IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第196話 あの日を境に

 あの北海道での戦いから、気付けば五年の月日が流れた。

 

 私――シャルロット・デュノアが目を覚ましたのはあの一件から二日が経過してからだった。

 

 目が覚めた私は見舞いに来た一夏たちからあの一件の詳細を聞き、そこで颯太の死を聞かされた。

 

 厳密には颯太の死は確認されていない。

 

 私が目を覚ました時点でもうすでに自爆された施設の瓦礫撤去などの作業は開始されていた。

 

 この件に関する怪我人は一定数確認されているが、確認された死亡者は吉良香澄一人のみ。

 

 颯太の死体は確認されず、発見されたのは一夏が斬り落とした左足のみ。

 

 しかし、状況から判断し、颯太の生存は絶望的とされ、瓦礫の撤去作業と同時進行で颯太の遺体捜索は進められたが、結局発見には至らなかった。

 

 

 

 

 

 あれから五年と言う月日は確実に世界を変えた。

 

 颯太の起こした一件を経て、世間はどんどん変わった。

 

 大きなものから小さなまでその変化は多数あった。

 

 まず女性権利団体は完全に解体された。

 

 篠ノ之束が世界中にバラまいた不正の証拠と、あの日の一件での裏側――私が使わされた『ダーインスレイヴ・システム』のことなどが原因だ。

 

 私の元義母、ロゼンダ・ヴァレーズはその身柄を拘束され、国際裁判にかけられた。

 

 これに関しては完全に自業自得なので特に思うところはない。

 

 あともう一つ大きなもので言えば、IS学園が本格的に共学化に動いたことだろうか。

 

 もともと女子校と限定されていたわけではない。

 

 ISを動かせるのが女性だけ、という制限があるため、これまで入学者には女の子しかいなかっただけだ。

 

 そこに新たに学園内を操縦科と技術科に分けたのだ。

 

 操縦科にはISを操縦する目的の人が入学、技術科にはISの開発や整備の技術を学ぶ目的の人が入学するようになった。

 

 こうしてISを操縦できない男性でも技術科限定ではあるがIS学園に入学できるようになった。

 

 まあ、そうなったのは私たちがIS学園を卒業した翌年からだったが。

 

 他にも大きな変化はたくさんある。

 

 五年たった今でも女尊男卑の風潮は根強く残っているものの、それでも五年前ほどではない。

 

 これまで見下されていた男性も職場では正当に評価されるようになり、IS開発の場でも男性技術者がより才能を発揮できるようになり、IS開発は一歩、また一歩と前進している。

 

 また、IS関連で言えば、二年ほど前から本格的に国連主導でISを使った宇宙開発計画が現在持ち上がっている。

 

 これもきっと颯太の起こした事件の結果の一つだろう。

 

 

 

 

 

 小さなもので言えば、私たち自身のことだろうか。

 

 IS学園を卒業してからみんなとは今でも連絡を取り合っている。

 

 まず一夏。彼は卒業後、某大学に進学、そこで結果を残し、現在は国連所属のIS操縦者として活躍している。

 モンドグロッソにも参加し、現在二連覇中。織斑先生の再来として、そして、ミサイルから世界を救った救世主の一人として人気を博している。

 

 次に箒。一夏と同じ大学に進学し、現在は日本の国家代表操縦者となった。

 また、国家代表として働く傍ら、篠ノ之神社を切り盛りしている。重要人物保護プログラムによってバラバラになった家族ともまた一緒に暮らせるようになったらしい。

 

 次にセシリア。彼女はIS学園卒業後、経営系の大学に入学し、卒業後にイギリスに帰国、実家の会社の社長に正式に就任。イギリスの代表候補生の席を返上し、現在敏腕女社長としてその経営手腕を振るっている。

 

 次に鈴。彼女も箒と同じく一夏と同じ大学に入学。正式に中国の国家代表操縦者になり、現在は中国を拠点に活動している。

 また、紆余曲折あって復縁した両親とともに始めた中華料理店が大成功。現在は中国内でチェーン展開され、最近日本にもそのチェーン店が参入してきている。

 

 次はラウラ。ラウラはIS学園を卒業後、ドイツに帰国。ドイツの国家代表操縦者に就任すると同時にドイツ軍の中で抜群のカリスマを発揮し、IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊長を務める傍ら、後続の育成のために教官としても活動している。現在の階級は大佐である。

