「おいクリス!」
「――うおっ!?」
電話に向かっていたはずのハヤテが慌てた様子で机に手を叩きつけた。その勢いに一瞬よそ見をしていたクリスは驚きの声を上げる。
「答えろ!いま井口海斗がどこにいるか知ってるか!?」
「はぁ?急に何を――」
「いいから答えろ!知ってるのか!?知らないのか!?」
怪訝そうな表情のクリスの言葉を遮ってハヤテが訊く。
そんなハヤテの様子に首を傾げながらも
「確か……海斗のやつは今日、切歌たちと買い物に出たはずだぞ。あいつ等やあたしも詳しい理由は言えないけど専用機持ってるからあいつが外に出るときには護衛代わりにつくことになってるから――」
「今すぐ海斗の安否を確認しろ!」
「はぁ?なんでそんな――」
「いいからやれ!今ならまだ間に合うかもしれない!」
「なんだよ……」
クリスは怪訝そうに首を傾げながら携帯を取り出し、登録されている中から『暁切歌』を選ぶ。
数秒の間の後、電話が繋がる。
「おう、悪いな。ちょっと変なこと訊くんだが――」
『せ、先輩!大変なんデスよ!!』
電話口に言いかけたクリスの言葉を電話の向こうから切歌の声が遮る。その声の大きさは普通の通話状態にも関わらず目の前にいたハヤテにも聞こえるほどだった。
「お、おい!いったいどうし――」
『いいいいいい!いま!今目の前に急に車が止まったと思ったら、海斗先輩が攫われてったんデス!』
「っ!」
「はぁぁぁ!?」
切歌の言葉にハヤテは顔を強張らせ、クリスは驚きの声を上げる。
『どどどどどどうすればいいデスか!?先輩が!先輩が!』
「お、落ち着け!とにかく冷静になって――」
「貸せ」
電話口で慌てた声が聞こえてくるのでとにかく落ち着かせようとするクリスの脇からハヤテが手を伸ばしクリスの携帯をするりと抜き取る。
「あっ、ちょっ!?」
「いいから――おい聞こえるか、デスデス娘?」
『デェェェスッ!?だ、誰デスか!?と言うかデスデス娘!?』
「んなもん今はいいんだよ!それより、井口海斗が攫われたのはいつだ?」
『えっとえっと、つい今デス!まだ三分もたって無いデス!』
「くそっ、一足遅かったか……!」
切歌の言葉にハヤテは悔しそうに舌打をする。
『あ、あの……ところであなたはいったい――』
「とりあえず落ち着け。井口海斗は僕たちが救い出す。だからお前らは……とりあえず〝上司〟にでも連絡しておけ」
『はいっ!?上司!?それって――』
「それでも気になるって言うんだったら後で送る電話番号に連絡しろ。相手には電話に出るようには伝えておくから」
『え?ちょっと――』
「じゃあな」
と、ハヤテは相手の言葉を最後まで聞かずに電話を切る。
「ほい、ありがとう」
「いや、何勝手に!てかなんで海斗の誘拐のことを知ってたんだよ!?」
携帯を返したハヤテにクリスが訊く。
「話すと長くなる上にかったるい。何より今は一刻を争うから話は後で」
言いながらハヤテは財布から五千円札を一枚取り出し伝票と一緒に机に置く。
「ごめんマスター!ちょっと急用ができたから行くわ!お金ここ置いておくから!お釣りはこの子に渡しといて!」
「あいよ~」
「ちょっ、待てよ!?」
入り口に向かうハヤテを慌ててクリスが呼び止める。
「あぁ、そうだ。さっきの切歌ちゃんにシャルロットの電話番号送っておいてやって。それじゃあ」
「だから!」
再度出て行こうとするハヤテの腕を掴むクリス。
「……なんだ?」
「どこ行こうって言うんだよ!?まずは警察とか――」
「そんなもの頼ってる暇はない」
言いながらクリスの手首を掴んだハヤテは
「今は一刻を争うんだ。だから――」
「っ!?」
ハヤテは掴んだクリスの手に力を籠める。
「――邪魔をするな」
「っ!」
一瞬感じたハヤテの冷たい視線にクリスは息を呑み、掴んでいた手を放す。
「……いい子だ」
冷たい雰囲気を消し、頷いたハヤテは扉に手を掛け
「安心しろ。海斗は必ず〝俺〟が助け出すよ」
「えっ……?」
俯いていた顔を上げたクリス。しかし、そこにはもうハヤテの姿はなかった。
○
「はじめまして~、井口海斗君♡」
顔に被せられていた袋を取られた海斗。
