IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第192話 ありがとう

 

「お前……何言って……」

 

「こんな時まで難聴系主人公か?この戦いが終わったら耳鼻科行け。治るといいな」

 

「聞こえなかったんじゃねぇよ!!脚を切り落とせって……お前何言ってんだよ!?」

 

「そのままの意味だよ」

 

 頭を抱えて叫ぶ一夏に俺は冷静に答える。

 

「お前の《雪片弐型》でこの邪魔な左足を斬り落としてくれ。そうすりゃ万事解決。俺は動けるようになる」

 

「動けるようになってどうするって言うんだよ!?だいたい今ここで斬り落とせばお前は出血多量で――」

 

「だから、お前に頼んでんだよ」

 

 一夏の言葉を遮って俺は言う。

 

「お前の単一仕様能力、『零落白夜』を使うんだよ。あのレーザーの刃で焼き切るんだ。斬った側面を焼いて止血する。そうすれば少なくとも出血多量で死ぬことは無い……ショック死はするかもだけど」

 

「そんな……でも……」

 

 俺の言葉を理解しながらも納得できない様子で呟く。

 

「俺に……俺にそんなことできるはずないだろ!?お前の脚を斬り落とすなんて……だってお前は……」

 

「一夏」

 

 俺はそんな一夏に静かに言う。

 

「一夏、俺のことをこの状況でまだ友達だと思ってくれているなら、頼むからやってくれ。今やらなきゃ後悔する。俺も、お前も、必ずだ。俺が動けなきゃシャルロットを救えない」

 

「っ!」

 

「頼む。シャルロットを助けるためなんだ。シャルロットと、このグチャグチャになった俺の役立たずの足、どっちを選ぶかなんて答えは明白だろう?」

 

「……………」

 

 一夏は俺の言葉にひどく悲しそうに顔を歪め、それでもゆっくりと顔を上げる。

 

「なんで……なんでお前ばっかりがこんな貧乏くじ引いてんだよ……お前が何したって言うんだよ……」

 

「覚えておけ一夏。俺の好きな言葉の一つにこんな言葉がある。『神様は乗り越えられる試練しか与えない』。これは俺への試練なんだよ、あの日大事な友達を救えなかった俺への」

 

「………もしそうだとしたら、その神様はとんだサディストだな」

 

「織斑先生が超優しく感じるよな」

 

 俺は一夏の言葉に頷きながら笑う。

 

「………やってくれ」

 

 立ち上がった一夏はその右手に《雪片弐型》を構え

 

「……ごめん」

 

 その右手の青白い光で輝くブレードをゆっくりと振り下ろした。

 

 

 〇

 

 

 

「ほら、これで半分だ」

 

「あいよ」

 

 オータムの言葉に確認しながら頷いた俺はその身に『火焔』を纏う。

 視界に移る情報を確認した俺はコンテナに体を預けながら立ち上がる。片足がないと立ち上がるのも一苦労だ。

 

「問題なさそうだ。あとは5分ほど時間を稼いでくれればカタが付く」

 

「OK。くれぐれも気を付けろよ」

 

「そっちこそ、ムカついて一夏を殺してくれるなよ」

 

「まあ努力するよ」

 

「努力じゃ困る。くれぐれも頼むよ」

 

「へいへい」

 

 言いながらオータムは俺に背を向けて手を振りながらシャルロットを足止めするエムと一夏のもとへと向かって行く。

 俺はそんな背中を見送りながら

 

「さっ、行くぜ『火焔』。うやむやじゃない、ちゃんとしたエンディングに向って」

 

 

 

 〇

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「くっ!」

 

 シャルロットの振り下ろした大剣を一夏が《雪片弐型》で受け止めるが、その威力に一夏は苦悶の声を漏らしながら片膝を着く。

 

「どうしたの!?一夏の実力ってこんなものぉ!?」

 

「舐めるな――」

 

「ふっ!」

 

 一夏の言葉を遮って横合いからエムの大剣がシャルロットに迫る。

 

「おっと!」

 

 それをくるりと舞う様に避けたシャルロットは大剣を構え直し

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

 真横からオータムが突進を仕掛ける。

 横からの攻撃に咄嗟に避けられなかったシャルロットは吹き飛ばされる。

 

「ちぃっ!颯太の野郎の準備はまだできねぇのかよ!?」

 

「なんだよ、もうへばったのかよ!?」

 

「文句言ってる暇があったら手を動かせ!手を!」

 

 オータムの叫びに一夏とエムが言う。

 

「あぁもう!お前ら仲良しかよ!?」

 

「「誰がこいつなんかと!!」」

 

「そういうところだよ!篠ノ之博士と颯太のやつと言い、お前らと言い!」

 

 声を揃えて言う二人にオータムはため息をつきながら言う。と――

 

『悪い待たせた!』

 

 プライベート・チャネルで三人のもとに通信の声が届く。

 

『おせぇんだよ!!』

 

 オータムは口には出さず、通信を飛ばす。

 

『悪い!でもあともうちょい!エム!俺が合図したら〝アレ〟を使ってシャルロットを足止めしてくれ!』

 

『了解だ!』

 

『颯太!俺は!?』

 

『そのまま足止め頼む!』

 

 通信で聞こえる颯太の声に頷いた一夏は再度シャルロットに斬りかかる。数度大剣と《雪片弐型》をぶつけ合い、オータムも八本の蜘蛛の脚のようなアームを振るい、エムも大剣を振るう。

 三人の攻撃はシャルロットのエネルギーを少しずつ削りながら、しかし、シャルロットの鬼気迫る戦い方に決定的なダメージは与えられない。

 

「エムッ!今だ!」

 

「っ!」

 

 と、後方から聞こえた颯太の声にエムは持っていた大剣を投げ捨てる。

 

「っ!?」

 

エムの行動の意味が分からず一瞬その動きを止めたシャルロット。その一瞬の隙をついてその右手に〝それ〟を展開したエムは

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 その右手の短い杖のようなそれ――《火遊》をシャルロットの胸に叩きこんだ。

 

 

 〇

 

 

 エムがシャルロットに《火遊》を叩きこんだ瞬間、シャルロットはその動きを止める。

 計画通り上手くいった。あとは――

 

「行くぞ『火焔』!!」

 

 俺の言葉とともに視界の端に表示された数字が666/666を示す。

 同時に俺の纏う『火焔』が黄金の光に包まれる。

 俺は手に握った《火人》を掲げ、そのまま自身の腹に突き刺す。

 俺の腹を貫通しなかったそれを引き抜く様に引っ張ると、その刃は先ほどまでと比べ物にならないほどの大きさに膨れ上がる。それは刀とは言えず、まるで光の波のようであった。

 その刃をコンテナに体を預けて支えにしたまま真上で両手で握って振りかぶる。

 

「シャルロットォォォォォォォ!!!」

 

 叫びながらシャルロットに向けてその光の波を放つ。

 『ハラキリ・ブレード』の光がシャルロットに届く瞬間、シャルロットの口が動く。

 その声は俺のところまでは届かなかったが、シャルロットは確かにその瞬間

 

「―――――――」

 

 『ありがとう』と、言った気がした。

 




シャルロット戦、決着

この続きは余裕があれば今日中に。
無理だったら……まあできるだけ日があかないうちに……(^^;

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