監禁されていた部屋から脱出し、彼らを救出するためにやってきた朽葉ハヤテの仲間と合流を――おっと失礼!ここから先はまだ皆さんには未来の出来事……でしたね」
「………よし、誰もいないな。行けるぞ」
空けたドアからこっそりと顔を出したハヤテは周りを見渡して海斗に呼びかける。
「いや、行けるのはいいんですけど……脚大丈夫なんですか?」
「……脚?」
そんなハヤテに海斗は恐る恐ると言った様子で訊く。そんな海斗の問いにハヤテは首を傾げる。
「いや……だってさっきがっつりナイフで刺されてたじゃないですか?」
「……あぁ~!はいはい!それね!大丈夫大丈夫!」
言いながらハヤテはその場で屈伸し、その場でダッシュするように動いて見せる。
「しかし、いいこと言ってくれた。忘れるところだった。今のうちにやっとこ」
言いながらハヤテはポケットからハンカチを取り出す。
「やっとこって何を――っ!?」
ハヤテの言葉に首を傾げる海斗は驚きで息を呑む。
海斗の視線の先、ハヤテの左手の小指は赤黒くなっていた。
「ど、どうしたんですかそれ!?」
「ん?あぁ、折れてるんだよ。後遺症も残らずにくっつくだろうけど」
海斗の問いにハヤテは何でもないことのように笑って答えながら小指と薬指を固定するようにハンカチで巻き付ける。
「これで……よしっと!じゃあ行こうか!」
「いやいやいや!行こうかって!その指の説明はなしですか!?」
「ん~、説明しだすと長くなるから、とりあえず今はここからの脱出を最優先で」
「え~……」
ハヤテの言葉に海斗は理解が追い付かない様子で呆然としている。
「ほら、行くよ」
「あ、はい……」
呆然としている海斗を促すようにハヤテが言い、小走りで進み始める。海斗も慌ててその後を追う。
二人はハヤテを先頭に警戒した様子で進み、時折ハヤテが制する場面で立ち止まり、危険がないことを確認して再び進みだす、を繰り返す。
「と言うか、逃げるのはいいですけど、このまま順調に逃げられるんですか?わかってると思いますけどここにはさっきの部屋にいた五人の他にもきっと仲間がいますよ?」
「だろうね。実際僕がここに来るときにも何人か対応したし。たぶん万が一君や僕が脱走してもその経路の要所要所に見張りを配置してるはずだ」
「だったら――!」
「大丈夫だよ」
心配げな海斗をよそにハヤテは笑いながら答える。
「大丈夫って、何を根拠にそんな……」
「もうそろそろ来る頃だからさ」
「来る……って誰が?」
「それは――」
パンッ!パンッ!
海斗の問いに答えようとしたハヤテの言葉に発砲音が被さる。
「な、なんですか!?」
「あぁ、噂をすれば」
驚く海斗と対照的にハヤテはのほほんと笑う。
「助けが来たみたいだ」
「……もしかしてお兄さんのお仲間か何かですか」
「まあそんなところだ」
海斗の問いにハヤテは頷く。
「よし、さっさと合流しよう。ちんたら待ってるよりいいだろう」
「は、はい」
言いながら進むのを再開したハヤテに海斗は頷き後を追う。と――
「あ、一個注意点があった」
と、ハヤテが思い出したように足を止める。
「もしも髪の長いスラッと背の高い人影を見たらとにかく伏せろ。すぐ伏せろ。死にたくなかったら伏せろ」
「な、なんで……?」
「伏せないと撃たれるから」
「……助けに来てくれてるんですよね?」
「そうだよ」
「助ける相手を撃つんですか?」
「あいつ見境なしなんだよ。そのせいで何度僕が怒られたか……そのくせ技術だけは一級品だからたちが悪い」
言いながらハヤテはため息をつく。
「なんか……大変ですね……」
「ホントにな……」
海斗の言葉にハヤテが頷く。
「まあそんなわけで、気を付けて行こうな」
「は、はい!」
ハヤテの言葉に力強く頷いた海斗。そのまま二人は先を進み始めた。
○
二人が監禁されていや部屋から出て数分。監禁されていた部屋には窓が無く、外の様子がわからなかったうえに、移動中もずっと目隠しをさせられていた海斗は、自分がどこかの廃ビルに連れてこられたことを遅まきながらに知った。
自分たちがいた部屋はどうやらこの廃ビルの四階の一番奥まった位置だったようで、ハヤテの先導で進む。
ハヤテはいくつか通路が分岐する場面などでは時折立ち止まっては周囲を警戒した様子で周りを見渡しているので、恐らくできるだけ敵と遭遇しないようにルート選択しているのだろう。
そうしているうちに二人は建物の一階に着く。
「うわっ!?なんだこれ!?」
と、海斗は驚きの声を上げる。