 

 ちなみに五年たった今もこの五人の関係性は変わらず、四人の一夏へのアプローチは続いているが、一夏は相変わらずの唐変木さだった。

 

 次に楯無さん。颯太捜索のために数か月休学していた関係で半年遅れでIS学園を卒業した後、本格的に家業を中心に日本政府の一員として活動を始める。仕事内容について詳しいことは話せないことが多いみたいだけど、ちょくちょくご飯などを一緒にするときにはとても自由に、楽しそうにしているようだった。

 

 次に簪。IS学園を卒業後、日本代表候補生の資格と『打鉄弐式』を返上。IS関連の技術系の大学に進学した後、大学卒業後はその能力を買われて国連主導のIS開発のメンバー入りを果たしたらしい。

守秘義務がある関係で詳しい話は話せないらしいが、メンバーが自称できる女や英雄志望の偏食甘党、体弱いのに肉しか食べない女性、口の悪い偉そうな姉と逆に腰の低い丁寧な妹の双子の姉妹、などなど、我の強い奇人変人ぞろいの開発メンバーの中でなかなか苦労しているらしい。

 

 この様にみんなそれぞれの道を歩んではいるが今でもお互いに連絡を取り合っているし、予定さえ合えばみんなで会って食事などに行くこともある。

 

 変わらず学生時代のように騒ぎ、楽しんでいる。

 

 それでもみんなきっと心のどこかで思っているのだろう。

 

その場に颯太がいればと。

 

そしてそれが叶わないことも痛いほど理解している。

 

 それでもみんなの関係が変わらずにいるのは、きっと颯太の残したもののおかげだろう。

 

 世界を頼む、颯太が最後に残した言葉、それを守るためにみんなそれぞれ自分にできることに邁進しているのだろう。

 

 そして私も……。

 

 私はIS学園を卒業後は大学に進まず、とある職場に就職した。

 

 就職した、と言うか、その社長と一緒に会社を立ち上げた、と言う方が正しいかもしれない。

 

 今の私はその会社のナンバー2、副社長だ。

 

 副社長になったことで人前に立つこともあるので、意識して一人称を切り替えてたらいつの間にか「私」で固定されちゃった。

 

 まあ、会社と言ってもそんな大きなものではない。

 

 職務も、言ってしまえば何でも屋である。

 

 依頼が来ればその依頼者の意に添うように依頼を完遂する。

 

 それなりに成果を上げているし、数名の社員もいる。

 

 まあ、その職務も〝表向き〟なのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルロットさ~ん。今いいですか~?」

 

「あ、は~い!どうぞ~」

 

 ドアをノックする音に私は読んでいた新聞から視線を上げてドアを見る。

 

「失礼しま~す」

 

 そう言って一人の少女が入ってくる。

 少女は長い髪にすらりと高い身長、しかしその表情は幼く可愛らしい笑みを浮かべている。歳は私より三つほど下だ。

 

「ごめんなさい。何か仕事中でした?」

 

「ううん、大丈夫。新聞読みながら考え事してただけだから」

 

 私は言いながら新聞を畳んで脇に置く。

 

「どうしたの、レナちゃん?何かあった?」

 

「うん、この間の報告書」

 

 言いながら少女、深見玲奈ちゃんは傍らのファイルから書類を取り出す。

 

「遅くなってすみません」

 

 言いながらレナちゃんは頭を下げながら私の方に書類を手渡す。

 

「はいはい、確かに受け取りました」

 

 レナちゃんから渡された書類を受け取り、軽く目を通す。

 

「それにしても…シャルロットさんすごいですね~。私だったらこんな文字ばっかりのもの、二秒で寝ちゃいますよ~」

 

「アハハ~なんかアリアリとその光景が思い浮かんじゃうね」

 

 私は新聞を広げた途端机に突っ伏して寝てしまうレナちゃんの様子を想像して笑う。

 

「でもこういう職業上、今世界で何が起きてるのか知っておくのも大事だよ」

 

「う~、マスターもそう言ってたけど、やっぱり私には性に合わないな~」

 

 言いながらレナちゃんは苦笑いしながら頭を掻く。

 

