IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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あまりの嬉しさにもう一つを更新するはずがこっちを更新していました。


第22話 昼食

「そ、颯太……そろそろ手を放して……」

 

「おっと、悪い」

 

 一夏から逃げつつ第二グラウンドに向かっていた俺はシャルルの言葉にずっと手を握ったままだったことに気付く。なんかシャルルの手って柔らかいな。まるで女子みたいだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 あれ?何この沈黙。なんでシャルルは恥ずかしそうにもじもじしてるの?

 

「……あー……そのー……なんだ。そういえばさ、シャルルのISスーツってどこの?」

 

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」

 

「へー………。デュノアってもしかして実家?」

 

「うん、そうだよ。父がね、社長をしてるんだよ。一応フランスで一番大きいIS関連企業だと思う」

 

「すっげぇ!じゃあシャルルって社長の息子なのか。なんか納得」

 

「納得?」

 

「いや、なんていうか気品っていうのか、いいところの育ち!って感じするからさ」

 

「いいところ……ね」

 

 俺の言葉にシャルルは顔を曇らせる。

 

「颯太のところは?」

 

 シャルルは話題を変えるように言った。なんとなく触れてはいけない気がしたのでそれに乗っかる。

 

「俺んちは平凡な一般家庭だよ。両親とも公務員。あと弟が一人。母方父方両方の祖父母は健在。父方の祖父母と同居してた。金持ちではないけどいい家族だぜ」

 

「そう……」

 

 どうやら家族の話題はあまりよろしくないようだ。少し空気が重い。ここはどうにか空気を変えねば。

 

「……なあなあシャルルー」

 

「ん?何、そう――ぶふっ!」

 

 俺の方を見たシャルルが噴き出す。

 

「ちょっと……颯太……その顔……」

 

 笑いながら俺の顔を指さすシャルル。それもそのはず。俺は今全力で変顔中だ。

 

「難しい顔してたぞ、シャルル。眉間にしわよせるより笑って過ごそうぜ」

 

「颯太……その顔で言われても……」

 

「ですよね~」

 

 変な顔したやつに真面目に言われてもね。

 

「ぷっ……あははっ!颯太は面白いなぁ」

 

「そうか?じゃあ続きまして、プレデターの顔マネを――」

 

「ほほお?遅れてやって来て随分と楽しんでいるようだな」

 

 ゾクリと背筋に悪寒がゆっくりと前を向くと、鬼軍曹織斑先生が立っていた。

 

「……ちゃ、ちゃうねん」

 

 なぜかエセ関西弁になってしまった俺。

 

「何か言い訳はあるか?」

 

「シャルルとの距離を縮めようと思いまして」

 

「他に方法があるだろうが!」

 

 パアンッ!

 

 千冬さんの的確な突込みとともに振り下ろされた出席簿の音が第二グラウンドに響き渡った。

 

 

 ○

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

『はい!』

 

 織斑先生の言葉に一、二組合同の全員が返事をする。

 あれから遅れてきた一夏が出席簿を食らったり、朝の件を追求したセシリアと鈴が出席簿を食らったりはしたものの、おおよそ時間通りに授業が始まった。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」

 

 織斑先生からのご指名にぶつくさ文句を言いつつ前に出りふたりに織斑先生が耳元で

 

「お前らすこしはやる気を出せ。――アイツにいいところを見せられるぞ?」

 

 と言った途端、ふたりのやる気が一気にMaxに。流石だぜ一夏。彼女たちをあそこまでやる気にさせるなんて。

 

「それで、お相手はどちらに?別にわたくしは鈴さんでもよろしくてよ」

 

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

「慌てるな馬鹿ども。お前らの相手は――」

 

 キィィィン……。

 

 ん?なんだこの音は。音の発信源を探して空を見上げた俺の目に映ったのは

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

 ものすごい勢いで落下してくる山田先生。

 そこからのみんなの行動は速かった。すぐさま落下地点になると思われる場所から避難する。ただ一人、一夏を除いて。

 

 ドカーン!

 

 落下して来た山田先生とともにゴロゴロと転がっていく一夏。

 

「一夏!大丈夫か!?」

 

 土煙のあがる一夏のもとに行くと、そこには山田先生を押し倒し、山田先生の胸を鷲掴みにしている一夏の姿だった。

 

「そのですね・・・あの、困りますこんな場所で。いえ、その場所という問題ではなく、私と織斑君はその教師と生徒というもので・・・あ、そしたら織斑先生が義理のお姉さんということで、それはそれで魅力的といいますか」

 

 相変わらずの妄想癖を発揮する山田先生。

 一夏はその状況で慌てて体を起こすが、さっきまで一夏のいたところをレーザーが通過する。

 

「ホホホホホ……外してしまいましたわ」

 

 いや、当てちゃいかんだろ。

 

「…………」

 

 ガチーンという接続音とともに鈴が《双天牙月》大きく振りかぶって投げた。一夏へ向かって行く。すんでのところで一夏は避けるがそのまま後ろに倒れる。そして、《双天牙月》の性質上ブーメランのように返ってくる。

 

「危ない!」

 

 ドン!ドン!

 

 一夏を助けようと『火焔』を展開したところで二発の銃声が俺の動きを止めさせた。

 見るとアサルトライフルをしっかりと両手でマウントする山田先生の姿と、その銃撃によって軌道の変えられた《双天牙月》だった。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし」

 

 山田先生は謙遜しているが十分すごいと思う。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」

 

「え?あの、二対一で……?」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける」

 

 織斑先生の言葉にむっとしながら二対一の模擬戦が始まる。が、さっきまでの威勢とは裏腹に、セシリアも鈴も手も足も出せていない。

 連携もできていない。動きは読まれ、いいように誘導されている。

 最後には山田先生の射撃がセシリアを誘導し、鈴とぶつかったところでグレネードを投擲。爆発の煙から二つの影が地面に落下した。

 

 

 そこからは専用機持ちをリーダーとしたISの装着と歩行の訓練を行った。

 なぜか一夏とシャルルのグループは告白大会に発展していたが、織斑先生の出席簿アタックによっておさめられた。ちなみに俺のところでは告白大会が無かったからって、別に悲しくないですよ?……泣いてないからね?

