IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第219話 描いた夢

「なぁ、ひとつ訊いてもいいか?」

 

「ん?なんだ?」

 

 ソファーに腰掛けるハヤテに、同じく隣に腰掛けるクリスが小声で訊く。

 

「あんた、なんでこっちに着いたんだ?」

 

「なんで、とは?」

 

「今回の案件ならあんたがこの子たちのじいさんにつきそうな気がするんだけど?」

 

 言いながらクリスがカロリーヌとジュスティーヌを顎で示しながら言う。

 クリスとハヤテの目の前では現在カロリーヌとムラサキとマキ、トーカの四人がババ抜きをしている。

 ハヤテとクリス、ジュスティーヌは先に抜けたので四人がババ抜きに興じるさまを見ている。

 ちなみに順位はクリス、ジュスティーヌ、ハヤテの順番である。

 ここまで二時間ほどトランプを行い、計五回の勝負を行った。

最初の二回で連続でカロリーヌが最下位になったときにはヘソを曲げられかけていたが、そこからカロリーヌが最下位になることはなく、今は機嫌が持ち直し、楽しそうにトランプを行っている。

 

「まあ僕が彼女たちのおじいさんの護衛につく案もあったにはあったんだけどさ」

 

「ハルトのやつが向こうに呼ばれちゃったものね」

 

「おう、トーカ。お疲れ」

 

 四位で抜けてきたトーカが会話に入る。

 

「うちのルールでね。同時に二つの仕事をすることになったら社長とハルトは別々に入ることになってるのよ」

 

「なんでそんなルールが?」

 

「男手がいる場面もあるだろうからね。仕事中にどんなことが起こるかわからないから、それに対応できるようにそれぞれに入るようにしてるんだよ」

 

「なるほど……」

 

「まあ僕、子どもは嫌いじゃないし。昔、保育士とか小学校の先生になりたかったし」

 

「……はぁ!?あんたが!?保育士か学校の先生!?」

 

「嘘でしょ?」

 

 ハヤテの言葉にクリスが叫び、トーカも微妙な表情を浮かべる。

 

「なんだよ、そんな驚くことか?」

 

「似合わない」

 

「子どもをちゃんと教育できんのかよ?」

 

「僕だってやればちゃんとできる」

 

 トーカとクリスの言葉に憤慨した様子でハヤテが腕を組んで二人を睨む。

 

「なんだよ、三人で騒いで。何の話だ?」

 

 と、五番目に抜けたらしいマキがやって来る。

 

「うちの社長、昔は保育士か小学校の先生になりたかったらしいわよ」

 

「………あ、冗談か」

 

「いや、ホントの話だから」

 

 トーカの言葉を信じていないマキにハヤテが言う。

 

「いや、あんたが教育者って、子どものじょーそー教育によくねぇだろ。こんな変態に教えられる子どもがかわいそうだ」

 

「お前失礼だな」

 

 マキの言葉にハヤテが睨む。

 

「あのね?僕だってちゃんと真面目に子どもたちを育てる努力はするよ?」

 

「でも、お前に教えられたら子どものじょーそー教育的に」

 

「お前もう、情操教育って言いたいだけだろ?てかそもそも『情操教育』って何かわかってないだろ?」

 

「はぁ!?そのくらいわかってるに決まってんだろ!?」

 

「じゃあ説明してみろよ」

 

「えっ!?そりゃぁ~……あれだよ。子どもの常識とか操って洗脳教育とか」

 

「うん、全然違う」

 

「知らねぇよ!じょーそー教育なんて!?」

 

「逆ギレすんなよ」

 

 ハヤテがため息をつきながら言う。

 

「まあ僕の昔の夢はいいんだよ」

 

 ハヤテが肩をすくめながら言う。

 

「そんなわけで僕は今日はこっちなの」

 

「なるほど……」

 

「まあハルトが向こうに呼ばれてなくても僕はこっちについただろうけどね」

 

「はぁ?それどういうことだよ?」

 

 ハヤテの呟きを耳聡く聞いたクリスが訊く。

 

「あんまり僕が会わない方がいいやつがいるんだよ。ていうかぶっちゃけ会いたくない」

 

「はぁ?誰だよそれ?」

 

