「はぁ~……朝から疲れた……」
日曜日、昼前。海斗は自身の部屋で机に突っ伏して呟く。
「海斗君はなんでこんなに疲れてるの?」
「さっきまで織斑先生のところに行ってたからだよ」
「なんでもこの間休み時間に友達に貸すために持って行ってたCDを偶然通りかかった織斑先生に没収されたらしいデス」
「今朝その反省文の提出に行っていたらしくて……」
海斗の部屋には未来、響、切歌、調が集まり、それぞれベッドや海斗の突っ伏す机の隣の机に備え付けられた椅子に座っていた。
「学園に不要物を持ってくるなって怒られた……」
「あぁ……」
海斗の言葉に未来はその光景がありありと想像できたのか納得したように苦笑いを浮かべる。
「でも、それは運がなかったね」
「よりにもよって織斑先生に見つかるなんて」
「そもそもわざわざ学園にCD持って行かなくても友達には寮でも会えるんだから」
「しょうがないだろ。布教活動はオタクの務め!」
「でもツヴァイウィングやマリア、セレナなら海斗先輩が布教しなくても大人気なんじゃ……」
「そう。だから今回は別のグループ」
「「「「別の?」」」」
海斗の言葉に四人が首を傾げる。
海斗は机のわきに置いているCDのケースを取り四人に見せる。
「最近見つけたアイドルグループでね。まだ駆け出しのご当地アイドルだけどね」
「ご当地アイドル?」
「そう、佐賀県の」
「サガ?」
「佐賀」
「S・A・G・A?」
「佐賀」
「ずいぶんと遠くの県のアイドルを応援してるんだね」
海斗の言葉に四人は驚きの表情を浮かべながら順に海斗から受け取ったCDのパッケージを見る。
CDのパッケージにはアイドルらしい赤い衣装に身を包んだ七人の少女たちが移っている。
切歌と調がCDのパッケージを見ながら書かれているグループ名を見て
「えっと……フランシュ…」
「フランシューデス?」
「フランシュシュじゃぁぁぁぁい!!」
二人の言葉に海斗が切れ気味に叫ぶ。
「それ、一番間違っちゃダメなとこじゃぁぁぁぁい!!どこの世界にアイドルのグループ名に『腐乱臭』なんて名前つけるやつがおるんじゃぁぁぁぁぁぁい!!?」
「デ、デスよね~」
海斗の叫びに切歌が苦笑いを浮かべる。
ため息をつきつつ海斗は話を戻す。
「まだまだ駆け出しのマイナーグループだけど今ネットで秘かに話題になってるんだよ」
「へぇ~」
「話題に?」
「どんなグループなの?」
首を傾げる四人の少女たちの問いに海斗はよくぞ聞いてくれたとばかりにニヤリと笑う。
「フランシュシュ!それは佐賀のご当地アイドルとして活動するアイドルグループの名前だ!彼女たちが最初に登場したのはアイドルとは無縁のヘヴィメタのロックライブに飛び入りで参加したものだった!そのライブでは『え?首大丈夫なの?』ってレベルのヘッドバンキングを披露し!続くお城での熱いラップバトル、路上ライブを経て佐賀のローカルCM出演!ガタリンピック出演!ライブ&握手会やサガロックでの大成功を経て着実に人気を稼いでるんじゃぁぁぁぁい!」
海斗のオタク特有の早口の解説に四人は気圧されながらも頷く。
「とにかく海斗君が今そのアイドルが一押しなのは分かったよ」
「それで、海斗先輩はこの中の誰が推しなんデス?」
「ん?僕の推し?」
切歌の問いに海斗は少し考えるそぶりを見せ
「ん~……やっぱり4号さんかなぁ~」
「4号さん?」
「ほれ、そこの右側の二つ括りの……」
「あ、この人か……」
「なんで4号?」
「なんかこのグループの女の子たちは番号で名乗るんだよね。ライブとかでもお互いのこと基本的に番号で呼び合うし」
この子が1号で……と、ひとりづつ指さしながら海斗が言う。
「……なんかこの人の髪型」
「うん、クリス先輩に似てるデス」
と、海斗の説明を聞きながら切歌と調呟く。
「ま、まさか!先輩はやっぱりクリス先輩のことが好きで!」
「クリス先輩と同じ髪型のこのアイドルのことが好きなんじゃ……!?」
と、二人がおかしな結論にたどり着く。
「せ、先輩はどうしてこのアイドルが好きなんデスか!?」
