自爆する設定は残っていますが、まだ自爆はしてません。
そんなわけで最新話でございます。
前回の194話をまだ読んでいないと言う方はそちらを読んでからどうぞ!
「ちょっといいかしら?」
言いながら師匠は俺の目の前にしゃがみ、俺の返事も聞かずに俺の身体に手を伸ばす。
「いつから私がここにいるって気付いたの?」
そのまま俺の左手を取り脈を測ったり、瞼を開いて俺の瞳を覗き込んだり、切断した左足の断面を見たり、その他いろいろと触りながら師匠が訊く。
「あぁ……なんとなく師匠が来てそうな気はしてたんです。でも、確信したのはシャルロットと戦ってる時ですよ。あの時、シャルロットが動けない俺に大剣を振り下ろそうとした時に、シャルロットのすぐ隣で爆発が起きたんですけど――あれ、師匠でしょ?」
「やっぱりそこかぁ~」
「あの時は一瞬一夏が攻撃したのかと思ったけど、一夏は遠距離で爆発させるような能力持ってないし、何よりあの時爆発する一瞬、周囲の空気が蜃気楼みたいに揺らめいた気がしたんですよ」
「ハハハ、つい手を出しちゃった」
触診をしながら師匠は苦笑いを浮かべる。
「本当は最後まで手を出すつもりなかったのよね。なのに颯太君が危なくなってつい手助けしちゃった。一夏君が近くまで来てなかったら姿現してたかもね」
言いながら師匠は触診を終えたようで俺の身体から手を放す。
「………それで?師匠は護衛に参加しなかったのに、わざわざ何しにここに来たんですか?」
「約束を果たしに来たってところかしらね……」
師匠は言いながらポケットに手を入れ、俺が先ほどリンカーを使った時に使ったような注射器を取り出す。中にはリンカーと違い透明な液体が入っている。
「それって……」
「ちょっとチクッとするかも」
言いながら師匠は俺の左腕に注射器を押し当て、引き金のようなスイッチを押す。
「っ!」
プシュッと言う音ともに注射器の中身が撃ち込まれる。
「………なるほど、あの時の約束ですか」
俺は納得して笑い
「止めに来るならもっと早く来た方がよかったんじゃないんですか?俺、吉良の暗殺成功しちゃってますよ?」
「そうね……でも、これでいいのよ。それで?気分はどう?」
「いいですよ。左足の痛みも薬の副作用も感じなくなってきました。あと……ちょっと頭がボーっとしてきましたね……。このまま……安らかに眠るように逝けそうな気がします……」
「そう……」
俺の返答に師匠は少し安心したように頷く。
「それじゃあ、少しお話ししましょうか」
「え……?」
「颯太君が〝眠る〟までついててあげる」
言いながら師匠は優しく微笑み俺の隣に座り込む。
「……逃げ遅れますよ………」
「大丈夫よ」
師匠は微笑みながら言い、俺に視線を向ける。
「ホント、やってくれたわね」
「ハハハ……」
「笑い事じゃないわよ。ま、おかげでいろんなところの悪いところが明るみになったから、そういう面ではよかったのかもだけどね」
「俺のおかげ、ですね……」
「バーカ」
お道化て言った俺の言葉に師匠が俺の頭を軽く小突きながら微笑む。
「ホント、よくもまぁここまで世界を引っ掻き回して、そのうえそのまま他人に丸投げして、自分は退場しようとするなんてね……」
「俺としては、こうなるのは結構想定外だったんですけどね……」
「あら?そうなの?」
「当たり前、じゃないですか……誰が自分が死ぬところまで計画に入れるんですか?俺はどっかの異能系ロボットアニメの主人公じゃないんですよ?」
「あらそう?でも颯太君ならやりかねないって思ったけど?ほら、颯太君元中二病だし」
「あ、ひでぇ」
冗談めかして言いながら俺と師匠は互いに笑い合う。
少しの間笑い合っていると、師匠は徐々に笑みを消し
「……ごめんね」
「……なんですか、急に?」