「読んでみたら面白いかもよ?たまに面白い記事もあるし」

 

「へ~?例えば?」

 

 私の言葉にレナちゃんは少し興味を持ったように訊く。

 

「う~ん……例えば今日の新聞だったら……あったあった」

 

 言いながら私は新聞をめくり、目的の記事をレナちゃんに見せる。

 

「半年くらい前に月から帰還途中の宇宙船が機体不良で帰還できないかも、ってことがあったの知ってる?」

 

「う~ん、なんとなく?」

 

 レナちゃんは首を傾げながら答える。

 

「結局その時は無事着陸できたんだけど、最近公式発表で、その件に国連で勧めてる企画の開発中のISが関わってるってことが発表されたんだよ」

 

「へ~それでそれで?」

 

「それで今日の記事ではその時の被害規模とかが発表されてたんだけど――ここを見て」

 

 言いながら私は記事の一部、とある山の図が描かれた部分を指さす。

 

「宇宙船の落下軌道上に世界第二位の標高を誇る山、K2があったんだけどね。この一件のせいで世界第三位に下方修正されたらしいよ。しかもそれ、関わったISが行った攻撃のせいらしいよ」

 

「えっ!?うっそ!?ISってそんなことできるんですか!?」

 

「少なくとも私のISでは無理だね」

 

 驚いた表情で訊くレナちゃんに苦笑いを浮かべながら答える。

 

「まあ、ときどきこういう記事が出てくるから新聞読むのも面白いんだよ」

 

「へ~……なるほど……」

 

 言いながらレナちゃんは興味深そうに新聞記事を眺め

 

「…………zZZ~」

 

「レナちゃん!?」

 

「はっ!一瞬寝かけてた!」

 

 瞼を閉じて小さく寝息のようなものを立てはじめたレナちゃんの肩を掴む私。レナちゃんは慌てて顔を振る。

 

「やっぱ私には無理ですね~」

 

 やれやれと笑いながらレナちゃんは新聞を畳み、私に返す。

 

「あ、それで報告書ですけど」

 

「うん、内容は問題ないよ。よく書けてると――」

 

 と、僕の言葉を遮ってドアを叩く音が聞こえる。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 私の言葉に答え、ドアが開くと、新たな少女が現れる。

 その子は長い髪に眠たそうな半眼。特徴的な長いマフラーを首に巻いていた。

 

「お話し中すみません」

 

 どこかのんびりとした口調で少女――狗駒邑沙季(ムラサキ)ちゃんが言う。

 

「大丈夫だよ、ムラサキちゃん」

 

「そうそう、用事は済んだし、世間話してただけだから」

 

「それはよかった」

 

私たちの言葉にムラサキちゃんは頷く。

 

「それで、いったいどうしたの?」

 

「実は今、シャルロットさん宛てに電話がありまして」

 

「へぇ?誰から?」

 

「警察からです」

 

「「えっ!?」」

 

 ムラサキちゃんの言葉に私、そしてレナちゃんが驚きの声を上げる。

 

「えっと……冗談?」

 

「いえいえ、ホントですホント。私がそんな冗談言うと思いますか?」

 

「いや、あんたちょくちょくその無表情で冗談言うじゃない」

 

「あれ?そうだっけ?まあそれはいいじゃん。今は本当のことなんで」

 

 のんびりとした声でムラサキちゃんは言う。

 

「そ、それで警察は何の要件で?」

 

「はい、それが――」

 

 言いながらムラサキちゃんは私に視線を向け

 

「社長の身柄を拘束したんで、身元保証とかのために出頭してほしいそうです」

 

 変わらずのんびりと、まるで天気の世間話をするように言った。

 




前回もうちょっと続く、と言いましたが、そのもうちょっとが長くなりそうな気がします。
まあ気長に書いて行きますんで、読んでくださる皆さんに楽しんでもらえるように頑張ります!
ちなみに次話から新章にします。
章題は正式に決めていませんが、FGOから取って「Epic of Remnant」とでもしましょうか。
「Epic of Remnant」の意味が「残った者達の物語」らしいので、ちょうどいいかな、と思いまして。
まだ未定ですが……(^^;


さて、ここでお知らせです。
活動記録の方に新しく質問コーナーを設置しておきます。
前回同様質問等があればよろしければどしどしどうぞ!

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