一階に降りてきた二人の目の前は真っ白に染まっていた。
「たぶん何発か発煙弾を撃ち込んだんだろう。僕も注意するが離れずについて来いよ。見失うと厄介だ。ハンカチは持ってるか?煙を吸い込まないように口に当てとけ」
「は、はい」
言いながらポケットから別のハンカチを取り出したハヤテは自身の口元に当てる。
ハヤテの言葉に頷いて海斗はポケットから取り出したハンカチを口元に当ててハヤテの後について行く。
「あ、あの、この視界だと噂のお仲間さんも僕らのこと認識できないんじゃ……」
「そうなんだよ。だからここからはより一層注意しないと……はぁ……せめてムラサキとか他のやつと合流できることを祈ってよう……」
海斗の問いに答えながらハヤテは進み
「っ!――伏せろ!」
「おぶっ!?」
突然叫んだハヤテは海斗を突き飛ばす。
と、直後に煙の向こうから浮かび上がった人影が一瞬で接近し
「っ!」
「なんのっ!」
向けられた拳銃を上に跳ね上げるように両手で掴む。同時に銃声が響く。
「せいっ!」
「あ痛たぁぁぁぁーーー!?」
そのまま掴んだ両手で相手を背負い投げの要領で地面に叩きつける。叩きつけられた人物は悲鳴を上げる。
「たく……いつも撃つ前に十分注意しろって言ってるだろ、レナ!」
「しゃ、社長!?」
投げ飛ばした相手の少女、深見玲奈は自身を見下ろすハヤテに驚きの声を上げる。
「僕の方が先に気付いたからよかったものの……お前、今月の給料覚悟しとけよ」
「そんなっ!?そりゃないよ社長!」
ハヤテの言葉にガバリと飛び起きたレナはハヤテに縋り付く様に叫ぶ。
「許してよしゃちょ~!!次からは気を付けるから~!!」
「次から次からって毎回言ってるだろ!大体お前は――」
「お説教はその辺にしといたほうがいいと思うよー…」
「っ!」
と、ハヤテの言葉を遮る声にハヤテは咄嗟に身構える。が、すぐに警戒を解く。
「ムラサキ、こういう時お前が一番に人質に接触しないと」
「いや~私もそうしたかったんだけど、社長テロリストに遭遇しないように不規則に移動するから」
と、ハヤテの言葉に答えながら天井近くの通気口からひらりと一人の少女、狗駒邑沙季が降り立つ。
「それは……うん、しょうがない」
「でしょー?」
と、納得したように言うハヤテの言葉に無表情のまま頷くムラサキ。
「とにかくちょっと足を止めすぎだな。そろそろ移動しよう。レナは引き続きここの制圧を頼む……ってどうした?」
気を取り直して今後の支持をし始めたハヤテだったが、目に見えてレナのテンションが下がっていることに気付く。
「だって~……」
「はぁ……わかった。給料の件はもう少し考える」
「ホント!?」
ハヤテの言葉にレナが顔を上げる。
「しかも今頑張ればハルトにお前にご褒美を出すように言っておこう」
「マスターから!?ご褒美!?やるやる!頑張っちゃう!」
「よ~しよしよし!その調子だ!――扱いやすくて助かるなぁ~」
「あとでハルトが苦労しそうだねー…」
がぜんやる気を出したレナの様子を尻目にハヤテとムラサキが小声で呟く。
「でだ!」
ハヤテが気を取り直してムラサキに視線を向ける。
「ムラサキは僕と一緒に彼の……ってあれ?海斗君は?」
と、言いかけたところで海斗の姿がないことに気付き周りを見渡す。
「あ、ここにいたよ…」
と、ムラサキが示したところには
「キュ~……」
気絶した海斗が床に大の字になって倒れていた。
「海斗君!?」
慌てて駆け寄るハヤテ。
「う~ん、これは気絶してるだけだね…。たぶん結構な勢いでこの壁に激突して、そのまま倒れて頭を打ったんだねぇ…」
ムラサキが冷静に診断する。
「なんで壁に激突したの?」
「さぁ?誰かが突き飛ばしたとか?」
「突き飛ばしたって、ここには僕たちしか――あっ……」
首を傾げるレナに答えたムラサキの言葉に、ハヤテは言いかけたところで何かに気付く。
「どうしたの、社長?」
「い、イヤァ~?ナンデモナイゾォ~?」
「「……………」」
とぼけるハヤテに二人が疑わしげな顔で見る。
「と、とにかく!レナは引き続きここの制圧!ムラサキは僕と一緒に彼を連れてここから脱出だ!はい!動く動く!」
「「了解」」
二人の視線をかわすようにハヤテは手を叩いて促しながら言い、二人は気を取り直して頷いたのだった。
○
ハヤテとムラサキ、そしてハヤテに背負われた海斗はその後無事にビルから脱出を果たした。レナや他の仲間たちが制圧のために動いていたおかげでテロリストたちに遭遇することなく脱出することができた。