 

 

 そして現在昼休み、俺たちは屋上にやって来ていた。みんなで昼食を囲んでいる。と言ってもそれぞれメニューはばらばらだが。しかももともとは篠ノ之が一夏のみを誘ったはずだったのだが、そのことを知らない俺とシャルル、そして、セシリアと鈴が誘われてホイホイと着いてきたのだ。

 むっとしている篠ノ之の顔を見てるとものすごく申し訳なかった。しかもそのことに一夏は気付いていない。

 

「本当に僕たちお邪魔してもよかったのかな?」

 

「いいじゃん。みんなで食った方がにぎやかで楽しいぜ」

 

 篠ノ之の気持ちを分かっていない鈍感野郎一夏の言葉に俺は篠ノ之に同情するしかなかった。

 

「よし。じゃあ食おうぜ」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 一夏が全員を見渡しながら言ったのを俺が遮る。

 

「どうかしたか?」

 

「実はもう一人――お、来た来た。おーい!簪!」

 

 言葉の途中で俺はあらかじめ呼んでおいた最後のメンバー、簪に手を振る。簪も気づいたらしくこちらにやってくる。

 

「みんな初めてだよな?俺の前の同室だった簪」

 

「更識簪です…よろしく……」

 

 少し恥ずかしそうにしながら簪がお辞儀をする。

 そこからは自己紹介が行われ、簪は俺の隣に座る。

 

「そういえば、二か月くらい経ってたけど、更識さんにあったのは今日が初めてだな」

 

「まあいろいろあったからな」

 

 主に一夏と簪の関係がややこしかったから。

 本当は今日誘った時も来ないかと思っていたけど、話したらやって来た。一夏のことも折り合いをつけたのだろう。

 

「あ、ちなみに簪は日本の代表候補生な」

 

「へえ、すげえな」

 

 俺以外の全員が感心した顔をする。

 

「そう考えると、この場の代表候補生率すごいな。俺と颯太、箒以外みんな代表候補生だもんな」

 

 しかも篠ノ之以外は専用機持ち。

 

「まあ、それはいいや。全員揃ったし食べようぜ」

 

「そうだな」

 

 俺の言葉に一夏が頷き、昼食会が始まる。

 メニューは俺とシャルルと簪は学食のパン。鈴は酢豚。箒は自製の弁当。セシリアはサンドイッチ。一夏は箒たちからもらっている。女子の手作り弁当もらうと羨ましい。

 

「あっ、おいしい」

 

 鈴の酢豚を(一夏の分から)少しもらって食べた俺は素直な感想が口から洩れる。

 

「でしょ?」

 

 鈴が嬉しそうに笑う。

 

「一夏さん、颯太さん。よかったら私のサンドイッチもいかがかしら?」

 

「お、おう……」

 

「いいのか?」

 

「ええどうぞ。よければデュノアさんや更識さんも」

 

「え?僕らもいいの?」

 

「ええ。もちろんですわ」

 

 セシリアがバスケットを開くと、サンドイッチが綺麗に並んでいる。おいしそうだ。

 

「じゃあ遠慮なく。……一夏はいらないのか?」

 

「お、おう。もらうぜ」

 

 なぜか挙動不審な一夏がサンドイッチを手に取り頬張る。その瞬間一夏の表情が凍り付く。

 

「???」

 

 頭に疑問符を浮かべながら手に取った卵サンドを俺は頬張る。

 その瞬間、俺の口の中にこれまでに感じたことのない衝撃が走った。

 

「まあまあ、泣くほどおいしいんですの?」

 

 セシリアに言われて頬に触れると確かに涙を流していた。

 セシリアのサンドイッチはすごかった俺にもっとこの味を言葉にするほどの語彙力があればわかりやすく説明することができただろう。

 口に含んだ瞬間の風味。噛みしめるたびに口に広がる味。

 なぜだろうか。悲しくないのに涙が出る。

 

「なんじゃこりゃあ!!」

 

 俺は叫びながら手元に置いていた牛乳を手に取り飲み干す。

 

「シャルル!簪!食べるな!セシリア!これ味見したか!?」

 

「え?……そういえばまだでしたわ」

 

「じゃあ食べてみろ」

 

「???」

 

 セシリアが首を傾げながらも自分のサンドイッチを頬張る。

 

「っ!」

 

 その瞬間セシリアの表情が固まる。

 

「わかったか?」

 

「……もっと精進しますわ」

 

 がっくりとうなだれるセシリア。

 

「いったいどうしたの?」

 

「そんなに変な味だったの?」

 

 シャルルと簪が訊く。

 

「まあ、強いて言うなら、泣くほどまずい」

 

「ぐはっ!」

 

 俺の言葉にセシリアがダメージを受ける。

 さっきの反応を見る限り一夏はセシリアの料理の腕を知っていたようだ。知ってたなら指摘してあげろよ。教えてあげなきゃかわいそうだろ。

 

 

 そこからは特に問題もなく。楽しい昼食となった。

 俺と簪の共通の趣味のこととか、それで仲良くなったことなども話した。

 セシリアの料理の腕を除けば、和気あいあいとしたいい昼食になったと思う。

 

 




セシリアの料理。
あなたはそれを食べた時、素直に指摘してあげられますか?

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