IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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記念すべき200話!
ここまで書くとは自分でも驚いております(^^;
これもひとえに読んでいただいている皆さんのおかげでございます!

次回は番外編にしようかなぁとか思いつつ、まだ考え中です。
やるにしても内容的にもっと後の方がいいかも……とか考えつつちょっと保留とします。

とりあえず最新話どうぞ!





第200話 仲良し六人組

「なぁ……」

 

「ん~?なんだ?」

 

 午前中に回って得た情報をパソコンに纏める目の前の男――男と言っても十二歳のあたしと五つしか変わらないので、少年と言ってもいいくらいだろう――に、あたしはソファーの上から声を掛ける。

 その男は画面から一瞬あたしに視線を向けすぐに視線を戻して答える。

 

「あんた、弟がいるんだってな。しかもあたしとそう歳の変わらない」

 

「……アキラさんか」

 

 男はため息をつきながら頷く。

 

「いるぞ。それがどうかしたか?」

 

 男は視線をパソコンの画面に向けたまま訊く。

 

「あんたがあたしを助けたのは弟の代わりか?」

 

「………はぁ?」

 

 呆けた顔で男はあたしの方に顔を向ける。

 

「あんた、ここに来る前に家族を捨てて来たんだろ?あたしを助けたのは置いてきた弟の代わりに、あたしを助けることで少しでも弟への罪悪感を消したかったんじゃないのか?」

 

「………最近の小学生ってみんなお前みたいなの?捻くれてるね~」

 

「ごまかすんじゃねぇよ!」

 

 冗談めかしてパソコンの画面に視線を戻しながら言う男にあたしは立ち上がって叫ぶ。

 

「でなきゃなんであたしは助けたんだよ!?あんたにゃあたしを助ける義理も何もないだろ!?」

 

「………はぁ………」

 

 あたしの問いに男は先ほどより大きくため息をつくと、今度は体ごとあたしの方に向き直る。

 

「お前って損する性格してるよな。そんなふうに穿った考え方してると疲れるだろ?」

 

 頬杖を突きながらやれやれと肩をすくめる。

 

「お前を弟の代わり?バカ言え。いいか?うちの弟は〝弟〟なんだよ。チ〇コついてるの。お前ついてないんだから代わりになるわけ……え?待って?ついてるの?」

 

「なっ!?つ、ついてるわけねぇだろ!!」

 

「だろう?いくらお前のボディラインがなだらか過ぎて、涙が出るほど平坦で、将来に期待するしかなくて、男と見間違う体型だからってそこは重要でしょ?お前は女、うちの弟は男。女のお前は〝弟〟にはならないの。あいつの代わりになりたきゃチ〇コつけて出直してこい」

 

 ハンッと鼻で笑った男は腹の立つニヤケ顔でこちらを見てくる。

 

「~~~~っ!!だ、だったらなんであたしを助けたんだよ!?」

 

「別に特に深い意味なんてないさ」

 

 男は興奮して訊くあたしとは対照的に冷めた様子で答える。

 

「まっ、これまでのお前の境遇を考えたら理由のない善意なんて信じられないかもしれないけど、世の中には意外とそう言うことで溢れてるんだよ」

 

「でも……」

 

「それでも納得がいかないって言うなら、そうだな………」

 

 いまだ納得のいかないあたしに男は少し考え込む素振りを見せ、すぐに優しく微笑む。

 

「俺がお前を助けた分、お前が困ってるやつを見た時に今度はお前がそいつを助けてやれ。そうすりゃちょっとはお前も理解できるだろ」

 

「それで理解できなきゃどうするんだよ?」

 

「そん時はそん時。It's gonna be alright.なんとかなるさ」

 

 そう言って男は笑う。

 

「でも……」

 

「はぁ……わかった!じゃあこうしよう!俺がお前を助けた分、うちの弟を助けてやれ!いつか紹介してやるから!なっ!」

 

「………まあそれなら……」

 

 あたしは男の有無を言わせぬ言葉に渋々頷く。

男は頷くあたしに満足そうに微笑み

 

「まっ、そのいつかがいつ来るかは知らんけど」

 

「なっ!?」

 

 男の言葉に驚くあたしを見て、男――井口颯太は心底楽しそうに笑ったのだった。

 

 

 〇

 

 

 

「………っ!」

 

 そこで目が覚めたあたしはゆっくりと体を起こし、枕元の目覚まし時計を見る。時計の表示はセットしていたタイマーのニ十分ほど前を示していた。

 