そのままハヤテとムラサキは移動し、仲間たちが拠点としている場所に向かった。その場所には白いバンが二台停まっていた。しかし、そこには思わぬ顔ぶれがいた。
「………おい、ムラサキ、聞いてないぞ。なんでここに〝あいつら〟がいる?」
ハヤテたちの姿を認めた少女たち――響、未来、調、切歌、そしてクリスたちの存在にハヤテはため息まじりに訊く。
「いやー…どうしてもついて来るって聞かなくて…上の許可も出たし…」
「上……楯無さん、ではないか。となると……」
「たぶん社長の想像通り…。自分たちもすぐに向かうからって」
「あぁ~……」
ため息まじりにムラサキの言葉に納得したように頷くハヤテ。
「先輩!」
と、話している間に海斗の友人たちの五人が駆け寄る。
「大丈夫、気絶しているだけだよ」
心配そうな顔をする面々にムラサキが言う。
ムラサキの言葉に五人が安心したように表情を崩す。
「一人で乗り込んだ時は肝を冷やしたよ、社長」
「悪い、手間をかけさせたな」
と、五人の後ろから少女と見間違うような中性的な人物――蒼井春人が困ったように言う。
「状況は?」
「テロリストの大半は制圧完了。残すは中心人物が数名いまだ逃げているようだけど、それも時間の問題だね」
「シャルロットは?」
「中心人物のうち二人がISを持っていたようでその対応にあたっているよ」
「OK。とりあえず彼を頼む」
「了解」
背負っていた海斗をハヤテはハルトに託す。
託されたハルトはハヤテに片耳用のイヤホンのような通信機を渡し、海斗を背負ってバンに運ぶ。ムラサキもそれを手伝ってバンに向かう。
「朽葉さん……」
「アナタは一体……」
と、そんなハヤテに視線を向け、響と未来が訊く。
「……悪いがその疑問には僕の一存じゃ答えられなくてね」
言いながらハヤテはハルトから受け取った通信機を耳に着ける。
「まあ答えられる範囲で言えば、僕は君たちと似た立場にある、ってくらいかな」
「私たちと……」
「似た立場、デスか……?」
いまいちピンと来ていない四人の様子に微笑み
「まあ詳しい話は君らの上司が来てから――」
言いかけたハヤテの言葉を遮って通信機が着信を告げる。
「っ!――こちらハヤテ。どうした?」
慌てて耳の通信機に手を添えて通信に出る。
『ごめん!ちょっとミスしちゃった!』
通信機の向こうからシャルロットの声が聞こえてくる。
「どうした!?何があった!?」
『一人逃げられた!たぶんそっちに向かった!』
「なっ!?」
シャルロットの言葉にハヤテは驚きの声を漏らす。
『とりあえずもう一人はこっちで何とかしてすぐにそっちに向かうから、なんとか対応して!』
「……了解」
シャルロットの言葉にハヤテは頷く。
「ハルト!」
「こっちも聞いてたよ!」
「な、なんデスか急に!?」
「何かあったんですか!?」
慌てたハヤテたちの様子に切歌と響が訊く。他の面々もただ事ではないことを感じ取ったようで心配そうにハヤテたちを見ている。
「……テロリストのISが一人、こちらに向かってる」
ハヤテは少し話すべきかを悩み、そのまま現状を説明する。
「なっ!?」
「それって!」
「大変じゃないか!」
「ああ、だからお前たちはすぐにここから退避しろ!」
「私たちの出番デス!」
と、先導しようとしたハヤテの言葉を遮って切歌が叫ぶ。
「はぁ?何を言って――」
「今ISに対応できるような戦力を持ってるのは私たち、だけ……」
「そうか!だったら私たちが!」
訝しげな顔をするハヤテの言葉を遮って調が言う。その言葉に響が合点がいったように頷く。
「お前たち何言ってるんだ!?そんなことおっさんたちの許可なしには――」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないデス!」
止めようとするクリスを遮って切歌が叫ぶ。
「先輩を助けられるのが今私たちしかいないなら……!」
「私たちが戦うしかないデス!」
調と切歌は言いながらポケットからピストルのような形の注射器を取り出す。そこには鮮やかな黄緑色の液体が詰まっていた。
それをゆっくりと自分たちの首に押し当て――
「待てい」
「「あてっ?」」
ポコッとハヤテが二人の頭にチョップする。
「な、何するデスか!?」
「子どもがいっちょ前にカッコつけるな」
「何を言って……?」
ため息まじりに言うハヤテに二人は、そして、それを見る他の三人も困惑した表情で見ている。
「まったく、こういう場面で子どもに頼るほど、僕ら大人は弱くない」
