目の前に迫りつつあるブレードを睨みながら俺は歯を喰いしばる。
ふり下ろされるそれの軌道を見ながらコンテナに左足を押しつぶされ制限されているが、それでも体を捻って何とかそのブレードから逃れようと足掻く。
しかし、シャルロットの振り下ろすブレードは正確な軌道で俺に迫って来ており
バンッ!
「っ!?」
と、一瞬の閃光とともにシャルロットの右脇で突如大きな音を立てて爆発が起きる。
その爆発から身を守るようにバックステップでシャルロットが飛びのいたので俺にブレードが触れる直前、ギリギリで助かった。
視線を上げて辺りを見るが、エムもオータムも何が起きたのかわからない、と言った表情をしている。そもそもかなり離れている。遠隔で爆発を起こすような武器や機能を二人のISは持っていない。つまり今の爆発と二人は無関係と言うことだ。
じゃあいったい今の爆発は誰が……
俺が困惑しながら一瞬思考を巡らせていた時、
「おい……いったいこれはどういうことなんだよ!なぁ、颯太!シャルロット!」
突如室内に響いた声に視線を向けると、そこにはこの部屋の入口に立って困惑した表情で立つ一夏の姿があった。
「一夏……お前、なんで……」
先ほど束博士に薬を撃ち込まれたことで一夏は当分まともに動けないはずだ。それがどうして?と、驚いている俺をよそに、一夏の方に顔を向けたシャルロットはその口元に笑みを浮かべる。
「あれ~?一夏じゃない?どうしたの~、そんなに慌てて~?」
「どうしたじゃない!シャルロット、お前は今自分が何しようとしてたかわかってるのか!?」
「もっちろ~ん。僕は今、殺そうとしていたんだよ、颯太を」
「なっ!?」
シャルロットの言葉に一夏は言葉を失う。
「お前、何を言って……」
「僕はね、颯太のことが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで!どうしようもなく愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて愛おしくて!だから今こうして殺し合ってるの!でも――」
舞う様に、歌う様に、まるで恋する乙女のように語るシャルロットはくるくると回りながら言い、しかし、ピタリとその動きを止めて首をカクンと傾けながら一夏に顔を向ける。
「それなのにそれなのにそれなのに!邪魔された邪魔された邪魔された邪魔された!」
頭を抱え込むように叫ぶシャルロット。
「誰だか知らないけど僕と颯太のお楽しみに水を差して!殺す殺す殺す殺す!僕の邪魔をするやつは誰だって!」
「シャルロット……」
シャルロットの言葉に一夏は呆然としていて
「さ、わかったら一夏はそこで見ててね。颯太は僕の手でここで――」
「っ!」
大剣を構えたシャルロットに一夏が息を呑み身構え――
「私たちのことを」
「忘れないでもらおうか!」
シャルロットの両脇からエムとオータムが飛びかかる。
シャルロットはエムの大剣を肩から伸びる薄い透明なブレードで受け止め、オータムの蜘蛛のような足を大剣で防ぐ。
「邪魔者は誰であっても殺すって言ったよねぇ!!?」
そのまま受け止めたそれぞれの攻撃を弾きながらシャルロットは叫ぶ。
「やれるもんなら」
「やってみろ!!」
弾かれたところで一瞬出来た隙にエムとオータムが突撃しシャルロットを無理矢理俺から距離をとらせる。
「颯太!」
シャルロットをエムとオータムが引きつけた間に一夏が俺の脇に駆け寄る。
「よぉ一夏。元気そうだな。どうやって束博士の薬から抜け出した?」
「よくわかんないけど、なんか『白式』が……」
「なるほど、前に束博士と織斑先生の言ってたあれか……まさか薬まで中和するなんて……」
去年の今頃、俺が束博士と初めて会ったあの臨海学校での事件の後、二人がそんな話をしているのを聞いた覚えがある。
俺が考えている間に一夏は俺の様子を見て回り