「は?どうしてって……」
海斗は一瞬考えるそぶりを見せ
「ん~、控えめで大人しそうで、なんていうか古き良き昭和の正統派アイドルって感じだからかな?」
「控えめで、大人しそう……」
「なんだ、クリス先輩とは真逆の人デス!」
「なんか知らんがその言葉を本人が聞いたら殴られるぞ」
ホッと胸をなでおろす二人の様子に呆れ顔で海斗が言う。と――
「って、そう言えば今日クリス先輩は?」
「あぁ、クリスちゃんなら今日は用事で出かけてるよ」
「用事?」
「ほら、この間言ってたでしょ?S.O.N.Gの下部組織に職業インターンに行くって」
「あぁ!そう言えば今日からだっけ?」
響と未来の言葉に海斗が納得したように頷き
「そっか~、クリス先輩上手くやってるかなぁ~」
言葉とは裏腹に何の心配もしていないような笑顔で言う海斗。
一方そのころクリスはと言うと……
「ん~…クリキチ!」
「ダメ」
「ユキポン!」
「却下」
「クリネ!」
「ダメ、もっとましなのねぇのかよ!」
なぜか変な呼び名で呼ばれ、それを拒否し続けていた。
なぜ彼女が変なあだ名をつけられているか、それは数分前にさかのぼる。
「はい、というわけで今日からうちの会社でインターンとして受け入れることになりました、雪音クリスちゃんです」
「よろしくお願いします!」
ハヤテの言葉にクリスが頭を下げる。
「はい、みんないろいろと気になると思いますが、質問ごとは後にして、今は彼女が入ったことで早急に決めなければいけない大問題の解決をしたいと思います」
「へ?大問題?」
ハヤテが神妙な表情で社員たちを見ながら言った言葉にクリスが首を傾げる。
「えぇ、その問題と言うのは……」
ハヤテはもったいぶったように溜め
「雪音クリスの呼び名どうする問題、です!」
「………ん?」
ハヤテの深刻そうな表情での言葉にクリスは一瞬考え首を傾げる。
「え?普通にクリスでいいだろ?」
「それがそうもいかないんだよ」
クリスの言葉にハヤテが首を振る。
「うちのメンバーにね、いるんだよ、クリスが」
「へ?」
ハヤテの言葉に驚いたように呆けたクリス。そんなクリスにハヤテが指さして示す。
クリスがハヤテの示した方を見ると
「えっと…なんだかすみません……」
恐る恐ると言った様子で桜子が手を上げていた。
「えっと、私、鯨瀬・クリスティナ・桜子と言います」
「なら桜子でいいんじゃ……」
「それが無線通話のときに桜子って呼びづらいときがあって、みんなクリスって呼んでるんだよ」
と、クリスの疑問にハルトが答える。
「と言うわけで、うちの会社ではクリスと言えば彼女のことになる。だから君のことは別の呼び方を考えないといけない」
「そんなの苗字でいいよ」
「いや、苗字だとなんかアレじゃん。もっとフレンドリーに行こう。というわけで何かあだ名を考えよう。何がいいかな……?」
――そして、先ほどのやりとりになるわけだが
「あんたホントにネーミングセンスないな」
「ん~ダメかぁ~」
クリスの言葉にハヤテがため息をつく。
「と言うかそろそろネタが尽きてきた。というか飽きてきた」
「飽きんなよ!言い出したのそっちだろ!?」
「もうあれだ、キネクリでいいじゃん」
「っ!?」
ハヤテの言葉にクリスが息をのむ。
「ん?どったの?」
「いや、やっぱり兄弟だなぁって思って。海斗もあたしのことそう呼ぶから」
「へ~」
クリスの言葉に一瞬ハヤテは驚いた表情を浮かべ、感慨深そうに頷き
「もう呼ばれてるんなら呼ばれなれてるだろ?はい、というわけでキネクリで決定!」
「おい!別に呼ばれてるからってあたしはその呼び名を気に入ってるわけじゃ――」
「え~続きましてわが社のメンバーを紹介していきます」
「聞けよ!?」
が、クリスの叫びもむなしくハヤテはスルーして続ける。
「僕とシャルロットのことは説明するまでもないから端折って、ハルトから」
「はいはい」
ハヤテの言葉にハルトが頷く。
「俺の名前は蒼井春人、一応この会社ではハヤテさんやシャルロットさんの次にえらい役職にいます。と言ってもみんなよりちょっと上程度に思ってもらえばいいから」