「で、でも!私たちの他にISと渡り合える戦力は……!」
ハヤテの言葉に響が訊く。
「そこは多分大丈夫――だよな、ハルト!?」
「ああ!もちろん持ってきているよ!」
響たちの心配そうな表情に笑いかけながらハヤテがその後ろのバン、その中のハルトに呼びかける。呼ばれたハルトはニヤリと笑いながらハヤテに〝何か〟を投げて寄越す。
ハルトの投げた〝それ〟を受け取ったハヤテは〝それ〟――赤いリング状のブレスレッドを右腕に着ける。と――
「見つけたですよ!」
少し離れた位置に降り立った人物、ISを纏った戸部京子がニヤリと笑う。
「へぇ~、君だったか。シャルロットを出し抜くなんて、それなりにできるみたいだね」
「また会ったですね、侵入者さん」
ハヤテの言葉に京子が答える。
「アナタがそこにいるってことは、海斗君はその後ろの車の中ですかね?」
ハヤテたちを見つつ、京子は狙いを定めるように彼らの後ろに停まる車に視線を向ける。
「あまり時間もないので、大人しく海斗君を引き渡してください」
「そんなこと――」
京子の言葉に叫ぼうとした切歌を手で制して止めるハヤテ。
「悪いけど、それはできない相談だね」
「そうですか……」
ハヤテの答えに京子は予想通りだったらしく、たいして残念でもなさそうな様子で頷く。
「そう来ると思ったです。なので――」
言いながら京子は構える。彼女のその右腕に光が集まるように瞬き、一瞬でミサイルポッドが形成される。
「ここからは力尽くで行かせてもらうです」
そう言ってミサイルポッドのスコープに片目を当てて狙いを定め
「っ!」
その様子に切歌と調が咄嗟に注射器を再び掲げ――
「悪いけど借りるよ」
「なっ!?何するデス!?」
そんな二人、そのうち切歌の手から注射器をするりと抜き取るハヤテ。
「さようなら」
と、そんなハヤテたちの様子など気にせず、ミサイルポッドの引き金に手を掛け、躊躇いなく引き金を引く。
『っ!』
その様子に咄嗟に五人は身構え、そんな五人の前にハヤテがゆっくりと歩み出し
ドガァァァァァンッ!!
計五発のミサイルが爆発する。
「フフフ……アハハハッ!」
爆発の煙に包まれる様子を見ながら京子が勝利を確信し高笑いを上げる。が――
「おいおい、何がそんなにおかしい?」
「っ!?」
煙の向こうからハヤテの声が聞こえてくる。
「いつから――」
広がっていた煙がゆっくりと晴れていき、その様子がゆっくりとあらわになっていく。
「一体いつから――」
煙が晴れたそこには、響達五人を庇う様に前に立ち身構えるハヤテの姿があった。
その体は赤と黒を基調とした装甲に包まれ、背中には黄色の二本の太いアームが、右腰には紫色の鳥の頭のようなものが、左腰には赤い鞘に収まった日本刀のような形のブレードが、そして、彼とその背後の五人を守るように彼の両肩から接続部分が稼働し、半透明のオレンジ色のシールドが広がっていた。
「一体いつから――こちらの使えるIS戦力が一基だけだと錯覚していた?」
そう言ってハヤテは冷ややかな視線で微笑んだのだった。
最後の悪あがきで襲い掛かる戸部京子とそのIS。
しかし、ハヤテは……!
さて今回の質問コーナーです。
今回は青野さんからいただきました
「コナンくんの黒幕って博士とかいうやつはデマですか?」
ということですが……
この説は聞いたことがありますね。
確かにそんな展開になったら胸アツな展開ですが、私の記憶が正しければその説は作者の青山剛昌さん本人が否定していたはずです。
なのでその展開が来ることはほぼ0と――って!!なんじゃこの質問は!!?
このお話の内容に全く関係ないじゃん!!
颯太「答える前に気付けよ」
うん……まあそうなんだけどね……
何て言うか、たまにはこう言うのに答えるのも面白いかなって……
それはさておき、ここで本題。今回の質問コーナーの本当の質問はドスメラルーさんからいただきました。
「井口颯大事件後、相川清香はどうしていますか?まだ服役中ですか?また、今はどう思っていますか?」
ということですが……
相川清香はあの事件の後、しっかりと裁かれ、現在も服役中です。
しかし、彼女自身が女性権利団体から命令されて行ったと言うこと、また、女性権利団体のしてきたことについての取り調べに協力的なこともあり、ある程度はそのあたりのことも考慮してもらえたようで少しは罪が軽くなったようです。
現在でも服役中ではありますが、彼女自身も自分のしたことを理解し、償おうという気があるようです。
さてさて、今回はこの辺で。
また次回をお楽しみに!