムが展開した蜘蛛のような八本の脚を束て突進する。

 

「ぐぅっ!」

 

 吹き飛ばされたシャルロットの口から苦悶の声が漏れる。

 

「あの時俺は確かにオータムと戦った時、防御を主にすることで戦いを長引かせ、師匠や他のメンバーの救援の時間を稼いだ」

 

 苦悶の表情を浮かべながら立ち上がるシャルロットに俺は言う。

 

「でもなシャルロット、あの時の俺とお前では違う点が三つある」

 

 言いながら俺は人差し指を立てる。

 

「一つは、一対一ではなく多対一であること。多人数を相手にするならそれだけ集中力も技術力も必要になる。シャルロットにそれが無いとは言わんが長く続けられるわけがない」

 

 中指も立て計二本の指を立てながら続ける。

 

「二つ目、あの時と違いここには遮蔽物が少ない。強いて言うならあそこのコンテナが使えなくもないが、あの時の更衣室ほど身を隠すところがない」

 

 そして俺は三本目の指を立てる。

 

「そして三つ目、その戦法を行ったことのある俺なら、その戦法の弱点だってわかってるってことだ」

 

 シャルロットが学園祭の時の俺と同じ戦法を取るつもりなら、それを考慮した上で動けばいい。

 

「さあそれでもお前はこの戦い方を続けるのなら、俺たちはそれを真っ向から捻り潰してやるぞ」

 

 俺はニヤリと笑みを浮かべる。

 精いっぱいの痩せ我慢でその笑みの仮面の下に最悪の体調を隠して、俺はシャルロットに《火人》を向ける。

 

 

 〇

 

 

 眼下で強化硝子越しに颯太たちの戦う様を見下ろしながら、吉良香澄は不敵に笑みを浮かべる。

 

「順調に進んでいますね」

 

 と、彼女の隣にやってきた人物、ロゼンダ・ヴァレーズが言う。

 

「ええ。あなたの娘さんはよく働いてくれているわ」

 

「やめてくださいよ。あんな泥棒猫の産んだ子どもなんて、娘でもなんでもありませんわ」

 

「フフ、あらそう。それは残念ね。彼女、それなりにあなたのこと信頼して始めていたようだったのに」

 

 眼下で一人戦う少女を憐れむように言いながら、しかしその瞳にはむしろ嘲るような色が見える。

 

「それはその方が都合がよかったからです。実際おかげで彼女はいい働きをしてくれていますね。その点だけは彼女は有用だったわけですね」

 

「フフ、悪いお義母さんね」

 

 ロゼンダの言葉に吉良は意地悪く笑みを浮かべる。

 

「さて……そろそろかしらね」

 

「ええ、でしょうね」

 

 と、彼女たちは硝子の向こうで繰り広げられる戦いに視線を向ける。

 

「あぁ……彼は一体どんな顔をするのかしらね?」

 

 そう言って彼女は不敵に笑うのだった。

 

 

 〇

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「やぁぁぁぁぁ!!!」

 

 颯太の《火人》とシャルロットの近接ブレードがぶつかり合い火花を散らす。

 その隙に両脇からゴーレム二基がブレード状にした右手を振るう。

 

「っ!」

 

 一瞬の判断で後方に跳んだシャルロットに左腕を荷電粒子砲に変換したゴーレム二基は追撃を掛ける。

 

「くっ!」

 

 一発をシールドで防ぎ、しかし、もう一発を脇腹に掠らせながら避ける。

 姿勢を立て直そうとするシャルロット。しかし、その両脇から音もなく忍び寄った二人の人物がシャルロットの両腕両足を拘束する。

 

「おらぁっ!いまだ颯太!」

 

「いけっ!」

 

「ナイスだ、オータム!エム!」

 

 シャルロットの両脇で叫ぶ二人に礼を言いながら『瞬間加速』で一瞬でシャルロットとの距離を詰め、右腕に装着した《インパクト・ブースター》を振りかぶって

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

 ズドンッ

 

「がはっ!」

 

 鈍い衝撃音とともに苦悶の声を漏らしてシャルロットが吹き飛ぶ。

 

「さぁそろそろ苦しくなってきたんじゃねぇか?」

 

「くっ……このくらいで――」

 

 不敵に笑う颯太に苦しそうに苦悶の表情で立ち上がろうとしたシャルロット。しかし、それ以上の言葉は続けられなかった。

 

「っ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 突如シャルロットが身を裂かんばかりの絶叫とともに頭を抱えて倒れる。と、同時にシャルロットの纏うIS『コスモス』から激しい電撃が放たれる。

 

「「「っ!」」」

 

 咄嗟に距離を取った颯太たち三人はその光景に驚愕の表情を浮かべる。

 

