IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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少し期間があいてしまってすみません。
ちょっと用事がいくつかあって時間が取れなかったもので……(;^ω^)





第220話 兎強襲

「やあ、はじめまして、日本政府と国連の諸君。我々はパヴァリア光明結社。僕はアダム・ヴァイスハウプト、そこで一応のトップをしている」

 

 白いスーツに白の中折れ帽をかぶった美形の男、アダム・ヴァイスハウプトと名乗った男が豪華な作りのソファーにふんぞり返って言う。

 

「もうある程度感づいていると思う、本日行われている日本とフランスの新型IS開発についての会議で何か起こっているとね。単刀直入に言おう。お察しの通り、占拠させてもらったよ、会議会場を」

 

 アダム・ヴァイスハウプトは言いながら不敵に微笑を浮かべる。

 

「さて、そうなってくると諸君は考えるだろう、僕たちの目的とは何か」

 

 言いながら立ち上がったアダムが歩を進めると横から一人の老人が現れる。

 細い手足に曲がった背中の身体を黒のスーツに包み、胸ポケットには白のスカーフがのぞく。頭頂部は髪が薄くなり側頭部や後ろに残る髪は真っ白。鼻は高く、目はぎょろりと独特の眼光がある。そんな一人の老人が椅子に座らされ、両手を後ろに回されている。顔は少し俯き加減である。

 それはハヤテたちの護衛するカロリーヌとジュスティーヌの祖父、フランス企業『ベルベット社』

の社長のイゴールその人だった。

「説明の必要はないかな、彼については?僕らの要求はただ一つ。『英雄井口颯太の遺産』――彼の残したHDDと交換しよう、僕たちが彼の他にも拘束しているすべての人質と」

 

 イゴールの肩に手を置きながらアダムは微笑を崩すことなく言う。

 

「気付いているだろうから言っておこう。僕たちはすでに手に入れているんだ、『英雄井口颯太の遺産』というパンドラの箱を開けるのために必要なカギを」

 

 アダムの言葉とともに今度は青みがかかった長い髪をツインテールにしたグラマラスな女性、カリオストロに付き添われた少年――井口海斗が現れる。その顔には不満を一切隠すつもりのない不遜な表情が浮かべられている。

 

「諸君には考える時間を上げよう、彼と言うカギが僕らの手にあることを踏まえてね。よく考えるといい、僕たちにHDDを渡して人質を解放するか、人質を見捨てて僕たちと戦うかをね。猶予は今から4時間だ」

 

 ギロリと睨む海斗の視線を気にした様子なく海斗の肩に手を置いていうアダム。

 

「僕らの要求をのむのであればここに来るがいい、非武装の人物一名にHDDを持たせてね。それでは、期待しているよ、賢明な判断を下すことを」

 

 

 

 〇

 

 

 

「以上が日本政府に送られてきたメッセージの全容だ」

 

 目の前の大きな画面に映し出された映像が終わり、薄暗くなっていた周囲の電気がつき始める中、中心に立つ風鳴弦十郎が口を開く。

 

「この映像が送られてきたのが30分ほど前。つまり、タイムリミットは約3時間半後。それまでに我々は対策を立てなければいけない」

 

 あまり表情には出していないが弦十郎の雰囲気はあまりいいとは言えない。かなり切羽詰まってる様子がうかがえる。

 

「あ、あの~……」

 

「ん?どうした、藤尭?何か気付いたことがあるのか?」

 

「い、いえ、気付いたことと言うか……」

 

 恐る恐る手を上げた一人の男性に弦十郎が訊く。

 藤尭と呼ばれた男――藤尭朔也はS.O.N.G.本部発令所にて、主に情報処理を担当するオペレーターのひとりである。

 そんな彼が言い淀みつつその場にいる一人の人物に視線を向ける。

 

「あの……なんでここに世界的に指名手配されてる篠ノ之束博士がしれっとこの場にいるんですか?」

 

 藤尭の言葉にその場にいる全員の視線が指摘された篠ノ之束とその隣に立つ白髪の少女――クロエに向けられる。

 現在このS.O.N.G.の所有する施設内のオペレーションルームには弦十郎、藤尭、篠ノ之束、クロエの他にハヤテとクリス、緒川慎次、翼、奏、マリア、、藤尭と同様にS.O.N.G.の情報処理を担当するオペレーターのひとりである女性――友里あおいの姿があった。つまり、今篠ノ之束とクロエには九人分の視線が注がれているが

 

「なんだよ?ジロジロ見るんじゃないよ、うっとおしいな」

 