突然謝り出した師匠に俺は首を傾げる。
「颯太君も本当はこんなことしたく無かったよね?きっと颯太君をここまで追い込んだのは私があの時爆弾で死にかけたから……あのことが無かったら、今頃颯太君は変わらずIS学園にいて、普通の学生生活を謳歌してたはずなのに……」
「そんなこと――」
「あるのよ!!」
俺の言葉を遮って師匠は叫ぶ。
「きっとあのことが無かったら颯太君は普通に学園に通って!恋愛して!卒業したら仕事とか!結婚して家庭を持ったり!子どもができてその成長を見守って!健康的に年取って!家族にも守られながら天寿全うして!そんな普通の!ありふれた日常が待ってたはずなのに!」
師匠は泣きながら叫ぶ。
「なのに!なのに私がその幸せを奪ったの!私のせいで颯太君は……!」
「……………」
師匠の言葉に俺は黙って聞き
「確かに、俺の人生は普通じゃなかったです。平凡な俺には不似合いな非日常な毎日でした。享年17歳とか世間的に見れば不幸かもしれません」
「っ!」
俺の言葉に師匠は泣きながら唇を噛む。
「でも、俺はこの人生に満足してるんですよ」
「え?」
師匠が驚いた顔で俺を見る。そんな師匠に俺は笑顔を向ける。
「俺の好きなアニメの一つにこんなセリフがあります。
『いつまでも一緒にいるよと誓った。
誓えたことが幸せだった。
この人のことが好きだなと思った。
思えたことが幸せだった。
幸せにしてやるよと言ってもらえた。
言ってもらえたことが幸せだった。
こんなにもたくさんの幸せをあのひとに分けてもらった。
だから、きっと、今のわたしは誰が何と言おうと、世界一幸せな女の子だ』
俺は確かに、誰かにいつまでも一緒にいると誓うことはできませんでした……。
でも、大切な人はたくさんできました……好きだと思う人はたくさんいました……。
誰かに、幸せにしてやるって言ってあげることは、できませんでした……。
それでも、俺のしたことで、誰かの幸せに繋がったって、信じてます……誰かの不幸を回避できたんじゃないかって思います。俺の行動がたくさんの人に幸せを分け与えたって信じてます」
俺の言葉を師匠は黙って聞いている。
「俺は、世間一般的に見れば確かに、不幸だったかもしれない……このお話の少女のように世界で一番幸せだった、なんて言えません。それでも、俺の人生にはきっと意味があった。大切な人たちのために、大好きな人たちのために、顔も知らない誰かのためになったなら、それだけで十分幸せな人生だったって、言えます。それだけで、俺には十分に幸せです」
「颯太君はそれでいいの……?」
「ええ。ここ一年は苦しいこともキツいこともたくさんありました。それでも、師匠に会えた、簪に会えた、シャルロットに会えた、一夏にも、たくさんの仲間にも会えた。俺は十分自分の人生を謳歌しましたよ」
「そう……」
師匠は俺の答えに考え込むように俯く。そんな師匠の姿に笑いながら言う。
「……それでも、それでも師匠が責任を感じるなら、俺のお願いを三つ聞いてくれますか?」
「お願い……?」
「はい、俺のやり残したこと、師匠が代わりにやってください」
「……わかったわ。必ずやってあげる」
「まだ一個目も言ってませんよ?どんなお願いするのかもわからないのに――」
「どんなお願いでも聞いてあげる。それが私の颯太君にしてあげられるせめてもの罪滅ぼしなんだもの」
「そうですか……ありがとうございます」
俺は師匠の言葉に笑う。
「それじゃあ一つ目、シャルロットのフォローをしてやってください。きっとあいつはこの結果に責任を感じると思うんです。だから、アイツに言ってやってください。お前は何も悪くない、俺のことは忘れて幸せになってくれ、って」
「いきなり難題がでたわね」
「無理ですか?」