「……久しぶりに見たな、あの頃の夢」

 

 あれはいつの頃だったか……確かあいつに助けられて一週間くらいたったころだったか……。

 ぼんやりと覚えているさっきまで見ていた夢、その最後に見たあの男の意地悪い笑みを思い出しながら頭に残った眠気を吹き飛ばすように伸びをし

 

「顔洗うか」

 

 あたし――雪音クリスは洗面所へと向かった。

 

 

 

 

 

 土曜日の午前中の授業をすべて終え、昼食を取るために食堂にやって来たあたしは受け取った昼食の日替わりのA定食――ミックスフライだった――を乗せたトレーを運びながら空いた席を探す。

 が、さすがに昼時なだけあって食堂の中は混んでいる。これは座れないかもしれない、とどこか別の部屋に運んで食べることを考えていたところで

 

「キネクリ先ぱ~い!」

 

 この妙なあだ名であたしのことを呼ぶ人物をあたしは一人しか知らない。

 声のした方に視線を向けると、こちらに手を振っている眼鏡の少年の姿が見える。

 

「ここ空いてますよ~!」

 

「はぁ……声でけぇよ」

 

 笑顔で手を振る少年にため息をつきながら、あたしはそっちに歩いて行く。

 

「おい、いつも言ってんだろ、あたしをキネクリなんて変な呼び方するんじゃねぇよ、海斗」

 

「すいません」

 

 ジロリと睨みながら言ったあたしに少年――井口海斗は苦笑いしながら言う。が、あたしは知っている、こいつにやめる気がないことを。かれこれこいつと出会ってから二年は経つが、まったくやめる気配がない。最近はあたしも諦めてるところがあるが訂正しておかないとこいつは調子に乗るので一応毎回言っている。

 

「アハハ~いつものだね~」

 

 と、海斗の向かいに座っていたバカ、響が笑う。が――

 

「お前はもっとたちが悪いぞ。こいつは一応は先輩ってつけるし言えばやめる。が、お前はちゃん付けにするだろ。あたしは先輩だぞ!」

 

「だってクリスちゃんはクリスちゃんだもん!」

 

「なんだそりゃ……」

 

「まぁまぁ……響のはもう諦めるしかないよ」

 

 と、響の隣に座る未来が苦笑いで言う。ちなみにこいつもあたしのことをクリスと呼び捨てにするが、こいつの場合は初対面の時に助けてもらったことがあるからあまり強くは言えないので放置している。

 

「キネクリ先輩、私もいいと思うんデスけどね~」

 

「親しみやすい……」

 

 と、海斗の隣に座る切歌と調の一年コンビが言う。

 

「お前らも呼んだら本格的に手が出るぞ」

 

「ぜ、絶対呼ばないデース!」

 

「…ッ!…ッ!」

 

 あたしが威圧を籠めて拳を見せながら睨むと二人は全力で頷く。

 

「まあとにかく座ったらどうですか?」

 

「あ、ああ、悪い」

 

 海斗の言葉にあたしは頷き、空いた席に座る。

 

「で?全員揃ってなんかあったのか?」

 

「いやぁ~特にそんなことは無かったんだけど」

 

「たまたま食堂の前でみんな揃っちゃったから、どうせならって」

 

 あたしの問いに響と未来が答える。

 

「お前も男友達と食えばいいのによぉ」

 

「今日はたまたまみんな予定が合わなかったんですよ」

 

 海斗は苦笑い気味に答える。

 

「それに、俺以外みんな女子でも気にしてられないですよ。この学園、そもそも男子が圧倒的に少ないんですから」

 

「そうだな」

 

 海斗の言葉にあたしは頷く。

 

「てかそもそも気にしてないですし。このメンバーでいるの俺好きですよ。楽しいですし」

 

「私も先輩といるの楽しいデース!」

 

「私も……」

 

「ご飯は楽しく食べたほうがおいしいよね!」

 

「響はいつだっておいしく食べてる気がするけど、それには同意かな」

 

 海斗の言葉に四人も頷く。

 

「仲いいなぁ、お前らは」

 

「何言ってんですか?クリス先輩だってメンバーでしょう?」

 

 微笑ましく思いながら言ったあたしに海斗が言う。

 

「はっ!まさか!?まさかクリス先輩、本当はこのメンバーでいるの楽しくない!?本当は嫌で嫌で仕方がなかったんですか!?」

 