 まるで自分がここにいて当然と言った表情で九人を睨み返す篠ノ之束と変わらず表情を変えずに目を閉じるクロエだった。

 篠ノ之束の服装は五年前と変わらない水色を基調としたエプロンドレスに頭にはウサ耳を着けていた。その姿は五年前と何ら変わらない姿だった。

 クロエの姿は束とは対照的に五年という歳月を経て、少し身長も伸び、顔も少し大人びた雰囲気をたたえていた。まっすぐに伸びる美しい銀色に近い白髪。その髪と対照的な黒いゴシック調の服装も相まって不思議な雰囲気を見せていた。

 

「えっと……すみません、僕が連れてきちゃいました」

 

 と、そんな束の様子にため息をつきながらハヤテが言う。

 

「実は、弦十郎さんから連絡をもらうより先にこの人から連絡が来て……」

 

 

 

 

 

 

「おい、あんたどういうことだよ?前に言っただろ、あんまり僕と接触を持つのは――」

 

『いや~、私としてもそのつもりだったんだけどねぇ~。そうも言ってられなくなっちゃったんだよね~』

 

「はぁ?どういうことだよ?」

 

『君の弟君がね、また攫われたらしいんだよね』

 

「はぁ!?」

 

『しかもその実行犯が今やってるフランスと日本の会談会場を占拠したっぽいんだよね』

 

「はぁ!!?でも、その会場って――」

 

『そ、だから私も今回は傍観してられないかなってね。そんなわけで今からそっち行くから』

 

「はっ!?いやいやいや!!来るってお前そんな」

 

『いま上空飛んでるから』

 

「はっ!?上空!?」

 

『今君の会社のビルが見えてきたから』

 

「え!?見えてって…はっ!?」

 

『今ビルの真上だから』

 

「真上!?」

 

『今――』

 

 トントン

 

「お前の後ろだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 

 

 

 

 

「と、まあそんな感じでいつの間にか会社に侵入されてました」

 

『……………』

 

 ハヤテの言葉に束とクロエ、クリス以外のメンバーが呆然とした表情を浮かべる。

 

「徐々に近づいて来るとかメリーさんかよ」

 

「おかげで驚いて声あげちゃったよ。隣にいたクリスまで驚いて声あげるし」

 

「なっ!?それは言うんじゃねぇよ!!」

 

 呆れた顔で言う奏にハヤテがため息をつきながら言い、しれっと暴露されたクリスが顔を赤く染めて叫ぶ。

 

「まあとにかく、そんな感じで勝手に現れて、追い返そうとしても、『追い返したらお前たちの組織のメインコンピューターハッキングしてやるぞ』って脅されて、結局弦十郎さんに報告してこうして連れてきたってわけです」

 

「彼女の能力ならやりかねない。ハッキングに対応して本題がおろそかになってはまずい。なにより彼女が味方してくれるなら心強いということで許可したわけだ」

 

 ハヤテの言葉を引き継いで弦十郎が答える。

 

「でも、なんで博士が急に協力を?」

 

「確かにそこは疑問ね。博士はとても気難しい方だと聞いていましたし」

 

「べっつに~。私はテロリストどもが日本だろうがフランスだろうがどこに喧嘩売ろうが知ったこっちゃないよ」

 

 翼とマリアの問いに束は肩をすくめながら答える。

 

「ただね、私は私の身内に手を出したやつは全力で潰すって決めてるんだよ」

 

「身内…ですか……?」

 

 束の言葉に友里が訊く。

 

「あっ!そう言えば今回の会談にはハヤテ君の会社の人間だけでなく、日本政府と国連が用意した二人の専用機持ち方が護衛についてるって……」

 

「それって……」

 

 緒川が思い出したように言い、その言葉に全員が納得したように頷く。

 

「まあそんなわけで、今回だけは私も協力してやるよ」

 

「偉そうにしてますけど、身内を気にかけての行動なんで信用できると思います。とりあえず今は協力関係を結んで、一区切りついたところでこの人の処遇をどうするか決めるってことで、ここはひとつお願いします」

 

「お前が仕切るな凡人」

 

「自分がかなり危うい立場にいるってこと自覚しろボッチ」

 

「ああん!?」

 

「ああん!?」

 

「とにかく!」

 

 睨み合うハヤテと束を遮って弦十郎が咳ばらいをしながら言う。

 

「束博士の協力はこの作戦の成功率を確実に上げてくれる。我々としては願ってもないことだ。その申し出受けさせていただきます」

 

「ん。まあよろしく」

 

 弦十郎の言葉に束が手をひらひらと振って応える。

 その様子を見て、ハヤテは一抹の不安を感じつつ、しかし、篠ノ之束という強力なカードの存在に頼もしくも感じるのだった。

 




改めましてお待たせしてしまってすみません。
これからも少し用事があるのでまた少しあくかもしれませんが暇を見つけて投稿しますのでお待ちください。


それはさておき、とうとう本格的に動き始めた「パヴァリア光明結社」
人質となった海斗の運命やいかに!?
お楽しみに!


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