「くそ、左足が完全にコンテナの下敷きかよ!待ってろ!今どかすから――」
「おいやめろ殺す気か!?」
『白式』を纏ってコンテナに手を掛けた一夏に俺は慌てて叫ぶ。
「い、いや、俺はお前を助けようと思って!」
「はぁ……知らないならいい機会だから覚えておけ。体の一部、特に四肢が長時間圧迫されると、筋肉が損傷して組織の一部が壊死して、圧迫から解放されると同時に壊死した筋細胞からカリウムとか乳酸とかが血中に大量に漏出されて、最悪の場合死ぬんだよ!」
「そんな……」
俺の言葉に一夏が慌ててコンテナにかけていた手を放す。
「まあ俺の左足は今完全にペシャンコだ。骨も粉々、肉もぐちゃぐちゃ。こりゃ上手くこの場を切り抜けてももうまともに動くことは無いだろう。さすがにさっき言ったのは可能性低いとはいえ、ヘタに動かさない方がいい」
「でもそれじゃあ颯太は……」
「……………」
一夏の心配したような表情に俺は考える。
確かに一夏の言いたいことはわかる。この足をどうにかしないと俺は身動きが取れない。かと言ってコンテナを動かせばさっき言った症状――挫滅症候群とか他の何かでぽっくり逝く可能性だってある。
シャルロットをなんとかするにしてもあのとんでもISをどうにかしないことにはシャルロットの身も危険が……
まあ、一つ手立てがないこともないのだが……
「チッ………オータム!エム!」
俺は舌打ちをして一つだけ思い浮かんだ案を実行に移すべく二人に通信を繋げる。
「二人とも!そっちは大丈夫か!?」
『まあなんとかな!』
『お前のガールフレンドはとんだじゃじゃ馬だ。いや、まるでケダモノだな』
二人はシャルロットと戦いながら俺の通信に答える。
「オータム、アンタのIS今エネルギーどのくらい残ってる?」
『そうだな……まあ半分ってところか!』
「そのエネルギー半分くれって言ったら、オータム、キツいか?」
『はぁ?何を急に――』
「いいから答えてくれ!」
『っ!……そうだな……まあ何とかなるだろうよ』
「そうか……」
オータムの答えに俺は頷く。
「エム、オータムが抜けたらオータムが戻るまでどのくらい一人で持たせられる?」
『……そんなに長くは無理だな。せいぜい5分が限界だな』
「そうか……なら、もう一人、人手があったら?」
『っ!?まさかお前……!』
シャルロットと戦いながら一瞬エムの視線が俺に向く。
俺はそんなエムにニッと笑みを向ける。
『……もう少し長く持たせられるかもな』
「OK」
俺は欲しい答えに笑みを浮かべる。
これで条件はそろった。あとは……
「おい、一夏」
「お、おう?」
名前を呼ばれ、一夏が俺に視線を向ける。
「10分でいい、手ぇかせ」
「え?」
俺の言葉に一夏は驚愕の表情を浮かべる。
「俺とお前は敵同士だが、今はシャルロットを助けるってことで目的が一致してるはずだ。だから、シャルロットを助けるまででいい。俺に手を貸せ」
「……………」
俺の言葉に一夏は考えるように押し黙る。
「言っておくがあんまり時間は無いぞ。こうしている今も刻一刻とシャルロットの身が危ないんだ」
「………わかった」
俺の言葉に数秒間を空け、一夏が頷く。
「それで、俺は何をすればいい?」
「お前にやってもらいたいことは全部で二つ。その中でも主には一つ、オータムが俺にISのエネルギーを移し、俺の準備が整うまでの間シャルロットの相手をしててほしい。お前としては複雑かもしれんがエムやオータムと一緒にな」
「………わかった、ちょっと不本意だが、今は非常時だ。あいつ等とも共闘してやる」
「OK。お前、前よりものわかりよくなったんじゃねぇか?」
「茶化すな。それより俺にしてほしいもう一つのことって何なんだよ?」
俺の言葉に一夏がむっとしながら訊く。
「ああ、そっちはシャルロットを足止めするより数倍簡単だ」
一夏の問いに俺は笑顔で頷く。
「一夏。悪いが俺のこの邪魔な左足、お前の《雪片弐型》でぶった斬ってくれねぇか?」