「デ~ス!?」

 

「そんな……!?」

 

「クリスちゃん……!?」

 

「…………」

 

 演技がかった口調で言った海斗の言葉に一年コンビとバカが反応し、未来が苦笑いを浮かべる。

 

「おまっ!わかってて訊いてるだろ!?」

 

「ちゃんと言ってくれないと!僕らはクリス先輩と一緒にいるのが楽しいです!でも!先輩は違うって言うんですか!?」

 

「どうなんデスか!?」

 

「先輩……!」

 

「クリスちゃん……!」

 

「~~~~っ!」

 

 四人分の視線(内一つは腹立つほど愉しんでる)を受けてあたしは顔をしかめて

 

「あぁもう!あたしも楽しいよ!いちいち訊くな!」

 

「「先輩!!」」

 

「クリスちゃん!!」

 

 あたしの言葉に一年生コンビと響が嬉しそうに笑い、未来はあたしを労うように苦笑いを浮かべ、元凶たる海斗は満足そうに頷いてる。

 

「たく……お前のそういうところホント誰かさんにそっくりだよ」

 

「へぇ~?そいつはいったい誰ですかね~?」

 

 と、あたしの嫌味に海斗は笑いながらとぼけたように言う。

 ちなみに海斗自身はあたしがこいつの兄と面識があることを知っている。最初の頃にあたしの方から話したからだ。

 

「あ、そうだ。クリス先輩、また勉強見てもらってもいいですか?」

 

「ああ。今度はどこだよ」

 

「IS概論Ⅱの第4項です」

 

「あぁ……まあ今度暇なときに見てやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 海斗は嬉しそうに笑う。

 

「あ、ヤバ。そろそろ行かないと」

 

 と、海斗がチラリと壁の時計を見て、慌てた様子で残っていたご飯をかき込む。

 

「何かあるの?」

 

「担任から用事頼まれてるんだ」

 

 未来の問いに答えながらご飯を食べきった海斗は水を飲み、トレーを持って立ち上がる。

 

「それじゃあ、悪いけど先行くね。クリス先輩もすみません、慌ただしくて。勉強のことは先輩の都合のいい時で」

 

「ああ。わかったから早く行け」

 

「はい。それじゃあみんなもまたね」

 

「はい!また今度デース!」

 

「また……」

 

「じゃあねぇ~!」

 

「用事頑張ってね」

 

 あたしたちに手を振りながら去って行く海斗を見送り、あたしは自分の昼食を食べようと箸を取り

 

「「「「…………」」」」

 

「………なんだよ?」

 

 四人分の視線に首を傾げながら訊く。

 

「なんて言うか……」

 

「前から思ってたけど……」

 

「クリス先輩と海斗先輩って……」

 

「やけに親しいですよね……?」

 

「はぁ!?」

 

 四人の言葉の意図がわからずあたしはさらに首を傾げる。

 

「なんて言うか、海斗君ってクリスちゃんには遠慮がないって言うか……」

 

「距離感が近い気がするんだよね」

 

「そうかぁ?」

 

 響と未来の言葉にいまいちあたしはピンとこない。

 

「そうなんです……!」

 

「いや、お前らとそう変わらないと――」

 

「違うデス!」

 

 調の言葉を否定しようとしたあたしの言葉を遮って切歌が叫ぶ。

 

「なんて言うか……海斗先輩は私たちに対してはちゃんと心開いてるデス!友達として仲良くしてくれてるデス!でも、クリス先輩とは私たちよりもさらに親しい感じがするデス!なんか私たちよりクリス先輩の方が心の距離感が近い気がするデス!」

 

「心の距離感って……」

 

「クリス先輩はクリス先輩で海斗先輩にはなんだかんだで優しいデスし!」

 

「そんなこと――」

 

「あるデス!」

 

 切歌の真剣な言葉にあたしは考える。が――

 

「別に普通だと思うけど……」

 

「やっぱり海斗先輩攻略の一番のライバルはクリス先輩……」

 

「これは強敵デース!」

 

「なんじゃそりゃ?」

 

 一年生コンビの言葉にあたしは呆れながら言う。

 

「言っておくがあたしとあいつの間にそういうロマンスのある話は無いぞ」

 

「でも……」

 

「ねぇんだよ。まあ強いて言えば、あたしはあいつの兄貴のことを少し知ってるってことだろうな」

 

「「「「あっ……」」」」

 