「はぁ……」
「あはは、みんなからはよくクソ野郎って言われるよ」
「え?クソ…?」
ハルトが笑って言う言葉にクリスが困惑したように見るがハルトは気にした様子もなく次に進む。
「俺からは以上。じゃあ次は所属番号が若い順で、レナから」
「はい!」
ハルトに言われレナが挙手する。
「深見玲奈!職業はマスターのシューター!よろしくね!」
「マスターのシューター?」
「あー、彼女の言うマスターって言うのは俺のことだよ」
レナの言葉に首を傾げるクリスにハルトが言う。
「そう、マスター専属のシューターだから…えーと、シューターっていうのは、長さが40センチ以下の拳銃を使用するガンナーのことで、この場合ガンナーってのはイギリス基準で…」
「あぁ、そういう細かいのはいいから。要は拳銃使いってことだよ」
レナの説明を遮ってハヤテが言う。
「あ、うん…えっと、じゃあ、どうしよう?」
「レナ、君、好きな食べ物は?」
「お肉!かな?えーと、牛、豚、鶏って感じで、自分より大きな生き物順に好きだよ」
「え…と?」
「…えーと…なんだっけ、マスター…?」
「本来、自分よりも大きな生き物を食べる動物は、全体の10%程度らしいんだ。その10%の代表格に人間がいるけど、人間も本来は、自分よりも大きな生き物は消化しにくい生き物だって話…だったかな?」
「そう!それ!でも私は牛が好き!内臓も食べる!」
「つまり、こう見えても私、肉食系女子だよってこと?」
「うん、そう!」
「でもレナさん、お肉以外もたくさん食べますよね?」
「うーん、一般的に〝食べ物〟として流通している物なら、これは食べられないなーって物は、今までなかったかな?」
「なんでもよく食べて、とてもいい子です」
「そうだな、〝食いしん坊ガンマン〟とでも覚えておけば、ほぼ間違いない認識だ」
「マスターそれヒドくないっ!?」
レナの言葉に桜子とハルトが言う。
「次は、えっと…トーカか」
ハルトの言葉にトーカが頷く。
「私は獅子ヶ谷桐花、この会社ではマークスマンやグミのスポッターを担当しているわ」
「マークスマン?スポッター?」
「マークスマンていうのは、わかりやすく言えば中距離スナイパーかな。広義の意味とは少し違うけど、100メートル~800メートルぐらいの距離で狙撃を行うスナイパーのことだ。スポッターって言うのは観測手のことだと思ってくれればいい」
首を傾げるクリスにハヤテが教える。
「付け加えるなら高精度な自動小銃を使用して、近距離の敵に対しては連射で対応し、800メートル程度の中距離では精密射撃を行う兵種のことになりますね」
「要は、ぐいぐい来るスナイパーってことだね」
「言っとくけど!本来私は遠距離専門だから!勘違いしないでよね!!」
付け加えるように言った桜子とレナ、そしてトーカが言う。
「まあこんな感じでつんけんしてるし、意地っ張りで頑固で、体が小さい分態度を大きくしてバランスを取ってるけど、ただ不器用で相手の立場で態度を変えるのが苦手なだけで、基本的にはいい子だから――」
「ちょっとっ!!黙って聞いてれば好き勝手言ってんじゃないわよ!!」
と、ハヤテの言葉を遮ってトーカが言う。
「黙って聞いてれば悪口言って!」
「悪口じゃないさ。トーカは可愛いって話をね」
「そう!じゃあ覚えておきなさい!私に対して〝可愛い〟は悪口よ!!」
「えーと、まあこんな感じのちょっと面倒くさい子だよ。面倒くさいのに不思議と嫌われない…まあ〝愛されスナイパー〟とでも思っておけばいいよ」
「はぁ!?」
ハルトの言葉にトーカが睨むが気にせず続ける。
「次はクリス…あぁっと、クリスティナ」
「はい」
ハルトに呼ばれた桜子が一歩前に出る。
「鯨瀬・クリスティナ・桜子です。主に情報担当をしています」
「え?そうなの?私、クリスはご飯作ってくれる仕事だと思ってた…」
「バカ言ってんじゃないわよ、クリスは会計官よ?基本的にお金の管理はシャルロットさんがしてるけど、私たちが使ってる武器や弾薬は彼女が仕入れてるのよ」