 ハヤテの要領を得ない説明にクリスが首を傾げる。

 

「今回の護衛任務、護衛する人間は僕らだけじゃないんだよ」

 

「え?そうなのか?」

 

「まあ今回は事が事だからな」

 

「あたしたちも二手に分かれてるし」

 

 クリスだけがハヤテの言葉に驚き、マキとトーカは頷く。

 

「今回の護衛対象、彼女たちのおじいさんがする会談の内容だけど、わかりやすく言えば、彼女たちのおじいさんたちが作った新システムを取り入れた機体を日本と共同開発しようって話なんだよ。で、彼女たちのおじいさんの会社は本社のあるフランスの企業として、日本からは『倉持技研』がその開発に携わるんだよ。今回はその計画の初歩の初歩、これから一緒に頑張りましょうねぇ~、みたいな話し合いなんだよ」

 

「へぇ~。でもそれがお前が会っちゃいけない相手とどう関係があるっていうんだよ?」

 

 ハヤテの言葉にまだ答えに行きつかないクリスが訊く。

 

「いいか?会談相手は日本政府の重役と『倉持技研』の偉い人や開発責任者だ。と言うことは?」

 

「………?」

 

「察しが悪いな。いいか?〝日本〟にとって重要な会談で、『倉持技研』も関わってるんだ。そこで万が一億が一にも何かあったら困る。なら、日本の最大戦力や『倉持技研』の機体を使ってる信頼できる操縦者を護衛として使うだろ?ということは……?」

 

「……っ!」

 

 ハヤテの言葉に考えたクリスはハッとした顔をする。

 

「気付いたか?僕が会いたくない相手のことも」

 

「なるほど……納得した」

 

 ハヤテの問いにクリスが頷く。

 

「しかしすごいな」

 

 答えに行きついたクリスが感心したようにつぶやく。

 

「そう考えるとかなりの戦力がいるんだな。守りは万全そうだ」

 

「ん~……僕もそう思ってたんだけどなぁ~……」

 

 クリスの呟きにハヤテがため息をつく。

 

「は?それっていったいどういう――」

 

「よし!あがりだ!!」

 

 クリスの問いかけを遮って声が響く。

 見ると、最後の戦いを行っていたムラサキとカロリーヌの決着がついたらしい。カロリーヌがガッツポーズをしている。

 

「さすがお嬢様。あそこでプレッシャーに打ち勝って目当てのカードを引き当てるとは…」

 

「ふふんっ!そうだろうそうだろう!」

 

 ムラサキが拍手しながら褒めるとカロリーヌが嬉しそうに笑う。

 

「よしお前たち!もう一戦やるぞ!」

 

「それもいいのですがお嬢様方」

 

 と、ノリノリでトランプをそろえ始めたカロリーヌにハヤテが言う。

 

「なんだ?今いいところだろう?」

 

「勝負もいいのですが、そろそろいいお時間です。そろそろお昼にいたしませんか?」

 

「む?」

 

 言われたカロリーヌが壁に掛けられた時計に視線を向ける。

 時計は11時半を指している。

 

「なるほど、確かにその通りだな」

 

「言われてみれば、私もお腹がすいてきました」

 

 ハヤテの言葉にカロリーヌとジュスティーヌが頷く。

 

「お嬢様方、何か食べたいものにリクエストはありますか?」

 

「そうだな……私は寿司が食べたいぞ!フランスにも寿司屋はあるが、やはり本場のものが食べたい!」

 

「私は天ぷら、というものが食べたいです」

 

「なるほど、お寿司と天ぷらですか。わかりました、すぐに手配いたします」

 

 ハヤテが頷き、一瞬ムラサキに視線を送る。ハヤテの視線を受けて頷く。

 

「それでは、ムラサキを残しますので少々お待ちください。トーカ、マキ、キネクリ、隣の部屋に来てくれ」

 

「了解」

 

「はいよ」

 

「お、おう……」

 

 ハヤテに呼ばれた三人が頷き立ち上がる。

 

「それではお嬢様方、少々お待ちください」

 

「おう!早くしろよ!」

 

「おいしいお店をお願いしますよ」

 

「ええ、お任せください」

 

 カロリーヌとジュスティーヌの言葉に恭しくお辞儀をしたハヤテは三人を連れて部屋を後にする。

 