目の前で顔を寄せて言う少女は気持ち悪いほどの満面の笑みで言う。
その笑みには纏わりつくような嫌な雰囲気があった。
海斗は少女の言葉に答えず、周りを見渡す。
薄暗い一室。少しうす汚れてる感じがするので、恐らく普段は使われていないであろう建物か何かなのだろう。
部屋の中には海斗の他には少女を含め五人の人物がいた。
目の前の、海斗とそう歳は変わらないであろう金髪の少女。
少し離れたところにいるこれまた海斗とそう年の変わらなそうな黒髪の少年。
ガラの悪そうなスキンヘッドの男と目付きの鋭い黒髪の短髪の女。
そして、部屋の入口脇の壁に背中を預ける黒髪に一人だけスカートのスーツ姿の女が一人だった。
「ちょっと~、無視しないでくださいよ~」
と、周りに視線を向けていた海斗は顔を両側から手で掴まれ、無理矢理視線を戻される。
目の前では件の金髪の少女がふくれっ面で言う。
「もしかして、逃げようとか考えちゃってます?」
少女は笑みを浮かべたままスッと視線を細める。
「もしそうなら――」
「心配しなくてもそんなつもりはないよ。だって、そもそも動けないんだもん」
言いながら海斗は視線を自身の身体に向ける。
木製の椅子に座らされた海斗は両手を後ろで縛られ、両足も椅子の脚にそれぞれ縛りつけられていた。
「この状態で逃げようなんて無茶、やるわけないでしょ?」
「そりゃそうですね~」
海斗の言葉に少女は細めていた視線を戻し元の笑みを浮かべる。
「それで?あんたら……えっと……」
「申し遅れました!戸部です!戸部京子って言います!」
「あっそう……その戸部さんみたいな人たちが、僕なんかに一体何の御用でしょうか?」
「あれ?私たちのこと知ってるですか?」
「舐めないでもらいたいね。これまでアンタらみたいなのに何回狙われたと思う?アンタらもどこぞのテロリストかなんかだろ?」
海斗は言いながら目の前の少女と他の四人を見ながら言う。
「ん~、まあ確かにそうかもですけど、あんまりテロリストって呼ばれ方は好きじゃないですね~」
戸部京子と名乗った少女は困ったように頬に手を当てて言う。
「私たちはそこら辺のテロリストとは違います。私たちは……そう、井口颯太様の遺志を継ぐ者です」
「兄貴の意志を継ぐ?」
京子の言葉に海斗は怪訝そうに首を傾げる。
「そう!」
しかし京子はそんな海斗の様子には目もくれず恍惚とした表情で言う。
「私たちはアナタのお兄様、井口颯太様の言葉や思想に惹かれ、この世界の現状に憂いを感じて行動するものです!今の世界は生きずらいです!もっともっとよりよい世界に、生きやすい世の中にしたいです!あなたもそう思いませんか!?」
京子は恍惚とした笑みのまま海斗に向き直る。
「海斗君、あなたのことはずっと前から調べていたです!でも、こうして直接会ってわかりました!」
言いながら京子はまるで愛おしいものにでも触れるように海斗の顔を包むように両手を添える。
「あなた、やはり颯太様の弟だけあって雰囲気が似てますねぇ~。目元なんてそっくりです……」
言いながら京子は海斗の眼鏡をそっと外す。
「海斗君、あなたも感じてるんじゃないですかぁ?この世界はどこか歪で壊れてる」
海斗の瞳を覗き込むように
「颯太様のことを理解しないやつらに酷いこと言われ続けて来たんじゃありませんか?でも、私たちは違います。私たちは颯太様のことを分かっています。あなたの味方になれます」
「僕の味方に?」
「ええ……」
海斗の言葉に京子は微笑みながら頷く。
「だから、私たちにあなたの持ってるものを渡してほしいんです」
「僕の持ってるもの?」
「そう、あなたのお兄様、颯太様が残した遺産を。そのデータがあれば私たちはきっと世界を変えられます。なので是非、私たちに――」
「待て」
と、さらに続けようとした京子の言葉を遮り入り口脇にいたスーツの女が警戒した様子で扉を睨む。
「どうした?」
スーツの女の様子に少年が問う。
「幽かだが物音が聞こえた」
「何?」
「もうここがばれたって言うのか?」
スーツの女の言葉に黒髪の女とスキンヘッドの男が言う。
「わからない。とにかく警戒した方が――」
ドゴンッ!