「…朝、起こしてくれる人…あと、掃除とか洗濯もしてくれる…」
「寮母さんのようなものだと思っていたであります……」
「お前ら…クリスに頼り過ぎだ」
レナ、トーカ、ムラサキ、グミが言い、ハルトが呆れたように言う。
「それハルト君が言う?ハルト君こそ桜子ちゃんがいなかったら何もできないでしょ?」
「あぁ~、それは…」
シャルロットの言葉にハルトが苦笑いを浮かべる。
「要は、何でも屋さんです。専門はコンピュータと爆発物です」
「まあ桜子のことは〝我が社のオカン〟と覚えておけばいいよ」
「…私、そんなに老けて見えますか?」
「い、いや、なんていうか、存在というか、生き様が?」
「フフ、冗談ですよ」
すねたように言う桜子に慌てたように訂正するハヤテ。そんなハヤテの様子に桜子が笑う。
「次はムラサキ」
「うぃ!」
ハルトの言葉にムラサキが意気揚々と答える。
「狗駒邑沙季…ロシアン忍者やってるんだ…」
「…ロシ…?」
ムラサキの言葉にクリスが首を傾げる。
「…ほら、一時期ロシアで忍者が流行った時期があったよね?その当時、現地にいくつも忍者学校が出来たんだけど、私はそこで忍術を学んだんだよ」
「はぁ…」
「…まー、忍者ブームが下火になって、通っていた忍者道場がシステマの教室になったときに辞めたんだけどね…」
「………えーと……?」
「そんな助けを求めるような顔で僕を見ないでくれよ」
クリスの視線にハヤテが苦笑いを浮かべる。
「本当なのか?」
「もちろん冗談だよ」
「彼女は旧陸軍中の学校の残党で、この会社に来る前は若くして皇室の御庭番を務めた由緒正しい職業忍者だよ」
「えぇ!?」
笑うハヤテとハルトの言葉にクリスが驚きの表情でムラサキを見る。
「…それこそ悪い冗談だ…皇室に御庭番なんて役職はないよ、ましてや忍者なんて居る訳がない…」
「だ、だよ…なぁ…?はは…」
「…そう、私はタダの忍者好きな、どこにでもいる女の子だよ…」
「どこにでも…居るか…?」
「…出身は伊賀でも甲賀でもなく、ネオ埼玉だよ…」
「どこっ!?」
「…特技は…パズルとか、ゲームかな…」
「そこ普通だなっ!?」
「面白いやつだろ?」
「笑っていいのか……?」
笑って言うハヤテに呆然とするクリス。
「それじゃあ次は、マキ」
「おう」
ハルトに呼ばれ、マキはかったるそうに返事をする。
「井ノ原真紀だ。姉さん――深見玲奈とは同じ施設出身で基本担当も同じシューターだ」
「トーカみたいに口が悪くて言葉が足りないところあって素直じゃないけど真面目でいい子だよ」
「おい、人のこと勝手に紹介してんじゃねぇよ!」
「あとバイクが好きで夜な夜な愛車乗り回してるよ。あまりのスピード狂に巷じゃソウルスピード、なんて言われてるよ」
「続けんのかよ!」
「しかもその呼び名を本人は結構気にいってるよ」
「聞けよ!!」
気にせず紹介を続けるハヤテにマキがツッコむ。
「ちなみにレナ同様にマキもよく食べるよ」
「んだよ、わりぃかよ!?」
「まさか。女の子がよく食べるのはいいことだと思うよ」
「ああ、そうかよ!」
ハヤテの言葉にケッとそっぽを向くマキ。
「まあこんな感じだけど、これでもいい子だから」
「あ、ああ……」
ハヤテの言葉にクリスが頷く。
「じゃあ最後にグミ」
「はいであります!」
ハルトに呼ばれたグミがびしっと敬礼して頷く。
「九真城恵、トーカ先輩と同じくマークスマンを担当しているであります!私もこの会社に入ったのは最近ですが、わからないことがあれば何でも訊いてほしいであります!」
「は、はい…」
元気に言うグミに気圧されクリスが頷く。
「気を付けろ、こいつ規則規則ってクソうるせぇから」
と、マキがクリスにこそこそと言う。
「それはあなたが身内しかいない場だからと言ってオッパイ半分放り出したような格好をしているからでありましょう!?」
「うるせぇな…オフの時くらいどんな格好してようがアタシの勝手だろうが…それに、ガキの頃、親に首絞められて以来、襟のきつい服は苦手なんだよ…」