「い、いったい何が……――!?」

 

「なっ!?」

 

「あれは!?」

 

 三人の視線の先で苦しみもがくシャルロット、その身に纏うISが変形した。

いや、それは変形などと言う生易しいものではない。装甲を象っていたものがドロドロと溶けてシャルロットを飲み込もうと侵食していく。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 自身を飲み込まんと広がるそれを身体を掻きむしるように抵抗するシャルロットはもがき泣き叫ぶ。

 

「僕の!僕の中に何かがぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「シャルロット!!!」

 

 その異様さに自分たちの立場も忘れ颯太はシャルロットへと手を伸ばす。

 しかし――

 

「ぐっ!」

 

 ドロドロと溶けてシャルロットを侵食していく〝それ〟が放つ電撃に吹き飛ばされる。

 

「おい、なんなんだよあれは!?」

 

「あれが正常なものなはずがない!いったいなんだと言うんだ!?」

 

吹き飛ばされた颯太を起こしながらふたりが漏らす疑問に、颯太は呆然と呟く。

 

「……V……テム」

 

「え?」

 

 颯太の呟きにオータムが訊き返す。

 

「去年の今頃、IS学園のタッグトーナメントで、あれに似たものを見た。あの時はラウラがそのISに秘密裏に搭載されていたそれに飲み込まれた」

 

「それって……」

 

「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されているそれ――『VTシステム』だ」

 

 颯太の言葉に二人は息を呑む。

 

「くっ!おいてめぇ!」

 

 颯太は悔し気に歯噛みし視線を少し上の硝子の向こうで不敵な笑みを浮かべる人物に向けて叫ぶ。

 

「ふざけんな!てめぇ……てめぇ、シャルロットに何をした!!?」

 

 叫ぶ颯太にその対象、吉良香澄は不敵に笑みを浮かべる。

 

『フフ、フフフ、アハハハハハハハッ』

 

「何がおかしい!?」

 

 設置されているスピーカの向こうから聞こえる吉良香澄の声に再度颯太が叫ぶ。

 

『ええ、そうね。確かにこうなったのは私たちの仕込みよ』

 

「だったら――」

 

『でもねぇ……』

 

 颯太の言葉を遮って吉良香澄は続ける。その顔はまるで

 

『言っておくけど、最後のスイッチを押したのは――あなたよ』

 

 最高のおもちゃを見つけた子どものようだった。

 

「てめぇ何を言って――っ!」

 

 と、それまでずっともがき泣き叫んでいたシャルロットの声が止まる。

 直にそちらに戻した颯太の視線の先でゆっくりとシャルロットが立ち上がる。

 頭部のカチューシャのようだったパーツは顔の半分を覆うバイザー付きのヘルメットのようなヘッドギア。足や肩、両腕の要所要所には金色の装飾が施され、両肩から伸びる二対のまるで足のようなパーツ。両足の付け根に取り付けられた小型のブレードのようなクリアパーツ。

 その身に纏う装甲は先ほどまでの白色から変わらず、しかし、数秒前とは全くの別物になっていた。

 

「シャルロット……?」

 

 立ち上がったまま俯き何の反応も見せないシャルロットに颯太はゆっくりと歩み寄ろうとし――

 

「っ!?」

 

 一瞬の殺気に咄嗟に飛び退く。

 

「なっ!」

 

 その一瞬の瞬きの間に目の前にいたはずのシャルロットが消える。

 と、同時に背後で衝撃音が聞こえる。

 身構えながら視線を向けた先にあったのは颯太の後ろに控えていたゴーレムの一基が真っ二つに切断されている光景だった。

 ゴーレムを真っ二つに切り裂いた元は背中に取り付けられていた大剣のようなブレードを振り下ろした姿勢からゆっくりと立ち上がったシャルロットはカクンと顔だけを颯太に向ける。

 バイザーとヘッドギアで口元しか見えないその顔に笑みを浮かべてシャルロットは口を開く。

 

「あぁ……残念。外しちゃったぁ……」

 

「シャル……ロット……?」

 

 今までに自分の見たことのない寒気すら感じるような笑みを浮かべるシャルロットに颯太は呆然と呟く様に問いかける。

 

「お前……いったい……?」

 

「ん~……わかんないんだけどぉ……これだけはわかるんだぁ~」

 

 ゆっくりと身体を颯太の方に向けたシャルロットはその笑みを浮かべたまま大剣を構え、

 

「今僕は無性に、どうしようもなく、とめどなく、自分でもびっくりするほどに、颯太のことを愛してる!」

 

 まるで熱に浮かされるようにシャルロットは歌う様に叫ぶ

 

「あぁ~愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて愛しくて!!!だから――殺し合おう(愛し合おう)!!颯太!!!」

 


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