スーツの女が扉を睨みつけながら言う言葉を轟音が響き遮る。
『っ!?』
室内にいた海斗を含む全員が驚きの表情で固まる中、全員の視線の集まる場所、扉から少し離れた壁に大きな穴が開いていた。
その穴の向こう側には左足を上げ、まるで蹴りを入れたような体勢で立つスーツ姿の男が立っていた。
その男がゆっくりと脚を下ろし、砕かれた壁の破片を踏みしめながら室内にゆっくりと入ってくる。
「お邪魔するよ」
男――朽葉ハヤテはそう言ってニッコリと笑う。
「何者だ?」
黒髪の少年がハヤテに訊く。
「通りすがりの探偵さ」
ハヤテは言いながら部屋の中を見渡す。
「その通りすがりの探偵が何しにここに来た?」
「そこの少年を助けにね」
スキンヘッドの男の問いに縛られた海斗を指さしながら答える。
「どうしてここが分かった?ここのことは我々の仲間しか知らないはずだ」
「ちょいとウサギの道案内でね」
「……ふざけてるのか?」
黒髪の女の問いに答えたハヤテの言葉にスーツの女が睨みながら言う。
「いやいや、本当の事さ」
そんなスーツの女の視線にハヤテは肩をすくめながら答える。
「あのムカつくウサギの力を借りたのは少し釈然としないが、おかげで今こうしてここにいる。その点だけは感謝だな」
「何を言って――」
「さて、と」
京子の言葉を遮ってハヤテはポンと手を叩く。
「ここのことはもう通報した。じきに君らもお縄を頂戴することになるだろう。あんまり手荒なことはしたくない。あんたらも無駄に怪我したくないだろう?」
ハヤテは言いながら見渡す。五人の人物たちは何も言わずじっとハヤテを見る。
「無駄な抵抗をしなければ罪だってこれ以上増えることは無いさ。だから、そこの少年をさっさと解放してくれないか?」
「「「「「……………」」」」」
ハヤテの言葉に五人は一瞬顔を見合わせ
「私たちがそれに素直に従うと、本当に思ってたんですか?」
京子がニヤリと笑いながら訊く。
「まあそうなるだろうと思ったさ。でも、一応は言っておかないとね」
ハヤテはやれやれと肩をすくめる。
「だいたい、お前一人で乗り込んできて、私たちをどうにかできると思っていたのか?」
「ああ、まあね」
スキンヘッドの男の言葉にハヤテは不敵に笑う。
「舐められたものだな」
「アンタ一人でいったい何ができるって言うのよ?」
少年がギロリとハヤテを睨み、黒髪の女も言う。
「覚悟はできてるのだろうな?」
「そっちこそ」
スーツの女が言いながら一歩前に歩み出し、それを見ながらハヤテは不敵に笑い
「謝るなら今のうち……」
言いながらハヤテはスーツの上着の内側に右手を伸ばし
「今のうち……」
不敵な笑みを崩さず左側から手を引き、今度は左手を右側に伸ばし
「今の……」
右側からも手を引き、ズボンの前や後ろのポケットに手を入れ
「…………あれ?」
そこでやっと笑みを消し、首を傾げながら上着を脱いで、脱いだ上着を叩いたりバサバサとはたくが何も出てこない。
ハヤテ以外の六人はその様子を黙って見つめる。
「ふむ………」
上着を着直したハヤテは一つ頷き
「あの~……忘れ物したんでいったん取りに戻ってもいい?」
困ったように笑いながら訊いたのだった。
乗り込んできたのにカッコつかないハヤテくんでした。
この調子で海斗君を本当に助けることができるのか!?
さてさて、今回の質問コーナーはシユウ0514さん、また、すこし内容も似ていたので青野さんからもいただいた質問にも会わせてお答えしたいと思います。
まずシユウ0514さんからは
「颯太君は足フェチだったと思いますが、ヒロイン's(楯無、簪、シャルロット)や、サブヒロイン候補's(潮、クリス、束)を考えるとおっぱいスキーでもあると思うんですが、そこん所どうなんですか?
後、ハヤテ、一夏、海斗君は何フェチですか?」
青野さんからは
「はい!はーい!ヽ(*´∀`)ノ♪
主人公は巨乳派ですか!?それとも、貧乳派ですか!?」
と言うことですが……
颯太「まず、俺は脚フェチで間違いない。ただ俺の周りの女性が巨乳よりだったのは俺の意図しないことだ。ただまあ……おっぱいも好きです。そこは思春期の男の子なんだからしょうがないってことでここはひとつ」
じゃあ巨乳派?貧乳派?
颯太「俺……思うんだよ……おっぱいの価値は大きさじゃないって!大きかろうが小さかろうがおっぱいはおっぱいだ!たとえそれが某愛憎のアルターエゴのような爆裂巨乳だろうが、某快楽のアルターエゴのようなまな板の上にレーズンが乗っかったようなおっぱいだろうが、俺は分け隔てなく女体を愛していると、声を大にして――」
???「身も心も、生きていた痕跡さえも溶かしてあげる。行くわよ、行くわよ行くわよ行くわよ行くわよ!『弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)』!」
颯太「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
あぁーあ……久しぶりに登場したと思ったらすぐ退場した……
それはさておき、他の三人、ハヤテ、一夏、海斗君についてですが
ハヤテ「ん~、まあ強いて言えば……Sっ気のある女の人の屈辱に歪む顔っていいよね」
一夏「何フェチって言われても、考えたことねぇけど……まぁ…むね……かなぁ……」
海斗「おっぱいが運動とか日常的な動作で潰れたり寄ったりするのが好きかな。体操の腕クロスさせて腰捻るときとかね。大きさは関係ない。ただそのおっぱいが美しければ巨乳だろうが貧乳だろうが関係ない。強いて言えば美乳派?」
だ、そうです。
そんなわけで今回はこの辺で!
次回もお楽しみに!