「うん、わかってるよ。だから僕は乱れた服装でも何も言わないだろ?さすがに来客の時とかは注意するけど」
「オマエはアタシのオッパイが見てーだけだろうがっ!!」
「失礼なっ!〝見たいだけ〟じゃないぞ!!」
「うるせぇ!それ以上しゃべんな!つか、怒るとこそこじゃねーだろ!!」
ハヤテがバン!と机を叩いて立ち上がって叫ぶとマキも叫び返す。
「ハヤテ?」
「ひっ!?」
と、そんなハヤテの肩をそっとシャルロットが叩く。シャルロットのゾクリとするほどの冷たい声にハヤテが身を震わせる。
「い、いや、シャルロット今のは軽い冗談と言うか……」
「うんうん、わかってる、わかってるよ」
「シャルロット……」
シャルロットの優しい言葉にハヤテが安堵のため息をつく。が――
「詳しくは、あとで話聞くから」
「…………」
シャルロットの言葉にまるで死刑宣告でも受けたようにがっくりと項垂れる。
「……えーと、まあとりあえず以上がこの会社のメンバーだよ」
ハルトが気を取り直したように苦笑いで咳払いをする。
「それで、社長、彼女にはこれからどんな仕事を?」
「ん?ああ、それだけどね、まだ正式に入るわけじゃないし、誰かが指導係としてつくのがいいかなって思ってるんだけど……」
言いながらハヤテは周りを見渡し
「じゃあ……ムラサキ頼んだ」
「はいよー…」
ハヤテに指名されたムラサキは了解と敬礼する。
「よろしくねー」
「お、おう。よろしく、お願いします……」
先ほどのやりとりを思い出して少し不安に思いつつムラサキの差し出す手に握手するクリス。
「はい、じゃあ今日の報告会は以上!各自、受け持ちの仕事をするように!解散!」
と、ハヤテが言い、パンパンと手を叩く。と、それを合図にそれぞれ自身の仕事に向かう社員たち。
「…それじゃあ、まずは基本的な仕事教えるからついてきて…」
「は、はい」
ムラサキに連れられ、クリスも部屋を後にする。
「……………」
そんな二人をハヤテがじっと見送る。
「あの二人が心配?」
と、そんなハヤテにハルトが訊く。
「まあね。あいつもなんだってわざわざうちの会社に来たのか。インターンなら他にいい環境があるだろうに」
「まあ社長の心配もわかるけどさ……今は自分自身の心配をした方がいいんじゃない?」
「へ?」
ハルトの言葉に首を傾げたハヤテは
「っ!」
ゆっくりと自身の肩に置かれた手の圧に身を竦ませる。
恐る恐る手の置かれた肩の方を見ると、そこには恐ろしいまでの笑顔で立つシャルロットがいた。
「それじゃ、報告会も終わったし、さっきの話、詳しく聞かせてもらおうかな?」
「あぁ~……シャルロットさん?我々もやるべき仕事があるわけでして……」
「そんなの後でもできるよ?」
「いや、でも――」
「できるでしょ?」
「…………はい」
笑顔の圧に負けたハヤテは泣きそうな顔で頷く。
「そ、それじゃ、社長、副社長、俺も仕事があるんでここで」
そう言ってハルトはその場から脱するためにピッと手を振って部屋を後にする。
扉を閉める瞬間、目のあったハヤテの眼が助けを求めていたが
「……………」
無言で合掌し、ゆっくりとドアを閉めたのだった。
ちなみに皆さん覚えてらっしゃるかわからいませんが
海斗君のお母さんの名前も〝純子〟ですね。
偶然の一致!
フランシュシュの元ネタを知らない人は検索検索~♪
さて、今回の質問コーナーは鳶の爪さんからいただきました!
「一夏には箒と鈴という幼馴染がいますが、颯太は箒と鈴、幼馴染になるなら、どっちがいいですか?」
ということですが
颯太「鈴だな」
ほう?そらまたなんで?
颯太「いや、幼馴染として一緒にいるなら鈴の方が楽しいかなって。いい意味で遠慮がないっていうかさ。たぶん一緒に遊びに行ったりすると楽しいと思うんだよね」
ほうほう。箒じゃそれがないと?
颯太「いや、箒がダメなんじゃないけど、鈴の方がきやすい気がするんだよね」
なるほどね。
ということです。
それでは今回はこの辺で!
また次回もお楽しみに!