 あたしの言葉に四人が合点がいったような顔をする。

あたしがあいつの兄と面識があると言うことはこの四人も知ってはいる。が、詳細は知らないし教えていない。

あいつの兄の話はこの学園で一番海斗と親しいであろうこの四人でもなかなか触れづらい部分だからか、海斗がいない場面でもこいつらからあたしに訊いてくることは無い。

 

「まあ心配しなくてもあいつのことはそれなりに親しくしてる自覚はあるけど、お前らの思ってるようなもんじゃねぇよ」

 

 言いながらあたしは水の入ったコップに口を付け

 

「そう言えばクリスにはどうしても忘れられない相手がいるって前に言ってたもんね?」

 

「ブフッ!?」

 

 未来の言葉に思わず飲んでいた水を吹いてしまう。

 

「お、おまっ!?何言って……!?」

 

「あれ?違った?なんか前にそんな話を……」

 

「そうだったんデスか、クリス先輩!?」

 

「知らなかった……!」

 

「なんで教えてくれなかったのクリスちゃん!?」

 

 未来の言葉に興味津々の様子で三人があたしに詰め寄る。

 

「ちげぇよ!あの野郎はそんなんじゃない!てかお前らちけぇよ!!」

 

 三人を押し返しながらあたしは叫ぶ。

 

「あの野郎はなんて言うか……いつか見返してやりたかったというか、ぎゃふんと言わせてやりたかったと言うか――っ!」

 

 なんと説明したものかと言葉を選んでいたあたしはふと自分の言葉に引っ掛かりを覚える。

 なんだろう?今あたしの言った言葉の中に最近聞いた覚えがあったような……

 

――ぎゃふん

 

 そうだ!ぎゃふん、だ!しかし一体どこで……

 そこまで考えたところであたしは思い出した。つい先日であったあの特徴的なマダラ模様のような白髪と黒髪の入り混じったヒョウモンダコのような頭をしたあの男――

 

「クリスちゃん?」

 

「っ!」

 

 ふと声を掛けられ慌てて顔を上げると目の前で四人が怪訝そうにあたしを見つめていた。言葉の途中で考え込んでしまったあたしを不審に思ったらしい。

 

「わ、悪い。なんでもない」

 

 あたしは咳払いをする。

 

「と、とにかく!そいつはあたしの……その……そう言うんじゃない!なんて言うか、ちょっとした因縁のあるやつってだけだ!」

 

「その人っていったい――」

 

「だぁぁぁ!この話はこれで終わりだ!!」

 

「えぇぇ!?そんなぁ!」

 

「クリス先輩のコイバナもっと聞きたいデス!!」

 

「詳しく……!」

 

「私もちょっと気になる、かな……」

 

「終わりって言ったら終わりだ!!」

 

 その後もぎゃあぎゃあと騒ぐ四人を無視してさっさと昼飯を食べ終えたあたしはいまだ食べ終わっていなかった四人を放っておいてさっさと逃げるように食堂を後にしたのだった。

 




さてさて、今回は現在のIS学園、そこに通う海斗君の日常を垣間見たわけですが……もう少し今後彼のことも描いて行くつもりです。
お楽しみに!


さて、今回の質問コーナーはGoetia.D08/72さんに頂いた質問に答えたいと思います。
Goetia.D08/72さんは一度に二つ質問をいただきましたので、一つづつ答えたいと思います。
今回は一つ目、「あの北海道の一件以降、一夏達はめでたく世間からヒーロー扱いされたみたいですけどIS学園に対する世間の目はどんな具合だったんでしょうか?
 なんやかんやで一夏と愉快な仲間達が何とかしたわけですが、散々後手に回り続けた上に、護衛対象の嘘も見抜けないまま良いように利用される形になり、組織としての脆弱性が浮き彫りになりまくった訳ですが」
と言うことですが……

端的に言えば、IS学園は当時かなり叩かれました。
ぶっちゃけ海斗君たちが通う今現在も颯太が在籍していた頃よりもかなり評価は低いです。
それでもどの国家にも所属しないIS学園と言う存在は今後も必要と言うことで体勢、システムやカリキュラムも見直され、また男子の受け入れも始めるなど新たな取り組みを経て現在に至ります。
ちなみに現在は定期的に国連の監査が入るようになり、二度と同じような問題が起きないようにきつく監視されていたりします。



さて今回はこの辺で!
Goetia.D08/72 さんからいただいたもう一つの質問は次回お答えしたいと思います!
それではまた次回!

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