 

 〇

 

 

 

「さて……どうしたもんか……」

 

「どうすんだ?寿司と天ぷら同時に食べられるような店で当てがあんのか?言うまでもないけどその辺の回転寿司じゃあのお嬢様方は満足しねぇだろ」

 

「あぁ、そっちはいいんだ。たぶんそれは何とでもなる。問題はそっちじゃないんだ」

 

 神妙な顔で考え込むハヤテにクリスが言う。が、ため息まじりに口を開く。

 

「はぁ?じゃあ何をそんな頭抱えてんだ?」

 

「……シャルロットたちからの連絡がない」

 

「どういうことだ?連絡がないってことは特に何も問題が起きてないってことじゃ……」

 

「逆よ」

 

 ハヤテの言葉に首を傾げるクリスにトーカが答える。

 

「うちの取り決めでね。護衛中は定期的に連絡を送り合う。まあ連絡と言っても言葉を交わすんじゃなく、信号を送り合ってるんだけど。その信号があるうちは問題無い。でも、何らかの理由でその連絡が途絶えれば……」

 

「何かが起きている」

 

「そういうこと」

 

 トーカの答えにクリスが息をのむ。

 

「で、でも!何かの理由で連絡ができないような――例えば電波とかが制限されてるところにいるとか!」

 

「そういう時も誰かが連絡ができる環境に移動するか、どうしてもそれすら無理なら、あらかじめその旨をこっちに連絡をよこすことになってる」

 

「そんな……」

 

 クリスは愕然とした顔をする。

 

「ど、どうするんだ!?」

 

「大声出すな。あのお嬢様たちに聞こえたらどうする?」

 

「っ!」

 

 マキの言葉にクリスが慌てて口を押えて周囲を見るが特に変わった様子はない。

 

「とにかくまずは情報が必要だ。楯無さんか弦十郎さんに確認を――」

 

 言いかけたハヤテが言葉を止めポケットから携帯を取り出す。携帯は着信を告げているがマナーモードにしているらしく震えるのみだ。

 

「……お前ら、事態は僕らが思っているよりやばいかもしれないぞ」

 

「どう言う意味よ?」

 

「話はあとだ。キネクリ、お前は弦十郎さんか楯無さんにすぐに連絡して現状の確認してくれ」

 

 トーカの問いに答えずハヤテはクリスに指示して自身の携帯に出る。

 訝しみながらもクリスは携帯を取り出し弦十郎に連絡する。

 

『おお!クリス君!ちょうどよかった!』

 

 一、二度のコール音の後にすぐにつながった電話口から少し焦りの見える弦十郎の声が聞こえる。

 

「どうした?なんかあったのか?」

 

 こちらの聞きたい情報を聞くという目的を忘れ、弦十郎の切羽詰まった様子に思わず訊いてしまうクリス。

 

『君たちが今日は任務があることは聞いている。しかし、君やハヤテ君の耳には入れておかねばと思ってな』

 

「い、いったい何があったんだよ?」

 

『実は……』

 

 クリスの問いに弦十郎が神妙に答える。

 

『先ほど未来君の連絡で急行したところ、海斗君を護衛していた響君と切歌君、調君が負傷した状態で保護された。護衛対象の海斗君は響君たちの話では突如現れた女性の三人組に連れ去られたらしい』

 




何かが起こっていることが発覚し始めました。
さてさて、何が起きているのか!?


それはさておき今回の質問コーナーです。
今回はGoetia.D08/72さんからいただきました。
「一夏はIS学園に居たとき第二次移行しましたが、同期のメンバーで同じように誰か第二次移行できたりしてますか?
それか何かしら機体のアップデートしたりしてますか?」
ということですが

とりあえず同期ではセシリアと簪は現在専用機を所持していないのは以前本編中で描いたのでここでは除外します。
さて、残りのメンバーですが、鈴、ラウラは二次移行までいっています。
シャルロットはいまだ指南とは繋がっているのでその都度新兵器や改良を加えています。
一夏と箒も倉持技研の解析を受けたりしています。
本編中にそのあたりのことに触れるかは未定なところもありますので、今後の展開次第、と言うことで。



そんなわけで今回はこの辺で
次回もお楽しみに!

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