「いいえ、難しいけど必ずやって見せる」
「ハハハ、心強いっすね」
師匠の言葉に微笑む。
「それじゃあ二つ目、うちの家族に俺の代わりに謝っておいてください。身内にこんなテロリストが出たら、きっとこれからいろいろと困ることがあると思うんです。両親は俺みたいなダメ人間産んだってことでバッシング受けるかもしれません。海斗は俺みたいなダメ兄貴のせいでいじめられるかもしれません。だから、もしもうちの家族が困っていたら、俺の代わりに助けてやってほしいんです。できる範囲で、かまわないので……」
「なるほどね……わかったわ。必ず何とかする」
「ありがとうございます」
「それで、三つ目は?」
「三つ目は、師匠が幸せになってください」
「えっ……?」
俺の言葉に師匠は呆然とした表情を浮かべる。
「もう一度言います。師匠が幸せになってください。俺のことに、責任を感じる必要はありません。俺の人生が幸せじゃなかったって思うなら、俺の分まで師匠が幸せになってください。いつまでも俺のことにとらわれないで、自由に生きてください」
「っ!………それは……それは一番難しいお願いね」
師匠はボロボロと泣きながら微笑む。
「お願い、聞いてくれますか?」
「ええ……ええ!わかった!その三つのお願い、必ずやり遂げて見せるから!」
「よろしくお願いしますね」
泣きながら、しかし、笑顔で頷く師匠に俺は満足して笑う。
「本当は、童貞のまま死ぬって言うのも、なかなかに心残りですけど、そればっかりはしょうがないですかね……」
俺は冗談めかして言う。と――
「グスッ……そ、それなら――」
師匠は涙を拭うと、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それなら、特別サービスで、お姉さんが相手になってあげようか?」
「そいつは、ありがたい申し出ですね。師匠みたいな人が、相手だったら何の思い残しもなく、逝けますね。でも、残念。それはもう、無理っぽいですね……」
「あら?どうして?」
俺の言葉に師匠が首を傾げる。
「さっき師匠が打った薬、あれが効いてきた、みたいで、もう指一本、動かせそうにないです。それに、さっきからすごく、すごく、眠くて仕方が、なくて……」
「………そう……それは残念ね」
徐々に呂律もまわらなくなってきた俺の言葉に師匠は優しく微笑みながら頷く。
身体からゆっくりと力が抜けていく。身体が俺の意志とは関係なく傾いて行き、そんな俺の身体を師匠が受け止める。ちょうど膝枕されるような状態だ。
「師匠……ありがとう…ございました……」
「こちらこそ、ありがとう颯太君」
俺の言葉に頷きながら師匠は俺の頭を優しく撫でる。
徐々に薄くなっていく感覚の中で、師匠のその手はとても優しく、温かかった。
「師匠……俺のお願い、必ず……」
「ええ、必ず全部成し遂げて見せるわ」
「あぁ……これで、何の思い残しも、なく…逝けます……あと思うことがあるとすれば……」
俺は微笑み、師匠に視線を向ける。
「願わくば、優しい世界でありますように……でしょうか、ね……」
「きっとなるわよ、優しい世界に」
「そう…だと、いいなぁ……」
言いながら、俺の瞼が意思とは関係なく徐々に下りてくる。俺の幽かな視界の中、師匠の顔がゆっくりと近づいてくる。そのまま俺と師匠の顔の距離は徐々に縮まり
「お疲れ様、颯太君。ゆっくり……ゆっくり休んでね……」
俺が最後に感じたのは、そんな師匠の言葉と、唇に触れた温かい感触だった。
自爆じゃなくミサイル発射に変更したのは、自爆してる途中にここまで長々と話してるのが、なんかあまりにもアレだったからです(^^;
あ、ちなみにまだ終わってませんからね!?
もうちょ~~~~っとだけお付き合いくださいm(__)m